>親睦会の夜
挟む暇が無くなるので息抜き回
いつも練習に使っている宇宙船戦闘シュミュレーション。
サトウのじいちゃんが作ったクェーサーというゲームの開発テスト版という扱い。
今回の親睦会参加者には配布しても良いと言われている。
テストプレイヤーとして契約は必要で情報取り扱いなどの規約は発生する。
契約は必要だが報酬は無くその代わり報告の必要なども無い。
情報漏洩については莫大な違約金が設定されているのでそれが注意点。
この話を訓練終了後にして結局全員契約した。
船に戻ってからこれで訓練しても良いかと聞かれてその為の配布だからだ。
船の他の乗員も同様の契約すれば使用出来るので船単位で練習が出来るようになる。
親睦会での訓練、宴会が終わり後は朝まで自由時間。
他の人たちは4人部屋とか2人部屋だったりだけど俺は個室だった。
知り合いもいないし他の人と同室よりはくつろげるようにという配慮らしい。
セリナに報告がてら訓練についてのレポートを送信。
飲み物を買おうと出て来たらロビーには男性陣が集まっていた。
そこでゲームについて色々と聞かれた訳だ。
ストーリーモードはまだ無い。システムが完成したら用意するそう。
他には1隻で戦闘を繰り返すモード、複数の船で戦闘を行うモード。
この2つは戦闘結果でポイントが貰えてそのポイントで新しい船とか装備を増やせる。
増やした装備などはどのモードでも使える。
1隻で戦う方は船の装備、武器を中心に集められる。
複数の船で戦う方はブロックなど船体を構成する部分、推進器やレーダーなどが出てくる。
まず1隻の方で練習しつつ武器を揃えたり強化してからそれを使って複数の船で戦う方が楽になる。
この辺りは息抜きに遊んでいたから説明しておいた。
後は自由に設定して戦うモードと対戦モードがある。
盛り上がっていたのは対戦モードらしい。
戦闘訓練の勉強と称して同部屋の人で戦ってみてからの盛り上がり。
ゲームの話でどうすれば勝ちやすいかの話になり実戦ということで対戦の流れになった。
実力を見せてくれと言われ盛り上がりに水を指すのも悪い。
そう思ってやって見た最初の相手はカズヤさん。
対戦でも船は好きに作れるが使えるポイントを最低値で。
その方が実力が判るということだった。
固定式のレールガンブロックの後ろに操縦ブロックを設置。
その操縦ブロックの上下左右、後ろに推進機を装備。
機動力重視の戦闘用ブロック船の応用だ。
戦闘を始めるとカズヤさんの船は外部設置のレールガンが上下左右にある火力重視。
船の前後であれば4つのレールガンで攻撃出来て左右でも3つで狙える。
回避行動を取りつつまずは側面に回り込みカズヤさんの船から斜め方向を維持。
この辺りの位置であれば射角の問題で2つのレールガンでしか攻撃出来ない。
相手船の上下に移動することで別のレールガンを使わせる。
自動で攻撃する訳ではなくそれぞれで攻撃しないと駄目。
3つのうち2つを別々に使わせることで混乱を狙いつつ回避重視で撃破。
レールガンでもブロック船なら一撃で撃破出来るからそんなに数は必要ない。
それを説明したら次の対戦相手。カズヤさんは強さとしては下の方らしい。
3人目まで戦った所で攻撃についても説明する。
実は自動照準、相手の船の動きに合わせて射撃方向を修正するだけでなく手動攻撃もしている。
船に合わせて自動照準で狙ってから手動で狙い直して攻撃。
相手が避けそうな場所に打ち込めば当たってくれる事もある。
当然船に合わせて避け易い方向を考えて攻撃する。
上下移動の得意な船ならそちらに避けるだろうからそのどちらかへ。
そういう攻撃の仕方もあるという事。
結果としてはここから2人と対戦して最後は負けた。
ずっと同じ船を使っていたので対策されてしまった。
こちらの武器は固定式レールガンだけなので攻撃出来る方向が決まっている。
攻撃できない側に回りこまれ最後はわずかに早く相手の攻撃が着弾した。
最後は負けたけどある程度は勝ててすごくほっとしている。
負けてばかりだとさすがに指導している側としては恥ずかしい。
最後の対戦も同じ船だから対策できただけと勝った側もきちんと分析。
このままだとずっと対戦する流れになりそうだから複数での対戦も出来る事を伝えて実行。
