女の幼さ
「おかえりぃ」
ユウジがアパートに戻ると台所から声が聞こえた。
「なんだよ、珍しく自炊か。」
不規則な生活をしている2人はほとんどが出前だった。
「いや、飲み足りなかったから家で一杯やろうと思ってぇ。」
口調でカナがかなり酔っていると分かった。
「どうした、すげえ酔ってんな。」
「べっつにぃーー!」
危なかっしい足取りで丸テーブルの横に倒れ込むように座った。
台所にはキムチとチーズの和え物とめかぶが皿に盛られていた。ユウジはそれを丸テーブルに持っていくと自分も座ってビールを開けた。
「聞いてやるから言ってみろよ。」
「今日の客さぁ、キスがすげぇ下手だったの。私えずいちゃって、それに気付かれたからアナルセックスのサービスして難を逃れた。偉いだろう!店まで問題持って行かなかったぞぉ!」
客のクレームは店に直接入ってくるようになってる。プロのカナがえずいたというくらいだから相当その客との相性が悪かったのだろう。
「大変だったな。」
抑揚のない言葉で返事をする。こういう時はメンタルケアも含めて全部吐き出させるに限る。ユウジは黙って次の言葉を待った。
「私ってそんなにおかしいかな!気持ち悪いかな!ユウジと暮らし出してからこんなのばっか!」
やはり荒れてる原因はそこだった。
「施設から高校まで出してもらったけど、学歴もないからさぁ私って!確かにバカだし!でも私だって精一杯仕事がんばってるんだよ!あいつらに笑われるいわれはないんだよね!」
「カナそういうの弱いよな、そんな事でそんなに荒れてちゃこの業界やっていけねぇぞ。」
ユウジは少し厳しく言った。
いくら2人が特殊な関係であったとしても、ユウジは四六時中カナを守ってはやれない。
できるだけカナ1人で問題を解決する力を身につけて欲しいとユウジは思っていた。
「分かってるよ…でも憂さ晴らしに酒飲むくらいいいでしょ?」
声のトーンを落としてカナが言った。
明日の見えない仕事を体全部でこなしてる訳だ、まだ若い細身の体と心が悲鳴をあげているのだろう。
「ユウジさぁ、抱きもしないのに何で私を囲ってんのよ、男って抱けない女に興味ないんでしょ?意味が分かんないよ…」
「そうだなぁ、お互い施設育ちって事もあるけど、お前誰よりも寂しそうにしてたから可哀想になったってところかな。」
「何それ、可哀想な犬拾ってやりましたみたいな言い方だね。」
「来い。」
ユウジはカナを乱暴に抱きしめた。
「今日は添い寝してやるから、落ち着けよ。」
10代の頃からこの仕事をしているカナにとって言葉より体温が必要なのはユウジも十分承知していた。
カナはユウジの胸の中でぼやぼやと愚痴りながら、しばらくしたら眠りに付いた。
「本当にガキみてぇだな。」
ユウジもこの日は肌寂しかったので、眠くなるまでカナを抱えたままビールを2本空けた。