1-7 航路計算
移動したい場所が指示された予定航路が送られて来たので確認。
何も聞かなくても情報共有、送信が出来ているな。
目的地は複数なので船のコンピューターに指示してちゃんと計算させる。
リラ6への帰路に合わせて目的地を設定したのは間違いない。
目的は採掘屋としては無視するような小惑星だが資源採取としては必要なんだろう。
船のコンピューターは長く使っているからこの船に合わせた最適な調整をして細かな航路設定を行える。
情報の蓄積が多いから補正なども細かいからだ。
加減速に無理や無駄が無いか、所要時間、推進剤の消費など念の為確認。
この辺りは時間があれば自分でも計算してみる。
船のコンピューターが使えない時に困らないようにだ。
確認して特に問題は無く日数的に食料も持つ。
食料だけは船の計算に入っていない。乗員数で変わる面倒な要素だからだ。
現在の船体重量から計算はされるから誤差範囲でしかないしな。
「イスト、推進機による最大加速は行っても良いですか?」
「別に帰還に支障がないなら構わないぞ。」
何故聞いてきたのか判らないくらい普通の事だ。
船最大の推進機を使わないと加速が難しいし推進力を無駄使いしなければ良い。
「飛行計画が出来ました。
最大加速によって広範囲の移動が可能であり時間短縮と効率化が図れます。」
静かというか凛々しい仕事モードの話し方。
送られて来た航行計画を確認すると船が計算したのとはまったく違っていた。
大体移動ルートがまったく違う。
なんでこんなに違うんだと見ていくと加速速度が全然違うしその理由は判った。
「セリナ、なんで大型推進機の事を知っているんだ!」
「『船にある情報ならなんでも見てもいい』と言われましたので確認しました。
先程最大加速についても許可を得られましたから計画に組み込み修正しました。」
確かになんでも見ていいと言ったけどな。
隠してあるはずの情報をなんで知っているんだよ。
セリナが使おうとしている推進システムはこの船で隠してある情報。
別に権限で制限はしていなかったが複雑な手順やセキリティを突破しないと見れない情報だぞ。
「どうやって見た?知ったんだ?」
「コンピューター内の情報を見ていましたら隠されている情報を見つけました。
閲覧許可はありましたのでAIの能力を試していると解釈しそれらの情報も閲覧しました。
方法としては通常の手段、コンピュータープログラムを使用しました。
AIはプログラムで出来ております。AIセリナはそれを熟知しており得意分野です。
現在使用されているプログラム関係はすでに学習しておりました。
それらを使用し経験や応用によって情報は閲覧しています。
使用されているプログラムやシステムにはAI技術も応用されており当個体の知る技術よりも優れたものでしたからもっと研究、探求が必要です。」
「ちょっと待て。確か結構なセキリティがあっただろう。パスワードとかはどうした?」
「人間や通常のリラ星系レベルであれば強固なセキリティでした。
物理的な障害ではなくプログラム的なものであれば突破する方法はあります。
初めての物も多くAIとしては力の発揮が出来て良い機会でした。」
「セキリティを突破したって事か。AIはそう言う事まで出来るのか。」
実はこの船の制御コンピューターは二つある。
コンピューター好きな船員が改良した結果で並列処理とかで性能が上がっているはずだ。
もうひとつのコンピューターの存在は隠してある。
隠してあるから重要な情報とかはそちらに保存するようにしていてアクセスにも制限が掛かっている。
物理的に遮断しておくのが一番安全なんだけどな。
それをするとせっかく改良したのに意味がなくなる。
だから二つのコンピューターは稼働してあるがひとつは隠してある訳だ。
「すべてのAIが出来る訳ではないでしょう。
AIセリナは元々そのような作業を得意としております。
知識や技術がありますので人間の指示が無くても可能なだけです。」
船のコンピューターを改良したサトウじいちゃんと話が合うかもな。
落ち着いたらAIセリナは何が出来るのかは聞いた方が良さそうだ。
「情報を見たのは仕方ない。もうそれは構わない。
プログラム関係が得意なのも判った。
ただ勝手に船のコンピューターを弄るのはやめてくれ。動かなくなるとかは困るぞ。
あと光子ロケットは使わない。航路計画は作り直してくれ。」
「光速の10%近くまで加速可能な推進機を使用しないのは損失です。
大幅な移動時間短縮が可能です。」
「完成品じゃなくて実験用のロケットなんだ。
不完全で毎回安定しないらしいし使う度に調整や補修が必要になる。