これなら負けても言い訳が出来るし他の人も参加できる。
対戦については通信時差があると難しいがリラ6圏内なら問題ない。
息抜きがてらにどうかと勧めておく。
組み合わせやチーム人数を変えて対戦会はもう一度盛り上がり。
負けた側が結果について反省をしていたりするからそれは実戦でも役立つかもしれない。
しかしサトウのじいちゃん、訓練用だと思うんだがここまで作りこんでいる。
正直このまま発売しても良いんじゃないかと思うくらい。
もちろん武器名称とかは変えないと駄目だろうけど。
やるならとことんということで試作品でも手を抜かなかったんだろうなとは思う。
実際挙動に問題があれば報告し続けセリナとサトウのじいちゃんが直していたからな。
試作品なのは間違いない。
ロビーで対戦で盛り上がっていたがその間にお菓子や飲み物も持ち込まれる。
俺は飲まないがお酒も持ち込まれた。
対戦していない人は宴会の続きという感じで盛り上がっていく。
それぞれの船の話しとかも出てくる。
そんな中で長距離航海についての話になった。
リラで長距離と言えばリラ8の衛星にある採掘場が普通。
この場合の長距離はガーランド23の事、もっと遠く外縁部まで行く事。
それぞれの船の仕事がどうだとか違いはどうだとかの流れから。
他の船と大きく違うのは食生活と生活スペースがある事。
居住区が用意されている船は少ない。泊まる必要がないからだ。
1日2日くらいなら仮眠室とか休憩用の部屋で良いからそれは操縦ブロックに作られている。
後は食生活が違う。食料品を持ち込む必要は無いからだ。
採掘場とかでも食事は出来るとステーションでも食事は出来る。
ガーランドの場合はさすがにそうではない。
特に航行距離によっては大量に持ち込む食材分の重量が必要になる。
なので最近はもっぱらインスタント系を積み込むし1日2食にする事もある。
栄養バランスには気を使って色々なメニューを用意、長期航海では健康管理は重要。
そんな話でも興味深く聞いてもらえるのは長距離航海をしないからだ。
じいちゃんから話を聞いていた年上の人たちは多いと思う。
ただそんな人が減っているから中々実際の話は聞けないそうだ。
「イストさん、航行中に変わった物を見たりしましたか?」
カズヤさんに押されて近くに座ったゼンさんが身を乗り出してそう聞いてきた。
ゼンさんは僧服を着た人だ。
変わった物で最初に思ったのはセリナの事だがさすがにそれは言えない。
「リラ周辺では見られない天文現象に遭遇したりしませんでしたか?」
ゼンさんが言う変わったは天文系か。
さすがにそんなに変わったものは見ていない。
あったとしても光年を超えた距離でリラから観測するのとたいして変わらない。
船のデータベースからひっぱりだした画像を端末で公開する。
「変わったものは無いですがリラ11の衛星観測とかならありますよ。」
余裕がある時に観測して色々な情報はデータベースに反映させている。
実はこういう観測情報はガーランド23の資金源のひとつだった時期がある。
未公開の画像はいくらでもあるから惑星の拡大撮影画像や各種衛星の画像。
最新ならリラ4の画像、変わった画像なら小惑星の衝突。
興味ある人ない人で反応は様々。
「後は単純に航海中の画像ですね。」
ガーランド23の操縦席から見ている光景の動画。
同様に外部カメラで撮影した外縁部の風景。
小惑星から見上げた宇宙の画像。
定期的に自動で撮影保存されるもので宇宙観測の為に提供される。
「星空としては変わらないんだな。」
「いやいやこっちのリラ恒星を見るのはすげよ。」
惑星が見えないくらいで宇宙から見える景色はそれほど変わらないと思う。
外縁部から戻る時には恒星に向けて進むからリラの全体が観測出来る。
リラ星系を外から見るというのは長距離航海でなければ出来ない体験だ。
正確に言えば外からでもないし恒星周辺より外に広がっている部分はすごく広いのが星系。
明確に端がある訳でもなく恒星の重力圏が範囲とされる。
「イストさん、長距離航海は大変ですか?」
「ゼンはガーランド23に乗りたがって宇宙船乗りになったんだよ。」
カズヤさんのそんなフォロー。
