1-3 ブロック船:ガーランド23
小惑星に着陸させてある船ガーランド23。
別に塗装とかはしておらず長く使っているからくすんだ金属色の外見。
細かな傷とかも多いが実用出来れば良いので気にしてはいない。
外をどうにかするならもっと中、設備とか装備を充実させている。
船の前、開いたハッチの前には採掘用の機械群が並んでいる。
「セリナはちょっと待っててくれ。機械を片付ける。
見ているのは良いが事情があるから船にはまだ入らないでくれ。触るのもやめてくれ。」
意識的に名前を呼ぶのは呼び慣れる為だ。
そうでもしないと呼べないし呼ばなくて不機嫌になるというのも困る。
先に船に入れた方が面倒が無かったか。
入ってから自分だけ外に出るのは面倒だし船に入れて目を離すのも駄目だな。
「これが宇宙船ですか?」
あまり見ないタイプの船だろうな。
このリラ星系で作られた船だし簡素な宇宙船だからだ。
宇宙船とは言っているが正直簡易輸送船と言った方がいいかもしれない。
「これはブロック船と言われている形式の船だ。コンテナ船とか言う奴もいるな。
基部となるフレーム部分とブロック形状のパーツを組み合わせている。
金属が不足していた時に作られたこの星系じゃ珍しくない船だ。」
一時的に不足した宇宙船を急いで増やす為に出来るだけ簡素に設計されたものだ。
初期の頃だと本当にコンテナを繋げて推進器と操縦施設だけという簡素なものだったらしい。
ブロック船は正方形なり長方形なり一定の規格で作られたパーツ、ブロックを繋げて船にする。
今の船の形は正面から見れば縦2列、横2列の4ブロック、それを5ブロック繋げた長方形。
横から船を見た時は縦2列、横5列になっている。
幅5ブロック、縦横2ブロックずつ、合計20ブロックの構成。
船の先端に操縦ブロックが1つ突き出ていてこれは下部に設置されている。
当然ただ組み合わせて繋げただけじゃなくてフレームやらなんやらできちんと構成、補強してある。
最後方は推進ブロック3つ、上に横長2ブロック分の大型のが一つ、下に小型のが二つ。
その次の下側は横2ブロック分は燃料庫、操縦ブロックの方から見て横長だ。
燃料庫の次は横長2ブロックの中型収納ブロック。
次に横2ブロック分は中型収納1つ、その中型に隣接する1ブロックの小型収納2つ。
下側の2×2、4ブロック分を1ブロック、1ブロック、2ブロックで収納になっている。
上側は推進ブロックの次に2×3の大型収納ブロックがあってその次は横2ブロックの居住区。
外から場所を指さして説明した方が判るだろうな。
自分は判っていて説明しているから理解されているかが判らない。
1ブロックは20m程なので全長としては120m程。
もっと大きくして収納を広くすれば一回の採掘量は増える。
そうなると今度は重量増加で帰りの燃料も必要で場合によっては大きな推進ブロックも必要。
元々じいちゃんが使っていたもので多くて4人、少なくて1人で運用していた船だ。
居住区は今となっては無駄に広いし個室も余っていて倉庫になっていたりする。
こいつは完全に宇宙空間でのみ運用される船で惑星に降りたりは出来ない。
その分宇宙航海用の各種装備は充実させている。
外装としても頑丈さ重視で衝突する隕石とかデブリ対策の迎撃装備も多い。
採掘した資源を運搬する為の構成だからこんな感じ。
他の用途ならもっと他の組み合わせになるし大きさとか繋げ方もかなり自由には出来る。
ブロックにしても用途に合わせて色々作られていて必要なら個別で注文すればいい。
採掘機械を片付けながらざっと説明、こっちが聞いていた時の逆の構図。
色々聞いたから説明出来るならこっちが話してもいいさ。
機械の片付けは何度もやっているから話しながらでも作業は出来る。
宇宙船の前に並んだ機械を順番に収納ブロックにあるコンテナに入れるだけ。
操作パネルでスロープになっているハッチを登らせて微調整。
これも慣れているし床にはかすれているがガイドラインも引いてある。
コンテナに移動させたら固定用ワイヤーを張る。
機械によってはコンテナを展開しているからワイヤーを張ってコンテナを組み立て。
組み立ては機械任せだからほぼ自動、ロックされているかを確認するくらい。
格納が終わったコンテナは運ばれてリフトで一段上に収納。三段縦並びで収納されたら宇宙船側で固定。
このコンテナの移動作業も自動化してあるから楽なものだ。
このブロックは機械の収納区画として使われているがそれだけじゃない。
作業機械の修理用の器材とかメンテナンス設備も揃っていてそれは航海中の作業のひとつだ。
