4-3 ギルドの提案:宇宙船の推進機
作戦準備期間2日目。
この日は宇宙船の設計に関して終わらせてしまう予定。
ギルド員の調査はすでに終了しており現在ある部分の補強計画は提出、確認済み。
今後の作戦や計画で必要な部分について終わらせてしまわないと作業が進まない。
昼頃にリラ4からの最初の資源が到着するからそこまでにはある程度形にしておく。
朝食後すぐに打ち合わせ。
破棄ステーションの中央、コントロール部分には会議室があるのでそこを使用。
中央部分については他の部屋は宿泊に使っているし派遣されて来た職員によって食堂も運営開始。
食事関係については軌道ステーションに入っているお店が昼頃から何件か開く。
この辺りは行政府の働き掛けもあって急遽ではあるが決まったそうだ。
宇宙船が発進してからも営業するかは検討中。
宇宙船の設計という点ではそんなに複雑ではない。
戦闘用の船ではなく移動用の船として使うからだ。
これについてはちょっと複雑で今回は接近しての戦闘はしない。
フリーダム艦の移動速度が速く戦闘を行うとしてもかなり距離が開いての事だ。
フリーダム艦の移動速度は時速300から320万キロ。
最大速度については不明、あくまで前回セリナが観測していた時に計った速度だ。
ガーランドで普通に加速し続けてもそこまでは届かない。
その船に接近して戦闘を行うとしたらそれよりも高い速度でないと追いつかない。
移動進路が変わらないとすれば交差軌道で接近出来るかもしれない。
その場合でも船は移動しているので攻撃可能な時間は数秒あれば良い方。
宇宙船での戦闘は基本からして違うのだ。
基本的には遠距離戦、しかも向こうには光線兵器があり有効射程は広い。
1万キロは超えるしもっと広いだろうということだ。
そんな訳で宇宙船で直接戦闘をしないのは決定している。
戦闘を行い破壊されてしまえばフリーダム艦は止められない。
まずリラ星系に入る前に攻撃し、止められなかった場合はリラへと戻り迎撃戦を行う。
そうなると宇宙船の質量をまず計算し必要な加速度、推進力を出さないと行けない。
ある程度接近してそこからリラへ戻れる速度は必要だ。
フリーダム艦もリラに近付けば減速するから追いつけるはずだ。
司令官として作戦に必要で作って貰う施設について説明していく。
この辺りは一方的で良いから楽だ。
作る施設が決まっていれば後はそれに基づいて推進力の計算、設置する推進機を決める。
核推進では速度が足りないから大型の核パルスロケットを5基。
中型の核パルスロケットを多数。数で速度を稼ぐ方向性だ。
最後部に4基を設置し円筒形のステーションにびっしりと中型を配置する。
ギルドの設計者からは大型8基という提案もあったが生産性の問題がある。
中型については資源をここからリラに運び生産ステーションで生産、完成品を輸送する。
その間に大型を完成させてそこから中型に取り掛かるのだ。
宇宙船の補強に使う部品などは同様に生産ステーションで作られてから運ばれる。
まず推進機を設置して場合によっては補修作業は航行しながらも続ける。
出来るだけ早く出航し速度を稼ぎフリーダム艦との距離を詰める必要があるのだ。
それらの計画を説明していくし必要な資料はセリナが完璧に用意しているからスムーズ。
今回の会議は指示するだけなので非常にスムーズ。
今後の建造スケジュールなどはギルドに丸投げするのだ。
1時間程であっさり終わって楽なものだ。
「イスト司令官、発言を許可願いたい。」
質問を受け付け一通り終わったタイミングでこれで終わりかなと思ったタイミングでの発言。
会議室の中ほどに座っている私服の人物。
私服だから引退したギルド員だろう。
今回は制服や作業用のつなぎを着ている現役職員だけでなく引退組も動員されている。
これは出航後も船に残って作業してもらう必要があり人員が足りないのだ。
現役職員は出来るだけリラに戻って今後のリラの為に働いて欲しい。
この宇宙船がリラに戻らない可能性はある。
重要な人材を失うのは避けた方が良い。
発言した人物には見覚えがある。
昨日ガーランドに乗っていた人で光子推進について色々と話が膨らんだ人だ。
自己紹介された気がするが名前を覚えれていない。
さっとセリナが端末に情報を送ってくれた。
