5-6 ダビル824星系とヘイノ星系
ヘイノ星系はについては元奴隷の移民たちから詳しい情報を得られている。
ダビル842移民船は船体異常によって航行スケジュールが大きく遅れていた。
支援を求めて通信を行いつつ移住予定星系へと進路を変更したのだ。
その航行中に遭遇したのがヘイノ星系。
ヘイノ星系は移民が82年が経過しており惑星開拓も順調。
ダビル842へ支援を行うだけでなく移民予定候補であった星系も紹介した。
航行スケジュールの遅れによって本来の期間よりかなり長期航行となっていたダビル842。
目的星系へ150年程航行を行うよりも紹介された星系への移民を選んだ。
24光年先の星系であれば60年程の航行予定であったからだ。
ヘイノ側はまだ移民船が残っていた事もありダビル842に同行。
惑星開拓への資源提供、初期支援も行いダビル842の開拓に協力したのだ。
ヘイノの協力もあり初期開拓期間を短縮、ダビル星系の開拓は急速に進む事になる。
もちろんヘイノの協力は無償という訳では無くダビルから資源を搭載し帰還した。
その帰還時にはダビル側の住人も同行した事から互いの交流が継続する事となる。
資源搭載の開拓船は無人AI制御による航行で短期間に。
有人開拓船は時間をかけての航行を行い両星系を往復し続けていた。
ダビル側では新型推進器の開発に成功したそうで途中から航行速度は上昇。
現在では有人移民船は45年周期での航行を可能としている。
この移民船は両星系の管轄となっており一つの都市として機能しているようだ。
ダビル842がフリーダムの襲撃を受けた時、有人移民船はダビルから出発して2年程。
フリーダムの情報を伝えただけでなくダビル側からは船団が派遣された。
その後にダビルはフリーダム支配下となり以降のヘイノ側の動きは判っていない。
ダビル842がフリーダムに占領されてから32年が経過している。
まだヘイノに移民船は到着していないと思われるが航行速度を上げていれば到着している可能性はある。
情報だけであれば有人移民船、無人移民船を中継しもっと早くに伝わる。
ヘイノがフリーダムに対応する時間はあったと思われる。
ちなみにヴァンダンがフリーダム支配下となったのは64年前。
ただ最初に遭遇したのは74年前、しばらくはリラと同様に緩やかな支配が続いていたそうだ。
フリーダムはヴァンダン、ダビル、リラの順で侵攻したようだ。
フリーダム侵攻を知って対抗しているかもしれないヘイノ星系。
問題としてはヘイノ星系への移動手段だ。
普通に行くだけなら光子推進を使えば行けるが今回はそんな選択は出来ない。
最も近いダビル842星系からでも36年の航行スケジュールになるからだ。
セリナの試算としては最速なら30年程まで縮められるそうだ。
24光年を30年から36年で航行するのは破格の速度だがそんな悠長な事は出来ない。
ヴァンダン星系を離れたガリオンは光子転送を行いリラ近傍へと戻って来た。
リラに最も近いフリーダム転送施設付近の転送門だ。
ここは施設監視用に小惑星を改造して作った場所。
内部に作った空間に転移して来たから発見される事も無い。
滞在としたのは半日ほどでここへ立ち寄ったのは物資補充を行うからだ。
普通の物資が備蓄してある訳では無い。
元々ここはセリナが転送装置を量産する為に資源採取を兼ねて拠点化した。
今回も同様で物質生成に使う資源を集めに来ただけだ。
ゼンさんの就寝中にこちらに移動しセリナはすぐに補充を終えた。
次の目的地はフリーダムが戦争をしているかもしれないダビル842星系の先にあるヘイノ星系。
まずはダビル842星系へと移動を行う。
今回はセリナが設置した光子転送網を使って転送門から転送門へと移動する。
しかもそれぞれの転送門へ先に指示を送ることでの連続転送となる。
転送門から転送門へ移動したら1分程で次の転送。
リラからリラ-ヴァンダン中継点、ヴァンダン、パラトカ、ダビル842。
星系間距離で150光年程の移動が僅か5分。
改めてそして初めて光子転送網の素晴らしさを味わった。
