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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
38/82

3-5 予期せぬ暴力


サトウのじいちゃんに話を聞いてから宇宙に上がる。

そこから輸送船での戦闘訓練を行い生産ステーションへ。

もう少しゆっくり出来る予定だったがそうもいかない。

むしろサトウのじいちゃんに話を聞いてからスケジュールが厳しくなった。


輸送船に乗る前、軌道エレベーターに乗っている間に航行予定は出している。

何時出発するとかが微妙だったので提出期限ぎりぎりまで保留していた。

忙しくなるから夜に出て朝に帰るくらいだが船で航行してちょっとはのんびりしたい。

リラックスというか気楽でいたい。

船で飛んでいる時が一番落ち着く。

アーコロジーの部屋よりは船が落ち着くのは間違いない。


物資の積み込みはすでに終えている。

船は改造が終了してドックから港に移動されたと連絡を受けた。

この辺りはドックの都合なので特に料金も無く専用の船で牽引されて運ばれたはずだ。

ドックのスケジュールに余裕があれば停めたままの事もある。

皆とでいつも停める場所は大体決まっていてガーランド23の場合はそれに合わせて23番。

小型船用の港は2層目なのでそちらに行く。


もう夜で港は人通りも無い。

港が閉まるぎりぎりに出港するのは俺、ガーランドくらい。

職員にはじいちゃんがいた頃から文句を言われているありさまだ。

船へと続く通路はどこも同じような作り。

こちらのステーションは塗装はされてないから船の港という感じが増す。

その通路の先がいつもとは違った。

船へと接続出来る通路の前に3人の男たちがいる。

体格の良い男たちで大きめの袋、ザックを床に置いているのは出港前の宇宙船乗りによくある。

1人は知っている人、サティッシュさんだ。

こちらに気が付き横の男に何か指示してから向かって来た。

指示された男は端末を操作している。


計画の話を聞いてからサトウのじいちゃんからはサティッシュさんには注意するように言われている。

一度連絡をするようになっているがまだその時じゃない。

サティッシュさんの船は軌道エレベーターに停泊しているからそっちに居ると思っていた。

1人で会うなと言われていたからちょっと注意はしていたんだよな。


普通に話しをするという感じではなさそうだ。

端末を取り出して立ち止まり素早く操作。

動きは急がずに連絡が来たのを見るような感じで出来ているだろうか。

まずはズボンの後ろポケットに入れてある小型の個人端末を遠隔操作で立ち上げ。

セリナが用意していた緊急用通信を使ってそのセリナに繋ぐ。

緊急と言う事が先にセリナに連絡されこちらの音声のみが伝わる。

後は今見ている端末の左上、俺は右から端末を使うから一番使わない位置にあるアイコン。

誤操作しない位置に置いてあるアイコンを触り3度の承認確認を通す。


今は最悪のタイミングだ。

1人で会うなと言われたのもそうだがセリナが居ない。

IDとしての所在地は船の自室になっているがリラ4に行っている訳だ。

IDから位置を調べるのは普通には出来ないからそれは構わない。

当然ながらそれが発覚するのが最悪。それだけは避ける。

まあ姿が無い事は言い訳は出来るだろう。


足音が聞こえ振り向けば6人の男たちが走って来ていた。

通路の入り口側を塞がれた形だ。走って逃げれば良かったか?

