37、これが、私なりのけじめです
「探してたんだぞ、リア! 昨日はすまなかった。あれからずっと……」
思い詰めたような顔をした王子を、とりあえず制止する。
「待って下さい、王子! 今、その話題は止めましょう。人目が、ありすぎます」
「そ、そうだな。すまない」
ポーラさんの興味津々と言わんばかりの視線が痛い。ザワザワと、野次馬が窓から覗いている。
「ところで、こんな所で何をしている?」
「えっと……その、お仕事を」
私の言葉に、王子は怪訝そうに眉をひそめる。
「仕事……? 店主。少しリアを、借りていってもいいか?」
「ええ、どうぞ」
こっそり逃げようとしたら、王子に手首を掴まれた。
「付いてこい」
どうやら拒否権はないようだ。
大人しく付いていくと、宮廷内にある個室に連れてこられた。
「ここなら人は来ない。リア、どうしてあの店で働いていたのだ?」
「お金を貯めたくて」
「まさか、城から出ていくつもりなのか?!」
「王子の不眠が治れば、何れはそのつもりです」
「そんなに俺のことが、嫌いなのか?」
嫌いなわけない。だけど今の状態で、好きですなんて言えるわけもない。
ここで否定してしまえば、借金肩代わりしてもらって、金に目がくらんだ女みたいじゃないか。
「主を好きになる奴隷なんて、居ないと思いますが?」
「俺はアンタを奴隷なんて、思っていない。ただ、リアがあの精霊の管理下に居ることが耐えられなかったんだ」
「私にとってはただ主が変わったに過ぎません。借金を返し終えるまで、私は貴方の奴隷です。命令とあらば、何でも言うこと聞きますよ」
奴隷らしく、跪いて頭を下げた。
「違う、そうじゃない。お願いだ、止めてくれ」
両肩を掴まれて、強制的に上を向かせられた。目の前には哀しそうに歪められた王子の端正な顔がある。
「そうやって先に関係を壊したのは、王子の方じゃないですか。借金を肩代わりすれば、私がなびくとでもお思いでしたか? 言ったはずです。私は過剰な恩の貸し借りをしたくないと。もう疲れたんですよ。誰かの顔色をずっと窺って生きる生活に」
「それは……本当にすまなかった。俺の顔色は窺わなくて良い。だから自由にしてくれ」
フラフラとした足取りで立ち去ろうとする王子の服の袖を、咄嗟に掴んだ。
「どうした?」
「顔がやつれてます。きちんとお食事、取られましたか?」
「……いや、朝から何も食べてない」
「今までやってきた事が無駄になってしまいます。お食事は、きちんと取られて下さい」
「リア、無理して俺の顔色は窺わなくていい」
ほら、やっぱり……気付かない。自由にしていいって言ったから、心配したのに。
「今の私が何をしても、王子には媚びを売っているようにしか、見えないのでしょう? だから嫌だったんです。こんな関係になるのが。心配なんですよ。メンタル弱すぎな貴方がそんな格好つけて、独りで無理するのが」
主だから窺うんじゃない。貴方だから自ら気にかけたい。どうかその真意に気付いて下さいと身勝手な思いを込めて、王子を見上げた。
「リア……それはつまり……」
「私も貴方のことが好きでした。それが、昨日のお返事です」
今の私に言えるのは、ここまでだ。
「本当か?! それなら……」
「よく聞いて下さい。過去形です。借金返し終わるまで、それは変わりません」
これが、私なりのケジメだ。
借金を肩代わりしてくれたから、好きになったわけじゃない。それが気付かせてくれるきっかけになったのは確かだけど、その前から好きだった。
それを伝えるには、何も借りがない状況で言わないと、意味がない。だから借金を返すまで、今の本音は言えない。
「そうか。それでも嬉しいぞ。ありがとう、リア」
途端に満面の笑みを浮かべた王子を見て、ああ、やっぱりこの人は忠犬みたいだと思った。
そんな忠犬を可愛いと思ってしまうのは、知らぬ間に心がかなり浸食されたせいに違いない。











