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14、泥棒猫呼ばわりされても困ります

「私はシャーロッテ・カレドニア。ルークの姉です」


 つまり、この国の王女様ということか。


「初めまして、シャーロッテ様。ルーク王子の不眠治療を行っているリア・ブライアンと申します」

「貴女の事はよく存じ上げてますわ。私の愛しのアシュレイを誑かす泥棒猫さん」


 すごい、強烈な王女様だな。いきなり泥棒猫とか言い出す変な人初めて見た。


「ああ、団長サマにご用ですか? アシュレイ! 王女様が呼んでますよ!」

「な、ちょっと、いきなりそんな……!」

「殿下、お呼びでしょうか?」

「い、いえ! 呼んでなどいないわ! こんな所で油を売ってないで早く職務に戻りなさい!」

「はっ、かしこまりました」


 一礼して、アシュレイは壁側の定位置に戻った。

 この王女様……かなりのツンデレキャラですか。試しに、アシュレイにかけたイメージ操作を解いてみた。周りに居たお嬢様方は、脱兎のごとく逃げ出した。しかし、王女様はチラチラと壁側を気にしながら時折うっとりとした眼差しでアシュレイを見つめている。なるほど、これはこれは……面白い!


「ええっと、王女様。それで私に何かご用ですか?」

「ですから、アシュレイを誑かすのは止めなさい! 私はいずれ降嫁してあの方の元へ嫁ぐのです。それが夢なのです。それなのに! ぷ、ぷ、プロポーズされたですって?! ふざけんじゃないわよ!」


 なんだ。団長サマにもきちんと思ってくれる女性が居たんじゃないか。少し、いや……かなり気が強そうではあるけれど。王女様は美人で身長も高く、団長サマの隣に並んだら美男美女のカップルでお似合いだ。周囲に与える威圧感は半端ないだろうけど。


「お言葉ですが王女様。プロポーズされたのは事実ですが、私はそれを一度お断りしております。ですので、ここで私と話されるよりもアシュレイ本人と話された方が有意義な時間をお過ごし出来ると思いますが?(お互いに)」

「あら、そう。断ったのね。ちゃんと身の程はわきまえているようね。あの人の隣に並んで良いのは私だけだもの。当然よね」


 オホホホホと高笑いし始めた王女様。適当に相づちを打ちつつ、相手をしているのがものすごーく面倒になった私は、押しつけることにした。


「アシュレイ! 王女様が隣に並んで欲しいそうですよ」

「ちょ、ちょっと!」

「お呼びでしょうか?」

「だ、誰の許可を得て私の隣に並んでいるのかしら? アシュレイ、身分をわきまえなさい」

「申し訳ありません」


 この王女様、アシュレイの目力を前にして物怖じするどころか実に堂々とした物言いをなさる。逆にアシュレイが少し萎縮しているくらいだ。

 無理もないか。騎士団長であるアシュレイにとって王女様は絶対に逆らえない相手。言うならば、最上級の上司みたいなもの。いくら生物学的には女と男であっても。上司は上司だ。わずらわしくてしょうがない目の上のたんこぶ。そこに性別など関係ない。

 とはいえ、折角思ってくれている女性が居るのならこれは良いチャンスだ。


「アシュレイ、今日の案内はもう結構です。ありがとうございました。王女様がお茶に付き合って欲しいそうなのでお願いしますね」

「ちょっと、誰もそんな事言ってなくってよ!」

「まぁまぁ王女様。たまにはゆっくり部下の話を聞いてあげるのも上司の務めですよ。幸運をお祈りいたします。では!」

「あ、リア様!」


 王女様と団長サマの恋がうまくいきますように──と適当にお祈りしながら私はサロンを後にした。


 目指す場所は図書館。

 王侯貴族にしか解放してない図書館ともなれば、かなり貴重な本が貯蔵されているに違いない。それを拝見させてもらおうとうろうろ彷徨っていたら、後ろから声をかけられた。


「そんなところで何をしている?」


 振り返ると、不機嫌そうな面持ちの王子様がいらっしゃった。

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