サティッシュさんの事は知らない事になっているしな。

そこで逃げ出すのも不自然か、今さら考えてもしょうがない対応だ。


「イスト、大人しくしてくれ。怪我はさせたくないからな。」


2人の男も袋からバットを取り出しひとりがそれを握ってこちらに来る。

もう1人は入り口前から動かないから船に入れないつもりだ。

歩いて来るサティッシュさんは刺身包丁かな、長い包丁を鞘から抜く。

リラ6には武器はほとんど無い。それは戦闘用という意味。

こういう暴力的に使うものならいくらでもある。

フリーダムは人狩りの時、宇宙服のような防護服を着ておりこういう物は通用しない。

包丁で切られたり刺されたりすれば当然致命傷だろう。

この段階で無理に暴れる事はしない。


「サティッシュさん、どういう事ですか。」


壁を背にするように下がりながら強めに問う。

通路の入り口側は男達3人が残った。

残り3人とサティッシュさんたち、5人の男がこちらを囲むように移動してくる。


「お前は色々と役に立つ。一緒に来てもらおうか。」


個人用端末からこの会話がセリナに届いていれば対応してくれるだろう。

こちらは今の自分で出来る事はしておく。


「緊急コード7238、管理者権限、実行。」


サティッシュさんとの距離が近付く前に手にしている端末に向かって叫ぶ。


「てめぇ!」


「ちょっと通信だけさせてください。出発しないのを説明しておきます。」


走って来そうなサティッシュさんから視線は外さない。


「今のは船の封鎖か、停止か?」


3度の承認確認を経て実行したのが船長が船に対して行う緊急命令、緊急コード。

何種類かあり船に何かあった場合の緊急対応策。

侵入者が内部にいる場合の対応、内部での反乱に対する対応、制御不能時の対応など。

船が占拠される場合などの対応も設定されている。


「サティッシュさん、今のは外部侵入対策と船の機能封鎖です。

 じいちゃんの船を好きに使われたくないですから。」


船の出入り口を封鎖。これは普通にロックしただけではなく内部で物理的に封鎖する。

格納されている柱やカンヌキで扉やハッチが閉じられる。

機能封鎖は船の全ての機能を止める事。

制御コンピューターや動力関係など主要な部分を全て停止、封鎖した。

解除するには船長権限者2名以上が必要。

ガーランド23なら俺とサトウのじいちゃんがその権限を持つと思われるだろう。

実の所セリナにもその権限はあるしセリナならひとりで勝手に解除しそうだ。

封鎖しておけば普通の手段では船を飛ばせない。


壁まで下がった状態、包丁をいつでも突き出せるように見せ付けて歩いて来た。


「良いだろう。通信も許してやるが俺達の事を話せば船は破壊する。お前は殺す。」


もう手が届く距離から見下ろしてくるから見上げて睨み付ける。

本来戦うなら敵となる対象の全体を見た方が良いそうだ。

ここで戦っても勝てないし突破出来ないからやらない。

包丁は怖い。あまり現実味がないけど気にしたらもっと恐怖が増す。

だからサティッシュさんを睨みつける。包丁は無視する。


「音声入力、通信、船内、セリナ宛。」


ピッと電子音が鳴り端末が通信を開始した。


「セリナか。悪いけど今日の出発は中止。

 サトウのじいちゃんから急な呼び出しだ。

 今後の予定はまた連絡する。それまでは自由行動だ。」


「判りました。船が封鎖されましたがどうしましたか?」


「防犯訓練の一環だ。明日には解除する。問題はないか?」


「自室で研究していますから構いません。何かあれば連絡をください。」


こちらの通信にセリナの返信がちゃんとあった。

セリナ側がどんな通信を使っているかは判らないがリラ4よりも近い場所に居る。

電波通信でもそんなに時差は出ないから不自然さは無い。

緊急用通信が機能しているのも確認。船の封鎖は聞いていなければ知らないはずだ。


「音声、通信終了。」


バシンというか鈍い音と痛みがあり倒れそうになるのを踏ん張る。

お腹に痛みがあったのは右手で殴られた。

服を強く引っ張られると背中から床に叩きつけられた。

端末が落ちた音にそちらを向くと3度ほど踏み潰されて派手な破砕音。


「手足を縛れ。身体検査をして端末や通信機は壊せ。」


顔の左側の痛さはそれほどでもないしお腹は苦しいだけ。

大きな痛みはないから骨折とかは無い。

最初のは殴られたのではなく張り手だろう。左の顔から頭、耳あたりが熱い。

端末を壊しやがって。

じいちゃんが宇宙船乗りになると決めた俺に贈ってくれたものなんだぞ。

