4-22 イストの選択
ギードリアさんに予め伝えてあったので会議後の今、二人での面談を行う。
場所を変えないのはここのセキリティが高いからだそうだ。
「それで面談を希望したのはどんな要件かね?」
ギードリアさんから随分な圧力を感じる。
まあ仕方ないだろう。
わざわざ二人での面談を申し入れれば公にしたくない話だと思われるからな。
まずは軽い訳じゃないけど軽そうな感じの所から進める。
「まずはこれをリラ行政府に提供します。
出来ればこれまでの功績と合わせて後で話す事で色々と便宜して欲しいです。」
差し出すのは2枚のカード。
片方はリラではすでに古くなった技術だがガーランドでは今も現役、リラでも一部では使われている。
コンピューター関連の情報ディスクでありセキリティディスクだ。
「これは何かね?」
「俺が小惑星で拾った古い船のデータベースから抜き出した情報全てです。
宇宙船の武装関連や技術情報各種が中心です。
それからもう一枚は劣化していた旧式のデータカードから情報を移したものです。
色々と調べてみましたが高位の制御キーのようです。
これらの情報はすべてリラで使用されている言語で記載されていました。
技術的にもリラと同様のようです。
移民先が同じ可能性もあり移民船などで使われていたセキリティ関連かもしれません。」
俺が今までリラに提供した情報はセリナから得たものだ。
それを言う訳にはいかないから誤魔化す為にこうして用意した。
この中にある情報はセリナが提供しても良いとした部分全てを纏めたもの。
戦闘艦から情報を回収した思わせられるように兵器や戦闘艦関連が多い。
リラでは不足していたり発達の遅れている部分を多くしてある。
ダミーとして以前にリラで使われていた技術も上手く混ぜてあった。
ついでに今後研究すれば上手く使えるような技術も混ぜられていた。
失われた部分を補えるのはリラとしてはかなり大きいはずだ。
セリナ的には移民船のデータベースになら普通にあった情報が多いそうだ。
そういった技術を中心としてセリナが纏めた物だ。
セキリティカードにしてもおそらくリラで失われた物。
リラで古くから残っている機器に対して使用すれば上位権限が必要な機能や情報を解放出来る。
融合病で移民船と共に失われた物だから使える機器があれば情報が引き出せる。
セリナはリラに残っている機器を確認していたからリラの移民先を推測出来ていたのだ。
これがリラで使えると言う事は周辺星の移民船と同様、セリナの居た太陽系からの移民という事。
ついでに言えばセリナの所属していた日本国からの移民だろうという事。
そうやって色々と検証した結果としてセリナ的にはほぼ確定だそうだ。
早期に判ってはいたがリラには情報が残っていないから俺にも話さなかった。
「フリーダム関係の話では無いのだな。
中の情報を調べないと詳しくは言えないが大きな貢献となるだろうな。
それでイスト君の要求、便宜とは何かね?」
「別に公にしたくない訳では無く優先して欲しいだけです。
まず今回フリーダム施設で入手した技術、光子転送技術を解析しリラでの実用を目指したいのです。
研究チームを作るとかそういう事をリラ行政府で進めて欲しい。
出来れば長期に渡って研究開発が行なえるように専門の部署を作って欲しいんです。」
「光子転送技術か。報告書は読んだ。
技術解析となればそう容易いものではあるまい。
リラではそれほど急ぐ必要のある技術とも思えない。」
「リラには光子ロケットがあります。
この技術と組み合わせれば宇宙での活動範囲は広がります。
もしリラを離れても将来的にリラへ帰ってくるのが容易くなります。
技術的に解析出来ればフリーダムに対しても同等になれます。
他にも色々ありますがこのまま埋もれた技術にしたく無いのです。
ならそう言う物があると技術を手にした今、研究を進めるのが一番でしょう。
多少無理をしてもリラでの研究を根付かせたいのです。
もし将来的に他の星系と貿易など始まればリラにとっては大きな利益になります。」
「公表すれば研究する者も居るだろう。
それだけでは無く行政府で研究を進めるようにしたいという事か。
技術開発を進めるのはこれまでも行なわれているからそれほど難しい訳では無い。
今ならイスト君と私、行政官2名で計画を出して協力を求めれば可能だな。
幾つか書類を用意するのでそれらを書いてもらう事になるだろう。
だがこれは行政官としての仕事の一環でしかないぞ。
行政府から予算を付けるのはある程度貢献が必要かもしれん。
だが今回のイスト君の貢献度からすれば微々たる物だ。
もう少し要求しても良いと思うぞ。」
「各戦闘での報酬とかは確認してます。
でもまだ貢献については詳しい連絡が無いのでどれくらいの事が出来るのか判りません。
今までに経験も無いですし前例を幾つか確認しても報酬額が予想出来ません。
どの程度になりそうですか?」
「正直決め兼ねている。
それが行政官達の意見だったな。
フリーダム撃退という大きな貢献だがイスト君個人にそれを集約出来る物でも無い。
だがレールガンなどの技術提供や戦闘での各作戦、計画はイスト君の功績となり成功もした。
報酬については本来ならこのタイミングで片付けるつもりだったのだがな。
残念ながらフリーダムの問題は終わらなかった。