OT-コルスト、元ギルド職員だが退職は2日前。
開発部所属で宇宙船関連技術中心、実地に出る事も多く技術も確か。
退職2日前ってなんだっていうのと役職が部門長、その部門を管理する一人だったらしい。
どんな事かまあ話しを聞いてからだろうな。
「OT-コルストさん、発言を許可します。」
「ありがとうございます。
イスト司令官、ギルドは今回の計画についてリラ最高の技術を投入すべきと結論しています。」
この場にいるギルド員全員の仕草、態度から同意が伝わる。
事前に知っていたという事でもあるのだろう。
「詳しいお話をお願いします。」
「このステーションはリラ6で建造、核パルス推進によってこの地点まで運ばれた。
その技術体系はまだ残っており核パルス推進であれば安定しての運用が可能だろう。
だが今回の計画には不適切、時間が必要というならばもっと大きな速度が必要。
ギルドとしてはこの宇宙船には光子ロケット、光子推進の搭載を求める。」
光子ロケットを使用するという点は検討はしてみた。
結局不安定で今回実用するのは見送って核パルスにしたんだよな。
フリーダム艦を観測する時は安定していたように見えた。
それはセリナが24時間体制で監視、調整した結果でしかなくて5時間から10時間の範囲で速度を安定させていたからに過ぎない。
もう少し時間があり使用した時の情報蓄積が出来て研究が進めば使えるだろうという事。
「光子ロケットについては未完成な部分が多く今回の投入は見送ります。」
「光子ロケットの運用目的を思い出して頂きたい。
星系間移動、銀河間移動など光速を使用する船への搭載し運用する目的で開発されている。
、つまり大型船に搭載するのが本来の形。
ギルドでの研究によってシステムを大型化する事で安定度は高まる。
他にも・・」
カンカンと突然拍子木が打ち鳴らされた。
出席者の1人が打ち鳴らしたようでよく見れば何人かが机の上に置いている。
「失礼、研究についてはまたいずれ。
ギルドは光子ロケット完成に向けて研究を続けて来ており今回のチヤンスを逃すつもりはない。
無論研究不足で未完成の機械を使うなどギルドの誇りに掛けて行なわない。
我々ギルドが時間を買おう。
光子ロケットの建造、実証する為の時間を得て使用可能であると証明しよう。
使用に耐えうると判断した時は光子ロケットの投入を再検討して頂きたい。」
時間を得るなんて事が簡単に出来れば苦労はしない。
もっとも今欲しい物ではあるしな。
「どのように時間を得るのか説明してください。」
「イスト司令官は労働追加報酬はどのように支払われるかご存知か?」
「現金化、リラ運営への投資、資産への変換ですね。」
労働追加報酬というのは仕事でより効率の良い方法を作るとか売り上げを伸ばすとか通常業務以外の部分で評価された場合に得られる報酬だ。
これについては行政府から支払われる。
よく覚えているのは学校の試験で定番の問題だからだ。
ガーランドの業務であれば貴金属を採取した場合や不足金属を一定量採掘出来た場合などに支払われる。
現金化はそのまま追加報酬、運営への投資は一定期間後に利息が追加して支払われる。
投資期間が長いとより利息が増える。
資産への変換は実際に購入するより少し安く購入が出来るし不足分は現金で補える。
運営投資と資産変換を組み合わせるのが住宅購入の基本プラン。
「ギルドでは個人研究の為に資産変換を行い希望の資源を確保する事が多い。
それらはギルドで把握しており緊急時や行政府の要請時などはギルドが1.2倍の価格で買い取る。
これはギルドの協定で定まっている。
今回ギルドはすべての個人所有資源を買い取り大型物質生成機を建造、本日到着する。
また残った資源で光子ロケット関連を建造可能だ。
物質生成機2台による生産で時間を得る。
大型物質生成機は100mサイズを生成可能だ。
こちらを使えば核パルスロケットの生産を予定より短時間で終えられる。
これがギルドが時間を得る方法だ。この提案はいかがだろうか。」
出席者全員の視線が集まった気がする。
ギルドというかここに来ている者の総意と言っていいのだろうか。
セリナからはなんの反応も無い。のは俺が判断しろという事だろうな。
こっちで判断して良いならこの提案は受けたい、了承する。
