4-11 フリーダム艦隊との交戦
探査機を作ったのだがついでにセリナから要求されたものがある。
提案し許可を得たいという事だったが探査機の情報と引き換えの要求だった。
「イスト、探査機だけでなく情報収集用の小型機を作ります。
これをフリーダム艦に潜入させます。
その後当個体が遠隔操作でフリーダム艦より情報収集を行います。
こちらはサンプルとなります。
資源は探査機を作る分に含んでおりますがここで作りますのでお話しておきます。」
セリナが持って来ていた箱の中から黒い四角形を取り出し机の上に置いた。
10cm程の正方形、厚さは3cmくらいだろうか。
「こんなので情報が集められるのか?どうやって集めるんだ?」
セリナが四角をつつくと4隅から足が生えて立ち上がる。
足の先は4本になったり8本になったりする。
それを見せてから音も無く机の上を歩き端までいくと裏というか下に入って行った。
すぐに反対側の端から上に出てくる。
「このように天井や壁を移動可能です。
カメラも搭載していますからその画像を確認出来ます。
これは移動用のサンプルですからその機能はありませんが表面に画像を投影出来ます。
下部の周辺風景を投影することで発見されにくく静穏性も高いのです。
何機かにはマニュピュレーターを搭載し作業も行えます。
コンピューターなど電子機器を操作する端末を搭載する機体も用意します。
3種ほど用意することで多様な情報収集が可能となります。
元々は閉所や船内での索敵、突入補助を行う機械ですので性能としては申し分ありません。」
黒四角はテーブル足を下りて行き今は壁を登っていた。
「フリーダム艦に潜入させる方法はどうするんだ。」
「突撃艇を使用しフリーダム艦に打ち込みます。
速度差から減速が難しいのですが船内に撃ち込む事で何機かは潜入出来ます。
稼働出来る機体は情報収集を行います。
破損したものは煙幕や薬品の放出を行い高熱を発し燃焼消滅するか爆発させます。
それによって攻撃兵器として認識させられますし混乱を起こし情報収集が容易くなります。
突撃艇についてはガーランドに2機搭載分を確保しています。」
少し前からセリナが何度か突撃艇の訓練に参加していたのは報告を確認していた。
そこそこの成績を出していたのはこの為か。
全体の7割程の成績にしてあるのは調整しているからだろうな。
密かに根回ししているのは相変わらずだ。
サトウのじいちゃんから話を聞いて色々と悪だくみが増えている気がするぞ。
疑問点は質問するが問題は無さそうだ。
フリーダムの情報が得られるのは大事。
上手く行けば長期潜入によって集められる情報は貴重なものになるだろう。
打ち込むのは撃破しない船にするそうでその有用性を考えれば反対する事は無い。
戦闘開始までの日々はこうやって色々な事の決定や修正、準備を進めた。
その間に攻撃計画についても何度も再検討を行う。
セリナと細かな話をする時間が必要になったのがちょっとやりにくい。
ガーランドの時なら二人だけなので自由にいつでも話せたからな。
今はこの時間帯と決めてガーランドで話すようになっていた。
突撃艇の訓練中に予定調整の連絡が来て音声で対応していたら冷やかされた事もあった。
食事の約束ですがちょっと遅れますとか聞こえればそうなるよな。
こんな短いが長い準備期間が過ぎていった。
この間は忙しかったが良い時間だったと後で思い返せる。
何処に言っても司令官と呼ばれて最初は戸惑っていたがそのうちに慣れた。
特別な行政官と言っても出来る事は無いからそれぞれの分野の人達と何度も話しをし顔見知りが増えた。
すれ違うときに挨拶だけでなくちょっと世間話をするとかも多かった。
ガーランドでの航海では絶対になかった事だ。
そんな話しをセリナにしたらではイストは乗員たちが無事に帰れるようにしてくださいと返って来た。
