23、うるさいくらいが、ちょうどいい
「リア様、どちらに行かれるのですか?」
「王女様の忘れ物を届けに」
扇子をみせると、団長サマはお供しますと道案内してくれた。
中庭を抜けようとした時、隅の方で男女の話し声が聞こえた。この国では見慣れない格好の男性が壁に片手をついて、メイドさんを閉じ込めている。
「まだ時間あるし、少しだけ遊ぼうよ」
「申し訳ありません。今は職務時間中ですので」
「いいじゃん、少しだけ」
「アレックス様、どうかお許しを……」
今、アレックスって言った。まさかあの男が王女様のお相手?!
「興が削がれたな。ったく、この国の女はガードが堅いぜ」
男は軽く舌打ちをして、その場から立ち去った。
「アシュレイ、さっきの方は?」
「スノーリーフ王国の第一王子アレックス様です」
白昼堂々と女遊びをしているなんて、とんだゲス野郎じゃないか。通りかかるメイドさんに声をかけては全て断られてるし。あんな奴の所に嫁いだって、王女様が幸せになれるとは到底思えない。
「アシュレイ、王女様とあの方の婚約は正式に決まっているのですか?」
「いえ、まだ正式には。アレックス様はご覧の通り、少々火遊びが過ぎるとの問題が上がっておりまして、それで陛下も難色を示されているのです。ですが、アレックス様とシャーロッテ様の強い希望もありまして、本日正式に婚約の儀が執り行われる予定です」
「陛下はよく思われてないのですか?」
「はい。シャーロッテ様の強い希望があって、それで幸せになれるならばと苦渋の決断を下されました」
「政略結婚では、なかったのですか?」
「いえ、相思相愛だとうかがっております」
あのツンデレ王女様、私の前では言いたい放題だったのに、肝心な自分の気持ちは閉じ込めて、国のためにと無理に気持ちを偽って話を進めているなんて……全然らしくないじゃないか。
「アシュレイ、急用ができました。私の代わりに、この扇子を王女様の所まで届けてもらえませんか?」
「それは構いませんが……」
「では、よろしくお願いします!」
アシュレイが何か言いたそうだったけど、今は時間がない。扇子を預けて、私はアレックス王子の後を追った。
王宮内に入られてしまっては、いくらこのバッジがあるとはいえ、用がないと私は中に入れない。
幸いな事に、アレックス王子は渡り廊下付近でまたメイドさんに話しかけていた。
彼がお喋りに夢中になっている間に背後に回り込み、表裏反転の幻覚魔術を発動。
心の声と実際に喋っている声を強制的に入れ替える幻覚をかけた。本人は普通に喋っているつもりでも、周囲には幻覚をかけられた者の心の声が聞こえる様になる。
本当にあの王子様が王女様の事を思っているなら、何事も無く婚約の儀は終わるだろう。表向きは相思相愛って設定なんだから。
もしそうでない場合は……理性で抑えられていない欲望剥き出しになった王子様が、どんな発言をしてくれるか楽しみだね。
良いタイミングでアレックス王子の従者らしき青年が、彼を連れて行ってくれた。メイドさんの無事を確認して、私はその場を後にした。
翌日、サロンでご飯を食べていると、王女様が満面の笑みを浮かべていらっしゃった。
「こんにちは、王女様。何か良いことでもございましたか?」
「昨日、アシュレイが! わざわざ私の扇子を届けてくれたのよ! こんなに嬉しい事があって良いのかしら……」
ああ、そっちか。うっとりとした眼差しで壁側を見つめている王女様。
私が知りたいのは、そこじゃない。婚約の行方がどうなったかなんだけどな……
「婚約も破談になるし、やはり私にはアシュレイだけですわ」
「破談って、何があったのですか?」
「あの馬鹿王子が、勝手に自滅してくれたのよ。婚約の儀という神聖な場で、何とも汚らわしい発言と態度の数々に、『お前なんぞに娘はやれん!』とお父様が激昂されて、婚約の話は流れたの。運が良かったわ」
「それは良かったですね」
アレックス王子には悪いけど、まぁ自業自得だよね。良い感じでやらかしてくれたらしい。
「それより、リア! 私の話を聞いて下さいまし!」
「はい、どうされました?」
王女様がいつもの調子を取り戻してくれてよかった。ちょっとうるさいけど、これくらいがちょうどいい。











