4-19 フリーダム施設潜入:6 転送網構築/転送旅行
ガーランド到着後、まずセリナが船内を改造した。
小型収納ブロックに移民たちの簡易居住スペースと捕虜を捕えておく独房を作り出した。
そこへとチューブ型の宙間通路で繋ぎさっさと捕虜を運び込む。
エアロックまで作って直接居住スペースに入らせるのは船の大きさや構造を知られない為。
宙間通路からは外が見えないので船の大きさなども知られないそうだ。
結局全員が移民する事となった奴隷達を簡易居住スペースに変装したセリナが案内するだけでなくそのまま今後の事や船内でのルールを説明している。
俺はその間に久しぶりにガーランドを飛ばす準備を進めていた。
こうやって採掘に向けて船を飛ばすのは本当に久しぶりだ。
航路算出から始めてセリナから聞いて採掘計画も簡単に纏めた。
目標となるのは最大長2.3kmもの大型小惑星、ガーランドで1日かからない距離と近い。
ゆっくりと漂っているらしく大型小惑星だから接近も着陸も簡単なのが残念だ。
航路を決めて船を飛ばすのは何時もの作業で久しぶりに落ち着いた時間だ。
最近は戦闘計画だとか書類仕事だとか慣れない事をひたすらやっていたからな。
フリーダムとの事が完全に落ち着いた訳じゃないがたまにはこんな時間も良いさ。
本当に僅かな航路だがのんびりと船旅を楽しめた。
セリナが突撃艇で小惑星へ先行し事前準備を進めているはずだ。
翌日小惑星に到着したら着陸地点を指示されすでにそこは格納庫となっていた。
セリナは小惑星内部を物質生成器を使って空間を生み出し必要な機材を用意していたのだ。
採掘機械各種、金属精製炉、採掘資源運搬用のコンテナとそれを運ぶボードロン。
これらについては端末で詳しい情報と採掘予定を受け取り後で確認、明日から作業になる。
セリナが別に用意していた空間が転送機の設置スペース。
大量の電力が必要になるのでガーランドの融合炉から確保してすぐに作業は始められる。
作業開始はセリナが空間指定グリッドを展開する事から始まる。
普通に地表にグリッドを展開してどうするのかと思えばボードロンが作られた。
かなり大きな物から小さな物、大きさの違うボードロンが次々に作られていく。
30機程作ると次に支柱などが色々と作り出されボードロンが運び出し組み立ても行う。
「まず一時的な固定用、作業用の足場を兼ねたのドックを生成します。」
こうして組み立てた部分は鳥居の支柱部分を固定する為に使われる。
転送機はまず柱の最下層部分、融合炉のある部分から建造していく。
「最初に転送機の融合炉を生成、稼働させ作業用の電力を確保します。
本来なら8時間程掛けて動力炉部分を生成します。
今回はガーランドの電力を使用して進める為、この段階でも時間が短縮可能です。
10基の物質生成器を稼働させ鳥居の柱下部、動力炉部分を一気に生成します。」
まず作業に必要な電力を確保する為に動力炉から建造をするのは当然だな。
今回は電力をガーランドで補っているからスケジュールが前倒しされる。
セリナが作り出した機器が大型ボードロンの上に搭載されて運ばれて行く。
すでに場所も決まっているようで組み上げた支柱の上を進んで停止。
それぞれが座標指定グリッドを展開して30m四方の空間を緑の格子で埋め尽くされる。
よく見ると今回は光線で完成図なのだろうか複雑に機械類が描かれていた。
そこから始まるのは物質生成器による物質生成。
大型のボードロンが背負った機械が物質生成器。
10基の物質生成器を使用して大型建造物下から順に生成されていく。
動画でありそうな建造風景を早回しで見せる、そんな感じで作られて行く訳だ。
そんなに早い訳でもないし最初は床面が作られていたのでほとんど変化は無かった。
徐々に外壁が作られて行く事でようやく建築が進んでいるのに気が付いたくらいだ。
先に外壁を作り内部の通路などを作ってそこから内部施設という順のようだ。
見学した時に使った通路なども作られて行くのが見えた。
「外壁部分から建造し動力室を完成させます。
その後、動力炉を建造、稼働させる事で物質生成器で使用する電力を確保するのです。
今回はガーランドの電力を使用しこの段階から10基稼働しております。
約3時間でこの区画は完成、その後動力炉を稼働させます。