サトウのじいちゃんとも相談してずっと使えるように専用で作ってくれた。

裏にはじいちゃんがこっそり使っていたガーランド23のシンボルマークを透かし彫りしてある。

思い出の品なんだぞ。

床に押さえつけられて縛られながらそんな事が意識にあった。

着ている服が調べられてもうひとつの端末も壊された。

そっちの通信を最後の音声入力で止めたから問題にはされていない。

捕まえられるならすぐに殺される事はなさそうだ。

人質としてサトウのじいちゃん辺りと交渉するつもりだろう。


「さっさと積めて船に運べ。軌道ステーションに戻るぞ。」


穀物とかを入れるような大きな袋に縛られて入れられて抱えられる。

ちゃんと口も塞がれて抵抗するならもがくしか出来ない。


「暴れたり問題を起こしたら殺す。最後は死体で問題ないからな。」


サティッシュのドスの効いた声が袋越しに聞こえて蹴られた。

背中が痛い。

こうなったら無駄に暴れたりはしない。

膝裏と脇の下を持たれ浮き上がる。

このまま引きずって運ばれるとか乱暴にされないのはありがたい。

セリナには連絡したからなんとか対応はしてくれるだろう。

サトウのじいちゃんにも伝わるはずだ。

自分が動けないから人頼み。情けないけど今出来る事はしたつもりだ。


運ばれた距離はそんなに長くない。

エレベーターは使っていないし上下移動もなく隣かその隣の通路。

ここから船だから気をつけろと注意されて無重力になったのが判る。

機動ステーションに行くと言っていたしそこに船が停まっていたんだな。

通路側に来た男達もここから呼ばれたのかもな。

運び込まれてからは座らされて腕とか胸のあたりを縛られた感じ。

頭がぶつからないかや姿勢として問題ないかは配慮してくれた。

乱暴というかずさんに扱われる事はなさそう。

袋のままなので外の様子は見えないが明るい暗いとかは判る。

あとは音は聞こえる。

周囲の会話や音には注意しておき出来る事ということで思考する。


これからどうするか、どうなるか。

まずセリナとの合流予定は無理になった。

予定では破棄ステーションより手前が合流地点。

船で半日、コスト無視で速度を上げればもっと早い距離。

セリナだけでも戻っては来れるだろう。

通信に反応したし緊急の方も聞けていたから何らかの対応はある。

サトウのじいちゃんの事も言ったからそちらも対応してくれると思う。

サティッシュさんが行動しているのは伝わっただろうか。

少なくとも俺が捕まったのが伝わればサトウのじいちゃんも対応するはずだ。


セリナが戻って来たとして俺の場所が判るだろうか。

1人で機動エレベーターステーションからアーコロジーに降りたくらいだ。

助けに来る事もあるかもしれない。

サティッシュさんたちが動いているならこちらの計画も変更があるかもしれない。

計画の予定については一通り練り直しておく。


船は動き出したようで向かうのは機動エレベーターステーション。

しばらくして扉の開く音、それから袋が開けられた。


「勝手にやっていることだから暴れるな。」


今いる場所は倉庫のような部屋でこちらを見ているのは知らない男性。


スプレーとチューブの塗り薬を見せて来る。

船でも良く使われる消毒と傷薬だ。


「そのままだと顔が腫れる。喧嘩とかでそんな状態なのは嫌だろ。目を閉じろ。」


消毒薬をスプレーされ手荒だが慣れた感じでチューブの塗り薬を塗られた。


「船の医療担当だからな。出る時に照明は落とすぞ。」


そう言うと袋がまた閉じられ周囲は暗くなり扉の開閉音。

開いたときに外から何か聞こえるかと期待したが何も無し。

捕まえた相手を気にするとか治療するのは間違っている。

船の医療担当としては放っておけなかったのも判る。

さっきの人はこの船の乗員かもしれないと記憶。

逆の立場だと俺も同じ事をするかな。どうかな。


まあいい。

セリナの動きとかサトウのじいちゃんの動きは考えても推測するだけ。

今考えておくのは逃げられるかどうか。

どんな状況だと逃げやすいか、その辺りは一通り考える。

それが終わったら計画についてというかフリーダム船との戦闘について。

状況を想定してスムーズに指示出来るように考える。

自分が指示されたらどうかを考え指示の内容とか並びを組み替えたりする。

これについてはどれだけやっても多分無駄にはならない。

何も出来ない時間なら有益に使った方が良い。

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