表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

目指せ!Sランク

 寒い。布団を手繰り寄せたが、冷たい風がびゅうびゅうと吹き付ける。壁に穴でも空いたかのようだ。

 まだ眠い。一体今何時だろうと思い、時計に手を伸ばしたが、その場所には手応えがなかった。おかしいな、と思いつつさらに伸ばすと、ごりりと尖ったものが爪に当たり痛んだ。なんだなんだと目を覚ませば、そこには岩肌があった。

 おお、なんということか。洞窟暮らしは未だしたことはない。ずいぶんと間取りが増えたものだと思い、その場で立ち上がった。

 どこまで続いているのか、ごうごうと風が吹いている。中に一軒家を建てれそうな広さだ。奥からは光と共に緑の匂いがする。やがて足はそちらに向いた。


「おお、こいつは凄い」


 暗がりから眩しさに目を細める。同時に飛び込んできたのは力強い生命の息吹だ。

 岩場が包むようにある森。立派な木々が緑を誇っている。大きな滝は湖に注ぎ込み、その縁でなにかの動物が水を飲んでいるようだ。太陽の光が湖面に反射し流れていく。他に目をやれば小動物の気配も感じられる。

 豊かな森、恵みの森という言葉が思い浮かぶ。ばあちゃん家に行ったときもこんな森は見たことがなかった。

 洞窟の出口を降ると、暖かさに気持ちよくなりながら、木漏れ日を抜けていく。足元には色とりどりの花が咲き、虫達が元気に活動している。鼻歌でも歌いたくなる気分だ。

 足取り軽く、とりあえず滝へと向かう。思ったよりも距離があったのか、到着する頃には汗ばんでいた。


 念のため木の陰から様子を伺う。さきほどちらりと見た大型動物はいなさそうだ。警戒しながら滝に近づく。

 水は恐ろしく澄んでいる。このまま飲んでも大丈夫そうだ。軽く口に含むときんきんに冷えていて美味い。

 解放的な気持ちになっていたのか、このまま滝を浴びてしまおうと考えた。服を脱ぎ捨てて飛び込んだ。

 熱くなっていた体に染み込む水は凄まじい心地よさだ。軽く泳いだあとにちょうどシャワーのようになった滝で髪をがしがしと洗った。爽快だ。

 すっかり汚れを落とし、生まれ変わった心地だ。水から上がると、全裸に風を感じながら、体を乾かした。


 服を着直していると、ぐぐうと腹が鳴った。困ったことに腹が減ってきたみたいだ。なにを食えばいいのか考える。魚、肉、はまず無理か。捕まえるのも生き物を殺すのも出来そうにないし、そもそも火もない。生で食べれるものといったら、果物、だろうか。木にはいくつか実が成っているのも見ている。当面はそれをとるのがいいだろう。


 リンゴによく似た実をいくつか集めた。こいつならまず安全だろうと思う。さっそくと食らいつく。シャリシャリと歯応えよく、味はなんだか予想と違い、芋っぽい。少し酸味もあるが、不味いとまではいかないし当たりだろう。

 そのままいくつか食べながら、目を覚ました洞窟に戻ることにした。


 広々とした洞窟の中にはぽつんと異物がある。そう、親しんだ布団だ。

 なんで布団だけあるんだ?

 疑問に思うが、答えはでない。他に何かあるかと短パンのポケットやら調べてみるが、なにもなかった。

 うーん、どうしたものか。

 とりあえず布団に横になったら、気付いたら寝ていた。



◇◇◇



 激痛で目が覚めた。やばい。とてつもなく腹が痛い。くそ。あのリンゴもどきのせいに違いない。しかもかなり緩くなっていて今すぐにでも出そうだ。とりあえず壁際の窪みで用を足すことにした。

 パンツを下げるのもギリギリだった。迸るケツが勢いで痛む。拭くものないしどうしよ、と思ったのだが、なんだか尻は汚れている気配がない。おかしいな、と確認しようと足元を見る。


「ひええ!」


 驚きでパンツで足をくじいて尻餅をついた。そんなことが気にならないくらい目が離せない。そう、動いていたのだ。

 うんこが動いている!

 間違いなくそれはいまだしたばかりのうんこだった。長細いフォルムが立ち上がろうとしているのかぐねぐねと動いている。


「あわわわわ」


 こんな恐怖がいままであっただろうか?

 体は強張り、動き方を忘れてしまったかのようだ。丸出しのままの息子もすっかり縮んでしまっている。


 その間にもうんこは蠢いている。そしてついに立ち上がり、天を指すかのようなポーズを決めた。僅かな接地面で体を支えているせいか、ぷるぷるしている。


 もはやパニックだ。おお神よ。一体これはなんなのだ!

 一体俺はなにを見せられているというのか?


 その時、光がうんこに向かって降り注いだ。細部までがじっくりと見える。見事な照り具合が眩しい。

 まるでUMAを目撃したような衝撃は、時とともに現実味を帯び、それを理解しようと動き出す。

 見ればまるで何かの儀式かのように、真摯な姿勢を感じる。俺は真摯なうんこを目にしているのだ。なんだかわからないが、こいつは真剣だ。明確なうんこの意思を感じる。この動きになにかの意味があるに違いない。一体こいつはなにを伝えようとしているのか? ごくりと生唾を飲み込み、世紀の瞬間を今迎えようとしている。うんこに動きがあった!

 べたりと体を落としたのだ!

 さあ、俺に見せてくれ! うんこの真髄を!


 その後、うんこがもう動くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