これについてはすべて終わるまで保留にするという意見も出つつある。
行政府としても対象人数が多く規模も大きく困っているというのが正直な所だ。
予算としても大きくなるから先送りにしたいのが本音だな。」
「技術開発関連は非公開にも出来ますよね。
実際俺が作った訳でも無いですし手に入れた技術を提供しただけです。
非公開でお願いしたいのですが実際の評価は判りません。
ですから今回は報酬を現物で、宇宙船を一隻所有したいんです。
新規建造で光子ロケット搭載の完成形と言える船。
ガーランドの技術についてはすべて使わせて欲しいです。
出来れば優先して出来るだけ早く建造して欲しい。
貢献が確定してそれで足りなければ不足分は当然払います。
金額によってはすぐには無理かもしれないのでその時は分割なりで対応させて欲しいのです。」
リラでは新技術や研究だけでなく文化的な物など色々と評価される項目がある。
それらは個人から会社等広い範囲で行政府が評価し特別報酬が支払われる。
以前からあった制度だが融合病依頼適用範囲が大きくなっているのだ。
セリナを発見した時は元々行政府に提供してこの貢献報酬を得るつもりだった。
今はセリナを手放す訳には行かないから情報提供で報酬にする訳だ。
「宇宙船の新規建造か。
確かに船一隻となれば大きな額だな。
しかし他との調整は必要になるが対応は出来るだろう。
今後のフリーダムに対して有効な船であればもっと融通しやすくなる。
行政府で建造しそれを払い下げるという形にすれば問題は無いだろう。
任せておきたまえ。
四長老が提出する計画のように上手く片付けよう。」
ギードリアさんは現役時代じいちゃんたちに引っ掻き回されたそうだ。
複数人で複数の計画を進めているが一つの計画だったり時期が違うのに同じ計画だったりとか。
少ない予算で小さな計画を進めているのに何時の間にか大きな計画となる。
気が付いた時にはその大きな計画は止められない。
そういう工作が大好きな4人だったとかじいちゃん達の話をこんな所で聞けるとは思わなかった。
正直急ぐのは宇宙船の事だけなのでそちらを中心に話を進める。
要求はしてみるけど宇宙船を個人で所有するのは難しいというか高い。
俺の年齢で持つのは無理だと思っていたから要求してみたけれどすんなりと手に入りそうだ。
今後はリラ4の採掘が継続されるから金属物質の価格がどうなるかは判らない。
ガーランドの採掘で稼ぐのが難しくなるからここで船が手に入るのはありがたい。
後はフリーダムの事を片付ければセリナの計画、リラ光子転送網も進められるだろう。
それが一番大きな問題でまだ終わらない問題だ。
俺の計画としてもフリーダムとの戦いでも新しい宇宙船があった方が良い。
最悪どうしようもなければセリナが作れるのは判っている。
でも宇宙船乗りを続けるなら遠い未来には自分で船を持ちたいとは思っていたからな。
セリナにもまだ話していない計画、俺のやってみたい事。
それは他の移民星と光子転送網で行き来出来るようにする事。
まだ見つかっていない星も多くあると思うからそれを探しに行きたい。
広域宇宙探査、恒星間飛行で移民可能な星系も見つけて行きたい。
光子ロケットがあればそれも出来るだろう。
本格的に亜光速での宇宙探査になるからそれを始めると今の時間帯とは外れてしまうけどな。
今のセリナのように疑似的に時間を超える事になるだろうな。
遠く遠く出来るだけ遠くまで宇宙を行きたい。
じいちゃんから聞いた宇宙船乗りの色々な話。
それと見せてもらった昔の宇宙を行く色々な物語。
それが俺が宇宙船乗りになったきっかけだ。
見た事も無い星を沢山見て変わっていく星系を見ながら果て無く宇宙を飛びたい。
無理を言えるなら話し相手としてセリナが居てくれると良いかな。
最初は地球に向かっても良いだろう。
そう出来る為にはリラだけでなく周辺星系をフリーダムから解放する。
戦争について調査、リラへの再侵攻阻止、撃退。
根本を言うならばフリーダムを調べて戦争を止める。
リラへの再侵攻、戦争の本格化は半年くらいの猶予はあるとセリナが予想した。
リラ住民を奴隷として回収した船が施設から転送するのが半年以上先だからだ。
色々と計画を出してセリナに相談するとしよう。
大丈夫、フリーダムに対する計画なら今までと同じだ。
表向きの計画を進めながら俺とセリナでしか出来ない事もやって行く。
ギードリアさんとの会談を終え二人で部屋を出る。
「ふむ。イスト君、先に失礼する。」
一言告げてギードリアさんが通路を歩き出しだしたのは壁際にセリナが佇んでいたからだ。
「イスト、お疲れさまでした。」
「待ってなくても良いと言っただろ。」
「会議が終了してからこちらに来たのです。」
出迎えられるとは思わなかったな。
「丁度良い。セリナに相談したい計画が色々とあるんだ。
俺がやってみたい事が色々とあるんだ。
これまでと同じように手伝って欲しいしもちろんセリナの事も手伝うぞ。」
「判りました。出来る事はお手伝いしましょう。」
フリーダムからリラは解放されたがまだ戦いは続く。
戦いに向けて自身の計画に向けてイストは動いて行く。
傍らに居るのは突然出会った宇宙船で図書館でAI搭載の機械人形セリナ。
これからも良い関係を続けられればと願った。