4-15 フリーダム施設潜入:2 起きなかった戦い
施設への侵入は四角枠の縦部分から行なう。
縦横の判断はこちらが勝手にしただけ。内部では四角枠を横にして使われているようだ。
当然施設としては横にして使った方が都合が良いだろう。
侵入は床側から入る事になり脱出の用意が一つ減らせた。
天井からの侵入なら無重力で無くなると登る必要があってそれに備えておく必要があった。
この辺りはセリナの解説だ。
侵入に使うのはセリナが生成した通路。
周辺の配線など内部を作り直し通路を生成する事で施設の警報関係を無理やり無力化。
物質生成器を使った強引な手段でセリナにしか出来ない方法だ。
さっきの遠隔生成もだが物質生成器を自由に使うというのはこういう事なんだろうな。
内部に探査機を送り込み周辺を調査するのは変わらず。
幅1m程の通路にセリナ、ツキヨミ制御システム、俺の順で入ってからだ。
「なあ、セリナ。
これだけ物質生成器を使ってもエネルギー的には大丈夫なのか?」
物質生成器も機械であり稼動には当然エネルギー、電力が必要になる。
ガーランドに乗っている間の物質生成だとガーランド側の動力から電力供給している。
一番最初はエネルギー不足で物質生成出来ないという事だったしな。
「現在は蓄積エネルギーがありますからある程度は問題ありません。
バッテリー、燃料電池などに充電しているようなものです。
その辺りも制御システムで対応出来ます。
内部で問題があれば施設から電力供給を行なっても良いでしょう。
予測では今回の作戦行動中は問題ありません。
新型光子動力炉の使用を許可して頂けるのであればこれはより改善されます。」
電力関係も制御システムが必要なんだろうな。
目の前の銀色の筒、これに関しては謎の機械だ。
これまでのセリナからの話しからすればツキヨミにとっては重要な機械らしい。
だからほとんど説明出来ない、説明されていないのだろうな。
新型光子動力炉というのはガーランドの動力炉の事だ。
色々と改造、改良されていたようで設計図と比べるとかなり別物。
それをちゃんとギルドが再設計したものが新型と呼ばれている。
それについての返答は保留中。
「イスト、周辺確認終了しました。
先行しますから問題が無ければ続いてください。」
ヘルメットに侵入したセリナの視界画像を写すとそれは加工画像、内部は明かりが無い。
この場所も暗闇で宇宙服は暗視モードになっている。
画像加工されてほとんど普段と変わらずに見えているから気にならない。
それ以外に熱源を表示するモードをヘルメットの左端、確認しやすい所に表示。
すぐにセリナから侵入の指示が来た。
作られた扉が開かれてこちらからツキヨミ制御システムを押し出しそれに自分も続く。
「施設内ですがそれほど警戒は高く無いようです。
感圧系、動体系の監視も無くAI制御施設としては警備、警戒は低くなっています。」
セリナは自身がトショカンを管理していたからその時の警備、監視状況を元に警戒している。
特に宇宙船などの密閉施設を本気でAI制御、監視させると酸素消費量などから人数を把握するそうだ。
その最大を想定しているから低いというだけなんじゃないか。
施設内で漂い少し見回す。
大型の機械がいくつも並んだ大きな部屋。
明かりは無いが機械はいくつもの小さなランプが点灯していた。
「あちらで監視中の人物2名が作業中です。
尋問による情報収集も有効ですが発見を避ける為に実行は見送ります。
複数のチームで行動する場合は施設制圧と同時にそのような情報収集も有効です。」
今回の優先するのは施設の制圧。
セリナのプランは恐らく存在するAIを制圧し施設の制御を奪う事。
AIによる管理で無い場合でも同様で主要なコントロールを奪って施設制御を奪い制圧する。
宇宙空間施設であれば重力、空気関係を押さえるだけで制圧が楽になる。
セリナの指示が来るのでこちらも追従して移動。
