5-1 新型船ガリオン
船の説明中心の回です。興味なければ前半かなりは飛ばしても構いません。
港の各ドックに続く白い通路を通るのは久しぶりだ。
最近は輸送船に乗っての移動の方が多かったからな。
所々にある窓から見えるのは真新しい宇宙船。
黒く塗られた外装は金属のままで塗装もされていないブロック船より宇宙船らしく見える。
宇宙船全体を見る事は少ないから見慣れるのはこれからだろう。
全長200m、全高55m、全幅55m、翼長も含めれば90m。
ガーランドより一回り大きくなっただけで船の大きさはさほど変わらない。
基本はブロック船で大きな違いは外装がある事。
厚さが10m近い装甲があるから内部面積は少し狭くなった。
外見としては今までの長方形立方体ではなく航空機のように翼がある。
後ろから見れば楕円形、上から見れば先端の尖らない三角形なのは翼があるからだ。
これは惑星降下も考えての事だが実際に行う事は無いと思う。
でも推進力的にはリラ6くらいなら惑星離脱も可能だ。
ブロック船で構築した内部を包むように装甲部分を組み合わせて作られた。
船体下部の装甲を取り外す手間が必要だが内部のブロック部分を組み替える事も可能だ。
ブロック船を発展させたリラにおける新型の船、アイデアはセリナが出したものだ。
今までのブロック船に装甲部分となる外装もブロック構造のように後付けしようというものだ。
通常航行にも光子推進にも使える推進器、ハイブリッド光子推進機が主推進機。
この短期間で調整、改良されステーション船に搭載された物より高性能。
基本的にはガーランドに搭載してあった推進機関と同じものだ。
通常推進としては大型3基となって一つの出力も現リラでは最大。
船体上部の左右に埋め込まれた補助推進器もそれなりの推進力。
これはセリナが持っていた技術が使われており推進方向変更型。
多方向では無く前方か後方に何時でも推進方向を変更出来るというものだ。
推進力は大きく無いが船体方向を変えずに減速出来るのが大きな利点。
追加加速にももちろん使えるし進路変更にも使える。
船体バランスと合わせて航法コンピューターの調整はトラブル続きだった。
動力炉は後方、中央、前方と3基、戦闘艦として設計されたので全力稼働用及び予備。
3基あるのは光子推進時にも有効で光子推進時に左右へと光子放出が可能となった。
これだけはまだ実験段階の物で光子推進時の軌道変更に有効なはずだ。
戦闘艦という分類なので武装もあり前方に向けて射出する多目的電磁加速砲が2門。
これはミサイル、機雷、物質弾などを電磁加速で射出するもの、つまりはレールガン。
機雷なども加速射出することで速度が上げられる。
ミサイルもミサイル自体で加速せずに高速度で射出出来るので当たりやすいし気付かれにくい。
多目的となっているのは他に探査機とか物資とかでも必要に応じて射出出来るから。
船体上部には格納式の2連装レールガン。上部にせり出し360度稼働で全方向対応。
下部には全長120mという大型レールガン。
この大型レールガンの為に動力炉がひとつ追加されているようなものだ。
こちらも船体に格納出来るようになっており格納状態でも船体前方になら発射可能。
これは可動域が220度と少し制限がある。
単純に真後ろに向けると砲身が長く推進器の影響を受けるからだ。
真横から少し後ろまでカパー出来ているから使い方次第だろう。
リラギルドが組み上げた逸品だ。
輸送力としては少し落ちていて中型格納ブロック相当が一つ。
ここには小型化した突撃艇が2基搭載されているがまだ余裕はある。
他の格納ブロックもあるが弾薬やら予備資材、食料倉庫など用途が決まっている。
ガーランドより輸送力が低いのは仕方がない。
居住区搭載は変わらずだし部屋数や大きさも変わっていない。
それほど広い居住区は必要無いように思われるが将来性という奴だ。
細かい点で言えばセンサー系、通信系は戦闘艦技術を使用した最新型。
また船体としては船から放出される電波、熱類を極力制限し宇宙での隠密性が高い。
セリナの分類でなら隠密艦、ステルス艦と呼ばれるものだ。
排出される熱については船内で蓄えることで隠密性が上がる。
当然溜まった熱は排熱の必要があるが最長で70時間くらいは航行出来る。
まあこの時間は動力炉の稼働率などで変動はするから戦闘中とかは極端に落ちる。
同時に外装も電波吸収であったり反射であったりを考慮されているからセンサーで発見されにくい。
黒い塗装なのはフリーダム艦の装甲を解析した結果なのと光の反射を抑えているから。
恒星の反射光で船を見つける手段があるのでそれの対策。