加速に使えるが減速はどうするつもりだ。
予想以上の加速になれば光速の20%とかだぞ。
減速にはもう一度ロケットを使うのが確実だが補修しないと使えない。
もしもう一度使ったとしても安定していないから同じ加速度になるとは限らない。
使わない理由はそういう所だ。単純に今は補修する費用も資材も器材も無い。」
使うとしたら最終手段、この船の切り札だ。
宇宙での移動で加速が出来ても減速出来ないのは無意味だ。
この船の通常推進は核融合ロケット、それを減速に使用してもあまり効果は無い。
推進力は光速に変換すれば0.1%に届くかどうかだ。
減速に使うとしても加速を打ち消すにはかなりの時間が掛かる。
実験でも加速時間は短時間で減速用に多数の推進機を使っていた。
コントロール出来ていない推進力なんて使えるものじゃない。
「詳しく知りたいなら実験結果とか資料で十分だ。
それは船のデータベースにあるから見ればいい。」
「後で確認しておきます。再計算した航路計画です。」
再び送られて来た航路計画に使用しているのは普通の推進力だけだ。
さっき設定したこちらの航路と比べると途中が違っているから比べて見る。
航路が違うのは3箇所、小惑星に接近しているが小惑星までは行かない。
速度変更を少なくしている分、余裕があるからより多くの小惑星に向かっている。
ちなみに小惑星と言っているが大雑把な括りだ。
恒星近くなら彗星もあるし宇宙を漂っている岩石、氷などの浮遊物をまとめてそう呼んでいる。
リラ星系だといくつか密集地帯はあって採掘屋はそういう所を狙って掘りに行く。
惑星周辺にあるものは開拓初期と復興時でかなり掘って数が減っている。
なのでかなり外にある惑星リラ10、リラ11周辺が採掘屋の活動場所だ。
それよりも遠い系外縁天体と呼ばれる部分が現在位置でリラ6からは58億キロくらい。
(地球から海王星まで44億~47億キロ)
ただ系外縁としてはまだ入り口付近、リラ6から最も近い部分だ。
さらに遠くに行けば金属を含む小惑星ももっと発見出来ると思うが移動コストと釣り合わない。
ここまで来るのでも28日必要だったからな。
「セリナ、減速しかしていない箇所があるが小惑星には行かないのか?」
「船の減速を最小限にすることで航続距離を得ました。
その箇所では当個体単体で小惑星へ向かい採取、船へ帰還の予定です。
その部分の詳細としてはこのようになっています。
以前も同様の事はしておりますので問題はありません。
一箇所目で実行し無理だった場合は以降の航路は修正します。」
船の軌道と速度、小惑星の速度と軌道、うまく計算して計画はしてあるみたいだ。
どうやって実行するかを聞けばもっと詳しく聞けると思うし興味はある。
でも今は作業が先、無理だったら修正するし出来ると言うならやらせておこう。
送られてきたルートを船で航路設定、詳細を確認。
さっきと同じように問題が無いのを確認して船の航路計画とセリナの航路計画を比べる。
リラ6への到着時間が半日程遅く推進剤の消費が1.18%少ないのがセリナの方。
船に指示して違っている箇所を色違いで表示させている。
秒単位の噴射時間の差とか左右の推進機で出力が違うとか差となる数値が小さい。
細かく分析しないとどう効率が良くなっているか判らないな。
船に要素として入力するのは自分で確認してからの方が良さそうだ。
僅かな差なんだが優れていると言い切ったセリナの能力は発揮されている。
ずっと使って来た専用の船より効率良く飛ばしているんだからな。
「セリナの航路を使う。確かに少し効率は良いからな。
このまま準備して出発しよう。」
「少しだけお時間をください。外部パーツを回収して来ます。
どこか収容スペースを貸して頂けますか?
無理でしたら船体外部に係留をお願いします。」
「さっきの機械を収納したブロックはどうだ?
問題ないならそこに入れればいい。」
外部パーツというのは銀色の筒か。
もう一度開けるのが手間というくらいだが忘れていた俺が悪い。
「ありがとうございます。ではそちらに収容しておきます。
イスト、現在のここの小惑星はもう必要ありませんか?
このまま離脱するのであれば資源採取をさせて頂きたいのです。
船の情報から推測しましたが恐らく資源回収が行えると予測します。」
「後は離れるだけだし構わない。その回収作業は見ていても良いのか?」
「最初に行われた時に目撃されたようですから構いません。」
「なら俺も外に出る。」
どうせなら直接見ておきたい。
さっきは見たと言っても光線に驚いていたら閃光で終わりだったからな。
慌てていてちゃんと観察した訳じゃない。