次々と転送を繰り返し到着を告げられて驚くとか歓喜とか出来なかった。
思ったよりあっさりしていたのだ。
連続転送が終了して出現した場所はダビル842から1500億キロの距離。
フリーダムの転送装置からはそれ程離れていない。
セリナの設置した各地の転送装置、転移門は小惑星の中に設置されている。
その時からゆっくりと移動はしているが一か月程度ではそれほど移動も出来ない。
宇宙の距離感では十分な距離は開いている。
ただ今は転送を行うからほぼ静止状態を保っていた。
フリーダム施設に対しては念の為小惑星を壁にするように裏側に出現した。
この地点の転送門から観測情報を受け取ればフリーダム側からの反応は無い。
フリーダム施設には現在1隻のフリーダム艦が接舷中。
「イスト、転送門からの情報が得られました。
新規のフリーダム転送施設が存在しています。
ヘイノ星系から300億km、400億kmの距離に設置されています。
300億km地点をヘイノB、400億km地点はヘイノCと呼称します。
それぞれの稼働記録を確認しましたがヘイノBは0件です。
ヘイノCは18件、最新の転送は202時間前、8日程前となります。
ヘイノBの転送門は休止状態、施設周辺にフリーダム艦は存在していません。」
仮の表示として簡単な星系図が表示されてそれぞれの場所が示された。
ヘイノBはダビル824から繋げている転移網の先に位置している。
方位としてはヘイノの北東側、ヘイノBは北側にありヘイノに近い。
両方の距離だがリラ近くの施設と比べれば星系にかなり近い。
リラの場合は約1300億kmの位置にフリーダムの転送施設はあった。
ダビルからヘイノの間には2つのフリーダム転送施設が以前から存在している。
施設が18回稼働したという事は最大で18隻が転送して来たということか。
フリーダムの転送がセリナ達の仕様と違っている為に詳細情報が不明だ。
セリナ達の場合、何処から転送されどれ程の質量であったか等詳しい情報が残る。
フリーダムはセリナに言わせれば強引な方法で転送しているので細かくは判らない。
セリナ達のシステムを使って転送している訳では無いからだそうだ。
回数しか判らないので転送して来たのか転送したのかは判断出来ない。
「二つの転送門があるのに片方しか使っていない。しかも距離の遠い方。
セリナ、フリーダムがヘイノを侵略するのならもう片方は何の為だ。」
「戦略としては転送網の確保が上げられます。
転送網を利用した戦争で最も重要なのは転送門の確保になります。
2か所に設置し片方を秘匿しておけば転送門が破壊されても転送網は維持出来ます。
援軍として追加戦力の投入や撤退時に備えての設置として考えられます。
ただし防衛の観点から見ればより近くに設置するのではなく後方への設置が基本です。
おそらく戦術的な設置、フリーダム側は奇襲を行うと思われます。
転送装置の存在をヘイノ側が知っていれば最大の攻撃対象です。
ヘイノBにヘイノ側戦力を引き付けフリーダム側は戦力を分割もしくは追加投入出来ます。
ヘイノ星系への直接侵攻や挟撃もしくは側面攻撃が可能です。」
フリーダム艦が防衛している転送施設への攻撃は実は難しい。
フリーダム艦の主砲、巨大レーザーがあるからだ。
迎撃されないようにするなら速度を上げて直線での接近が出来ない。
リラの戦い方としては囮とした主力を一面から接近させておき潜伏艦が別方向から奇襲。
潜伏艦は長期航行によってかなりの遠距離から潜伏したまま奇襲する予定だ。
これが一番成功率が高く被害が少ないがフリーダム艦の数による。
10隻とか言われたらそれをすべて破壊するだけの奇襲部隊が難しい。
普通の宇宙船であれば施設を半円とかで包囲するように接近する。
フリーダム艦の攻撃対象を分散させて接近する事で迎撃される可能性を減らす。
そこで別方向からの船に対応するのは難しいだろう。
ヘイノ側としても転送門の破壊は最重要として最大戦力を投入するだろう。
攻めている時に星系への直接侵攻があれば?
