4-14 フリーダム施設潜入:1 施設到達
施設までは結局1日以上かかる長い旅だった。
まず黒い塗装を施された突撃艇で周回軌道にしたガーランドから静かに発進。
少しずつの加速でゆっくりと施設に向かう。
この突撃艇、黒いのは光をほぼすべて吸収し電波もかなり吸収。
おかげで探知されにくいとセリナの説明。
主武装としていたレールカンは無く突撃艇というか移動用の艇。
行きでは無く帰りの緊急脱出用の使い方がメイン。
無線操作出来るので必要ならセリナが呼び寄せるし普通にゆっくりと施設に接近し続ける。
突撃艇の移動中はフリーダムの事、光子転送網の事など色々と話しをしていた。
その間の時間もセリナは無駄にしている訳ではない。
小型カメラを先行偵察として飛ばしており施設を外側から確認、分析する。
最初のフリーダム艦確認に使ったのと同じでカメラだけ。
電波などは出さず見るだけでその映像は光子転送網でセリナが受け取る。
一度リラの小惑星を経由するらしいが時間としては一瞬。
ガーランドの突撃艇も最初のフリーダム艦確認の時も同様に光子転送網を使っていたそうだ。
セリナというかツキヨミ制御システム、銀の筒も光子転送網の端末らしい。
ただ小型でそれほどの距離は届かない。
もう少し大きなものが実はガーランドのセリナの私室に置いてある。
案内されて始めて入ったセリナの部屋。
どんな部屋なのかとか期待とか色々あった。
でも実際は来てくださいと言われ扉が開いたままになりどうぞと一言。
部屋の中はほとんど元のままシンプル、壁に固定されたベッドの上には何も無い。
セリナは寝ないのでこれは当然か。
飾りつけもなく小物類も無く質素なままだった。
テーブルの横に天井まで届く箪笥のような箱がありそれが見慣れない物。
それが光子転送網端末小型版、これで通信をしているのだ。
セリナらしい部屋だなと思ったのはテーブル周辺。
サトウのじいちゃんのようにいくつものコンピューターが並んでいた。
どれもサトウのじいちゃんに頼んだカスタムメイド。
依頼のあった仕事の報酬はほぼ全部そこに消えているそうだ。
コンピューターであるAIがコンピューターを趣味にしているというのも不思議な物だ。
セリナ自身はもっと性能の高いコンピューターだろうに。
小型カメラでの観測はかなり詳細に行なわれ建造物を分析していく。
遠くからだとどうやらフリーダム艦と同じような黒い装甲のようで全体が黒い。
拡大した画像をセリナが解析した物では継ぎ目があり出入口であったり何かが迫り出して来るようだ。
かなり大きな物もありいくつかはレーザー砲と推測していた。
フリーダム艦のレーザー砲と同サイズということだ。
あとは施設に展望室とか窓があればそれを監視して人の流れが確認出来る。
これについては空振りだったらしく外からの見るだけでは窓の類は無いそうだ。
あくまでも外からだけで中からは見れるかもしれない。
武装されている可能性が高くなったが接近の予定は変更なし。
セリナは元々武装はあると考え慎重に潜入計画を予定。
突撃艇から離脱して12時間もの宇宙遊泳、100km以上を飛ぶと言われてちょっと後悔した。
ただ以前に単独で50km程宇宙遊泳は体験がある。
じいちゃんの訓練の一つで12歳の頃にやったがそんな子供のする訓練じゃないよな。
懐かしい事を思い出していた。
セリナはツキヨミ制御システムを持っていくので移動はそれを使って。
謎しかないし説明してもらえない機械だが便利なものだ。
色も黒に変わっていて突撃艇と同じようにしてあるんだろう。
あとは宇宙服も作っていた。
俺用に動きやすいが対弾性や防刃効果がある戦闘用の宇宙服。
下に防護服である制服を着ておけばさらに安心。
護身用として小型のテーザーガンを渡され腰のホルスターに入っている。
ただ何かあれば隠れる、逃げるのが最優先。
セリナはハンドガンを2丁、ニードルガンと非殺傷の銃。
それから小型のサブマシンガン。
最悪は施設内を全滅させても制圧するがそれは最終手段。
出来るだけ殺さないようにするし発見されないのが理想。
セリナの準備中に渡された潜入工作についての資料、マニュアルは一読した。
こんな知識が必要になるとも思えないしこうやって実践するとは思わなかった。
まあ知っておけば何時か何処かで役立つかもな。
無事に施設までは接近し今は外壁から1m程を飛んでいる。
セナも俺もツキヨミ制御システムに捕まっての飛行。
この距離だと外壁の継ぎ目もちゃんと確認出来る。
セリナは継ぎ目の上で確認をし次に行くという事を繰り返していた。
場所としては施設の下側。
この施設は巨大な四角形の枠、中には半壊した鳥居。
鳥居は浮いているのではなく施設に固定されていた。
100m程の鳥居を囲んでいるので一辺150m程だろうか。
ガーランドよりちょっと大きいサイズと考えれば大きな施設では無い。
横幅としては32m程と聞いた。
幅は2ブロックより小さく長さは8ブロック分。
ブロック単位として考えればなんとなく大きさや内部空間は把握出来る。
多分これはリラの宇宙船乗りにしか無いものだろう。