このブロックの壁は開くようになっていて外へのスロープに使われる。
スロープが必要ないなら別の機能を持ったブロックにして組み替えたり出来る。
必要な機能のあるブロックに交換しやすいのもブロツク船の特徴だ。
セリナは作業中、中には入って来ずスロープから少し距離を取り作業を見ていた。
作業は終わりその間に続けていた説明を一度止めて後部の中型収納ブロックに入る。
正直毎回この中型収納ブロックは予備燃料庫扱いだ。
そうすることでより長距離の移動が出来る。
帰りの為に推進剤の補給だがその作業も指示を出して問題が無いか確認するだけだ。
漏れてないか異常が無いか確認は忘れない、油断はしない。
神経質にならなくても船の機械側でも何重もの監視なり安全装置がある。
この船の乗員は職人気質の人が多かったらしく細かな確認は怠らないように教育された。
じいちゃんもそうだったらしくて同じように教育された訳だ。
実際に確認してちょっとした異常があった時、それを放置した場合の結果を見ると納得した。
船もあちこち古くなっているから余計に確認は怠りたくない。
いきなり爆発するとか異常が起きるのは宇宙だと致命的だ。
時々こうやって思い出して気を引き締める。
もう怒鳴ったり怒ってくれるじいちゃんはいないからな。
今やっておくべき作業は問題なく終えて作業機械の収納ブロックから外に出る。
セリナが両手を前で組んで礼儀正しく、姿勢良く立っていた。
何も言わなかったから待っているしかなかったのか。
一人で居る事に慣れすぎているよな。気を付けよう。
星で過ごすより船に乗っている期間の方が圧倒的に長い。
じいちゃんが居なくなってひとりで過ごすのが普通になっているもんな。
「セリナ、こっちだ。宇宙船に入れるがその前に検疫を受けてもらうぞ。」
「検疫ですか?特に危険な物質等は検知しておりませんが必要なら再検査します。」
「悪いがそういう訳にはいかない。
事情があってこの星系じゃ検疫は重要なんだ。
船とか施設に入るときには必ず行う必要がある。」
掘り出す前にスキャナーで調べたから問題はないと思うが基本手順という奴だ。
万が一があって危険な細菌とかを持ち込まれても困る。
リラ星系ではパンデミック、細菌系の病気による世界崩壊危機があった。
それから細菌類についての対策は厳しくなっていて今も続いているし当然の措置だ。
「判りました。イスト、この辺りにはブロック船しかないのですか?」
前方の操縦ブロックに向かうとセリナはやっぱり少し後ろを着いて来た。
「ほとんどがブロック船だ。星系外に行ける船は1隻あるが今は稼動していない。」
大型の船は今では失われている。
それを補う為に急造されたのがブロック船だ。
「その辺りも星系の情報を見れば判る。中に入ってからで良いだろう。」
操縦席ブロックにあるエアロックを使う。
外部にある梯子用の溝を使って登っていく。
別に登らなくても宇宙なので跳んだりしても良い。
ただ掴み損ねて遠くに飛んでいったりすれば宇宙服で戻ってこないと行けない。
そんな事はないだろうが万が一宇宙服の故障とかで宇宙を彷徨うみたいな事もある。
そういう訳で無駄に跳んだり跳ねたりはしない。
普段から跳ね回ってどこかにぶつかって宇宙服とか機械類を壊すなんてのも馬鹿らしいだろう。
そんな事を思うのはセリナがこちらが開いた扉まで跳んで来たからだ。
軽く跳ねて綺麗に梯子を掴み動きを止めてスムーズにエアロックの中へと入った。
まったく反動など無く動いているのは運動エネルギーを上手く制御していると言う事だ。
普段からこんな動きが出来るなら宇宙空間での活動は楽になる。
セリナの動きは羨ましいが人間と機械を比べても仕方ない。
操縦ブロックのエアロックは居住区と操縦ブロックに繋がっておりどちらにも移動出来る。
緊急時に居住区からでもすぐに外に出られるようにしてある作りだ。
後は居住区側に設置してありそっちの方が広いのも理由。
ちゃんとしたエアロックは後は居住区から収納ブロックに繋がる通路にもうひとつ。
他には緊急用の小型エアロックが各ブロックにある。
エアロックと言うのは空気を満たす、抜く事で宇宙と空気のある区画を移動する為の小部屋。
この部屋で宇宙服を着てその機能に問題がないのを確認。
宇宙服を稼働させてから部屋の空気を抜いて宇宙へ出る、入る時は逆の手順。
一手間必要なのは普通に扉を開けば船内の空気が宇宙へと流れ出てしまう為だ。
この小部屋で区切ってそこの空気を船内に戻す、船内から供給することで外か中と同じ環境にする。