十分な防衛戦力があれば問題は無いが防衛戦力が無い場合は。
加速している宇宙船は急には引き返せない。
反転して逆方向に移動するなら大雑把な計算で3倍くらいの時間が掛かる。
加速を打ち消すための減速が必要だがその間も移動し続けてしまう。
減速が完了してから反転し再加速してその移動距離を戻らなければならないからだ。
だから宇宙航行では基本的にそんな事にならないように航路を考える。
軌道が楕円軌道であったり円軌道だったりは一方向への直線移動を減らす為なのだ。
対フリーダム施設で考えた色々な戦闘方法を呼び出してこの状況を適用する。
側面からの奇襲や拠点に対する攻撃、もしくは両方どれにしても対応出来ない。
「セリナ、フリーダム艦の航行速度は不明なままだよな。」
「航行中のフリーダム艦を観測出来ておらず推測も出来ません。」
フリーダム艦の攻撃有効範囲は不明だが推測値としては最大だと1200万kmくらい。
レーザーは宇宙でも減衰はするので攻撃力として有効なのはその前後のようだ。
フリーダム艦が1300億kmを半年程で航行するのは判っている。
ただこれはフリーダム艦の最大速度ではないのが明らかだ。
各星系への侵攻速度が速すぎるからで恒星間航行を行うのだからもっと早い。
リラに接近中のフリーダム艦を観測はしているが加速しておらず速度を維持していた。
加速性能がまったく判らない。
300億kmをどれくらいで移動出来るかが判れば対策も出来るだろうか。
「イスト、至急の提案です。
ヘイノ星系への移動についてですがヘイノBの転送門を稼働して行えます。
現在フリーダム転送網、転送機は稼働していません。
当艦ガリオンを転送、即座に離脱する事が可能です。
フリーダムに発見される可能性は24.1%。
もし発見され離脱してもヘイノの艦船と認識される可能性は99.4%です。
フリーダム側の動きが不明な為即時の判断をお願いします。」
ヘイノBは稼働させていない転送門、フリーダム艦が居ない施設だ。
このまま光子転送で直接ヘイノまで行って離脱してしまえば改めて転送門を設置すれば良い。
そんな時間が無いなら最悪この船に搭載した転送門をどこかに置ければそこに転送出来る。
発見される可能性が低くは無いが確かにリラの船だと知られなければ良い。
リラに危険は及ばないだろう。
ヘイノ側には影響するかもしれない。
でもフリーダムに発見されて何か行動すればヘイノが転送施設を発見出来るかもしれないか。
それならヘイノは奇襲を避けられるかもしれない。
勝手な解釈だけどな。
「セリナ、ヘイノBへの光子転送を開始。
ガリオンは潜伏航行に以降、艦内連絡は無視する。
動力2番、3番、出力停止。各防壁稼働、艦内節電状態へ移行。
強制排熱及び強制冷却を実行。
同時にガリオンは警戒態勢へ移行、各兵装稼働待機。
セリナへ艦長命令。各制御権限を受け渡す。
転送実行及び施設からの離脱を最速で全力で実行せよ。」
「イスト艦長からの命令受諾、了解しました。」
本来ならこんな緊急事態になれば艦内連絡、放送で乗員に指示する。
この場合今は休憩中のゼンさんを呼び出す必要がある。
今は艦の制御をセリナに任せたいから呼び出さない。
セリナへの指示として『全力で実行せよ』は二人で決めた暗号だ。
艦長命令としてそう命じた場合、セリナはその能力全てを使って実行する。
AIのセリナとして、ツキヨミのセリナとしてだ。
転送後の離脱を考えればセリナに任せた方が安全だろう。
元々ヘイノ星系への移動については危険に飛び込む必要はあった。
この転移門からヘイノに最も近いフリーダム転移施設へセリナによる単独移動を予定していたのだ。
セリナの能力があればフリーダム艦に発見されずに離脱も出来るのだろう。
色々と解説、説明されてなんとか納得した作戦だった。
物質生成器の遠隔使用やリラで見せた単独の戦闘力から対処出来そうなのは判った。
それでも単独移動であるから何かあった場合が怖かった。
まだセリナを失う訳には行かない。
ガリオンによる転移による強襲が可能なのであればそっちが良いだろう。
それはそれでセリナに言われていたように失敗時の犠牲者が増える事にはなるのだ。
AIであるセリナは各作戦で人間の損失を最小限にする。
ガリオンによる転移で損失2名が出るよりもセリナの破壊を選んだ訳だ。
「光子転送開始まで30秒です。」
問題は無いと確信しているが船体状況の確認は行った。
