表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
75/82

4-21 リラの選択

リラへ帰還したのは出発から20日後。

光子ロケットでの航行もずいぶんとスムーズになったものだ。

フリーダム艦で半年の航路を一か月程度で移動している。

この移動速度は十分に期待出来る物なんだけれどちょっと感動が薄い。

今はもっと早い移動方法、光子転送を知っているからな。

問題なのは実験艦であり色々と専用機器が搭載されているガーランドだから可能な速度という事。

光子ロケットで運用する専用の宇宙船を作ればもう少しは速度は上がるようだ。

建造出来るかは別として計画や設計図を用意してリラの情報に追加しておこう。

情報が残っていれば最悪ガーランドが無くなっても建造出来るだろう。

提出情報が評価されて収入になるのを期待する部分もある。

ただ一般で使える技術では無いから難しいな。


リラに帰還したのはステーションから一週間遅れ。

通信のタイムロスが無くなってから色々とリラの状況について情報は得られた。

フリーダム艦との戦いについては今でもニュースとしては盛り上がっている。

フリーダムから解放されたとリラでは盛り上がっているのだが行政府はまだ何の発表もしていない。

先行するステーション船を通じてこちらから情報を伝えているからだろう。

軌道ステーションへの入港となったのもこれからすぐに会議があり参加する為だ。

入港する時は職員や輸送宇宙船からかなりの歓迎だった。

フリーダムとの問題はまだ残っているからそれを知る俺とは温度差が激しい。

それでもやっぱりリラ全体が開放的で盛り上がっているのは嬉しい。

港を降りれば出迎えてくれた宇宙船乗りたちからも歓迎だ。

宴会への誘いとか色々あるがギードリアさんに呼ばれているからと断り無理矢理喧噪を抜け出す。


「これほどとはな。」


エレベーターに乗り込んだのはセリナと二人、静かになりやっと落ち着いた。

ステーション船に乗っていた宇宙船乗りだけでなく色々な人達が集まっていたのだ。


「リラでは大きなニュースになっています。

 行政府の発表を待っている段階ですがすでにフリーダム艦撃退は伝えられています。

 解放された事を喜ぶ声が大きくなっています。

 イスト、これがあなたの行動した結果です。誇って良いでしょう。」


「セリナの協力があったからだ。ありがとう。」


俺が出した結果だと言われて素直に答えられた。

もちろん一人の功績で無い事は十分過ぎる程理解している。

セリナからは最近はあまり見ないのだけれど綺麗な一礼で返答された。

こちらを見ながらの微笑がいつもより柔らかい感じがして、

いつもより可愛く綺麗と思ってしまってエレベーターの扉を向いて無言だった。

ちょっとにやけてしまいそうな自分を見せるのは恥ずかしいし嫌じゃないか。


エレーベーターの到着で気合を入れなおす。

これからギードリアさんとの会議だから緩んでいる訳にはいかない。

中央部の会議室の扉、端末にIDを通せば中に誰が到着したかが伝わる。

今は行政官しか入室出来ない設定になっているからこうした方法、伝達を使う。


「じゃあ行って来る。」


「それではここでお待ちしておきます。」


「別に待たなくても先にキケラクトさんの家に戻ってても良いぞ。

 適当にステーションを見ても良いし好きにすれば良い。」


「判りました。ではいってらっしゃいませ。」


一歩下がってセリナは一礼する。

そんな話の途中で扉が開いたのはむろん気が付いている。

中は静かで会話が聞こえていたようで入口近くの人達から微笑ましい視線を受けた。

気にしないようにして入室する。

小さな部屋で中央に長方形のテーブル、長い面の左右に5人ずつが着席。

入ってすぐ正面の短い面にはギードリアさんが居て横に空いた椅子。

ギードリアさんだけでなく大人たち、年上の人達が11名も集まった会議室。

扉が閉まると全員が会議に向かう意識になったようで圧倒的に場違い感、圧倒的な威圧感。


「イスト君、あまり緊張しないで欲しい。

 新たな行政官が出た時はこうして全員が集まって顔合わせをするのが伝統でね。

