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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
35/82

3-A 密やかな動き

「何かご入用の品があると伺いました。」


軌道エレベーターステーションの一角に作られた小さな個室。

フリーダム船に繋がる無線機のあるこの部屋は生体認証によって私しか入れない。

この部屋自体がフリーダムから届けられたもので恐らく監視もある。

リラ側も警戒しステーションの端に設置し常に警戒をしている場所。

使い始めて10年になるがこの部屋に入る場合は最大の緊張感を持って挑む。


「待っていたぞ、ヒロオカ。2ヶ月程前に届いた酒があるだろう。

 あれが欲しくてな、どうだ?」


通信機の向こうに居るのはフリーダムの管理官の一人。

管理官と呼ばれているのは30人程確認出来ている。

奴隷の管理を行う者で他の乗員より少し立場が上のようだ。

船によってその人数が違い当然船の入れ替えで顔ぶれが変わる。

記録からこの管理官に以前届けられた商品を確認した。

ここには機械類を持ち込まずプリントした記録を毎回持参している。


「少数であれば本日にお届け出来ます。

 3日後の定期便に追加しておきます。」


「定期便の物だけでいい。

 パーティがあるから旨い食い物も頼む。」


「かしこまりました。」


定期便追加分はある程度纏まった量を送る。

こういった商品は行政府が買い取っているからヒロオカ商店の経営は安泰だ。

この部屋の会話は翻訳機を通して行われ互いに使用言語で聞こえる。

ただフリーダム側からの周辺の音は普通に聞こえている。

それで問題は無いという事だろう。

そのかすかに聞こえる周辺の会話がもっとも重要だ。

すでにフリーダム使用言語は完璧にマスターしその内容を聞き取るのは容易い。

こうやって情報を得る事は私にしか出来ない役割だ。


「ひとつお聞きしてよろしいでしょぅか?」


商談が終わればすぐに通信を切るのが常だが今回はこちらから問いかける必要があった。


「珍しいな。なんだ?」


「サティッシュ・シンという宇宙船乗りと取引があると伺いました。」


「知らんな。ちょっと待て。」


通信機の向こうはラウンジのような場所だ。

周辺に大声で話しているのが聞こえてくる。

他の管理官や乗員が居て会話がやり取りされていてそれはフリーダムの言語。

その内容を出来るだけ正確に記憶し続ける。


「ヒロオカ、その男は優遇奴隷になりたいらしいな。

 2万人の奴隷と引き換えだそうだ。無理な話だが出来たら手間が省ける。

 そいつの事は知らんがヒロオカは役立っているからな。

 奴隷20人を用意したら保護奴隷にしてやる。

 これからも同じように働いてもらうから家族くらいは同じ扱いにしてやろう。」


「保護奴隷と言うのはどような立場でしょうか。」


「与えられた仕事をする奴隷だ。他の仕事に回される事が無い。」


「そのお話を受けるとして期限はどれくらいでしょうか?」


「今年の船が着くまでだ。」


「ありがたいお話ですから善処させて頂きます。」


「目ざといお前のそういう所は嫌いじゃないな。

 フリーダムの為にもっと働け。有能な奴隷は好きだぞ。

 この話は記録しておいてやるから他の管理官でも対応出来る。

 通信8を使って呼び出せ。」


「ありがとうございます。それでは失礼します。」


深くお辞儀をして通信が終わるのをじっと待つ。

それまでも聞こえてくる会話は聞き続ける。

部屋を出てまずは商品輸送の指示、食料については担当の者への連絡。

ここは社長室といってはいるがただの作業場。

豪華さなど必要なく質素なテーブルに着くと内ポケットから手帳を取り出す。

聞いた会話はまず要点だけを書き留める。

記憶が薄れない内に重要そうな会話を優先して正確にすべてを書き留める。

要点となる会話から残りの部分も記憶に思い起こし書き留めていく。

それが終われば机からレターセットを取り出して必要な事を書き込む。

急ぐ事がなければ定時連絡を待てば良い。

4日後の連絡では遅い可能性があり今回は先に伝えた方が良い。

手紙に書きこんだ内容を再確認、問題なし。

手帳書いた方ももう一度なぞって書きながら漏れない声で読み上げる。

この作業をもう一度行い手帳のページは燃やして完全に処分。

念の為に残る物体としての記録は残さない。


腕時計で時間を確認しスケジュールを組み立てる。

フリーダムからの連絡で遅らせた会談の前に急げば連絡は間に合う。

社長室の隣は事務員たちの仕事部屋。

急ぎの連絡が無いかを聞き必要なら端末に送るように指示。

会談に向かうのを伝えて外に出た。

軌道エレベーターの時間的にはぎりぎりか。

余裕を持たせる為に人の少ない通路を選び走る。

こうして走って移動する者はリラ6では少ないが時間を稼ぐには良い。

軌道エレベーターの待ち時間、移動時間は仕事を片付ける。

