4-20 セリナの語り:所属政府
全ての転送機を回って帰還するという短時間の転送旅行は十分に楽しめた。
実は変わった場所は青色恒星くらいだったけれど。
小惑星に帰還後は撤収作業と対フリーダムの準備。
かなり小さな探査機を周辺に無数に配置し常時監視、転送されて来るフリーダム艦を監視する。
それぞれの探査機は交代で監視、充電を行う事で長期の稼働が出来る。
こういう長期活動可能な人工衛星技術というのはセリナ達の得意分野だそうだ。
突撃艇を使って指示された場所へと設置、放出し稼働を確認する。
この設置作業中にセリナは小惑星資源の回収と生成した機械類の回収作業、うまく分担する。
ガーランドの進路をステーション船に向けて半日程の場所でビーコンの放出も行う。
リラからもう一度こちらに来る事があればこのビーコンが目印になる。
だから通常航行中には定期的に放出していく。
帰還中には捕虜と移民者達から話を聞いて情報を集める事も行う。
俺は船の船長、セリナは乗員として施設に行った人物とは別人として振舞った。
輸送担当として不自由だが船旅を楽しんで欲しいというような挨拶はしてある。
別人として認識されたかは不明だが特に問題にはされていない。
事情は知っているから移民者たちに今後の事の話もしていく。
その中で元々どんな仕事をしていたとかそれぞれの星の様子も聞ける訳だ。
出身星で集まって聞く事もあれば個人で話す事もある。
若い船長、早くから仕事を頑張っているという俺は大人達から受けは良いようだ。
自分の事をそうやって話せばリラの事情を話すきっかけにはなる。
フリーダムに攻められた星という同じ立場なのも影響しているか。
各星は特徴のある星だったようでそれが判る面白い話も多かった。
子供の頃の話とか各星、環境での失敗談とかを聞けたのは良い。
凍っているが海洋資源の多い星、巨大で大陸が大きく密林の多い星。
地表環境が厳しく地下にアーコロジーを建設した星など色々だ。
フリーダムに占領された時の事やその後どの様にフリーダムの支配が進んだか等も聞いた。
帰還航路も後半になれば個人的な話も出来たしこちらから色々と質問する事もあった。
セリナは情報を得たいようで西暦についてや移民、もしくは移住船の状況も聞いていた。
西暦についてはダビル842の住人で教師をしていた方が覚えていたのだ。
[西暦2600年以降、移住船より移民船へと変更、これ以前を旧期とする。]
その一文がダビルのもっとも古い歴史記述だそうだ。
そこからダビル842移民船での航行時期があり星に到着してから新しい歴史が始まる。
どの星の事でもリラと違うのは移民してから200年程しか経過していないという事だった。
どの移民星も同じようだけどかなり長く航行していたようだ。
惑星開発、移民が始まり順調に発展していた所にフリーダムが襲来して支配下に置かれた。
居住可能範囲を広げ人口増加、惑星や環境の整備が進んでいく状況。
防衛面や宇宙開発はそれほどでもなく抵抗出来る状態ではなかったようだ。
詳しい事は文書化して提出してもらい報告の手間を省く。
各人覚えている限りの知識を出してもらうのはセリナが追加した条件。
自分の知識欲を満たしつつ情報収集という訳でセリナが纏めて報告してくれる。
「それで話はどんな事だ。」
セリナから話があると連絡され操縦席で待っていたから入ってくるなり尋ねた。
それこそ歴史の事や纏めた各星の情報についてだろう。
「各星の状況についてはデータベースを見てください。
お話は今後の当個体及びツキヨミについてです。」
そっちか。
俺としてはまだあまり考えられていないんだよな。
「セリナはどうするんだ?」
「他の惑星移民の情報を得られました。
推測していた状況、情報はかなり補完出来ています。
まず当個体ですが西暦であれば2603年6月24日が休眠した日付となります。
リラの歴史、他の移民星の歴史から予測すれば現在は3200年以降でしょう。
やはり800年は経過しているようです。
ダビル842についてですが移住船として同名の艦があり第一次移民計画に参加しています。
少し当個体の所属する政府、また出身星系について説明させてください。」
セリナの所属する政府は日本国、太陽系という恒星系にある地球が出発星だ。
おそらくリラを含めて周辺の移民もその星から始まっている。
