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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
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3-14 宇宙軍総司令官の理由

物質生成を終えてリラへ帰還。

確認したらセリナの備蓄物資的には最初に出会った時と同じくらい、ほぼ初期状態。

リラ4の採掘もあくまでサンプル収集の範囲内でしか行なえないそうだ。

緊急時の船体維持条項を適用してそれよりは多く資源を集めたらしい。

周辺環境を変化させてしまうような事はツキヨミでは禁止項目。

接近中のフリーダム船への準備もあるから出来れば小惑星に採掘に行きたい所だ。


帰還途中に生産ステーションで作戦会議を行なうと連絡があった。

作戦参加船の乗員すべてが集まる会議。

そこで挨拶しろと言われたけれど後回し、先に変更された作戦の細部を打ち合わせ。

セリナがAIだとかで船なのを隠しているからその辺り含めて計画しておかないといけない。

分離されたステーションで生成機を使うタイミングが必要だ。

挨拶についてセリナに手助けを頼んだら今回はご自身でどうぞと断られた。

知識の提供をと言ったが今後の為にもまずは自分で考える方が良いと。

こんな経験次があるとは思えないんだがデータベースでサンプルを検索中。


生産ステーションの皆とではなく最下層に係留しコンテナを引き渡し。

すでに分配については纏めたデータを渡してあるから待ち受けていたギルド員達が作業に入る。

こちらはステーション職員の案内で移動。

作戦会議は親睦会を行なった施設を使うそうだ。

すでに他の船の乗員達は集まっているロビーを簡単な挨拶を交わして通り抜けた。

小会議室に入れば各船の代表が席に着いていた。

他にもステーション職員だけれどあの特殊な制服は生産ステーション長官、この施設の最高責任者。

元行政府開発長官ギードリアさん、じいちゃんと時々飲みに行ってたから知っている。

行政官の制服を着ているが元行政官じゃなかったか?