それが司令官や船長の役割だと改めて作戦を練り直しや準備不足が無いか確認していく。
司令官としてこの作戦を無事に成功させようと出来る事は無いか探し取り組んだ日々。
「これよりリラステーションはフリーダム艦隊との戦闘を開始します。
各員配置に従って仕事を開始してください。
この戦闘に勝利すればリラは解放されます。
すべての者が諦めずに行動する事を願います。
リラの自由、自分の自由の為に。」
今回の作戦が始まってから一番大変なのはこういう演説だ。
何かあれば演説が待っている。
昨日も壮行会で最初に挨拶があったし乾杯の音頭もさせられた。
ステーションはフリーダム艦との戦闘を開始した。
準備した探査機がフリーダム艦隊の位置確認を始めそれが作戦開始の時。
ただステーションとしては警戒は高くしているが特になんの変化も無く平穏だ。
宇宙船戦闘は地味な事が多く準備が大変で戦闘は一瞬。
時間単位での攻撃は普通らしいし場合によっては数日かけての攻撃もある。
探査機からの情報を元にフリーダム艦の位置、速度、針路が分析されていく。
分析は航法コンピューターが行いそのシステムは軍用の物、レーダーも軍事用だ。
少しの時間差で探査することで移動速度なども割り出す。
探査機周辺にはブロック船のはりぼてを同時に射出している。
フリーダム艦が探査先を確認すればブロック船を発見し対応させられるかもしれない。
「フリーダム艦5隻を確認。約40億キロ、現在速度で20時間の位置です。
敵艦速度時速320万km程です。」
司令室では全員が確認出来るように正面モニターに大きく情報を表示、個々の端末でも確認出来る。
フリーダム艦は予想位置から大きく外れてはいない。
もし針路を大きく変えてリラに接近しないとかの場合は発見が困難だった。
「ステーションの針路を修正します。」
「大型小惑星、射出準備完了、マスドライバーの弾道計算開始、完了後第一波攻撃を開始します。」
フリーダム艦隊は西側から東に向かってリラに接近中。
ステーションは南に向かい南西、北西と軌道を変えて大きく迂回。
今の針路は北東へ向かっておりフリーダム艦の後方からフリーダム艦の北側へ抜ける。
一度追加加速をして速度を上昇、大型小惑星2つを別軌道で射出していく。
マスドライバーの攻撃は広範囲に行い大型小惑星と同時。
射出すれば軌道変更が出来ない岩石類だから軌道変更で対応するか迎撃されるかになる。
大型小惑星が質量攻撃であると認識させるのとフリーダム艦が移動出来る場所を制限する目的。
移動されたくない場所へと高速の岩石を撒いておけば移動場所を限定出来る。
外れる攻撃だけでなく今の速度、針路なら命中する位置へも攻撃しておく。
確認時点でフリーダム艦から見ての真後ろと北西から大型小惑星等はを射出された。
戦力分散は戦争では悪手と言われるが大型レーザーで纏めて撃破される可能性を減らしたい。
各攻撃射出後ステーションは北に針路を取り離脱、フリーダム艦の北側へ回り込む。
マスドライバーの攻撃で破壊されるまぬけな事がなければ18時間後に戦闘が始まる。
大きな小惑星には攻撃を実行する司令船として2隻のブロック船が格納されている。
突撃艇のパイロットもこの司令船から操作を行う。
大型小惑星を壁として使い減速、速度を落として離脱し安全な距離を取る。
離脱のタイミングや今後の作戦計画はステーション射出前に連絡済み。
それぞれが対応する事になり変更の必要がある時や緊急時のみ相互に無線連絡。
司令船の乗員は前回のリラ軌道戦に参加し最後まで残っていた船の人たち。
戦いを経験しているから上手く戦えると思っての事だ。
戦闘が始まるまでのこの時間帯でステーション最後の作戦行動はガーランドの放出。
司令官がステーションを離れるのはどうかと思うが戦場での指揮が必要と言えば受け入れられた。
