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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
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5-5 ヴァンダン5番惑星の観測

惰性航行に入ってから船内スケジュールが変更されている。

今後のリラでの宇宙船を使った戦闘に向けての試験採用でもあるがさすがに人数が足りない。

継続しての集中状態、緊張感が必要な為4時間単位での就業となる。

4時間勤務、4時間休憩、4時間勤務、8時間休憩、4時間勤務か勤務休憩が逆のスケジュール。

一部署2人か3人で担当して常に余裕のある状態を作るのが理想。

ベテランと新人二人で担当し重要でない勤務帯は新人に担当して慣れさせていくのだそうだ。

搭乗員3人のガリオンではさすがにこのスケジュールは無理。

基本的には2人は勤務、1人は休憩で4時間から6時間単位で対応となった。

休憩時間を調整して重要な所は3人勤務、ゼンさんが時間通りに操縦ブロックに入って来た。


「ゼン副操縦士、任務担当に入ります。」


「ゼン副操縦士へ観測情報送信、引継ぎ確認をお願いします。

 船体各部状況、問題無し。蓄積熱量23%、規定値で上昇中です。」


「セリナ分析官より船体管理、引継ぎます。

 周辺監視を開始、観測情報の分析も進めます。」


「ゼン操縦士、セリナ分析官の担当確認。

 セリナ分析官、探査機からの情報受信まで待機、受信後は全ての情報を保存、周辺警戒に入れ。

 ゼン副操縦士、各兵装を確認、何時でも稼動出来るようにして下さい。

 現在状況からの脱出航路を送信、確認と補正後、すべての航路を待機。」


「イスト艦長、了解しました。

 しかし・・戦闘艦は大変ですね。引継ぎの度にこう沢山の報告が必要なんですから。」


惰性航行に入ってから全員が毎回やっているからこの報告引継ぎも慣れて来た。

とは言っても今は真似事みたいなものだ。

3人しかいないからそれぞれ一人の重要さは判っているし引継ぎ抜けも起こりにくい。


「ゼンさん、仕方がないですよ。

 慣れてこういう工程を飛ばして起きた事故があったらしい。

 敵艦発見が遅れるとかよりは手間をかけた方がましでしょう。」


「マニュアルは目を通していますが人為的なトラブルは結構多いですね。」


「イスト、ゼンさん、報告は人数が多い時により重要になります。

 口頭報告を義務付けておく事でもし何か抜けていても他の乗員が気付き指摘出来ます。」


「注意部分としてもっと書き加えた方が良さそうだな。」


この報告のやり取りも戦闘艦運用試験の一環だ。

試験航海中なので帰還後に報告、提出する為に試験項目は消化しているのだ。

実際に運用しての補正や注記なども追加して使い易いようにしていく。

これも行政官の仕事の一環だな。


「5番惑星観測まで推定8分、1分遅れで直接観測も開始します。」


セリナの報告から問題は起きずに時間が経過、情報が受信され始めた。

地表からの情報送信が発見される可能性はわずかにあったが発見はされなかったようだ。

空間表示で大きく観測機からの情報が3枚、地表の状況と惑星の情報が表示される。

中継器としても使われる3番観測機も発見されていないがフリーダム艦の動きには注意しておく。


移民星ヴァンダン、ここは鉄等の鉱物資源が豊富な星系だ。

5番惑星は海面積が4割ほどと大陸が大きいが今が無氷河期だからだ。

気温が高く降水量が少ない地域と多い地域との差が激しい。

大気成分としては二酸化炭素の比率がまだ高くリラ同様改良中だったようだ。

軌道エレベーターは無く地上から宇宙へはシャトルなどが運用されていると思われるが未確認。

居住地は地下都市型のようで地表部分にはドームがあるのが確認されている。

宇宙へ出る手段が不明なのは観測中に行き来がまったく無いからだ。

フリーダム艦から地上への通信もあるが定期的な報告だった。

降下観測機はレーザー通信で情報を3番観測機に送信中。

軌道的に短時間しか通信は行なえない。

フリーダム艦の軌道も影響するからだ。

地表状況としては4つのドーム、破壊された3つのドームが確認出来た。

ドーム外は活動圏では無いようで人間の活動は観測されていない。

地下アーコロジーは横方向に大きく伸びているようで地下4層もしくは5層。

これはヴァンダン出身の者から聞いた情報だ。

さすがに内部の詳しい情報までは今は得られない。

破壊されたドームは観測結果から質量兵器での破壊と高熱による破壊。

1箇所は完全に破壊され複数のクレーターが確認、質量兵器で一方的な破壊だろう。

もう一箇所はどうやら大型レーザーによって焼き払われたようだ。

残った一つのそれほど大きな破壊ではなくドームも半壊といったところだ。

セリナの推測としては降下艇による破壊作戦とされた。


色々な観測機が使えるのならもっと詳しい情報も判るのだが地表観測としてはこれくらいが限度。

詳細な情報を得る手段は今の所は無い。