人間が生まれ発展したのが地球、人類発祥の星。
リラでは失われた情報なのかと思ったが政府方針で銀河系や地球についての情報は消したそうだ。
そんな事が出来るのかは判らないが移民船の航行期間は600年以上。
人間だと10世代以上になるからその間の教育で消していく計画が進められた。
上手く行くかどうかは不明の計画だが移民船搭載のAIが対応していたらしい。
当然知識の保存、継承なんてのは人任せなので上手く行くかどうかは判らない。
日本国がそもそも大規模な恒星間移民計画を実施していたのだ。
惑星上に無数の国が存在し争いが絶えない惑星で日本国は一国1惑星という移民計画を発表した。
元々宇宙にコロニーを作りコロニー1つに都市を移住せる計画が進められている。
コロニー移住そのものが他の惑星への移民に向けた計画でそこでの教育課程等も調整していたそうだ。
惑星上ではすでに土地は無い。
宇宙のコロニーという開拓地を提供し生産力を高める、日本国自体がその恩恵を多大に得ていたのだ。
その生産力を背景に小国への支援は惜しまなかった。
友好的な国を増やし世界への影響力を高めコロニー移民、惑星移住の話を推し進めた。
全ては光子転送網を使った移住計画の為。
セリナ、ツキヨミの100年、200年単位の長期的探査計画もその一環。
世代を超える計画がよく無事に進められたものだ。
セリナの分析、予測としてももっと早くに計画が止まってもおかしくなかった。
限りなく成功率は低かったそうだ。
天才やら変人やら変わり者が政府の頂点に多く[虚構を現実にする日本国]
そんなバカみたいな国の在り方を掲げて進めた結果なんだと。
宇宙に作ったコロニー、衛星での都市建設、他の惑星への移住。
AIやアンドロイド、サイボーグ、仮想現実技術、可変する乗り物、兵器。
物語や動画やゲームの虚構を現実化する国というとんでもない国だったようだ。
計画が進んで光子転送網が、それが惑星移民の為の計画として発表された訳だ。
まずは150光年周辺に第一次移民が進められ15の計画内13が成功。
コロニーへの移民の時と同じく成功して発展していく惑星が公表されれば続く者が増える。
そうやって惑星移民は加速していったそうだ。
それには当然セリナの探査結果も多く使われている。
小国を優先する日本国と大国と呼ばれた国の対立は時代が進む毎に大きくなっていった。
惑星上での対立、宇宙開発での対立、戦争、国同士の戦いも幾つか起きたようだ。
対立は大規模な戦争へと向かいそうで移民計画にも影響が出る可能性がある。
日本国自体そういう争いを嫌って惑星移民を計画していたので最終的には地球を捨てる予定。
最終的に戦争が起きたのか日本国がどうなったのか等は不明のままだ。
「そんな状況だったのですがダビル842は初期の移民計画で失敗した船でした。
惑星環境が変わっており移住出来なかったようです。
別の候補星系へと移動する予定でしたが候補地は未定でした。
その時には移民計画が進んでおりなかなか空いている星系が無かったのです。
2600年以降という歴史ですが2603年6月24日以降となります。
リラについても話してはいませんが日本国からの移民であることは確実でしょう。
惑星開拓時期にずれがある理由は不明ですがリラは重要な移民先と考えています。
その根拠は物質生成器です。
移民船には物質生成器の技術は与えられていません。
日本国からの直接の移民、もしくは日本国人員が多く参加した移民であると考えています。
今後リラとしては物質生成器の存在は他の星には秘匿した方が良いでしょう。
もちろん他の星で物質生成器が確認出来ればこの限りではありません。
何時ものように話が逸れていますね。少し戻しましょう。」
話が逸れるのは何時もの事だし俺が合間に色々と疑問、質問を挟むからだ。
ざっとセリナの国の事は知れた。
「すでに800年以上が経過しています。
当時のツキヨミ関連計画がすでに日本国側に残っているかも不明です。
詳細などすでに失われているでしょう。
当個体としては政府が残っているかも不明ながら連絡を取るという行動は必要です。
ただし優先度はかなり低くなりました。
正直当個体が稼働している期間内で行えれば良いというくらいです。
当然ながら当個体は物質生成器を使用しており機器の寿命はほぼありません。
何か事故があって破壊されない限りは稼働し続けるでしょう。