リラ軌道戦での事もあるから受け入れられただけだろう。
ステーションは戦闘には参加しないから司令官不在でもなんとかなる。
ガーランドで戦闘をするのは俺よりはセリナに都合が良い。
乗員は俺とセリナだけで人目が無いから物質生成機も使えるし自由に行動出来る。
今回は本当にどうしようもなくて全力で対応するとしても速度と距離の問題がある。
対応出来ない事も多いだろうからセリナの各種能力を過信してもいけない。
順調に作戦行動が成功するのが一番良い。
前回の戦闘よりは危険は低いはずで犠牲者も少ないはずだ。
セリナが自分でも戦術分析を開始しその情報を表示していく。
操縦ブロックでの配置は戦闘用ガーランドの時と同じ、左側に俺が座り右にセリナ。
8時間が経過し戦闘まで12時間の段階で探査機からの追加情報が届く。
フリーダム艦5隻の速度に変化なし、配置が換わっており戦闘準備中と思われる。
すでに反転し前に2隻、後方に2隻、中央に1隻。
中央の艦が守りたい重要な艦かもしれないので攻撃対象から外す。
突撃艇の攻撃目標は前方2隻と後方1隻。
前方2隻と後方2隻の艦は高さが違っているのでそこから来る巨大レーザーへの注意勧告。
マスドライバーの岩石群攻撃は回避を選択し移動中。
開けてある場所はこちらから接近するのにも問題が無く順調だ。
警戒はしつつ状況を見ながら緊張の続く時間を過ごすしかない。
探査機からの情報は定期的に送られてくるので確認しつつ変更点があれば指示。
その連絡でレーダー探査を受けた報告もありフリーダム艦からの攻撃は確実。
残り4時間超えると本格的に戦闘に向けた待機時間。
大型レーザーの性能が不明であり4時間以降が警戒区域。
大型小惑星を迎撃するのであれば遠距離からの攻撃だけでなく連続した攻撃も予想される。
これについては接触3時間前にさらなる警告を出せた。
セリナの熱源の分析から前方2隻のフリーダム艦が大型レーザーの待機中確率が高い。
他の船は変化がなくレーザー中心の船が前方2隻と推測。
残り3隻については軌道戦で戦った船とは違う可能性、注意勧告を出す。
接触まで2時間となるがまだレーザーは来ない。
この距離でもレーザーの発射から到達まで24分くらい掛かる。
攻撃は来なくてもこちらは準備を進めていく。
軌道戦の時と同じく大型小惑星をふたつに分離。左右の軌道と上下の軌道。
ここで分離し軌道を変えてフリーダム艦を揺さぶるがレーザーは来ず。
あと1時間でフリーダム艦と接触という距離まで来た。
無線中継器の放出が始まるし追加の探査機も射出する。
フリーダム側からすれば軌道から外れたのに接近してくる大型小惑星は脅威のはず。
攻撃と認識しているだろう。
破壊するか小惑星の軌道を変えるかいずかの対応をしなければ直撃する。
攻撃の始まりはやはり大型レーザーだった。
フリーダム艦からのレーザー発射を観測し小惑星に直撃。
分離した一つずつを狙っての攻撃だったが破壊には至らない。
小惑星の表面ではなくその下、フリーダムに向けている面には鏡が仕込んである。
光子ロケットに使用されているもので光の反射率が高いからレーザー防御用に良いはず。
元々大きな岩なので熱量で溶かすとか破壊するのは大変なはずだ。
レーザーの発射後に小惑星内部に格納していた突撃艇母艦が出撃。
小惑星の役割はここまで。突撃艇を守れれば良かったのだ。
小惑星自体はロケットによって加速、機雷とミサイルを放出し戦闘が始まる。
ダミーとして用意したブロック船もどきも分離、フリーダム艦に向けて加速。
前回の戦いが伝わっていればこちらの作戦はブロック船による接近戦と判るだろう。
フリーダム側が散布した機雷は探査機で発見済み。
小惑星からの爆散機雷によってそれを除去いくつかの大型ミサイルが加速開始。