本来であれば動力炉を建造しその後、動力炉周辺から建造を進める形になります。」
そんなセリナの解説。
物質生成器10基稼働というのはAIセリナとして運用が適切な大きさだから。
もっと広い範囲でも建造出来るが効率が悪くなるようだ。
ついでに何度も行っている建造作業の為色々と効率化出来ているからスムーズだそうだ。
建造が完了した部分はボードロンによって検査が行われ問題があればセリナが後で修正する。
ボードロンは他にも各機器への必要な処置を行う。
それぞれの機器へ稼働に必要なシステムを入れて起動、稼働確認など細かな作業。
ボードロン側にそういった作業を任せる事でセリナ自体は建造に集中出来る。
セリナ自身は何も出来なくなる程負荷がある訳でも処理能力を使っている訳では無い。
普通に稼働しているし生成器での建造を行いながら一つ前の建造部分の修正等も出来る。
30m四方の物質生成を8か所行えば転送機は完成。
動力部は複雑で3時間程と一番時間が必要で他の部分はもう少し早い。
3か所に設置された動力炉は8時間、3時間、3時間、他の部分で10時間程、24時間で完成。
正確には完成から各種チェック、確認作業を終えて実働させるまでで24時間。
30m四方の空間を一気に10基の物質生成器を使用しての建造なんて方法とはな。
短時間で建造出来る理由は複数の物質生成器を使うからだった。
物質生成器搭載型宇宙船ならこういう使用方法も普通なんだろうな。
そう考えるとやっぱりとんでもない船だな。
セリナという個体が船という意味も今なら判る。
船体とかではなくてシステムそのもの、物質生成器とそれを使えるAIセリナ。
それこそが宇宙船ツキヨミという事だ。
今のセリナなら資源さえあれば何時でも船体、宇宙船を再構築出来るだろう。
最初は船と言われて信じられなかったからな。
そこからは1日は建造作業を見ながら今後の予定の打ち合わせ。
採掘作業とセリナの建造作業について。
セリナの作業については突撃艇を投入して時間短縮を行う事になった。
ガーランドの動力を使っているのだから突撃艇で移動しその動力を使ったらと提案したのだ。
今の突撃艇の融合炉は短時間稼働、高出力仕様なのでガーランドと同型の融合炉に変更。
生成したボードロンや物質生成器も格納出来るようにして毎回生成しなくても良くなる。
これでかなりスケジュールを短縮出来る。
突撃艇での移動だと発見される可能性が増えるかもしれない。
それについては占領された星に近い転送機などは使わずフリーダムの船の居ない転送機を使う。
それなら突撃艇でもセリナ単体でも変わらないだろうという事だ。
採掘作業の予定については問題なし。小惑星の資源分布を確認して進めるだけだ。
あとは移民者たち、元奴隷たちの予定について。
リラ帰還までにそれぞれの能力確認、どんな作業が出来るかとかだけでなく知識についても。
言語についてもリラの教育課程課題を使って言語習得プログラムを組んだ。
学習希望者がいれば対応出来るようにしてある。
翌朝、セリナの出発を見送った。
転送ではなく突撃艇でフリーダムの施設に向かうのだ。
フリーダム施設の事故偽装が必要なのと最初の転送は施設にある転送機が必要だ。
小惑星の衝突事故の偽装だが大きな小惑星をぶつけるのではなかった。
直径5cm前後の岩塊を無数に高速で衝突させて広範囲に施設へと被害を出す。
ただし施設自体は稼働出来る状態に留めるということだ。
人的被害を多数出すし修理中に再び飛来して二次被害が発生。
施設要員は全滅した事になっているそうでまあその辺りは問題無いだろう。
採掘作業の合間に報告書の作成、移民者たちとの会話や捕虜への対応。
後はトレーニングとか採掘時のいつものスケジュールで過ごした。
セリナの帰還に合わせて出迎え、資源コンテナの運搬など補給作業を手伝う。
補給が完了すればセリナは転送機で戻りフリーダム施設に移動、転送から次の建設に向かう。
何かあれば連絡される事になっているようだが連日順調で転送機の設置、転送網の確保が進む。
セリナの政府との連絡はまだ出来ていないようだ。
採掘作業は5日程続けてセリナからの帰還予定の連絡があった。
いつもなら建造完了と帰還予定の連絡なんだが何かあったか?