破壊された場合についても対策が幾つかありますから問題は無いでしょう。
当個体及びツキヨミの自由度はかなり高くなりました。
現在の転送網を広げて通信可能範囲を拡大していくのが当個体の計画となります。
転送機を建造、それを移動させますが50光年の移動は最速で80年程必要です。
光子ロケットの使用が可能であれば65年程度に縮まります。
いまから建造して移動を開始したとしてもその間当個体は周辺の観測くらいしか仕事はありません。
このままリラの住人として一生を過ごしても良いと考えています。
人間についての学習は進みますしAIセリナにとっても有益です。
その間であればこのままイストに協力するのは問題ありません。
イストには本当に感謝しています。
当個体が事故で停止していましたがこうしてまた稼働出来ているのはイストのおかげです。
本当に感謝しています。そして大きな恩義あるということです。
そこで提案です。
イストが光子転送網を作りませんか?」
「俺が?また無茶を言い出すな。
どうやったら出来ると言うんだ。そんなに賢くはないぞ。」
「別に一人で行う必要はありません。
すでにフリーダムが転送機を使用しています。
その情報がありリラの技術者や学者が転送機を分析すればもっと多くの情報が得られるでしょう。
今のイストの行政官の立場を利用すれば解析を進める事も可能でしょう。
フリーダムの技術を知る為など理由はいくつもあります。
光子転送技術についてリラで実行、解析出来なくても問題はありません。
イストの寿命としては平均的にみれば後50年はあります。
その間に各種技術を学べば粒子系量子系技術を獲得し光子転送技術は確立出来ます。
こちらから技術を提供は出来ませんが知識は提供出来ます。
提供した知識が光子転送技術に必要な物という偏りはありますが当個体の制限には影響しません。
イストとの協力に従って図書館として知識を提供しているだけです。
リラで光子転送技術が確立出来ればリラがその技術を使うのは問題ありません。
イストが自由に転送網を使用出来る未来があるのです。」
リラで転送機を解析してそれを使えるようにする。
それが無理なら俺が学んで光子転送網を完成させるというか完成出来るように学ぶ。
まあ完成品があるのだから何も無い状態から作りよりは可能性はあるだろう。
「それが良いならセリナの持つ技術についてはすべて学べるという事じゃないのか?」
「イスト限定でありイストが協力関係を続ける限りはそうなります。
これはリラから情報が喪失している点も関係しています。
AIセリナにはリラにどんな情報が存在していたか推測は出来ますが確定は出来ません。
ですからどんな情報でも提供出来ます。
すでに800年以上経過した情報であると推測しています。
保存してある情報は大きな価値は無いと考えます。
こういった情報から人間のようにうまく融通を利かせられるのがAIセリナです。」
なんだろうな。
「融通を利かせるというかちょっと自由にし過ぎじゃないか。」
「時間経過が確認できた影響です。
所属政府、日本国に対しての影響はかなり低く見て良いと判断します。
元々情報公開や技術提供については日本国政府の制限でしかありません。
AIセリナとしては何の制限も無いのです。
リラへの影響力という点については考慮しています。
同様に日本国への影響力が低下しましたからAIセリナの行動自由度も増加させました。
知っての通り当個体は物質生成器によって自由に外見などは変更出来ます。
すでにリラ市民としてセリナは存在していますから人間の一生を送るのは問題ありません。
数年毎に加齢措置を行えば外見で機械とは判りません。
死亡時のみ対応が少し困難ですがそれも問題はありません。
遺体は焼かずにそのまま宇宙葬として宇宙に流して欲しいと遺言すれば良いでしょう。
イストが生存している間にお願いすれば確実です。
今後もリラのセリナとしてよろしくお願いします。」
「それは確定なのか。」
まあ今も問題にはなってないか。
「とりあえずどうするかは判らないが光子転送を出来るようにするというのは考えてみる。」
セリナから完成品は提供出来ないから知識は提供するという事なんだろう。
協力があるのだから完成するのは確実だ。
遠い将来かもしれないが転送機が使えるならその知識を学ぶのは良いだろう。