継ぎ目を探して移動を繰り返して6個目で変化があった。
「イスト、ここで作業を行います。しばらく集中しますので周辺警戒をお願いします。」
「判った。」
周辺警戒、腕の端末を操作してカメラ画像をヘルメットに写す。
正面の視界を妨げないように4つほど、それぞれ異常があれば教えてくれる。
自分は視界で周辺監視、浮いている小型カメラはそれぞれの方向から周囲を警戒。
今回の作戦で俺が取り組める作業はこれくらいだ。
セリナは両腕の手首から2本ずつ、背中から4本のケーブルを延ばしてツキヨミ制御システムに繋いだ。
宇宙服を着ているがちゃんと改造してあったようだ。
「始めます。」
宣言すると右腕を突き出して手の平を広げ動かなくなる。
どんな作業かは判らないが今はちゃんと警戒しておく。
恐らく今のセリナは周辺警戒が出来ないか反応が遅いなどの状態だろう。
着いてきた俺に役割をくれただけで俺の監視が必要無い可能性はある。
それでも読んだ資料の知識を使って周辺警戒は怠らない。
5分程過ぎただろうか。
「完了しました。
施設内部にボードロン、フリーダム艦調査に使用した探査機を生成、活動を開始しています。
内部調査と侵入路の確保を行ないます。」
ん?報告を聞いて疑問がある。
「生成したとは物質生成器で中に作ったと言う事か?」
「イスト、それで問題ありません。
現在当個体及びAIセリナは軍事仕様で活動中です。
通常よりも大量のエネルギー消費が必要であり時間も必要ですが10m程先であれば生成可能です。
物質生成器の解析を利用し周辺の生命体の有無も確認しております。
同時に建造物の分析もしております。
活動に制限が無いので可能な事です。
残存物資やエネルギーが不足しつつありますので多様出来る訳ではありません。
今後は当個体での活動が中心となります。」
「いつもの光はどうした?」
「軍事行動中ですから使用しておりません。
その分綿密な計算が必要でありAIセリナの能力でそれを行ないました。」
それで時間が掛かったのか。
セリナの物質生成器も色々ととんでもない機械だと思い知るな。
すごいらしいが逆にAIセリナでなければ使えないらしい。
リラの物質生成器の方が一般的な使用としては優れているそうだ。
認識を改めておこう。
制限の無いセリナはこれからも驚く事ばかりしそうだ。
疑問は一端すべて後に回す。
多分大丈夫、2度も戦闘は経験したし拉致もされた。
自分の身体でこういう戦闘に巻き込まれるのは始めてだけどな。
「判った。それでこれからどうする?」
「探査機が内部調査中です。
フリーダム艦と同様にAIによる制御の可能性がありますので慎重な対応をしております。
内部構造の確認、生命体の有無、セキュリティ関連など各種調査を行います。
また外部からの侵入路の発見も同時に進めています。
調査が進むのを待つ間、侵入路の生成が可能か周辺を調査します。
内部の通路ですが真空であり重力もありません。これは広範囲に渡っています。
現在の所生命体との遭遇無し。」
「使われている施設なのにそんな状態なのか。」
「フリーダム艦も前方部分は同じ環境でした。
フリーダムの宇宙居住自体がそうしてある文化かと推測されます。」
「フリーダムは宇宙船でも真空、無重力環境か。違うものだな。」
「侵入する行程が少し楽になりました。
侵入可能な場所を探索します。」
そこからは少しずつ移動していく。5m範囲くらいで移動、停止を繰り返す。
止まっている間にセリナは施設構造を分析しているのだ。
物質生成器での物質分解吸収の応用。
そのまま分解したりしないのかと聞いたが異常感知される可能性があるからやらない。
それらを避けられる場所を探している所ということだ。
メンテナンス用の通路などがあれば良いらしいがフリーダムだと逆に危険な可能性もある。
フリーダム艦はそういった通路もかなり厳重な警戒がされていたそうだ。
「イスト、2名の人間を発見しました。
宇宙服を着て移動中、追跡しています。」
ヘルメットにその画像が映し出される。
白い宇宙服で通路を浮かんで移動している後姿。
探査機は天井に居るようで見下ろす構図だ。
作業員の正面に扉が見えて止まっているのは手続きか何かか。
「イスト、場所を移動します。
この区画のセキュリティが高く侵入しても他の区画への移動が難しいと予想されます。
施設外の対人用センサーを突破する方が危険性が低いのでそちらを選択します。」
「了解。」
侵入に関してはセリナに任せるしかない。
詳しい情報については共有されるから端末を使って確認すれば良い。
侵入させた複数の探査機は調査を続けていて情報を送ってくる。
人を発見した探査機は追跡を続けていて扉も上手く通ったようだ。
警戒が厳重という区画は通路に死角なく監視カメラが設置。
区画から出る扉だけでなく全ての扉に複数の監視システムがあるようだ。
施設表面をゆっくりと移動するのは制御装置とセリナ任せ。
相変わらず時々内部分析をしての移動。
移動中は探査機の情報を確認、停止したら周辺監視をしばらく続けた。