この辺りは観測前から判っていた事、観測可能範囲では最大の観測結果でむしろ望外な結果だ。

恒星系離脱までフリーダム艦の交信記録や建造中の艦情報を収集。

また最も近い位置にあるフリーダム転送施設とヴァンダン恒星系の間に観測機の設置も行った。

今後は転送したもしくは転送する艦の情報を観測出来る、航行記録が得られるだけでも大きいだろう。

リラ側に向かう転送機方向にも観測機は設置しており光子通信によって情報が得られる。


各観測は無事に終了、地表へ降下した観測機も自壊処理が行われ発見された様子は無い。

ガリオンもすでにヴァンダン恒星を離脱中。

フリーダム艦からもすでに十分離れており警戒態勢は解除されていた。

今回の調査で最も大きなものはフリーダム艦についての情報。

各所で建造中であった艦を観測した画像だけだが多くの情報が得られた。

ヴァンダンについては移民星での活動はほぼ行われていない。

アーコロジー内部についても不明でありシャトルなどの航行も観測されなかった。

ただ惑星圏各所での艦建造、小惑星帯での採掘作業は行われていた。

投入されているのはヴァンダンの人員でありフリーダム側の人員は使われていないようだ。

艦建造施設には人員用の施設があり奴隷が働かされている推測された。

採掘作業については惑星でも行われている。これは交信記録によって確認された。

定期的に宇宙に運ばれているようだが月単位か数か月単位での輸送であるようだ。

月間の採掘量についての変更や現在の加工状態などが報告されていた。

最終的に観測、確認された建造中のフリーダム艦は5隻。

それぞれの状態から建造ペースは年間2隻から3隻と推測される。

大型艦にしてはかなりのペースでありフリーダムの生産力は高い状態だな。


「イスト殿、ヴァンダン星系での観測は終了ですね。

 しかしこうなんというか決定的な情報等はありません。

 リラと比べると惑星周辺に宇宙施設が無い為でしょうか。」


「リラとの最大の差はすでに侵略されているかどうか。

 フリーダムが支配しているというのが大きな違いだろうな。

 正直アーコロジーでの生活が聞いた奴隷生活と同じならかなり過酷な状況だ。

 惑星上で通信等がないのも制限されているとかではなく使用出来ないからだと思う。」


ヴァンダン出身の移民者から話は聞いているが今の惑星上の生活は判らないという事だった。

宇宙の奴隷と同じような生活ならかなり厳しい生活であるのは間違いない。


「フリーダム施設の奴隷と同じですか。

 出来れば早く対処したいですがこの艦だけでは難しいですね。」


「ゼンさん、リラで戦闘艦が完成しても移動が問題だからすぐには対応出来ないぞ。」


反抗作戦を立てて攻め込むのは可能だ。

セリナにも確認しているからひとつの手段ではある。

ただそれを行うには大きな戦力が必要だしフリーダムの動きにも注意が必要だ。

フリーダムの戦闘能力が高いなら援軍がすぐにしかも大量に送られてくる。

ヴァンダンだけでなくリラも狙われたりするとお手上げだ。

これからどうにか出来るか考察する材料として今回の観測がある。

他の星系、フリーダムについての調査を行って慎重に進めていくとしよう。


ヴァンダンからの離脱についてはセリナの分析、解析が非常に大きい。

9番惑星の外側から接近、そこから6番惑星付近までガリオンは接近。

6番惑星の裏側で軌道変更を行っておりそこから緩やかな曲線で星系から離脱していく。

その軌道は9番惑星に向かっていきその陰へと入り込む。

ここから加速を行いヴァンダン星系を離脱する。

軌道と加速スケジュールはセリナがきっちりと算出しており分単位の航行スケジュールだ。

まだこの段階でも警戒は高め、常にフリーダム艦の状況については確認していく。

加速はしたが離脱速度はそれほど大きくなくゆっくりとしたものだ。

潜伏航行中の加速で蓄積する熱量も予想値、潜伏航行に問題は無い。

それでも船主は恒星に向けており船としては進行方向とは逆を向いた状態だ。

後部にある推進機周辺はやはり熱量が高くなりがちで念の為の警戒。

何時でも離脱出来るという点では逆向きなのは不利がある。

万が一フリーダム艦に発見されても船体方向の変更から離脱までの時間は確保出来る。

質量差、船の大きさの差でガリオンの方が加速力が高いからだ。


加速をしたものの惰性航行なのは変わらず潜伏航行はまだ続く。

それでもここまで続いていた緊張状態の航行と比べれば気持ちとして余裕がある。

むしろ待機任務に入る前に気を引き締めているくらいだ。

船内の節電状態は続いているし全員警戒態勢なのでそこまで緩む訳でも無い。

それでも俺とゼンさんにとっては気が楽になっている。

セリナは何時も変わらないからな。

ゼンさんは休憩時間にヴァンダンの惑星観測結果を纏めていたりするくらいだ。

ちなみに資料としてではなく画像として見栄えの良い物を探す作業だったりする。

ある程度早送りの画像をひたすら見続けて候補を絞っていくという地味な作業だ。

それでも楽しそうにしているから良いんだろう。

食事をしながらゼンさんのそんな状態を見つつ適度に雑談をして待機任務へと入る。


操縦ブロックに入り各報告と引継ぎ作業、口頭報告確認は今も継続中。