ガーランド23を目指している宇宙船乗りなんて始めて聞いた。
「大変というか他の船とは基本的に違うと思います。
2週間以上船で過ごしますから生活から違います。
基本的には大変なだけで結局稼ぎはそんなに大きくないですしね。」
こういう場でどれだけ稼げるかとか具体的な金額は当然出さない。
でもそういう話を出しておくと同業者が減って助かる。
今でも1週間から10日くらいの距離なら普通に採掘屋は出かける。
「拙僧も乗れませんか?」
ダイレクトな質問だ。
乗員が3人の場合、必要になる食料や推進剤など必要経費の計算がまず思い浮かぶ。
セリナという乗員が増えて必要無いのに計算しなければならないからだ。
「すいません。赤字です。」
断るのに一番重要な要素、さすがにこれには無理が言えない。
「ゼン、船長に移籍の許可も貰ってないんだろ。無茶を言うな。」
「しかし諦めません。いずれ機会があれば乗せて頂きたい。
拙僧はイストさんを船長として船に乗る覚悟はあります。」
ゼンさんが宇宙船乗りに慣れた頃にじいちゃんが亡くなった。
その時は移籍とか出来ないし船が無くなるかもとすごく心配だったそう。
じいちゃんに憧れてとかでもなくて船そのもの、ガーランド23に憧れている。
「イストさん、質問しても良いですか。」
もっとおとなしく寡黙な人だと思っていたがそうでもないのだろうか。
かなりぐいぐいと来る。
「なんでしょうか?」
「ガーランド23の推進器は今も稼動出来るのですか?」
一瞬周辺が静かになり笑いが起きる。
宇宙船なのに推進器が動くのは当たり前だと笑われた。
ただ質問の意味が判っている俺は笑ってはいない。
「笑うな!ガーランド23という船は実験船である。
特殊な推進器を実験する為に建造され維持されて来た船。
その実験結果はデータベースにも記録されておりいずれ星を超える船になる。」
良く通る声で大きく言い放つと回りが静まる。
実験船、その分類は実はいまもガーランド23に付いたままだ。
今は実験船、輸送船、採掘船に分類されている。
船の歴史がすらすらとゼンさんによって解説されていく。
所々にゼンさんの大げさな感想が入っているが基本的には正しい歴史だ。
当然光子ロケットについても言及、説明されてそれは興味を引かれた。
その推進器について聞いたのだという事も説明。
光速に近付ける推進器というものには皆興味を引かれたようだ。
実現すれば宇宙船は大きく変わる。
本当に変わる。その速度をすでに体験した今はその実感が大きい。
実用化にはまだまだ超えるべき問題が沢山あるのも判ってしまったけどな。
さすがにそれは言えないので普通の返答。
「まだ推進器は動きます。定期的に稼動試験も行っています。」
感嘆の声がゼンさんだけでなく他からも上がる。
実験はしないのかと言われるが推進器を使うと大掛かりなメンテナンスが必要な事。
単純にその予算が大型推進器4つは買えるような価格な事や資源量を提示する。
それで逆にあぁーというため息、落胆な感想が出る。
今のリラ6の状況でそれだけの予算と資源を確保するのは難しい。
それでもゼンさんの興奮は止まらなかった。
ガーランド23についてと光子ロケットについて解説が始まる。
それを他の人たちが抑えて話題を逸らす為に長距離航海についての話を振られた。
船での日常、航海中の生活とかについての話をしていく。
セリナというか女性との長距離航海についての詳しい話しとか下世話な話も期待された。
残念ながらそんなお色気な話しはほとんど無い。
船の生活だとセリナは遠慮が無くなっていて今は休息もほとんど取らない。
24時間稼動しても問題ありませんからと自由に過ごしているからな。
人間と違って生理現象が無いのも大きい。
なのでそちらはそれほど盛り上がらず。でも勝手に盛り上がっている。
それは騒がしいのを聞きつけて女性2人が部屋から出てくるまで。
盛り上がっているのと宴会をしているのを見られてゲームについてだと誤魔化す。
後は船の話しとかだとそこは誤魔化さず。
そのまま全員での宴会。
酔って寝てしまった人が出てしまい日付が変わった頃にようやくお開きとなった。
始めて宇宙船乗りたちと騒いだ一日と珍しい体験だった。