3-12 死という事を考えた
ギルド員に連れられて合流場所へと来たが連絡役が2名居るだけでまだ他に人は居ない。
そこは十字路の一区画に用意されている良くある休憩スペース。
ベンチに座って顔を伏せているとギルド員が飲み物を用意してくれてありがたく頂いた。
自動販売機が並んでいるが端末が無いから買い物も出来ない。
IDカードは船に置いて来たからどうするかなと現実的な事も思う。
人は死ぬ。
じいちゃんが死んだ時に誰かがいなくなる時の悲しみは知った。
人狩りで被害が出ているのも死者が居るのも知っているし葬式にも行っている。
エアロックの前で倒れていた人を見て多くの人が突然死んだ事を居なくなったのを実感した。
アーコロジーじゃもっと多くの人がこんな事に遭遇している。
計画を実行したら宇宙船での戦闘でもきっと死者は出る。
もっと簡単に多分死体も残らないで一瞬で。
死ぬかもしれないと説明して声を掛けていたのに今はそれをもっと現実として見えている。
自分が居なくなるかもしれないと実感している。
親睦会に出ていた人たちも居なくなるかもしれない。
覚悟をしてセリナに行動する事を伝えたはずだ。
セリナはあの時、最初にリラに戻る時にそういう事もきちんと説明してくれた。
セリナのとんでもない作戦でひとりでフリーダム船を排除した方が良かったかもと悔やむ。
でも少しだけだ。
むしろ悔やむならもっと色々な人と関わっていない今の自分だ。
じいちゃんは結構色々な人と行動していた。
サトウのじいちゃんも今回の計画でも沢山の人と関係しているし行動している。
俺だってそう出来るはずだ。
終わったらキリアトさんやサトウのじいちゃんに話を聞こう。
今は時間があればもっと作戦を考えよう。
出来るだけ被害を小さく出来るように。
「イスト、体長は問題ないようですがどうかしましたか?深刻な顔です。」
遠慮なく隣に座ったセリナがそう言って来た。
「人が死ぬ事の現実を思い知った。じいちゃんがいなくなった時の事を思い出した。
血の中に倒れている人を見てギルド員が確かめて首を振った。
それで人は死ぬよなと実感している。計画でも死ぬ人が出る。
人狩りでも今まで多くの人が死んだと聞いていたのを言葉じゃなくてもっとはっきり認識した。
それは感情が動いたとかじゃなくてじいちゃんの葬式を思い出した。
死んだ人を悲しむ人がいるよなって考えていた。
自分と関係ない人が死ぬっていう事については結構静かだな。大きな感情の変化とかは無い。
そうか死ぬんだな、そう考えられる。
血の中に倒れている人、というのを実際に見る事になるとは思ってなかったしな。
フリーダム船を破壊すればそうやって悲しみを自分で作るんだよなとか考えていた。
これは今気づいた。悲しむ人を減らすのに悲しむ事を作るんだよな。
感情を詳しく説明して余計な事に辿り着くとは思わなかった。」
他の人たちはこちらをまだ放置しているし近くに居ない。
だからなんとなく思っていた事、セリナが知りたがる感情について説明してみた。
航海中も時々こうやって感情については細かく話を聞きたがっていたし話していたからな。
AIとしてのセリナの興味なんだろう。
考えながらなんとか言葉にするって感じだが言葉にしてまとまってすっきりした。
「そんなイストにもっと衝撃を与えます。
生産ステーションの制圧、解放によって死者34名、重傷者12名が出ています。
死亡者の中にはキリアトさんの従業員も含まれます。
フリーダム船到着後のリラの死者、行方不明者は2342名。
これは自然死や事故での死亡など通常の死因を除いた数値です。
つまりはフリーダムがリラに与えた被害数です。
フリーダム船の乗員数は不明ですが200名から500名程度と推測します。
すべての船を破壊しても同数程度の被害ですから交換としては問題ないでしょう。」
「その説明はわざとだよな。交換して良いものじゃないぞ。
それにそういう交換なら1人殺さないから同じように1人殺さないという方がいい。
近くのリラの人たちが悲しむのが嫌だ。感情的にならフリーダムよりはリラを取る。
話して俺は納得したから今回はこれで終わりだ。」
まあリラの人たちと言ってもぱっと思いついたのは多い人数じゃない。
深い付き合いじゃない人間関係としてなら学校の同級生とかも入るか。
