3-15 リラ軌道戦:1 作戦開始-光子魚雷
アラーム音で目覚めてモニターの表示が目に入る。
休憩室に行こうと思っていたのにここで寝てしまったんだな。
作戦の最終確認をしていたからそれがモニターに表示されたままだ。
起こされていないから大丈夫だと思うが時間を確認すれば作戦開始までは2時間程ある。
大きく伸びをして小さな休憩室に行き身支度を整える。
それから食事、もっと新鮮な物も用意できるがいつも使っている保存食だ。
いつもと同じ感じにしたかった。さっと食べて再び操縦席へ。
「セリナ、状況は?」
「順調に進行中です。24分32秒後に帰還予定です。」
150人近い乗員を前にして就任挨拶から作戦会議。
その後すぐにガーランドは軌道エレベーターステーションに移動。
到着後セリナは準備を始め俺は仮眠。
寝なくても大丈夫そうだったが無理をしてミスが出るなんて問題外。
仮眠中にセリナはステーションで物質生成機を使って改造している。
火災や爆発の影響で分離してしまったステーションの残骸は予定のコースで移動中。
サティッシュの起こしたステーションの制圧を利用して計画が早まった。
事故、資源が起きていると報道されているが詳細は伏せられている。
サトウのじいちゃんや行政府が絡んだ事だ。
もちろん予め下準備はしてあったから急に作戦を始めても問題はなかった。
少しずつ進められていたブロック船の戦闘用改造などがそうだ。
ステーションの事故による分離もそんな事は実際は起きていない。
計画的に改装中の部分を分離したのをそう偽装しただけだ。
改装部分には余った武装も運び込まれていた。
ミサイルや機雷が配置されているからそれもセリナが適切に配備しているはずだ。
モニターで作戦状況、他の船の位置やメッセージを確認、それぞれ問題はなく順調だ。
ガーランドは救助者探索の為にここに来た事になっている。
他の船が遅れているのは生産ステーションも事故で船が発進出来なかったから。
そういうシナリオで連絡各種も作られたものをやり取りしている。
時間は01:12、作戦は2:30開始。
フリーダム船内のスケジュールは不明だが真夜中の方が対応が遅れると期待しての事だ。
ステーションからの離脱時間が近付いている。
透過表示のモニターを表示してガーランドの発進準備、コンピューターに指示して各部状態確認。
無数の項目が確認されわずかな間でモニターに結果が表示、よし、問題なし、オールグリーン。
宇宙服を着てヘルメットも装着、操縦席に座りモニターを複数表示して戦闘用に調整しておく。
外のハッチが開いたのはセリナが戻って来たからだろう。
後部にあるエアロックが開くと宇宙服を着たセリナが入って来た。
「イスト、おはようございます。」
「おはよう。そっちの準備は完了か?」
「予定よりも進みました。しかしまだ不足と計算出来ます。」
「急な変更だし仕方ないだろう。離脱の時間だ。」
ヘルメットを被りバイザーを降ろして宇宙服をチェック、こちらも問題ない。
セリナも同様にチェックして右側の席に座る。
「船内空気を排除、ガーランド二十三は戦闘モードに以降します。」
戦闘で船が破損して空気が抜ける事がないように予め空気は抜いておく。
このまま戦闘中は宇宙服を着たままだ。
これはいつでも宇宙に逃げられるように、放り出されても大丈夫なようにだ。
すでに待機状態のガーランドの出力を上げていくが当然問題はない。
ここからガーランドが離脱するのは作戦開始の合図でもある。
「ハッチ解放指示送信、船体制御。」
船の真下がハッチになっており両開きで左右へとスライドして開いていく。
開き始めたら少しだけ船体を浮かべて姿勢を安定させておく。
ハッチが完全に開いたのが確認出来たら船をゆっくりと下降。
