9、からかってはいけない人に手を出してしまいました
部屋に戻って豪華なご飯を頂き、お昼寝を済ませて日が傾いてきた頃。ノックをしてアシュレイが訪ねてきた。
「リア様。先程はご無礼を働き申し訳ありませんでした」
米俵担ぎのことですね。大丈夫です、ほんのちょっとしか根に持ってませんから。強面の男に抱えられるとか、命の危機を感じたよ全く。
まぁ、上司である王子に騎士団長が逆らうわけにもいかないだろうしそこは仕方ない。
でも私に仕えると言っていたのに、米俵担ぎは頂けない。そんな気持ちから、強面団長サマをからかってみたい衝動に駆られた私は──
「アシュレイ……殿方である貴方にあのように触れられてしまって、痴態をさらし、私はもうお嫁に行けません」
わざとらしくさめざめと泣くまねをしてみた。次からは米俵担ぎじゃなくて、せめて横抱きぐらいにしてねと言いたかっただけなのに、なんかとんでもない物を差し出された。
「リア様……大変申し訳ございません。この問題は私が責任を持って取らせていただきます。なのでどうか、これを受け取って下さいませんか?」
渡された小さな宝石箱を開けると、中に入っていたのは指輪だった。え……ちょっと待って……これってまさか……
「我が公爵家に伝わる由緒正しき指輪です。リア様、どうか私と結婚してくれませんか?」
「え……いや、その、冗談。ちょっとした冗談で言っただけなので、そこまで真摯に捉えなくて大丈夫ですよ。アシュレイ」
からかってはいけない人だった! 一番からかってはいけない部類の人だった!
「そういうわけにはまいりません! 不自由はさせません。必ず幸せにすると約束致します。なので……」
背中から嫌な汗がじとーっと流れてくる。
「いや、私はその、一市民で身分も教養もありませんし、アシュレイにはその、もっと相応しい方が居らっしゃると思いますので……」
「家のことは優秀な家令に任せているので大丈夫です。リア様は、リア様のなさりたいことをして頂いて構いません」
本気だ。目がマジだ。いつもの何倍にもまして団長サマの目力が半端ない。
「えっと、その……あー、……愛のない結婚はしたくないのです! 年を重ねてもいつまでも仲睦まじい夫婦で居たいのです! だから責任から求婚されても嬉しくありません」
これならどうだ! 私の言葉に流石の団長サマも言葉に詰まったようだ。
「だからアシュレイ、本当に気にしなくてよろしいのですよ。軽い冗談で言っただけなので……」
「リア様」
「はい、何でしょう?」
「初めてなのです」
「初めて……?」
「家族以外の女性がこうして、まともに私とお話して下さったのは」
まぁ、その強面じゃあ無理もない。綺麗な顔立ちだけど、目が合ったらほんと石にされそうだし。子供は泣きじゃくって逃げるだろう。
「決して責任からではありません。私は貴女を愛しています」
責任からよりもたちの悪い方だったー!
真面目な団長サマを変にからかわなければよかったと、後悔したのは言うまでも無い。