こうした隠密性は通常航行時限定で光子推進時は当然考慮していない。
実際にリラで同様の戦闘艦を建造するなら全長が100mから120mが予定されている。
セリナの持っていた情報、リラに提供した情報にあるが戦闘用宇宙船として200mは大きい部類。
フリーダムの2000m級なんてもっての他。
セリナの政府、日本国で建造されていたのも120mから150m程が中心。
大型の戦艦となれば別の組織、国が250m級を数隻稼働させていただけということだ。
船を大型化すれば頑丈になるが機動力が失われ隠密性も失われる。
セリナたちの技術では宇宙での戦闘を考えればそれほど大型化メリットはないそうだ。
リラでは小型で隠密性に優れた宇宙船を用意し奇襲による撃破を狙っていく事になる。
人材不足で大型艦を用意しても稼働数が減るという現実があるし建造も手間だ。
船尾方向から新造船をゆっくりと見ながら進んで行く。
設計時点から知っているから内部に搭載してある各機器、スペックは把握済み。
こうやって思い返して確認するのももう何度もやっている。
だって俺の新しい船だ。
リラ行政府の資金で建造された実験船になっているが将来的には俺の船になるのは間違いない。
すでに資金提供もしてあるし現在の所有者は行政府であり俺になっている。
フリーダム解放戦と呼ばれた二つの戦闘から三か月と3日。
俺の提供した戦闘艦の技術を詰め込んだ新型船の最終試験航海を今日から始める。
船のエアロックに繋がる通路の前に二人、まだ乗り込まずに待って居た。
赤と白が映える銀をベースとした装い、最初に会った時の衣装なのはセリナ。
こちらに気が付くがいつものすまし顔。
もう一人はフリーダム解放戦で作られた制服の青バージョンを着ている。
「お待ちしていましたよ。イスト艦長。」
叫びながら大きく手を振って来たのはゼンさん。
リラ軌道戦で船が破壊され宇宙に投げ出されたが救助され生き残った一人。
軌道戦の頃から面識はあるしガーランドというか宇宙の長期航海を真剣に考えている一人。
これからの事を考えて乗員を増やす必要があったから最初に声を掛けたらその場で乗員となってくれた。
元々ガーランドに乗りたいと希望していたから声を掛けたのもある。
一応、将来の事も話して説明してそれも承諾して乗員となった。
恒星間探査でも船に乗ると言ってくれているのはありがたい。
ただしばらくは試用期間。
本格的な長期航海はこれからだから実際に合う合わないは出て来ると思う。
これまでの事を考えれば今の所、お互いのコミニュケーションなど問題は無い。
「船長、改めてよろしくお願いします。
このゼン、粉骨砕身でこれからの航海に参加させて頂きます。」
手の平を合わせ俺を拝んでいる。
まあこうやって時々ちょっと気合があり過ぎるのが問題か。
何度か長期航海をすれば落ち着く気がする。
ゼンさん、実家はお寺で三男なのだがその影響か対人スキルが高いので実は航海以外で助かっている。
「イスト、準備は終わっていますか?」
「書類関係はさっきすべて片づけた。いよいよ出航だ。
セリナ、ゼンさん、これからよろしくお願いします。」
「了解、船長。」
ゼンさんからの船長と呼ばれるのは実はまだ慣れない。
こういう時に丁寧な一礼を返してくるのはセリナだな。
実は乗員が一名増えて船長として振舞う必要があるがどうすれば良いかまだ判っていない。
他の船長の仕事を見る機会がほとんど無かったのをちょっと悔やんでいる。
船に繋いである連絡通路を通って船内へと入る。
これまでも試験などで何度も来ているから迷う事も無い。
基本的な内部構造としてはガーランドと大きく変わらない。
操縦ブロックと居住区が船体中央にあるくらいか。
これは戦闘艦だから安全面を考慮しての事だ。
今回は試験航海なので船の動力炉も落としてある。
非常灯しかついていない最低限の照明の中で操縦ブロックまで進む。
「忘れ物とかは無いよな?」
「船内備蓄などは確認してあります。
このまま出航しても半年は問題ありません。」
多すぎる備蓄だが長距離航海だと準備不足よりはましだ。
ガーランドに残っていた保存食、緊急用備蓄ではなく新たに買い足した。
1か月程の試験予定だが個人的に予備物資は追加してある。
「拙僧もすでに確認しております。」
個人的な荷物は事前に運び込んである。
ガーランドの個室から移して来たし不足分は補充してあるから問題ないと思う。
ゼンさんに服とか生活用品の必要な量を聞かれたからその時に調整したしな。
船体中央にある操縦ブロックがメインの操縦室だ。
