27、世界は私に、試練を与えたがっている
「リア、待っていたのに来るのが遅いぞ!」
ハゲゴリラが退場した後、王子が少しムスッとした顔で話しかけてきた。
「えっと……待ち合わせをした覚えはありませんが?」
「そ、それはそうだが……いつも、あの時間は図書館に居るだろ。ペースを乱されるのが嫌いなアンタが自分で遅れるとは思えない。何かあったのかと心配して来てみれば、案の定巻き込まれていた」
心配……あのルーク王子が私の事を心配してやって来たなんて……
「ルーク王子……」
「なんだ?」
「私は貴方をそんな忠犬のように躾けた覚えはありませんが……」
ハチだ。主人の帰りを駅で待つ忠犬ハチ公のようだ。
「だ、誰が忠犬だ! ほんと何なんだよアンタ! 人の気も知らないで……」
「でも、今回はありがとうございました。あのハゲゴリラを撃退して下さり感謝します」
「なんだ、知り合いだったのか? その格好のせいであの男爵が勘違いして図に乗っているのだと思っていた」
「ここに来る前は、あのハゲゴリラの元で働いてましたから。あの巨体全身にイメージ操作の幻覚を施して、秘書として朝から晩まで馬車馬のようにこき使われてました。まぁ、色々我慢できなくなってあの顔面を思いっきり殴って追い出されたんですけどね」
「そうだったのか。苦労してきたのだな」
生まれかわってから、確かに苦労の連続だったな。こんなにのんびりした生活は、今生では初めてかもしれない。そんな物思いにふけっていると王子が尋ねてきた。
「なぁ、ところでリア。部屋にあらゆるドレスを用意させていると思うのだが、何故着てこない?」
「着飾る必要がございませんから。この広い王城内を動き回るには、機動性重視が一番かと思いますが?」
私は貴族ではないし、仕事で王城の敷地内に住まわせてもらっているだけだ。このサロンに通っていらっしゃる周りの煌びやかなお嬢様達みたいにヒールの高い靴をはいて、ヒラヒラのドレスなんて着る必要性を全く感じない。
「少し時間を貸せ。そうだな……褒美は城下で話題の新作スイーツでどうだ?」
「分かりました」
王子に連れられて、普段昼間は足を踏み入れる事のない宮廷へ入る。長い回廊を歩き、とある部屋の前で王子が立ち止まった。
どうやらこの部屋に用があるらしい。中に入ると、一着の綺麗なドレスが飾ってあった。
「今月末、王城で春の訪れを祝うお茶会を開催する。特別功労者としてのお披露目を兼ねて、当日はこれを着てリアにも参加してもらう」
「私が……これを?! 無理、絶対に似合いませんから!」
こんなフリフリの煌びやかなドレスなんて……前世での悪夢が蘇る。
前世の私は体格がガッチリしていて、身長も結構あった。髪も短くしていたから、よく男と間違われた。友達みたいに女の子らしい格好をしたくても、サイズがなかった。そして似合わないのをよく分かっていた。だから、女の子らしく生きることを半ば諦めていた。
そしてあれは忘れもしない、高校の学園祭。何故か私が演劇のヒロインに選ばれた。
『この役は篠宮にしかやれない!』
頼み込まれ、あまりの必死さに断り切れなくて役を引き受けた。そして渡された台本にはこう書かれていた。
──巨人女と野獣
そう、これは美女と野獣をもじったお笑い路線のパロディだった。
似合わないフリフリのドレスを着て、私はその役をやり切った。皆の笑いものにされながら、巨人女をやりきった。
優秀賞もとれて、皆大喜びだったよ。でも私はその演劇で、女として色んな物を失った気がした。
ドレスは私にとって鬼門なのだ。これを着ると必ずよくない事が起きる。
文化祭の時はそうやって女としての自信を失ったし、友達の結婚式では久しぶりに再会した高校の同級生に、『なんだ、篠宮。余興でまたあの演劇やってくれんのか?』とか言われるし。そしてやらされるし。
会社の付き合いでドレスコードのある店に入ったら、『え、男がドレス?!』みたいな気まずい空気流れるし。ヒソヒソと『お前がいけよ、いやお前が』みたいな感じで従業員の方達の話し声が聞こえ、しまいにはオーナーがやってきて『正しいドレスコードでお願いします』とか言われるし。それを聞いてあの忌々しい糞上司は隣で爆笑してるし、本当に良い思い出がない。
私だって女だ。憧れないわけじゃない。でも分不相応なものを着て、今生でも笑いものにされるくらいなら、最初から手をつけない方がマシなだけ。
そんな私の胸中などつゆ知らず、王子は非情な命令を下す。
「似合わないかどうかは、俺が判断してやる。さぁ、連れてけ!」
その一声で、控えていたらしいメイドさん達がどこからともなく現れて、問答無用で連行された。
「え?! いや、ちょっとぉお!」
世界はそんなに、私に試練を与えたがっているのか!?
ドレスは……ドレスだけはやめてくれ……











