12、部屋がグレードアップしました
翌朝、アリスちゃんに連れられて離宮の最上階の部屋へと移動させられた。
「本日より、リア様にはこちらの部屋をお使い頂きます。クローゼットに一通り生活に必要な衣類は全て、ご用意させて頂いております。足りないものがあれば随時おっしゃって下さいね」
前の部屋の三倍はあろう広さの豪華な部屋。高そうなソファーやテーブルがあるのは勿論、クローゼットには着たこともないような煌びやかなドレスから動きやすそうな魔法衣、寝間着などあらゆる種類の服が詰められている。
部屋の隅にはお姫様が眠るような天蓋つきの広々としたベッドがあり、バルコニーには、お洒落な椅子とテーブルまで置いてある。
なんか、意地でも逃がさないよう努力してる陛下の本気度が伝わってきた。
「それと部屋の外へ出られる際は、左胸に必ずこちらのバッジをつけられて下さい」
「これは何?」
「国王陛下が功労者様に与えるとされている特別階級を示すバッジです。このバッジを身につけられている方は、身分問わず貴族階級にしか与えられていないお城の施設を使う事が可能なのだそうです。詳しいことは私には分からないので、後でアシュレイ団長が説明に来られるそうです」
「分かったよ。ありがとう、アリスちゃん」
「あの、リア様。昨日はお見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした。医務室まで運んで下さりありがとうございます」
これは団長サマの株を上げる良い機会かもしれない。
「あのね、アリスちゃん。運んだのは私じゃなくてアシュレイだよ」
「えっ?! リア様ではなかったのですか?!」
「うん。運んだのはアシュレイだよ。私も付き添いはしたけど」
「そ、そうなんですね……あ、ありがとうございました……それでは……失礼します」
ガクガクと震え始め、全身に鳥肌を立てたアリスちゃんがそのままフラフラとした足取りで部屋を出て行こうとしたその時──
「リア様、少しよろしいでしょうか?」
タイミング悪く、今度はアシュレイが訪ねてきた。
「アリス殿、昨日は大丈夫でしたか?」
「ひぃ! だ、大丈夫です! ほんとすみませんでした!」
それだけ言うと、アリスちゃんは脱兎のごとく逃げ出した。
ちょっと声をかけただけであからさまに避けられたらそら傷つくよね。でも、アリスちゃんも生命の危機を感じるからああやって逃げるわけで、責めることはできないよね。
アシュレイは一瞬顔に悲壮感を浮かべた後、何事もなかったかのように話を切りだしてきた。
「本日は城内の施設を案内しようと思って参りました。リア様、バッジはお持ちですか?」
そういう切り替えの早いところは流石団長サマだな、うん。
「さっき、アリスちゃんからもらいました」
「部屋から出る時は、必ずそちらをお付けになって下さい。通行証のような役割をはたしておりますので、付けずに一人で城内を徘徊すると衛兵に捕らえられる可能性があります」
「じゃあ、これさえ付けてれば一人で出歩いても良いのですか?」
「ええ。大丈夫です。ただ何かあるといけないので、出来れば護衛をつけて頂いた方がより安全かと。声をかけて頂ければ私が伺います。不在の時は、我が紅蓮の騎士団より優秀な騎士を派遣させていただきますのでご利用下さい」
この広い王城内で道に迷わずこの部屋まで戻ってこれる自信は、今のところない。慣れるまでは助かるな。
「分かりました。ありがとうございます」
「では、参りましょう」
「ちょっと待って下さい。昨日約束した通り、今からあなたにイメージ操作の幻覚をかけます。少ししゃがんでもらってもよろしいですか?」
「これくらいで、よろしいですか?」
「ええ。十分です」
アシュレイの目元にイメージ操作の幻覚魔術をかける。恐い目力を発する箇所に、誰が見ても和む癒し系の目元の雰囲気を憑依させる。まずは安心感をすり込む作戦だ。
ただこれは幻覚をかけられた本人に作用するものではなく、幻覚を見た方にその作用が発揮されるようにかけている。
常に一定距離内に私が控えていないと効果が持続しない、かなり面倒くさいタイプの幻覚魔術なのだ。
まだ一カ所だから全然平気だけど、ハゲゴリラみたいに全身憑依とかだったら、もう過労死してもおかしくないんじゃないかってレベルで疲れる。
「完了です。私が傍に居る間はその目力を抑えることが出来ますので、たくさんの『初めて』を感じて下さい」
「分かりました、ありがとうございます。それでは、行きましょう」
アシュレイに連れられて、いざ王城探険に出発だ! 与えられた権利だからね。福利厚生をガンガン使ってやるぞ!