そうやって船内と宇宙を出入りする為の部屋だ。
この船だとここのエアロックが外への出入口、ついでに最高の検疫施設になっている。
赤色の照明で照らされた6人用のエアロックに入って宇宙船に指示。
ここからしばらく時間が掛かるのは普段は滅多にやらない最高レベルでの検疫を行ったからだ。
「このような施設はあまり変わらないようですね。」
中に入って最初は興味深そうに見ていたセリナはそう言って綺麗な立ち姿に戻った。
「エアロックの事か?」
「はい。大きな変化があるのかと期待したのですが残念です。」
変化が無いという事は技術的には同じくらいか単に変化がないだけか。
「確かにエアロックが改良されたとか良くなったみたいな話は聞かないな。」
意識的に思った事は発言していく。
室内のランプが緑に代わり空気が満たされ始めたのは検疫が問題なく終わったという事だ。
宇宙船の記録を呼び出して確認するがやっぱり問題はないようだ。
照明が通常の白色系の色になったのは船への出入りが可能になった合図。
すでに部屋に空気が満たされたという事で宇宙服のヘルメットを外す。
完全に取り外す事はせずに外して背中側に回す、何かあったらいつでも着られるようにしておく。
正直船内で宇宙服を脱ぐ事はほとんど無い。何か異常事態があったら困るからだ。
ここから左に行けば居住区、右の扉から操縦ブロックに行ける。
さすがに居住区に案内する気にはならない。
まあ操縦ブロックに他人を入れるのも基本的にはやらない。
船のコンピューターから情報を見せるのならどこでも出来る。
居住区からでも指示して船を操作する事は出来る。
単にひとりでいるからほとんど操縦ブロックで生活しているだけだ。
緊急事態にも対処しやすい。
居住区を使っているのは星で停泊している時くらいか。
個室もあるしリビング、キッチン、運動スペース、娯楽室もある。
設備はそれなりに揃っていて引退した乗員たちが私物を残していった結果だ。
リビングはちょっと散らかっているが他は片付いたまま。
最悪無重力環境になるから船内の備品は固定が必須。
それを外して何かしようとすると面倒だから片付いているではなく使っていないが正しい。
右の扉、操縦ブロックに繋がる扉を開けて先に進む。
最前の中央に二つの席、操縦席、副操縦席、その左右の壁沿いにも席がひとつずつ。
後部の壁際にもシートは3つあって必要なら簡易シートがあと3つ設置されている。
それぞれ担当、役割の違う席だがこの船に関してはあまり意味はない。
すべての席や端末で同じ操作が出来るようになっているからだ。
後部の端末の方が良いだろうから一番右側、入り口に近い端末まで行きそれを起動する。
すぐに立ち上がり端末のモニターに表示されたアイコンを触って操作。
まずは採掘機の情報を検索して表示。
出来るだけ情報はあった方が良いだろうと重複しない情報をすべて表示。
購入記録、支払い明細、スペック表、じいちゃんの名前だから宇宙船の運用記録も表示。
修理用にと取り寄せていた設計図もある。
それからゲストの設定を用意して閲覧可能な情報に制限を掛ける。
念の為他の端末はロック、乗員以外では起動しないようにした。
「こっちだ。ここは座って良いから見てくれ。」
収納ブロック、エアロックの時と同じように入って来てあちらこちら見ているセリナを促す。
この操縦区画は高さ3m程、広さはブロックと同じだが外壁が厚いので少し狭い。
操縦席ブロックと比べると小さいのは当然で床下のスペースに制御用コンピューターが収まっている。
船によっては正面に向けた武装があったりしてこの船だと障害物除去用のレーザーがある。
一通り気になる場所に視線を向けつつセリナは歩いて来た。
「モニターに直接触ればそれぞれの情報が表示される。
上部は現在表示されている情報のリスト、そちらから読みたい情報に切り替わる。
左上のアイコンで透過3D表示とモニター表示の切り替えが出来る。」
実際に左上のアイコンを触ってモニターではなく空間に透過表示させてから戻す。
画面ではなくて空中に情報を表示させるのが透過3D表示。
ベットで寝たまま読む時とかは便利なんだが多くの情報を表示しないならモニター表示で十分。
いくつか表示を実際に切り替えてやり方を見せる。
場所を空けるように離れるとモニターを興味深そうに見たまま席に座る。
「書類にあるBN-キケラクトという名前は俺のじいちゃんの名前、前のこの船の所有者だ。
相続についても書類は表示しているから確認が必要なら見てくれ。
