1、中間管理職って辛いよね
掲示板の近くに居た憲兵さんにお城の場所を聞いて、早速お城へ向かった。
城門前で女官さん達に身体をペタペタと触られて、怪しい武器を持ってないか念入りに確認される。
終わって案内された先には、わんさかとあふれかえる人、人、人が列をなして並んでいる。その最後尾に並ばされ、順番がくるのをひたすら待つ。
どうやら前方で面接を行っているらしい。はたして就職倍率は何倍だろうか。就職氷河期と言われていた前世の面接よりも難しそうだ。
順番が近付いてきて、少しずつ面接の様子が窺えるようになってきた。
「私は街一番の美声を持っています。この美声で癒やしの子守唄を歌います」
「じゃあ、試しに歌ってみて下さい」
女性が子守唄を歌うと、審査員の方々は次々に涙を流し始めた。
「素晴らしい! 実に素晴らしい! 感動で胸が躍るようだ! だが、こんなに興奮してしまっては眠れない。残念だが、不合格だ。はい、次の方」
「俺は街一番の布団職人だ。この最上級の寝具があれば王子様もきっと眠れるはず!」
「ほぅ……これは確かに気持ちいい。試す価値はありそうだ。合格だ。君はあちらの部屋で手続きを」
「おう、ありがとな!」
なるほど。審査員にふるいをかけられ合格した者のみ奥へ進めるのか。
失敗は許されない。
私は一番権限を持っていそうなおじさま審査員に狙いを絞って観察し、順番が来るまで彼の欲望をリサーチし続けた。
「はい、では次の方」
「私は幻覚魔術師です。幻術で心地のよい空間を提供し、王子を安眠へと誘います」
「では、試してもらえますか」
「はい、かしこまりました」
一番権限のありそうなおじさまに、子供になる幻覚を見せた。
目の下には隠しきれないくまがあり、相当疲れているのが窺える。王家と貴族と市民に挟まれた中間管理職っぽそうなおじさま。たまには何もかもほっぽりだして童心に返りたい欲求があるはず。
馬鹿みたいに何も考えずに遊んで、家族揃って温かい夕食を頂く。お風呂に入って、お日様の香りのするフカフカの布団に入ったら……睡魔に抗えるはずがない。
案の定、おじさまはよだれを垂らして眠っている。
「はっ! 私は今……」
「童心に返った気分はいかがでしたか?」
「合格だ! 奥の部屋で、是非手続きを!」
「ありがとうございまーす」
こうして私は、三食宿付きのお仕事の面接を突破した。