入口
仕事が済んだカナは自分の勤務時間が終わるので事務所に報告に寄った。
「お疲れ様です。終了したので報告に来ました。」
「はい、お疲れさーん。」
事務に報告すると年経た男が顔も上げずに返事をした。
服と荷物を取りにロッカールームへ向かう。
ロッカールームは女の子達の待機ルームのひとつでもあった、案の定女の子達が床にあぐらをかいて座って溜まっている。
「お疲れ様です。」
囁くような声で事務的な挨拶をした。
「お疲れ様でーす。」
「お疲れ様でーす。」
女の子達がにこやかに挨拶をしてくる、その笑顔が偽物だと言うのはカナには分かっていた。ユウジに気に入られてから保護者付きのデリへル嬢として女の子達から村八分を受けていた。それまでは励まし合ったりお互いの話をよくしていた子達もころりと態度を翻した。
黙ってロッカーを開けて荷物を整理する、その間中いつ飛んでくるか分からない嫌味に備えて心臓はドキドキと不快な早鐘を立てていた。
ロッカールームを出てホッとため息を付いた途端、中から女の子達の爆笑が聞こえてきた。一体何をネタに今回はカナの事を言ってるのか、分からかったが酷く不快な気持ちになって走って店から出た。
カナが省かれる理由のひとつに、客の前でさいつまでも擦れないというのがあった。
こんな仕事をしているとどんな女の子達であっても性格が擦れて来てしまう。そしてそれがプレイや客引きに出てしまう。
カナはそこの所が上手くて、いつまでも純情である芝居が出来るのでそれが売りでもあった。
「あー、ヤダヤダ女っていつも徒党を組んでばかり。」
強がりを言ってみたが心臓はまだドキドキと警戒の音を立てていて落ち着いてはくれなかった。
仕事上の洋服は露出が多いと思われがちだが、カナのキャラクターからどちらかと言うと上品な服が多い、その為OLにも間違われる程で、カナはその洋服のまま居酒屋やお店に入る事が多かった。
今日確かユウジはカナより遅い時間になる。
カナは憂さ晴らしも込めて、朝方のファミレスでビールと唐揚げとシーザーサラダを注文して疲れた体に流し込んだ。