必要だと言うなら署名データでも提供する。
そういえば文字は読めるのか?でも会話は出来ているな。」
署名データというのは複製や改変不可能な状態の書類などに使われる情報データ。
表示した情報を見せれば良いと考えていたが文字が読めるかは別の問題だった。
「言語は複数習得していますしこの文字も読めますから問題はありません。
会話については最初の呼び掛けで反応が無い場合、他の言語で対応予定でした。
日常使用言語で会話が出来ているのでおそらく文化圏が近いのだと思われます。
使用されている言語が日本語でありこちらの記録では使用民族は少数です。
その民族は他の星への開拓移住を前提として移民を受け入れていた時代がありました。
移民条件に日本語の習得もありましたのでこちらへ移民された方達がそうであったのかもしれません。」
疑問への回答はしているが視線はモニターから離れていない。
話す時はこちらを向いていた事からしても食い入るように見ているという表現が正しいだろう。
言語とか移民で何か繋がりがあるかもしれないか。
移民前の情報は失われた情報かもしれないな。
ちなみに星系じゃこの言葉だけで普通に通じる。むしろ他の言語は滅多に使用されない。
通じなくても宇宙船には確か翻訳ソフトがあるはずだから問題にはならなかったはずだ。
翻訳の必要があるのは他の星系から来る船と会話が出来なかったら困るからという話だ。
「イスト、内容を確認し理解しましたが完全ではありません。
周辺の地域、政府等の情報を得ていませんので確認が出来ません。
この購入記録であれば購入先が存在するのかが判りませんし所在地情報等が確認出来ません。」
「どういう事だ?」
「星系について、政府について、この周辺の生活圏についての詳しい情報が無いのです。
どこに星があるのか星系がどのような規模なのかなどです。」
こっちが知っているこの辺りの情報がまったく無いという話だったな。
まったく知らない地名とかが書いてあるだけじゃそりゃ確認は出来ないか。
「星系の情報が必要という話だったな。他には何かあるか?」
「確認したいのは歴史についてです。現在の年代が推測出来るかもしれません。
経過時間が把握出来れば対応もし易くなります。
その他は全てです。
AIセリナとしては提供頂ける情報があるのでしたら全て確認したいです。」
周辺情報、歴史の次は全てか。
最初から全てじゃないのは確認の優先度が少しはあるからなのか。
いくつか情報を表示させようかと思っていたが諦めた。
さすがに全部と言われると困る。
横から腕を伸ばして操作、リラ星系図を表示させて年表も呼び出す。
検索モードを起動させればモニターの下部に検索用のタグが表示された。
「この下にあるタブから必要な検索が出来る。
面倒じゃなければ右端のタブから50音検索が出来る。
気になった言葉は指でなぞってマーキングしてから押せばその情報は別に表示される。
データベースの基本情報だからすぐにコピー出来る。直接データで渡した方が早いか?」
「知識を得るだけではなくちゃんと読んで理解してその知識を身に着ける事が大事です。
データとしても得られますがこうして読むのが好みですからこれで問題ありません。
また規格などが合うか判りませんから直接調べます。」
「この船関係とか重要な情報は権限が無いと呼び出せない。
読めるのは基本的に問題の無い情報だから好きにしてくれ。」
さっそく検索を始めているセリナにそう声を掛けると「はい。」と返事があるが視線は動かない。
力強く言われ声が弾んで嬉しそうなんだが特に姿勢とか表情は変わっていない。
少し見ていたがこちらを気にすることなく文字を読み耽っている。
次々と検索して情報を表示しているから読む速度もさすがに早いようだ。
物語が好きでそれを読んでいた時のじいちゃんみたいだな。
夢中になれる事があるのは羨ましい。
待て待てAIと自分を比べてどうするんだ。
しかし読み続け、読み進めているセリナの様子を見ていると面倒だからとデータベースを検索モードにしたのは失敗だったかもしれないかな。
判らないブロック船図
同じ括弧はひとつのブロックです。
>横から見た場合
[推進]<収納 収納 収納> 居住
操縦
【推進】 〔燃料〕 {収納} 《収納》 〈収納〉
>上から見た場合
[推進]<収納 収納 収納> 居住
操縦
[推進]<収納 収納 収納> 居住
>下から見た場合
【推進】 〔燃料〕{収納}《収納》〈収納〉
操縦
(推進) 〔燃料〕{収納}『収納 収納』