カタオカさんは輸送関係の調整役で宇宙船乗りには馴染みがある。

大人たちばかりで真剣な会議前という雰囲気で挨拶も無く入ってしまい足が止まった。


「イスト君、待っていました。セリナさんもこちらへ来てください。」


カタオカさんの呼びかけに応じるしかない。

呼ばれて座るように言われたのは丁度空いていた正面中央の2席、他の偉い人たちの真ん中だ。

こんな所に座らされても困るぞ。


「気楽にしてください。

 会議の前にイストくんと船の代表に重要なお話があるのです。

 こちらはドーキンス長官、このステーションの最高責任者。

 ギードリアさんは臨時行政官として行政職務に復帰されています。

 おふたりは見届け役です。紹介はしましたが今はほうっておいて構いません。

 緊張している若者の事で気分を害するようなつまらない大人ではありませんから。

 さあさあ、先に重要な事を説明してしまいましょう。」


そうやって語りながらカタオカさんは立ち上がりさっと俺の背後から肩を押して席に着かせる。

セリナはその後ろをついてきてすました顔で隣の席に着席する。

他の大人たちの視線が集まっているのを感じつつカタオカさんに言われてそちらには背を向ける。

前に立っているカタオカさんの方を向く。


「本日の私は行政府のお仕事です。

 イストくんに色々な事を説明するために派遣されました。

 一時的に役職を与えられていますのできちんと記録にも残ります。」


カタオカさんがさっと端末を操作すれば背後のモニターにIDが表示された。

輸送制御官という役職の隣に宇宙軍経済官とある。

リラで官とついた役職は行政府に関係するものだ。

補佐官、官、長官、などいくつかあって偉さとか立場が違う。


「他のみなさんを集めているのは行政府の方針についてオープンにするため。

 今回イスト君にお話する内容についての証人としてですから気にしないでください。

 じゃあ説明しますね。」


カタオカさんが丁寧で静かに語ると自然と聞こうという気になる。

こちらの頷きで説明を始めて時々モニターに必要な情報を表示していく。

話を締めくくるとモニターには今までの情報を並べて表示しておりさすがに説明は上手い。

話の内容は俺の計画について行政府が有効性を認め認可、支援する事。

計画の発案、実行技術の提供等の功績に対して役職[宇宙軍総司令官]を与えるという事。

役職についてはすでに署名しているから知っている。

後は俺が未成年の為発生する損害や責任については全て行政府が受け持つ。

これからは計画は行政府が実行するという事。

何かリラに対して有益な事を行なえば行政府から認可され補助や支援があるのは知っている。

じいちゃんたちが好き勝手やったせいで作られた制度だ。

なんとなくだがそれの大きな物という感じだ。

始めたのは俺だから責任については自分で取るつもりだ。


「イスト、この提案は受け入れましょう。

 おそらくサトウ氏もこれには関係しています。

 今後の損害について行政府が請け負うのは良い事です。

 イストはすべての責任を持ちたいと思うでしょう。この提案を受けてもそれは変わりません。

 イストが果たすべき責任は多くあります。

 この提案はその責任という部分でも寧ろ計画に参加して頂いた皆様の為にも受けるべきです。

 損害と表現していますがそれは失われるかもしれない人命です。

 命に変えられる物はありません。

 その責をイストが負ったとしてもイストが残された家族に行なえる事はなんでしょう。

 失った命を返す事は出来ません。破壊された船についても難しいでしょう。

 施設の被害も補填するのは可能かもしれませんが困難です。

 そういった補填、補償などを行政府が行ないます。

 その為責任という部分を行政府が負うのです。

 イストに負担を掛けないため、参加された方々の負担を減らすための措置、提案でしょう。」


確かに俺では亡くなった方たちの遺族にはほとんど何も出来ない。

生活の保障とか金銭による補填とか行政府なら色々出来る。


パンパンパンパンとゆっくりとしたペース、大きな音で拍手するギードリアさん。


「こうも見事に解説されてはこちらの意図が丸見えだな。

 確かにこれについてはサトウ氏から提案され行政府が練り直した提案だ。

 責任問題等は行政府に押し付けておけ。こちらが引き受ける。

 イスト君は計画を成功出来るように全力で取り組めば良い。

 計画は行政府が実行するとあるが今までと変わらない。

 計画について判断し実行するのはイスト君だ。

 驚かぬように説明しておくがイスト君の役職は行政官だ。」


ギードリアさんが言葉を止め周囲を見回す。

船長たちがさすがに声を出したりはしないが驚いているのが判る。

何か言おうとした船長もギードリアさんの視線に口を閉じる。

俺だっていきなり行政官と言われば驚く。

行政官とは貰った書類、呼んだ書類には一言も書いてなかった。

たぶんサトウのじいちゃんはわざと全部書かなかったんだ。


「無論未成年である為特別措置であり与えられる権限などは制限される。

 権限の適用はリラ全域、扱うのは各ステーション、宇宙船、各種兵器、兵士、軍。

 これらを扱う役職は存在しておらず上位、下位官位、特別官位では権限適用が不足。

 適切な役職は行政官であると行政府が新設した。

 その権限に基づき様々な制約もある。権限の不正使用に対してもペナルティがある。

 特殊かつ重要や役職である為、罰則は重く、制限も多い。

 行政府の信頼に答えてこの役職の役割を果たしてもらいたい。」


決められていたようにカタオカさんが自然にすっと立ち上がって周囲の船長へと向く。


「今回の役職任命について遅れたのはこれからしてもらう契約が関係しています。

 それは行政府公式の物であり記録される為です。

 行政府の対応はBN-イスト宇宙軍総司令官任命日より開始となります。

 これは今回の各ステーションの事件にも適用させて頂きます。

 今後契約されていない宇宙船、乗員は作戦行動に参加出来ません。

 死亡する危険が多大な為の措置です。

 各船代表者にはこの場で参加、船の提供について決定して頂きます。