「セリナ。ゼンさんとはどうだ?」


「特に問題はありません。

 現在は先任乗員と新人乗員として良い距離感を保っています。」


勤務はローテーションしているから2人態勢だとそれぞれで組む訳だ。

その間の話とかは聞いていないから気になって聞いた訳だ。

セリナと俺、二人の時と比べれば3人で居ると少し静かになった感じがするからな。

基本的には報告くらいで雑談していてもあまりセリナから入ってくる事は無い。

こちらから話を振った時はちゃんと対応している。

ゼンさんから話を振る事はあるがセリナからゼンさんへ話を振る事はほとんど無かった。

俺が気にする事でも無いのだろうが気にはなったのだ。


「上手くやれているならいいけどな。

 ちょっと気になっただけだ。」


「休憩中などであればリラの事などで世間話等はしております。

 過度な接触を避けていたのは信頼出来るかなど人物像を把握する為でした。

 またあり得ませんがセリナの事を感づかれる可能性を考慮しての事です。

 現在の評価では特に問題はありません。

 あくまで現在の評価であり人間の精神的、思考的行動についての評価は随時変化します。

 長期間に渡って観察しなければ把握出来ない部分なのです。」


「信頼出来そうという事で良いのか。

 正直セリナの事を話そうかと思っているんだがどうだ?」


「それがイストの判断であればAIセリナは問題ありません。

 ゼンであれば問題はありますがリラで情報を公開する事は無いでしょう。」


「問題とはなんだ。」


「ゼンは死を体験し狂信的な部分が存在しています。

 長期間宇宙探索を抑圧されていた事もあってか今は宇宙を旅する事が中心となっているようです。

 その点ではイストへの信頼は高く信頼も高いようです。

 精神的にも安定はしておりマイナス方向へ向く事もあまりなさそうです。

 ただ抑圧された場合、この場合宇宙に出られない事態がおきれば精神的に不安定となる可能性があるかもしれません。

 AIの分析力を全力で使っても人間の思考的活動については分析しきれません。

 どうしても不確定な部分が存在しますので後は人間の判断、イストの判断に任せます。」


「次の調査だが予定を変更してヘイノ星系に向かいたい。

 そうなるとセリナの事を話さないと無理が生じる。

 だから話そうかとも思うんだ。」


「イストの判断にお任せします。

 リラに近い星系から調査する予定でしたが変更の理由はなんでしょうか。」


「フリーダム艦が移動していたからだ。

 もし戦争になるなら移動した船はそちらに向かうか他の星系に向かっているはずだ。

 最初から判っていたが時間をかけて調査してもそれほど有効な分析は出来ていない。

 このまま他の星を調査しても似たような結果しか出ないだろう。

 なら無理してでも戦争が起きているのかどうか、ヘイノが無事かどうかを確かめたい。」


潜伏状態でフリーダムに発見されないように調査すると今回と同様の結果しか出ない。

元々今回の計画を立てた段階で判明していた事だ。

探査機を発見されても良いならもっと詳しい調査は出来る。

フリーダムに発見された場合の反応が色々と不確定過ぎてそれはやりたくない。


「判りました。ヘイノ星系への航行計画はSR234です。

 計画中当個体セリナの離脱時間は必要ですがゼンへの報告は無くても問題無いでしょう。

 71時間の予定ですので体調不良として部屋で休んでいる事にすれば可能です。」


「体調不良か。それで誤魔化せるのか?」


「通信は可能ですし定期的にイストが部屋にお見舞いに行く事で誤魔化せます。

 ゼンはイストと当個体の関係性を誤解していますので問題はありません。」


「関係性の誤解か。まあ確かにな。」


「先程の報告のようにゼンへの対応はイストの判断に任せます。

 どちらでも対応出来ます。航行計画を参照し疑問的等は報告してください。

 勤務変更まで航行計画の調整を行いましょう。」


「判った。とりあえずやるか。」


大量に送られて来た関連資料と称した教材を表示したまま航行計画SR234を呼び出した。

Sから始まるのは最大セキリティを示していて艦長権限が無いと参照出来ない情報だ。

まあセリナは普通に見れるし操作出来る訳だ。

ちなみにセリナとの関係性についての誤解は何を言っても改善出来ていない。

リラの風習からしょうがないとしてもこちらが何を言おうとゼンさんは聞いてくれない。

何を言っても俺とセリナが婚約者、付き合いを前提とした関係とされてしまう。

それもあってセリナはゼンさんと少し距離を置こうとしている感じがする。

からかわれる事は無いから問題は無く仕事にも影響が無いから放置している。

その辺りもいずれ解決すると良いのだがどうだろう。

リラでセリナに言い寄る奴が出てくるとそれはそれで問題だろうか。

セリナなら一瞬で対応しそうだし問題は無い気はするよな。

まあいいか。今の所特に困ってはいないから一旦その問題は先送りする。

ヘイノへの航行計画に集中しよう。

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