それなら何か書いてあっても良いはずだな。
操縦ブロックで報告書を書いていたのでそれは保存、宇宙服も着ているからそのまま出迎えに行く。
転送機、鳥居の下に淡い光が出現してそれが輝きを増して消えれば突撃艇がそこにある。
何も無い空間、場所にいきなり出てくるのだから本当に転送なんだろう。
こうして消えたり現れたりも最初は感心したけれど毎日見ていれば少しは慣れた。
「イスト、こちらに来てください。」
突撃艇の操縦席、航空機のコクピット仕様らしく天井部分が上に稼働して開くようになっている。
セリナは最初に出会った時の衣装のまま宇宙服も着ていない。
宇宙でのセリナだとこっちのイメージが大きくて宇宙服を着ている方が違和感があるんだよな。
「どうした?問題があったか?」
突撃艇の下まで歩いて行くが手招きされたからジャンプして操縦席まで飛び付く。
天井部分に手を当てて動きを止めつつコクピットの淵に足を掛けて止まる。
コクピット内部とかセリナに見た感じ特に問題があるようには見えないしあったら報告されている。
「リラ星系住人にして本艦ツキヨミ協力者イスト、あなたを転送旅行に招待します。
これは転送機稼働試験の一環です。拒否されますか?」
「転送旅行、転送するのか?俺も?」
「そうです。リラ帰還後はガーランドで航海する時間はしばらく無いでしょう。
転送を体験して頂くのは今が良いタイミングです。」
そうだな。ステーション船と合流してリラに帰還。
フリーダムとの戦闘が終わっていない事、転送網の事とかを報告すればまた忙しくなる。
しばらく今回の戦闘についても事後処理に追われるな。
少しずつは進めているがリラに帰還したらもっと作業が増えそうだ。
転送網があってもそれほど使い道を見いだせなかったが転送を試すくらいは良い。
「判った。その旅行に付き合おう。何か準備はいるか?」
「準備は必要ありません。このまま転送を始めます。
念の為ワイヤーを船に繋いで固定してください。」
コクピットの下にあるフックに宇宙服の命綱を繋ぐ。
「外を向いてその淵にでも座ってください。良い景色となるでしょう。
準備が出来たら告げてください。転送を始めます。」
言われたように手を伸ばせば天井に手が着くあたりに座って身体を固定出来るようにする。
無重力化での準備なんてこんなものだ。
気分的には操縦席に座りたいがセリナの指示ならこちらの方が良いのだろう。
一呼吸、静かに深呼吸。
「よし、準備はいいぞ。」
「それでは転送を始めます。一瞬ですから驚かないでください。」
転送される物体がゆっくりと光を放ち始め閃光に包まれればその物体は消える。
セリナが転送で行く時にそれは何度も見ている。
自分が転送される時は周囲に光が流れ始めるとカメラのフラッシュのように一瞬強烈になる。
閃光に閉じた目を開くとそこには宇宙があった。星が瞬いていた。星空があった。
身体を固定したまま右下を振り返れば操縦席に居るリナ、突撃艇もちゃんとあるし見える。
「ここは先程の小惑星から41光年離れた宇宙です。
足元に浮かぶのが転送機を収納した小惑星になります。」
突撃艇のさらに下には岩塊、小惑星が確かに浮かんでいる。
セリナは使える小惑星を見つけるか人工的に物質生成器で作ってその中に転送機を作っている。
「転送機の側に出るんじゃないんだな。」
いつもセリナは転送機の鳥居の下に出て来ていたからその辺りから転送して転送されると思っていた。
「少し離れた場所まで転送座標は指定出来ます。
全長5km程の物体を転送する場合は転送機からかなり離れた場所に転送することで衝突を避けます。
複数の物体を転送する場合もそれぞれ違う場所へと転送することで混雑しないようになっています。」
転送については詳しい解説はまだ聞いていなかったな。
「左手側奥を見てください。ここは恒星系の恒星と手前に大型ガス惑星があります。」
青く輝く恒星は遠くで激しく輝いておりその手前に大きなガス惑星が見える。
茶色っぽいガス惑星というのは結構良くある惑星なんだろうな。
ワイヤーを伸ばして突撃艇の上に出るとぐるっと一周見渡す。
見える星、見えない星があるが番号が振られただけの惑星名が表示、解説された。
すでにセリナが観測によって情報を得ているからそのリンクだな。
恒星系の情報を表示させれば恒星の惑星圏としてはかなり外に位置するようだ。
「イスト、次に移動しますのでそのまま恒星方向を見ていてください。」
そちらに視線と身体を向けるとまた周囲に光が集まる。
見えていた青い恒星が消えて今度はただひたすら星空が見えた。
「この転送機の位置からは銀河が良く観測出来ます。
場所も恒星系では無いので周辺は静かな宇宙となっています。」
光が表れ消えた一瞬で本当に移動しているな。すげー。
そんな単純な感想がすべてだ。
恒星を見る指示はこの変化が良く判る為にだな。
何も見ていない宇宙で移動してもぱっとは変化に気が付かない。
「新たな転送網は完成しました。
物質転送、生物転送共に問題は無く転送、通信ともに良好です。
通信範囲は約180光年、転送範囲は130光年となっておりツキヨミの管制下にあります。
報告としては当政府との通信を行いましたが反応、返答はありません。
また既存の転送網と接続も出来ませんでした。」
「そうか。連絡は出来なかったか。」
そうだな。連絡する為にセリナは活動しているものな。
最近はそんな行動をしていないから忘れがちだった。
というかリラでフリーダムとの戦闘ばっかりだ。
結局誰かが戦ったのかもしれないけど始めたきっかけは俺だよな。
このまま転送してあちこち回って見るなんてやってみたいけど放り出すのは駄目だ。
始めたなら最後まで続ける。
「イストはこれからどうしますか?
当個体及び開拓艦ツキヨミとの協力関係を含めリラ帰還までに一度検討をしましょう。」
どうするか、か。
星への帰還を目指すならセリナはこのまま旅立つのだろうか。
そういった点での検討かな。
フリーダムの事、セリナ、ツキヨミの事、俺の事。
移民者の事とその星の事もあるな。
色々と考える必要がありそうだ。