床や壁に触れての移動は避けるので細かく宇宙服を使っての移動だ。
無重力下で宇宙服だけで移動するのも細かな調整が必要で普段からやっていないと難しい。
小惑星での採掘作業だとよくある事で別に困らない。
向かうのは施設の上側部分、機械を見ながら静かにゆっくりと移動。
施設の一部が奴隷用のエリアであればその逆側が奴隷以外の人員施設、重要施設との推測。
目的の制御関係が見つからなければ上側を通ってこの判定のエリアまで移動の予定。
その場合は発見される可能性が上がり多少荒っぽい手段も必要かもしれない。
ここにある機械はコンピューターのようで調べて見たいがそれも保留。
余計な事をして発見されれぱ目的が達成出来ないから当然だろう。
迷い無くセリナは移動を続けて壁に辿り着くと反対側にボードロンを生成、通路を生成して突破。
手際よく作業を進めており侵入してからはまだ7分ほどか。
隣のエリアも先ほどと同様の機械のある部屋、違いは動いている機械が多いという事くらい。
ランプが点灯している物ばかりでこちらのエリアは稼動中、もう一つは整備点検中という予想。
いくつもの機械をメンテナンスするなら順にやっていくのはよくある事だ。
ステーションでも同様の事はやっている。
素早く次の壁際まで行くと壁の向こうにボードロンの生成を行い調査開始。
その壁沿いに移動して次の壁で停止。
セリナが作った地図が表示されていてこの壁の向こうは通路、この縦エリアの内側端。
この施設は内枠に沿って通路があり各エリアを移動出来るようだ。
着いて行くのに集中するが時々ボードロンの画像は確認している。
画像に写った通路は暗く照明が無い。
外観としてはステーションの通路みたいな感じだな。
金属のままではではなく白い壁、扉が時々あるのが見えている。
セリナが伸ばしていた手を下ろしたのは生成なり調査なりが終わったという事だ。
「この施設は大体分析出来ました。
ボードロンによる調査が進んでいますが現在のこの施設に存在する人間は少数です。
対応が容易となりましたので制圧を進めます。」
壁の向こう、通路側ではなく四角の横軸に当たるエリアも調査は進んでおり地図に反映されていく。
通路に扉がいくつか並んでいるがそこも使用されていないようだ。
扉の向こうは小部屋になっており居住スペースのようだ。
机やベッドもあるが特に物は置いてなく無人の部屋らしい。
施設としては重要な配線類は内側に集中、今後の移動が容易いそうだ。
リラだとステーションでも宇宙船でも同じだが重要なラインは中心部に作る。
外側だと何かの衝突で壊れる可能性が高い。
衝突しやすい外側は分厚くして被害出ない内側にそういうのは置くのだ。
この施設だと四角の内側に作るのも似た理由だろう。
施設の四角の角部分に動力施設があるようでおそらく四か所に存在する。
施設の端にあるのは事故対策とかだろうか。
居住区への侵入路として壁を物質生成で取り除く。
そちらも与圧はされていないが移動後に壁は戻しておく。
この居住区、今居る階層は一番下の階。
中央で区切られる形で施設の反対側には直接行けないようになっていた。
その中央部分に制御関連施設や重要施設があるとの推測。
解説を聞きながらセリナの追従してその突き当たり、中央部分まで移動して来た。
施設の高さは32m、アーコロジーだと6階層くらいと実はかなり大きい。
上階に反対側へ移動できる通路があるとすれば上の階程良い部屋になっているだろうという事だ。
身分的に上位であったり軍だと階級が上の者が使うのが上の階。下っ端が下の階だろうという話し。
セリナが人の気配が無いと言ったのはここを含めて3層が封鎖中、与圧されていないエリア。
そこから上は単に調査範囲外で不明。
周辺警戒していたが特に何も起きずにセリナが作業完了を告げる。
通路の内側、部屋を縦にぶち抜いて中央への侵入路を生成。