コルストさんの光子ロケット関連の知識は確かだった。
任せて問題ないだろうし色々と研究結果が聞けるだろうから興味がある。
何より光子ロケットが実用化されるかもしれないんだ。
その可能性があるならそれは試して見たい。
ギルドからの提案だしそこまでギルドが光子ロケットについて考えているとは思わなかったしな。
まあ光子ロケットが実用化されても今のリラだと余り使い道は無い。
40光年の距離まで移動するとしても80年とか60年とか必要だ。
別の恒星系に行くとしてもそれだけの時間を掛けてまで行く事は無い。
必要になるならそれこそ移民する時とかだろうと思っている。
ただ小型化して安定して稼動する光子ロケットがあれば事情は変わってくる。
出来ればそこまで研究が進んで欲しいものだ。
少し思考に沈んだがセリナからの反応はやっぱり無い。
「判りました。その提案は受け入れましょう。」
判りやすく集まっているギルド員たちが歓声を上げる訳ではないが良し、やるぞと言った感じに変わった。
俺も喜んだりはしないが期待は広がる。
ただセリナがすっと立ち上がりこちらを向いた。
何か言いたい事はあるのだろうしまあ悪くはしないだろうから頷く。
「この提案についてですかスケジュール管理をする側として条件があります。」
条件と言われたからかギルド員たちがセリナに注目した。
「大型核バルス推進機を先に2其、建造して頂きます。
その建造完了速度によっては提案は破棄させて頂きます。
光子ロケットが使用出来ない場合は提案した計画で推進機は建造して頂きます。
その切り替えを判断する材料として建造時間を参考にスケジュールを調整させて頂きます。」
「建造時間を把握しておくのはスケジュール管理側として重要なのは理解した。
2其、計画の半分というのも何時でも変更可能な保険としては納得出来るラインだ。
核パルスの建造についてはこちら主導で進めて構わないのか?」
「どのように進めて頂いても構いませんが実際の建造時には同様に行って頂きます。
140時間後に宇宙船は出航可能でなければなりません。
スケジュールの遅延は一切認められませんが構いませんか?」
「それならば問題ない。作業を開始するぞ。」
「お待ちください。光子ロケット関連について打ち合わせが必要です。
試験を行なっているガーランド側から提供出来る情報もあるでしょう。
イスト司令官の時間がありませんのでこれから会議を行ないます。
担当者、専門家などはご出席ください。」
気合を入れて立ち上がったギルド員達の足が止まる。
何人かが顔を見合わせてから中央に集まり相談が始まるし周辺の者へ指示を出していく。
その間にセリナから端末で情報を提示される。
「光子魚雷の結果を縮小モデル実験として提供します。
前回の航行時の結果についてはどうしますか?
提供するとしても航海記録としては残しておりません。
誤魔化す手段が必要です。」
「別にどの推進機を使用したかまで記録している訳じゃない。
長時間の稼動実験とすれば公開して構わないし実験時期も明確にする必要は無いと思う。
ただそれの公開はギルドの話しを聞いてからにしよう。
俺自身が持っている情報もあるからそれを提供すれば解決する問題もあるかもしれない。」
「イストの持つ情報ですか?」
「ガーランドの情報すべてを知っているセリナでも気が付いていない情報かもな。
光子ロケットとその動力関係は色々複雑なんだよ。」
セリナがちょっとむっとした感じの顔になる。
知らない情報があるという事についてだろう。
「期待しておきます。」
3名のギルド員が近付いてくるのを見てその一言で席に戻る。
1人はコルストさん、今回の事を話していた事からも代表なり責任者なりなんだろう。
後は研究者っぽい人がひとり、もう1人は実務担当だろうか。
「打ち合わせという事だが何をするつもりだ?」
「光子ロケットの実用化に向けてお互いの情報を公開し検討します。
ギルドの研究についてはデータベースに公開されていない情報は確認出来ません。
ガーランド側も同様です。先に確認した方が良い情報があると考えました。」
ギルド員たちは椅子を持ってきて正面に座る。
全員が研究者というか学者というか知的好奇心を丸出しにして端末を取り出し席に着いた。