 今回は私の復帰も含めての事だ。まずは挨拶を頼む。」


「宇宙軍総司令官の役職で臨時行政官に任命されていますイストです。

 短い間ですがよろしくお願いします。」


急に挨拶と言われても困らないように事前に考えていた物を思い出しそれをなぞる。

想定して準備しておくのは大事だな。


「本来は全員の紹介をするのだが今は省かせてもらう。

 重要な案件となるので早速話しに入るがか構わないな?」


今回の会議の主な内容はフリーダムの案件であると連絡されている。

リラ軌道戦の前段階からここまでの経緯、結果がギードリアさんから簡単に報告されて行く。

ここに居るのは行政官のみ、事前に伝えられていたのか全員が理解している事ばかりのようだ。


「これまでの経緯は以上だ。

 イスト君から報告があったようにまだフリーダムの脅威は去っていない。

 元々この可能性は検討されていたから問題では無い。

 これから今後の対策会議とする。

 イスト君、実際どうかね。フリーダムのさらなる侵攻の可能性は高いのかね?」


「フリーダムの侵攻については正直不明です。

 他の星の情報を得られましたのでそこからの推測、予測であればまた来るでしょう。

 その場合フリーダムは大きな戦力で襲来し確実に敵対しています。

 フリーダムの侵略に対抗出来たのは他の星でも一件だけです。

 フリーダムがリラに対して同じ行動を行うかは不明です。

 その星の時と今ではフリーダム側の状況が違うというのも不明要素です。」


フリーダムの再侵攻については何度検討しても結局不明。

別の星で再侵攻があった以上AIが判断するなら高確率で大戦力侵攻が行われる。

AIの判断ではなくフリーダム本星からの指示だとしても高確率で再侵攻されると思われる。

リラに来ていたフリーダム艦がリラ住人を奴隷として運ぶようになっていたのが大きい。

それが失敗した今、実際に戦争中であるならフリーダムがどれ程の戦力をこちらに回せるのか。

リラからの奴隷回収をせずに戦争を行なうのか、その辺りがまったく予測出来ない。

結局具体的なフリーダムの行動については情報不足のままだ。

他の行政官からも質問はあり返答したり推測を述べるだけであったり色々と情報を出す。


フリーダムが幾つもの星、星系へ侵略を行っている事。

現在戦争を行っているか戦争準備中である事。

どの星でも交渉らしい交渉がされていない、フリーダムの情報は得られていない事。

フリーダム艦を撃退したのは現在はリラだけ。

戦争中の星については戦争の状況など遠くまったく未確認、戦争についての確定情報は無い。


「イスト君の帰還までに我々は協議を重ねた。

 フリーダムに対してリラ行政府は今までの協定、条約、契約は全て破棄。

 以降は対等な条件でのみこれらの交渉に応じる。

 今の状況が戦争状態であるなら早期の戦争終結を模索する。

 武力による侵攻に対しては出来るだけ抵抗を行う。

 以上が事前協議の結果だが反対や修正意見はあるかね?」


「修正などはありません。賛成します。」


「よろしい。全行政官権限保有者の賛同を得られた。

 これよりリラ行政府最上位案件として扱う事を正式に決定する。」


テーブル上に置かれた端末に書類が表示され署名を求められる。

全員が静かに署名、IDのチェックなどを行っていく。

正直ここまでは決められていた流れ。

対フリーダムの事前協議内容などはガーランドで受け取り確認していた事だ。

ここまでの簡単な流れもギードリアさんから連絡されている。

行政官が全員集まるとかは説明されていなかったんだけどな。

ちなみにセリナから聞いているがリラ行政府最上位案件はこれまでに2件しかない。

リラ行政府発足時にリラ6開拓計画、融合病直後に臨時行政府による融合病対策及びリラ再建計画。

行政官全員の承認やら他に手続きが色々と必要な物で大きな影響力を発揮するという事だ。

それだけリラ行政府としては大きな計画、重要案件であり色々と大きなものらしい。

その辺りは学校の試験でなんとなく出ていたなくらいの知識くらいしか俺は無い。

本来行政官であればちゃんと理解しておかないと駄目な知識だろう。