感情について説明していると色々と複雑というか説明出来なくなる事も多い。
セリナが言うには哲学的なものらしい。
なので大体行き詰ったら話を終わるようにしている。
今は単純にゆっくり考えている場合じゃないからだけどな。
結局の所人間一人ひとり感じ方も考え方も違って感情の動きも発生も違う。
科学的に人間の肉体すべてを解析出来ても思考、感情的な部分は解析出来ていない。
それを機械的に作るAIセリナというのはかなり不可能な事に挑んでいる気がしている。
魂、霊魂は存在していて人間の科学ではそれを認識、解析出来ていないから判らないのかもしれない。
そう言っていたのはセリナの最初の開発者。
もしそうならAIセリナでは人間の思考を再現できない可能性があるからと注意されたそうだ。
それでもその可能性が確定するまではセリナは思考再現を目指すらしい。
「イスト、それでは現状について報告しましょう。
あとこちらをどうぞ。個人用の端末を所持していますから問題ありません。」
セリナは宇宙船で使っている端末を渡して来た。
宇宙船で使っている端末ならそれぞれの個人設定が入れてあるからありがたい。
それを呼び出して設定すればすぐに使えようになる。
「軌道エレベーターステーションは解放されつつあります。
制御についてはサトウ氏が取り戻し制圧グループを逮捕中という事です。
かなり被害も出ておりもうしばらく時間がかかるそうです。
警察や消防が動いていますが人員不足です。
サティッシュの逃亡については追跡出来ていません。
下層で爆発があり火災なども発生していると擬装しています。
このままこちらの計画を実行するようにと連絡がありました。
実行可能予定時刻は明日の02:00以降とされています。
こちらが計画についての修正点等です。」
端末にデータが送られて来てステーションが元に戻ったのだと改めて理解。
連絡が出来ないとか端末が使えないのは予想外だった。
データはサトウのじいちゃんから送られて来たものそのままだ。
宇宙船を漂流させる予定だったが軌道エレベーターステーションの下層を分離させるそうだ。
もちろん全部じゃなくて改装工事を行っていた部分3層分で円形の4分の1。
質量としては相当な物で大きな修正点だ。
改装中に余った宇宙船用の武装を持ち込んであるからそれも使っていい。
今回の事件を利用してステーションで大規模な事故が発生中とアーコロジーに通達。
エレベーター倒壊の可能性があるとして住民の避難を始めている。
アーコロジーの地下ではなくておそらく潜伏場所として作った地下拠点に避難させているんだろう。
こちらの計画が失敗の場合、本当にエレベーターを落としてアーコロジーほ崩壊させる。
今地上では最重要物資の退避が進められていて住民避難等も含めて終了時間が02:00。
それ以降なら好きにしていいという事だ。
最悪倒壊させる施設だから多少壊しても構わないとステーションを分離させるそうだ。
そちらの物資は好きに使って良いと添えてありリストも添付してある。
セリナからの追加報告として各宇宙船の準備完了時間があった。
何故かこれから10時間後には全て完了するとギルドの見積もり付き。
ガーランドはあと2時間程で作業終了予定だ。ずいぶんと早い。
「宇宙船の準備がやたら早いけど準備していたのか?」
「サトウ氏と連絡した時に計画の前倒しも示唆されていたのです。
生産ステーションでギルドマスターに出会いましたので調整をお願いしました。
全ギルド員を投入して対処されていますが元々予定が組んでありすぐに実行されました。
計画を実行する事が決定された事で資源を余らせる必要が無くなりました。
行政府関係者は以降のリラ運営に必要分を最低値にしたそうです。
結果として宇宙の資源などは全て消費でき宇宙船の製造や改修を行なったそうです。
ひとつ問題点があります。
本来回収予定であった物資、弾薬類については宇宙に放置してあります。
リラ6の近郊ですからそれほど時間は掛かりませんが回収作業が必要です。
分配が必要ですからそちらについては早い方が望ましいのです。
今後の予定はすでに用意してある輸送船で生産ステーションに移動。
ガーランド23を受け取り試運転を兼ねて物資回収、生産ステーション経由でこちらへ。
救助作業の支援ということで分離予定区画に着陸予定です。