安全な距離まで離脱したら一度減速しステーション残骸を先に行かせる。
途中でゆっくり加速を始めて残骸の後方を追うように位置して同じ速度で飛ぶ。
「こちらガーランド、分離したステーションから離脱。
内部では火災発生中、動力停止によりステーションの姿勢制御、各機能は停止。
船による牽引が必要です。応援と対応をお願いします。」
了解の返事が来たのが7隻、最初の攻撃に参加する船だ。
今回の作戦に参加する船は大型2隻、中型3隻、小型7隻。
中型2隻と小型5隻、それからガーランドが最初の船に攻撃を行なう。
残りの船はもう一隻のフリーダム船に接近する時の速度を確保する必要があるから今は待機。
ステーションの残骸は分離後リラ6からは見て少しずつ上昇しそのまま離脱していく軌道。
フリーダムの船2隻はリラ6を周回している。
軌道エレベーターもあるので衛星軌道ではなくもっと高度は高い。
残骸は周回する2隻の中央を通り抜ける軌道なので侵入禁止距離には接近しない。
2隻のフリーダム船、同じ方向を向いているので便宜的にターゲットA、Bとした。
Bは後部を残骸に向けている船で座外からは距離がある。
Aは船の正面を残骸に向けている船で最初の攻撃目標。
残骸に向かって進む船なので正面からであれば物質衝突時にその速度が加算出来る。
少しでも被害を大きくする為の選択。
他の作戦参加船も徐々に接近し開始位置に待機していく。
「イスト、開始2分前です。各船に通達。
ステーション残骸分離後の軌道変化は注意してください。」
「了解、各船にメッセージ送信。」
[作戦を開始。各船の無事を祈る。]
何度か文章を追加してみて結局短く纏めた。
蛇足というかしっくりこなかったからだ。
セリナは無線で号令というのがこういう場面では適切だが無線が使えないのが残念と言っていた。
後でその時の気持ちを他の船の乗員から調査したかったとセリナの理由だったけどな。
作戦開始時間となりステーションの残骸はまず2つに分離される。
質量の40%程の部分がターゲットBへと向かい、残りはターゲットA方向。
爆発によって分離したように見せかけておりまだフリーダム船への激突軌道ではない。
爆発の衝撃以上に加速されているのは固体ロケットで加速しているからだ。
噴射炎が見えないようにしてあり短時間だが加速する。
ターゲットB側の残骸はゆっくりと軌道を変えつついずれ2つに分離する。
それを追う軌道を取る船はうまく調整してターゲットAに対して攻撃出来る位置を取る。
ガーランドと他7隻がターゲットAへの攻撃部隊。
残骸の後方、安全距離を取って集結しているがすでに加速中で軌道は3種類。
ステーション残骸は再び爆散し今度は5つになる。
左右の二つは攻撃部隊をレーザーから守る盾。
その後ろに入れるように最初から船の速度、軌道は調整されており確認したが問題ない。
中央の3つの残骸はこのままターゲットA、フリーダム船に向かっていく。
ガーランドはその後方を加速して追尾。
今船体の左右に装備されているロケット、光子魚雷を使うには正面軌道が必要な為だ。
予め移動させていた大型レールガンはターゲットAの後方攻撃位置に配置出来ている。
これは無人でこちらから無線による攻撃指示を出す。
それを準備し周辺の船に対しても攻撃開始合図を用意。
攻撃開始に合わせて通達をする。
この辺りをこちらで行なうのはセリナが光子魚雷の制御で動けないからだ。
少しでも負担を減らすということで出来るだけ最初数秒の指示は俺が出す。
こちらの準備が終わったがセリナもすでに無数のモニターを表示している。
25、6は開いているな。上にずらっと並んでいるのは各船の情報のようだ。
「イスト、こちらは光子魚雷の制御に入ります。
緊急時はモニターにメッセージ表示しますのでご対応ください。」