「ギードリア、フリーダムとの交渉は可能か?」


「フリーダム艦隊戦では船とは交渉を行った。

 一方的な降伏勧告ではあったが交渉の余地はあるだろう。

 ただ返答は遅く意思決定としては時間が掛かるという認識だ。

 まだ判らないがフリーダム自体が同様という可能性はあるがこれは今必要では無い。

 船とは交渉を行えるのは10年前からす判っていた事だ。

 フリーダムとの交渉となると難しいのでは無いか。」


「イスト君の報告にあった施設についてはどうなのかね。

 そこから交渉などは可能そうか?」


「施設はAIが管理しているようでした。

 フリーダムという星の関係者は存在していません。

 フリーダムとの通信は可能かもしれませんが不明です。

 詳しく調べるには時間も知識も設備もありませんでした。」


セリナからの情報で可能なのは判っているのだが胡麻化しておく部分だ。

施設関連については言えない事が多すぎるから施設潜入や奴隷解放関係もごまかしばかり。

セリナがでっち上げた物をそのまま報告している。


「施設から交渉した場合はそれがフリーダムにとってどう受け取られるかだな。

 逆効果ということもありえる。

 施設を他の星の者が使っているのは侵略行為でしかないだろう。」


「今回の移民者に通信を行ってもらうのはどうだ?」


「それは同じでしょう。

 武力制圧によって交渉を引き出しているのですから。

 今までの情報だけではフリーダム側がリラに対して友好的、対等な取引を行う事は無いでしょう。

 施設関係者からそのような連絡をした段階でフリーダム側は疑念を持ちませんか?」


全体的な協議や数人ずつのグループでの協議が繰り返されて色々と方針が決められて行く。

俺の役割としては知っている情報の提供がほとんど。

難しい会議に素人で参加するなんてとんでも無い。

というか出来ればこんな会議に出さないで欲しい。

そこの補佐役がギードリアさんなので丸投げな訳だし情報提供者としての出席な訳だ。

ただ軍事面での取り決めも多く出されされについてはかなりの意見を求められた。

今後必要となる施設、船、それらの生産計画、人員の調達、育成等。

行政官が全員集まる場というのは少ないらしいからここで出来る事はすべてやってしまおうという事だ。

別に集まらない端末会議とかが普通らしいけどな。

少数の集まりとなったり空いている時間に他の行政官から紹介を受けたり紹介されたりもあった。

こういう顔合わせという面もこの会議では大きいという事だろう。

臨時行政官だからそこまでと思うけれど戦闘関連があるからまだしばらくこの役職から離れられないらしい。

後は戦闘だけでなくリラ脱出計画も予定された。

これは光子ロケットを搭載したステーション船があるから実現するプラン。

新たな開拓船としてはどうかという計画だ。

ステーション船を戦闘艦にするという意見もあったが俺は反対した。

セリナとも考えた事だがステーション船一隻を戦闘艦、戦艦にした程度では対抗出来ない。

大型戦艦一隻だけでフリーダム艦10隻とかに勝てる訳は無いのだ。

他に船を揃えられるかと言えば時間が掛かる。

情報の無いリラだと建造までに5年から10年は必要になるだろう。

現存の技術で作ればもっと短縮出来るかもしれないがそれだと性能不足。

どっちにしろフリーダムのように全長2000mもの大型艦を作るのは時間が掛かる。

ついでにそんな船はリラだと今は必要としない。

この辺りは対応策があるからそれで後から調整する。


会議は長く長く続き結局夜遅くまで休憩を挟みつつ続けられた。

リラとしてはフリーダムに対抗、徹底抗戦する方針で発表し賛否を問う。

今までフリーダム対策で誤魔化して来た資源状況を公開、リラ再建計画の公表。

地下シェルターへの避難潜伏計画、フリーダムから逃げる他星系移民計画、資源調達の為にリラ4の資源採取計画、これらを公式に発表する事になった。


ここまではリラ行政府としての事だ。

俺は俺で個人的な計画がある。

色々考えたこれからの事、それを進める為に行動開始だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