突撃艇母艦は4隻、フリーダム艦隊に対してはそれぞれ別方向から接近を開始。
搭載されている突撃艇がいつでも分離出来るように準備されて大型ロケットを点火。
今の速度からの加速は難しいがそれでも少しは速度が上がる。
突撃艇の突入方向を修正するのが一番の目的。
加速開始と共にフリーダム艦からレーザー攻撃、前方にある中型レーザー4門。
4隻から計16本の光線がそれぞれの母艦へ向けられて突撃艇分離。
この辺りはセリナが分析し瞬時に指示を出す。
分離、加速開始すれば突撃艇の機雷、ミサイルがそれぞれの攻撃目標に向けて発射。
フリーダム艦の機動力次第でこの攻撃でも致命的なはずだ。
質量兵器が小惑星破壊に放たれ小惑星は残っていた機雷、ミサイルを射出。
大型レールガンも距離はあるが撃てるだけ撃つ。
接近していく突撃艇に向けて迎撃のレーザーが放たれていくが何機かは上手く避けた。
予め接近時に秒単位で軌道を変えて回避しているのはブロック船の時と同じ。
ただ操作時差があるから上手く行っているかは操作側には判らない。
大型レールガンの攻撃は突撃開始から始めて搭載弾数10発を打ち切れるのが理想。
「小惑星B、Cが質量兵器で破砕、大型レーザーによる攻撃で消失しました。
後方敵艦より大型ミサイル24確認、小惑星A、Dが破壊もしくは軌道変更されます。」
戦況分析を離れた場所にあるガーランドで確認しセリナの報告も聞く。
戦闘が始まると一気に慌ただしくなるが今は見ているくらいしか出来ない。
船を操作しながら色々考えるとか確認しなくて良いから楽なものだ。
全体的な状況を確認しつつ注意して何か起きれば対応していく。
よりシュミュレーターで訓練していた時と同じ状態で作戦に挑めている。
人員損失が無いというのも大きい。
今回の戦闘の中心は突撃艇のパイロットたち、俺はほとんど参加していない。
無数のモニター表示を見て司令官らしく指示するのが仕事だ。
ちらと探査機からの映像を見れば無数のレーザーが放たれ爆発の起きる光景がある。
小さく映るフリーダム艦5隻が全方向に光線を放つ光景は圧巻だが映画のようにも見える。
「ガーランド突撃艇2機による遠距離攻撃、成功しました。
ブロックの活動を確認、情報収集を開始します。」
ガーランドの突撃艇2機は他の突撃艇とは違う方向から接近、攻撃する事になる。
1機は俺用ということだったが両方ともセリナに操作を任せた。
セリナの操縦の方が確実に戦果を上げる。
今はかなり離れた位置からレールガンを打ち込んでおりここから接近させる。
少し時差があるので撃破しきれない場合はこの2機の突撃艇で攻撃を加える。
「小惑星B、Cが質量兵器で破砕、大型レーザーによる攻撃で消失しました。
後方敵艦より大型ミサイル24確認、小惑星A、Dが破壊もしくは軌道変更されます。」
小惑星群の機雷、ミサイルは83%が迎撃されました。
突撃艇レールガン命中確実27射、1隻は大破確実、もう2隻は推測不明、戦闘継続可能と予測。」
後方のフリーダム艦がどうやらミサイルや実弾攻撃を中心としているようだ。
対機雷用のミサイルがあるらしくそれによる迎撃率が高くて苦戦中。
「敵艦からの妨害を確認、突撃艇の操作が遮断されます。
通信妨害による影響、中央フリーダム艦が各種妨害、情報攻撃を行っています。
こちらで分析、対応します。」
状況モニターで見れば突撃艇は12機、半数が撃破された。
「セリナ、大丈夫なのか?対策は?」
無線操作が使えないなら突撃艇は操作出来なくなる。
やっぱり戦闘は作戦通りに簡単には行かない。
この可能性も十分にセリナから説明されていた。
最初の部分は前に入れておくべきでした。
結局こっちの終わりが半端な感じに。
感想ありがとうございます。
色々聞かせて頂けるのは励みであり参考に出来ありがたく受け取ります。