「シュミュレーターの時と同じだろ。大丈夫だ。」
こちらを見て頷いてセリナが目を閉じシートに深く座る。
いつも動かしている機械の身体も制御せずにすべてのリソースを注ぐそうだ。
何かあって飛ばないようにすでにシートベルトがされている。
やるかという気分で作戦時間などを表示してあるモニターを見る。
すでに作戦は始まっているんだけれど普通だ。特に緊張という訳でもない。
直接は外が見えない密閉型の操縦ブロックのが大きいかもしれない。
シュミュレーションと同じ。
フリーダム船を見る事もなく目の前の各表示、情報、データを見て対応していくだけ。
あまり戦闘をしている実感はない。
フリーダム船の前方下部、正面ではなく側面をしたから上に抜けていく軌道。
ターゲットの範囲を最も広い面積で破壊出来る軌道が攻撃軌道。
フリーダム船の侵入禁止距離直前で残骸はさらに爆散。
大きめの残骸は固体ロケットによる加速、これは噴射炎を隠しはしない。
爆散直前に5つの残骸からはミサイルと機雷も発射された。
いくつもの噴射炎が上がるのをモニターで目に入れながらガーランドの進路を調整。
タイマーのひとつに合わせて右側のロケットを分離。
光子魚雷は固形ロケットで加速されガーランドから離れていく。
無事にロケットは軌道に投入、瞬間だけ最大出力でガーランドを離脱させる。
ロケットは発射前の一瞬だけ有線制御。
外部のカメラ映像を表示させているがロケット後部が爆発し眩い閃光が起きた。
それが合図なので各船と大型レールガンに攻撃指示を送信。
レーダー拡散用の防御気体を散布、モニターにはすでにフリーダムのレーザーが無数に表示。
周辺の残骸などを迎撃している。
ガーランドも進入禁止範囲に入ってしまうが盾として小型の残骸が用意してある。
その後ろに入る込む前に2度レールガンに攻撃指示。
残骸のを盾にしても船はランダムに回避軌道を取る。
ガーランドは航法コンピューターが勝手に回避軌道を行なうから手間は無い。
魚雷発射、攻撃指示、ガーランドの移動、レールガンの攻撃と行なって船体の熱量増加警告。
レーザーが船体に直撃したがなんとか被害はない。
後方の防御システム残量が減っている。
『<判断要請>
先制攻撃/被害推定:船体破損32%:戦闘継続可能
>追加攻撃申請/光子魚雷:投入軌道算出≫表示[FT4786]
/各船支援要請:支援内容≫通達準備完了
>>追加攻撃/被害推定/ターゲットA破砕:戦闘能力喪失』
最優先に設定しているセリナからのメッセージ。
「優先申請実行、コンピューター、進路変更[FT4786]」
音声支持が出来るようになっているから船の旋回を始めながら指示。
進路の指示は別に表示されていたからそれを見ての移動。
左側のロケットはすでに分離された。
今回も固形ロケットで加速するが即座に安全距離は取れない。
最低限の安全距離で光子ロケットを起動する。
ガーランドにある専用の動力炉、それを小型化したものを最大稼動させ小型の核爆発が起きる。
その爆発力でロケットが加速、同時にロケット内に発生した光子を取り込む。
ロケットの1段目が固形ロケット、2段目が光子ロケット、3段階目が光子加速。
取り込んだ光子の増幅を繰り返し一点に集中し大きな加速力を得る。
その加速力で射出されるのは弾頭、後部は爆散魚雷、前部は大型レールガン弾。
光速23%以上へと加速されレールガン弾頭が分離拡散、その後で機雷が爆散。
計算され爆散した機雷の破片は広がり適切な被害を与える。
破片の形なども被害が大きくなるようにされた機雷だ。
単純に質量と速度で船を破壊する危険な障害物。
光子ロケットの爆発が終わるとモニターのフリーダム船は引き裂かれ後部に大きな爆発。
それはフリーダム船を包み込んだ。