 同様に各乗員にも契約内容を説明し対応してください。

 ここが最終地点です。参加は強制ではありません。よくご判断ください。」


カタオカさんが着席しギードリアさん、ドーキンス長官が立ち上がる。


「カタオカ輸送調整官の説明内容、提示契約について行政府発行であると行政官ギードリアが承認する。」


「上位官権限により生産ステーション長官ドーキンスが立会い、管理、保証を行ないます。」


「行政府発行臨時案については行政官2名の承認が必要となります。

 もう一名はすでに役職就任を認められたBN-イスト宇宙軍総司令官となります。

 この承認をもってその就任発表とさせて頂きます。」


は?と声を出しそうになるのは堪えた。

ギードリアさんに促され立ち上がる。

カタオカさんから渡された端末を使ってギードリアさんが承認作業をする。

少しこちらに寄せて置いてあるのはその手順を見せる為だろう。

同じようにするよう小声で伝えられ画面に署名やID入力を行なう。

ドーキンス長官がこちらにと言ってくれ端末をそちらに渡す。

入力欄はもうひとつあったから長官が入力して作業が完了した。


「行政府発行臨時案件1823号が発行されました。

 行政府データベースが更新されていますのでそちらで確認ください。

 確認が面倒、簡単な説明で良い方は私カタオカが担当します。

 確認し契約されるのであればドーキンス長官が担当します。」


カタオカさんと長官は船長たちを集めて契約についての説明を始めた。

ただ船長たちの話としては先程の一連の流れについてがほとんどだ。

行政官が発行する案件ではなく行政府発行の案件は本来中継されるような事らしい。

最近はほとんど無い事でそこに立ち会う事になったのは良い語り草だとと盛り上がっている。


「座りたまえ、イスト君。イスト総司令と呼ぶべきかな。

 官を外してはならんからイスト総司令官だな。」


「イスト君か名前で良いです。ギードリア行政官、お久しぶりです。」


「直接会うのはお葬式以来か。

 今回のサプライズはサトウ氏のアイデアだが慌てなかったな。」


「驚きすぎて声も出ませんでした。」


じいちゃんたちは互いに驚かせあっていた。

急な今回の展開はやっぱりサトウのじいちゃんの仕業か。


「先程そちらのお嬢さん、セリナさんだったか。

 彼女が説明したように今回の事は行政府が色々補償する為のものだ。

 計画についてはこれからもイスト君が進める事になる。

 行政府の避難計画はすでに実行中だ。

 ほとんど時間は無いが出来るだけ支援する。

 ここを乗り切ったら次もあるのだからそちらはもっと大きく支援できる。

 そちらについてもすでに対応済みだ。

 何か計画があれば提出して貰いたい。

 今からの作戦ではこちらは何も出来ないから準備を進めておく。」


接近中のフリーダム船についてはまだ完全な対応策は無い。


「イスト、計画中だった事をお話しても構いませんか?」


すっとセリナが言葉を挟んで来た。

計画中と言っても対した事はなかったはずだから問題はない。

むしろ話す必要のある事なんてあったか?


「構わないぞ。」


「ギードリア行政官、イストの船の乗員、セリナです。

 今回の計画についても色々と手伝っています。」


「サトウ氏から色々と聞いておるよ。何か必要な事があるのなら言ってくれたまえ。」


「サトウ氏の隠した破棄ステーションをください。

 宇宙船としてフリーダム艦隊に使用します。」


俺は驚いた表情を隠せずにセリナを見てしまった。


「イスト君が驚いているぞ。」


しまったと思っても遅い。出来れば平静を保つべきだったか。


「イストは迷っていただけです。さすがにステーションを使うのは難しいでしょうから。」


ステーションは宇宙にある建築物としてはリラでは最大の物だ。

破棄ステーションも基本部分だけだが1km近い。

それを星系外に向かう宇宙船に改造するという案はすでに説明されている。

短時間に改造するには物質生成機が必要だし資源もかなり必要だ。

リラで行なうにはかなり難しいと計算された。実現出来るとは思えない。


「計画はあります。でもかなり難しいという結果なんです。」


「ギルドが宇宙船や宇宙建造物の為に大型物質生成機を所有しています。

 それを複製して搭載すれば宇宙船への改造は可能となります。

 必要な資源についてはキケラクトさんとサトウ氏関連で調達出来るかもしれません。

 そちらについてはサトウ氏から連絡してもらうので検討だけでもお願いします。

 イストはまだ自分で出来る範囲と考えているようですから口を挟ませて貰いました。」


「ふーむ。」


ギードリアさんがにやにやしている感じだ。


「サトウ氏から聞いているように確かにイスト君には必要な人材のようだな。

 むしろ行政府に入ってもらっても良いかもしれん。」


驚く事ばかりだ。


「そんな顔をせんでも無理な勧誘はせんよ。サトウ氏も後継者と言っておるしな。

 イスト君、君の権限は今は非常に大きい。

 有効な手段だと行政官たちが認めればステーションくらいは使う、使える。

 実際に軌道エレベーターを投入しているだろう。

 エレベーターが落ちないまで全部使うという案もあったくらいだ。

 サトウ氏から今後も資源が必要になるからと止められて一部になったがな。

 仮にも行政官だ。馬鹿げた計画でもとりあえず提案してみなさい。

 他の行政官とその相談役が速やかに検討する。

 リラのこれから先の運命を決める計画だ。リラ全体で支えるとも。

 住民に対する説明などもこちらで請け負う。そういう点でも行政府が責任を負ったのだ。」


なんだかすごく大事だ。

いきなりやれる事が増えたと言われても実感はないぞ。

深呼吸して上を見るけど外じゃないから星空は見えないよな。


「判りました。今の計画が終わったらすぐに考えます。」


「うむ。待っておるぞ。

 後はイスト宇宙軍総司令官就任挨拶も期待しておるぞ。」


とりあえず軌道上フリーダム船に対する作戦に集中してからと思ったのに先に問題が待っていた。

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