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衣食住があればいい

 恐る恐る動かなくなったうんこを足でつついてみても、反応はなかった。というか、妙に弾力のある手触りだ。少し落ち着いてきた。

 恐いのでうんこから離れて座る。尻穴はどうも汚れていないようだったのでパンツをはいた。

 一体どうしてしまったのだろうか。自分はなにを産んだというのか。

 たちの悪い幻覚だろうか。あのリンゴに幻覚作用があったのではないか。うんこが動く幻覚もどうかしていると思うが。

 そっとうんこを見る。まだ動いてはいない。

 わからん。足をぼりぼりかくと、足裏が真っ黒に汚れていた。部屋にいたから、裸足だったのだ。うんこよりも考えることはある。

 一体ここは何処なのか。なぜここにいるのか。

 あまりにも唐突だった。部屋のなかで終えるつもりだった人生が、突然のサバイバルライフに変更だ。

 しかしもう却って良いのかもしれない。どうせ穀潰ししかしないのだし、家族も家事の手間が省けるだろう。死んで見る夢だとしてもかまわない。わずらわしい人間関係からも解放されたのだ。

 とにかく今は食って寝る。それだけだ。あと靴は必要かもしれないな。考えていても仕方ない。どうせ出来ることは少ない。うんこが動こうが、かまわないのだ。むしろ、よくうんこを知るべきではないのか。そうだ、うんこともっと話そうよ。

 見れば、うんこはまた動いている。


 ひい、やっぱりこれは現実なのか?!


 ここでうんこに負けるわけにはいかない。そもそもうんこに何が出来るというのか。ただ動くことしかできまい。

 うんこはこちらに頭を向けてじっとしている。まるでうんこと見つめあっているような時間が続く。どうしたものだろう。いや、敵意のようなものは感じられない、なんとなくだが。おとなしいものだ。こいつ一体なんなのだろう。

 そもそもなにを食うんだこの生き物?

 いや、うんこを生き物と見ていいのか。まあそこは考えないでおこう。うんこだし、うんこを食うのかな? うーんなにをいってるんだろう。

 外はすっかり暗いようで、洞窟内も視界が悪い。今考えると、なに無防備に寝ていたのか。いかにも生き物が巣にしてそうな場所でそのまま横になっていたとは。危険な肉食獣が来ていたらと思うと背筋がぞっとする。しかも、夜だ。夜行性の生き物もでるだろう。ある意味起きてよかったのかもしれない。

 時間がない。なにか来るまえに守りを固めなくては。なにをすべきだろう。とりあえずは岩を並べて壁をつくるとかだろうか。それよりも、もっといい場所を探すほうがいいだろうか。入り口が狭く、小部屋のようになっているのが良い。ここは少し広すぎる。少し奥を調べてみよう。

 足を進めようとして振り返る。うんこがまだそこにじっとしているのだ。まあうんこだしいいか。しかし、自分から産まれたうんこなのだし、なにか役にたってほしいものだ。

「……安全な家が懐かしい」

 つぶやくと、歩きだす。いい場所があったらそこに布団も持っていこう。



◇◇◇



 やべえよ、全然見つからない。なんなんだこの洞窟。広すぎるし、でかい空間ばっかりだ。どこまで続いてるのかもわからない。迷って出れなくなりそうで不安になってきた。たまに天井から漏れてくる光がなかったら、前がまったく見えない可能性がある。今の俺には明かりもないのだ。最悪だ。戻るしかない。出れなくなって餓死だとかいう結末は嫌すぎる。ため息が漏れる。

 幸い、方向だけはわかる。それさえわからなくなる前に戻ろう。布団まわりに最低限の岩を並べるくらいしか出来そうにない。疲労もすっかりたまってしまって休みたい。

 計画を建てながら、来た道を戻る。岩道を歩くのはしんどく、見覚えのある場所まで来た頃にはふうふうと息が荒くなってしまった。

 布団が相変わらずぽつんと置いてある。うんこの姿はないようだ。どこかへ行ってしまったようだ。

「あれ」

 布団の奥に穴が見える。あんなものあったっけ? ちょうど体一つ入りそうなサイズだ。覗いて見ると、なにか奥に詰まっているようで、手を伸ばしてみると、ぶにっとした。

「ぎょえ!」

 慌てて手を戻す。なんだこれは。なにを触ったんだ。やばい、刺激したせいか、動き出した。ぐねぐねと蠕動している。未知の虫とかかもしれない。あたふたとその場を離れる。

 陰から覗いているとそいつは出てきた。サイズは俺の腕よりでかいくらいだろうか。動きは蛇よりは芋虫に近い。色は黒に近い茶色でハリがある。目だとか触覚だとかもなくてぼこぼことした表面で……。

 ん?

 んん?!


 これ、うんこじゃないか?!


 いや、どう見てもうんこだ。なんでこんなでかくなってるんだ?!

 この短時間で何があったというのか。うんこはこっちに気づいているのかいないのか、また岩肌に向かい動き出した。張り付いたと思えば、そのまま体が岩に沈んでいく。

 ええ?! どうなってんの?!

 このうんこ、ただのうんこじゃねえ!


 やがて体全体が見えなくなってしまう。なにをしてるんだこいつは? 明らかに岩に穴が開いている。さっきの穴もこいつが開けたみたいだ。このうんこは岩より硬いというのか? いや、触ったときはぶにっと柔らかったのだ。そんなはずがない。なにか危ない分泌とかしてるのだろうか。それだったら俺の手も無事ではないか。わからねえ、なんなのだこのUNKOは。それにサイズもおかしい。どこからそのうんこ増えたんだよ。まさか増殖したというのか? 成長するうんこなのか? このまま大きくなり続けると、便器から流れなくなってしまう。

 それとも、岩をうんこに変えているというのか?

 いやいやいや、それはない。そんなものを産み出してしまうとは、俺は世界をうんこで覆うつもりか? 恐ろしい想像に身震いする。ぐう、わからない。わからないことだらけだ! クソッ! 世の中間違ってる!

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