計画の修正なども行いますが先にイストの休息時間も組み込んであります。」
「計画の修正をこっちに戻ってくるまでに考えよう。
休息が必要ならそれから仮眠する。」
用意された輸送船は警官や消防の人たちが寝泊りに使っていたもの。
計画にも参加予定の船でこの船の改修が最後になるそうだ。
それで生産ステーションに早めに移動させるからそこに便乗する。
分離させたステーションをどう利用するかを中心として計画変更案を話して過ごした。
生産ステーションに移動してからは必要な物の移動。
元のガーランドから必要な物を色々と運び込む。
ブロックの入れ替えが必要だから生産ステーション下層のドックに2隻が並べてある。
新型のガーランドと今までのガーランド23。
結局最後部のブロック、推進ブロック4つを付け替えただけだからだ。
さっさと船を出さないと次の船が入れられないから時間制限付き。
ようやく通信も回復したみたいでアーコロジーの様子をニュースとかで見ながら作業を進めた。
アーコロジーの状況としては状況不明。
早朝に発表されたのは2つのステーションとアーコロジー各所が襲撃されたという事。
誰がやったのかとかは発表が無いしステーションの詳しい状況も判っていない。
フリーダム向けにこのまま混乱した状況を伝え続けるそうだ。
アーコロジーでは大きな混乱は無いらしい。
宇宙と通信が繋がらないのも深夜から早朝にかけてで大きな影響が無かった。
あとアーコロジーだと階層が違っていたら火災とかも判らない、知らない事が多いしな。
荷物を積み込みは終えてガーランドの出発準備が出来るまでに一度上に上がる。
広いドックに張り巡らされた通路を歩いて上から新しい船を見ながら歩く。
改装とか修理した船は一度宇宙からぐるりと見て回る。
じいちゃんがやっていた事なんだが俺も続けている。
残念ながら今船は重力環境にあるから全部は見れない。
だからせめて上だけでもと見ていく。
基本的に大きな変化は無い。
先頭に操縦ブロックが無いのと側面に推進機が増えたが事くらいか。
古いコンテナを改修したのもあって金属が光り輝く新しい船という感じでもない。
大きさも変わっていないいつもの船だ。
納得して宇宙服を着込み船に乗り込む。
操縦ブロックは船体の中央に設置されたから入り口は上部のハッチ。
セリナはすでに乗り込んで航法コンピューターの調整中。
梯子で下まで降りてエアロックかを抜けて操縦席へ。
照明に照らされているのは小さな部屋。
操縦席としてシートが二つ、その正面や側面に無数のモニター。
正面の大きなモニターには今は画像で外、正面の風景が写されている。
「イスト、早かったですね。」
右側の席で忙しく手を動かしているセリナがモニターから目を離さず声だけ掛ける。
「出発出来るなら早い方が良いだろう。10分くらいならそう変わらないけどな。」
「船名は変更されますか?」
「なぜだ?」
ブロック船だと乗り換えてもほとんど前の船名を引き継ぐ。
特に変える必要は無い。
「戦闘用の船ですから区別する為に新たな名前があっても良いでしょう。」
リラの船名についての説明をしたら納得されたがセリナの認識としては新造船だった。
「じゃあガーランド二十三だな。」
数字部分を変えただけで考えるのが面倒だったとかじゃない。
自分の船を持てたら付けたい名前は別に考えてある。
「登録しました。出発準備は完了、ドックからも許可が出ています。」
「ハッチ開閉を通達、船体制御開始。」
すでに発進の連絡はしていたようでドック内からは空気が抜かれていたから待つ時間は短い。
正面のハッチが奥に開いていき宇宙が見えてきた。
操縦席に座って各種チェックをその待ち時間で終わらせる。
船体に問題なし。
操縦ブロックは新しく作られた。
シートも操縦桿もなにもかもが新しいのでそれはそれで気が引き締まる。
「周辺確認。」
「問題ありません。」
「係留解除・・・・微速前進。」
ゆっくりとハッチから宇宙へと漂い安全距離に到達したら加速開始。
ハッチから出る時の風景が窓から見れなくなったのはちょっと残念だ。
これから出発するっていう一番気分的に盛り上がる瞬間なんだけどな。
そこから5分程ゆっくりとステーションから離れれば本格的に加速開始。
物資回収地点に向けて試運転がてら船を発進させた。