動力、推進、兵装等問題無し、潜伏状態の維持についても電波放出、熱遮断等各数値規定値。
ついでに転移先の状況も確認してみたがまだ艦等は存在していない。
「転送10秒前、イスト、転送後に最大加速を行う可能性がありますのでご注意ください。」
「判った。」
座席に座ったまま腰にベルトを回して固定する。
操縦ブロックのシートは実は地味な改良がされていた。
人体に影響がある加速が行われた場合、乗員を固定と同時に加速方向に対して平行へと移行する。
加速Gの影響を避けるには人間は加速方向に対して平行よりも垂直である方が良い。
動力部の故障等で異常な加速状態となった場合に航法コンピューターが自動対処するのだ。
まだ使ってはいないがこうした工夫を駆使すればガリオンの航行速度はもっと上昇出来る。
その限界をさらに上げられるように俺もゼンさん毎日加速G訓練中を実行中だ。
兵士というのは色々と鍛えられているらしいがこうした訓練が続けばそうなるのも判るな。
光に包まれる感覚、転送が開始され問題無く終了した。
「転送完了、船体各部異常無し、転送誤差許容範囲。
周辺警戒中、フリーダム施設からのこちらへの観測はありません。
ガリオン、通常推進による微速移動開始。」
転送した座標はフリーダム施設から最大限離れた地点だ。
転送門で可能な転送は実はかなり範囲が広い。
船内から目視出来てもフリーダム施設はすでに見えないだろう。
船からの観測でも施設は静かなもので何の明かりも見えない。
完全に沈黙しており内部に人員が居るか等も判らない。
リラ近くの施設は安全の為に各所に明かりはあったのでそれと比べても隠蔽が徹底されているな。
今の状態はこちらも似たようなものだ。
推進器から発生する熱や噴出光を最低限にしつつ遮蔽しつつゆっくりと加速を続ける。
この距離であればその辺りが発見される最大の要因だ。
歩くどころか少しずつ足をずらして進んでいる状態と言えるだろう。
少しずつ速度は蓄積されていくが離脱まではかなりの時間となる。
フリーダムの施設自体には観測装置等はほとんど設置されていない。
奴隷を使う為か内部から宇宙を目視して見れる場所もほとんど存在していない。
観測機としては宇宙施設としては平均的な性能の障害物感知装置くらいなものだ。
施設については詳細情報があるがあくまでもリラにあった施設の情報。
ここの施設も同様とは考えずしばらくは慎重な航行が続く事になる。
ガリオンの進路としてはヘイノ星系から離れる方向でありダビルからも遠ざかる方向を取った。
このまま離脱出来たのであればどこかに転移門を設置する。
設置場所として理想となるのは既存の転送網が最も拡大出来る場所。
そうするには両方から離れるのが良くそれは2か所のフリーダム施設からも距離を取れる。
ゼンさんが勤務時間よりも早くに操縦ブロックへと入って来た。
起きたら艦内が潜伏状態となっていたから様子見に来たのだ。
突発的な潜伏以降訓練は何度も実施しているので俺もゼンさんも慌てたりはしない。
それでも潜伏状態なのは何らかの危険がある前提なのでまず確認に来たのはよい兆候。
ここまでの推移を説明して緊急事態に召集しなかった事を謝罪しておく。
まあ連続転送に立ち会えなかった方を悔しがっていたが帰還時はゼンさんの担当時間になる。
慌てる事もなく業務を引き継ぎそこからも特に問題は発生しなかった。
セリナの事前予測によればフリーダムがこちらを発見する確率は24%。
発見された様子は無いが実際に発見されていないのか発見されてはいるが対応していないのか。
その判断は今は保留、セリナに常時対応を指示しておく。
転移から20時間経過しガリオンは本格的な加速を開始。
やっと宇宙船らしい速度まで加速された。
距離感として200億kmは太陽から冥王星の距離の4倍くらい。
1200万kmというのは火星と地球の最接近距離が5800万キロくらいです。
ちなみに最も離れている時は1億キロちょっとです。
有名SF映画の球形要塞兵器の主砲は射程4700万kmくらいのようです。
1300億kmについては難しいのですが1光年は約9兆5000億km
太陽系の大きさが2光年程とされているので宇宙的には近いようです。
ある程度調べて書いていますがどこか違っていれば申し訳ありません。
フリーダムレーザーの数値もどこかで書いている気がしますがそのうち統一します。