船の前方にも予備の小型操縦室が一つ、後方の機関部、動力部からも船体操縦、制御が可能。
今は戦闘艦なので操縦、指揮可能な場所は分散配置が基本。
その操縦ブロックはガーランドの時よりは小さくコンパクトになった。
前方に2席、操縦席と副操縦席。その後方に指揮席。
右側にある2席は通信、索敵系、左側2席は火器管制など戦闘系という割り振り。
ガーランドと同様どの席からでもすべての操作が出来るから便宜上という奴だ。
操縦ブロックの基本乗員は7名想定だが別に一人でも動かせるのはガーランド同様。
今も乗員は3名と不足しているしな。
俺は操縦席、ゼンさんが左側、セリナは右側の席に着く。
まだ座り心地の悪いシート、各端末やレバーなども汚れも傷も無く新しい。
今は薄暗い照明だからそれほど見えていないけど。
「リラ行政府試験艦、長期航行試験を始める。」
「艦長命令受諾、記録開始。」
「イスト殿。まだ船名は決めていなのですか?」
「名前はもう決まった。」
新造艦の名前、これまでは試験艦だったが今日行政府への船体登録が終わった。
まだ完全に自分の船と言えないから船名は少し悩んでいた。
使いたい船名は考えてあったがそれを使うかどうか。
自分で船を持てたら付けようと思っていた名前だからだ。
結局その名前を使う事にした。
もう一つ名前は用意してあるし名前の背景としても次の船でも良いから問題無い。
記録上この船は所有者として俺の名前があるからな。
「リラ行政府試験艦、今後の登録名、船名は『ガリオン』だ。」
「ガリオンですか。ガーランドと何か繋がりがありますか?」
「頭一文字が同じなのはたまたま。
俺が子供の頃好きだった物語から取っただけだ。」
「なるほど。船に自分の好きな名前を付ける。
やはり船長となった醍醐味ですからね。」
「じゃあ始める。1号炉初期稼働、蓄積電力接続。」
「電力供給問題無し、5分で動力炉稼働開始。
試験項目蓄積電力変更、2番へ・・問題無し、3番、問題無し。
蓄積電力系クリア、動力炉状態問題無し。
しかしここまで本格的に初期稼働から始めるのはなかなか無いですね。」
「試験航海だしな。戦闘中で動力炉が停止、再稼働が必要な事もあるかもな。」
「初期稼働ではなく緊急時対応ですね。」
正直、リラの宇宙船で動力炉を停止させる事は無い。
長期停泊でもしない限り最低限の稼働状態を保ったままにしてある。
停泊中でも船内に電力供給は必要だし動力炉も耐久性安定性は高く止める必要が無い。
こうやって初期稼働から始めるのは動力炉を交換したり大掛かりなメンテナンス明けくらいだ。
輸送船の乗員だとこの立ち上げ作業をした事無い宇宙船乗りも多いだろう。
その時でも動力炉の稼働はステーションから電力供給をして稼働させる。
これは核融合炉を稼働させるのにそれなりの電力が必要だからだ。
船内の蓄積電力で稼働させられるのもガーランドとか一部の船だけ。
基本的には長期航海する船だけだろう。
この新型船は3か所で電力蓄積を行っており動力炉の再稼働や緊急時に使う。
動力炉がすべて停止しても長期間電力供給が出来るようにしてある。
1号炉、最後部の動力炉が稼働を始めれば電力供給が始まる。
船内各部に照明が灯り試験項目の消化作業を進める。
電力が安定したら他の動力炉も稼働させていく。
以前と違い節約する必要も無いから今は船内すべてで照明を点けているし空気もある。
電力供給前に出航準備は進められたが試験項目に従って機器のチェックなどがあるのだ。
ここまで何度も試験はされているから本当にこれが最後の確認だ。
ここで手を抜いて長期航海時に不具合が出るなんてのはお粗末。
セリナが居るから実は問題にはならないのだがリラの技術的には問題なのだ。
1時間近く掛けて試験項目を消化し、それから通常の出航準備。
ここまで来れば俺やゼンさんは慣れたものでスムーズだ。
航法コンピューターも新型かつスペックアップ、音声指示も対応。
ついでにリラ軌道戦でセリナが構築したという戦術分析システムもある。
ほぼ自動化されているから行き先を告げれば航路決定出来るし港からの出航も任せられる。
さすがに今回は手動操作で出航だ。
ガーランドとは違って船の幅が広いのでそれに注意しながら慎重な出航となる。
時間の無い中で散々操縦訓練をしているがそれでも実際の操縦は慎重になるのだ。
「軌道ステーション管制、こちらはリラ行政府試験艦、ガリオン、出航する。」
今回だけは自分の船の最初の出航は管制との通信も自分で対応した、したかった。
出航を告げて操縦桿を動かす。
さて、ここからだ。
新しく決めた目標、計画に向けていよいよ出航だ。