8、勤務条件に妥協は出来ません
重厚そうな扉の前でやっと下ろされた。ここはもしかしなくとも……
「いいか、陛下の前だ。ふざけた態度は慎めよ」
返事するまもなく、扉の前に控えていた兵士によって扉が開かれた。高級そうな椅子に鎮座されているのは勿論、王様だった。
「おお、やっと来たか。其方が昨晩、ルークの不眠治療を担当した者か。娘よ、名は何という?」
「リア・ブライアンです」
「昨晩の働き、見事であった。其方はどうやってルークを寝かしつけたのだ?」
昨日は寝かしつけたっていうより、疲れさせて勝手に眠ってくれただけなんだよな。
でも、王様に力を認めてもらえればここでの生活も安泰だ。今が頑張り時に違いない!
「私は幻覚魔術師です。あらゆる幻覚を見せる事が出来ます。その幻覚を用いて王子を眠りへ誘いました」
「ふむ、幻覚魔術とな。試しにやってみてもらえるか?」
「かしこまりました」
何の幻術を見せようか考えて、私は誰しもが心に秘める一番楽しかった思い出を再現することにした。それが何なのかは本人にしか分からないけれど、その楽しい空間の中で少しずつ催眠をかけて眠りに誘う。
まぁ、ぶっちゃけいきなり幻覚で催眠かけたらバタンキューでイチコロなんだけど……それだと起きたとき記憶に残らないし、味気ない。私がその前に幻覚を見せるのは、最高の眠りに誘うための前準備みたいなものだ。
王様が幸せそうな顔で眠りについた所で、私は幻覚を解いた。
「はっ! 今のが幻覚魔術……見事じゃ! 是非とも其方と専属契約を結びたい」
「具体的にはどういった内容でしょうか?」
「これから毎晩、ルークの不眠治療にあたってもらいたい。勿論、その間給金を出す。一日二万ペールだ。さらに其方を特別功労者と認め、貴族階級にしか与えていない城の一部施設を自由に使える許可も特別に与える。完治した暁には、望む褒美も出そう。どうだろうか?」
十日に一度でよかったものが、毎日になった。その分、給金がもらえ城の設備が使えるようになる。確実にお金を貯めていくなら、申し分ない条件だ。
むしろ、ドミニエル商会で働いていた時より、かなりいい! 倍はある! さすがは王城、太っ腹だ。
だが、ここで飛びついてはいけない。毎日勤務ということは、言い換えれば休みがないということ。勤務時間は短めにしてもらわねば。
「毎日の勤務時間は、ルーク王子が就寝につかれる時間から眠られるまででよろしいですか?」
「あ、ああ。朝と昼は自由に過ごしてもらって構わない」
一時間で寝かしつけを済ませれば、後の二十三時間は自由時間。時給二万ペールと考えると……美味しい! 美味しすぎる!
「ただし、完治するまで城から出ることは控えるように。生活に必要なものは全てこちらが用意させてもらう。良いか?」
(絶対に逃がさんぞ! 良いな?!)
目力で、王様の思いが伝わってきた。毎晩あの断末魔の叫びを上げられたら、そら眠れないよね。よく見ると、王様の目の下にくまがあるし。
「分かりました。その条件で引き受けます」
リゾート施設にバイトに来たとでも思えば、城から出られなくてもさして不自由はしないだろう。
こうして私は、破格の好待遇をゲットしつつ王子専属の不眠治療係になった。