各階層の部屋は壁を移動させており一見しただけでは発見されないかもしれない。
壁を移動させた空間に侵入路があるだけでなく最下層のここからは外への脱出路を設置。
先程のように中に入ってから侵入路を生成して塞ぐ。
3階上に上がって中央部分へと向かう通路をこれから生成するそうだ。
「この奥にやはり制御システム類が存在しています。
AIと予測されるシステムもありますので制圧を開始します。」
渡された銃器の確認、注意点を表示して再確認、警戒開始など気合を入れて挑んだ。
結果としては15分程で何も無く終わった。
侵入した先は照明が無い部屋だが無数のコンピューターが並ぶ場所。
その部屋の出入口3箇所をボードロンを使って警戒しバリケードを用意して戦闘に備える。
そういった事はしていたものの何も起きなかった。
それはそれでいいんだけれど残念な部分もある。
実際に戦闘になれば危険だとは判っている。
判っているけれどちょっとは戦いなりがあっても良かったと思っている。
正直、キリアトさんのステーションでの活躍自慢話を聞かされているから体験してみたいと思ったんだ。
それもあって着いて来たしセリナが同行を認めるとも思わなかったんだよな。
そんな思惑は外れて何もなくあっさりと施設を制圧された。セリナが掌握したと報告して来た。
「本当に終わったのか?」
「はい。すでにこの施設は掌握しています。AIも完全に制圧、制御下に置いております。
必要な情報などはほぼ入手しました。
フリーダムに関しての情報も多数あります。
少数となっているのは本来この施設はフリーダム艦2隻が防衛を行なう為です。
防衛用の2隻はリラへ向かい、前回の戦闘によって撃沈。
これほど簡単に侵入出来た要員です。
現在この施設の人員は12名、管理者とされる者が3名、労働者が9名です。
これらの要員はどう対応されますか?
多少の差はありますがフリーダムでは全員が奴隷の身分となります。」
奴隷か。
労働者と呼ばれるのは一番下の階級の奴隷。
管理者はそれらを管理する立場の少し上の奴隷らしい。
それらの階級の中でも多少差はあるらしいが管理者と労働者だとかなりの差がある。
管理者は最低限の生活は保障されている。
労働者だと空気や食料も買う必要がありほとんど一日労働しなければならないようだ。
フリーダムのAIは奴隷の管理がもっとも大きな役割となっているようだ。
奴隷達が反乱しないように施設や船はAIによって管理、調整されている。
AIに対して奴隷が命令したりは出来ないようだ。
立場が上の管理者や一部の奴隷は少し提案するくらいは出来るそうだ。
船や施設の運営については管理者が行なえるが施設や船を破壊するような事は出来ない。
戦闘についてもAIが分析し対応するのが基本らしい。
フリーダムによるリラの戦力分析は低く戦闘で負ける事は無いそうだ。
その奴隷をどうするかなんだよな。
捕虜にする救出するなどあるが大きくはここに残すかリラに連れて行くか処分するか。
セリナとしてはこの施設に残して置くのは危険度が高い。
今回の制圧について残っているフリーダム艦に伝わる可能性があるからだ。
AIに命じれば病死なり反乱によって処分などは簡単ということだ。
さすがにそれはどうかと思う。
捕虜としてリラに運ぶのはガーランドなら問題は無い。
病死などの対応をしたとしておけばフリーダム側にはそう記録される。
移動させた事は伝わらない。
労働者の事を聞けばかなり劣悪な環境で死亡率も高いということだ。
基本的には毎日12時間以上の労働、極わずかな食料、常に監視された生活。
労働者とは話しをして奴隷から解放しリラへの移住を勧める。
管理者の3名は捕らえて捕虜としてリラへ移送しリラ行政府に対応を任せる。
フリーダムの影響が無いリラでの生活の方が良いのではないか。
今後フリーダムの報復があったとしてもということだ。