逃亡
その日はできるだけ冷静に仕事をこなした。
できるだけ目立たないようにというユウジの配慮はタカコのヒステリーで難なくこなせた。
最後の方には武勇伝のように語っている所を見ると、だいぶしたたかな女であると分かる。でもそのくらいでなければこの仕事はやっていけないだろう。
カナはいつも通り待機場所ではなくアパートで休憩していた。
「カナ、お前またシャブやってねぇだろうな」
ユウジはなんの前触れもなく聞いた。カナは嘘を付けない女だ、何かしらの反応があると思った。
「え。」
カナの目が泳いだ。
やっぱりそうだ。
「どこで手に入れた。」
「何言ってんの?私別にやってるって言ってないじゃない。」
「どこで手に入れた。」
「うるさいなぁ!私の事信用できないの?!やってないって言ってるじゃない!!」
やはり感情の起伏が激しい。ユウジは靴のまま部屋に上がり込んでカナの腕を乱暴に掴み服をまくり上げた。
腕には新しい注射の後があった。
「どこで手に入れたんだよ!言えよ!お前一人の問題じゃないんだぞ!!」
ユウジはカナを強く揺さぶった。
「サトルに貰ったのよ!あんた私の事守ってくれないし!やってらんないことばかりでむしゃくしゃしてたから少しくらいいいじゃない!」
「少しじゃねーんだよ!出元分かんねぇブツに手を出すのがどんだけヤバいか教えといただろうが!何やってんだよお前は!」
「何それ、そんなにヤバい場所から流れて来たやつなの?」
カナはやっと目が覚めたらしく、目をまん丸にさせている。
「ああ、別の組からのをサトルが流しやがったんだろう、水面下で既に動き出してる。」
「ヤバいじゃん…」
「ヤベぇよ永田さんが俺に釘差してきた。まだバレてないと思うけど、あのサディストなおっさんに捕まったらお前どんな扱いされるか分かんねぇぞ。」
カナの顔から血が引いた。永田は冷酷な事で有名なのはカナですら知っていた。
「どうしよう、ねぇ、ユウジどうしょう。私永田の所に行きたくない。」
「分かってるよ、どうすりゃいいか考えてるからちょっと待ってろ。」
ユウジはぐしゃぐしゃと頭をかいて座り込んだ。
どう考えても不利だ「気付かなかった」では許されないだろう、そんな甘い規律なら今頃たくさんの人が助かっている。
何よりデリへル嬢が覚せい剤をやるのはご法度だ、それだけでもカナの罰は逃れられないだろう。
ユウジは勢い良く立ち上がるとクローゼットから服と貴重品を取り出し始めた。
「ユウジ、何やってるの?」
「逃げるんだよ!お前も準備しろ!」
「何言ってんの!?逃げられる訳ないじゃない!」
「じゃあお前いい考えあるのかよ!この世界入って規律が甘くない事は分かってるだろ!お前ゴミみたいに扱われるのは目に見えてんぞ!」
ユウジはカナの服を少量鞄に詰め込んで無理やり立たせて引っ張って行った。
「ここ、どうすんの。」
「大家には悪いけど捨てて行く、ほら行くぞ。」
そう言うとユウジは有無を言わさずカナを外に引きずり出した。