アーコロジーに着いてから向かったのは配送サービス。

何箇所か用意してある内の一軒。

担当者がこちらに気が付きカウンターに立つ。


「ヒロオカさん、今日は何ですか?」


「和泉庵の親子うどんを頼む。届け先はこちらだ。」


届け先のメモと一緒に折り畳んだ先程書いた手紙を渡す。

配送サービスは四長老の1人が始めた事業。

あらゆる店の商品をどこにでも配達するサービスだ。

最初から食事の配送はしており自分が仕事中に旨いものを食べたいから始めた事業。

今では定着し業者も多い。アーコロジー限定だが良い商売だ。

通信での連絡でも良いしこうして直接窓口でも受付出来る。

配送料金と商品金額を纏めて先払い。必要なら時間指定も可能。

この配送サービスはサトウ氏への連絡手段のひとつ。

注文した食事の内容で緊急度が判る。

食事の届け物には確実に対応するサトウさんらしい連絡方法だ。


「注文出来ました。こちら領収書です。」


個人的に利用しているから領収書は必要ない。

だが私を知る人間が居てもこの場で領収書を受け取るのを疑問に思う者は居ない。

領収書が入った封筒の中を確認すれば領収書の下に折りたたまれた手紙。

裏面にサトウ氏の署名がある。

キケラクトさんからはこまめに連絡があり良く話した。

サトウ氏はあまりコミニュケーションしない人物だと認識していた。

意外とまめでいつもこうして手紙を送られる。

内容は商売に繋がる事や直接の注文という事もあるしただの世情の事もある。

キケラクトさんと同じようにこちらを気遣う内容の事もある。

私からこういう私信を追加した事は無い。

こういう細かな事も四長老と呼ばれる方々ゆえか。

若い頃には四長老の事を調べ研究したが近年の事は疎かになっている。

もう一度光年について研究を深めるべきか。



「サトウさん、カバー配送です。出前です。」


食事。ちらりとモニターの時間を見れば20時間程食事はしてない。

ロックを外せば配送の者が慣れておるのか勝手に開けて中に置いていく。

玄関まで行き置かれているお盆には保温容器。

蓋を開ければ卵とじうどん。

その場でずるずると啜りながら領収書を開いて中を確認すれば手紙。


「ヒロオカか。」


今年の要求資源量が3倍程。

人狩り禁止、娯楽関係がフリーダム船で緩和。

サティッシュ、奴隷2万人提供、優遇奴隷。

優遇奴隷は奴隷を管理する立場。

この話はフリーダム側では軽い扱い。

サティッシュを優遇奴隷、無理な要求、要求未達成で立場を剥奪する。

奴隷の不満をサティッシュに向けて楽に飼う会話。

サティッシュに管理させればフリーダムはあまり不満に思われない。

リラの住人はまだフリーダムの本質を知らぬ者が多い。

あちらからすればリラの住人はただの獣、家畜、人間では無い。

飼い慣らし反抗するなら殺す。従わない獣は必要ない。

人狩りが途絶えたのはフリーダム側の禁止。

これは何が影響しているか考慮。

要求資源の増加は重要項目。その理由が問題。

サティッシュらの動きについては2枚目に追記がある。

ヒロオカも誘われ協力、ある程度の人物と接触、その記録。

リラを支配しフリーダムが去るのを待つ、その後は自分達がリラ支配を継続。

奴隷制度を維持して楽に暮らすという目論見。

フリーダムが去るというのは宇宙で得られた情報。

この情報は不確定。

ただしフリーダムは人狩りの中止など変化。

状況に変化、リラ6から去るのも考慮。


サティッシュを中心としたリラ支配勢力が問題。

計画を妨害されるのが面倒。

サティッシュ達がリラの上になれば奴隷化が進むのは論外。

他の住民を犠牲に生き残るは理解。

本当に2万人を犠牲にするならあちらを犠牲にする。

こちらは2万人側。

確かにこれは急ぐ案件、対策が必要。

物資増加は行政府、サティッシュ関連の調査は各所、連絡網によって通達。

計画の進行についても資源調整を行いさらに前倒し。

人材投入が難しい。

すでに調整は終わっておる緊急策を使用するべきか。

建築関係はどうしても人材投入出来なければ時間が掛かる。

人を多く動かせば情報が洩れる。

ステーション改築を隠れ蓑として人材を用意する。

それについても連絡。

キリアトはやはり優秀。

宇宙船兵器の製造は順調、スケジュールに余裕があり。

ステーション改築が上手く働いた。そちらからも人材は動かせる。


そういえばイストはどうしておる?

食べ終えた保温容器をキッチンに積んで端末に戻る。

モニターの仕事が目に入りそちらの続きが頭に浮かぶが手は付けない。

日付を確認してスケジュールを引っ張り出す。

イストは外縁部まで24日の航海中、14日目か。

キケラクトは時間が掛かっても連絡を寄越したがイストからは連絡が無い。

10日程で帰還ならそっちも調整が必要。

帰って来るまでにサティッシュ関連調査は終わらせる。

余計な事に巻き込みたく無いが余計な気遣いか。


そういえば昔行政府打倒計画を立てた。

自分たちで好きにリラを作るならという話から盛り上がった。

結局手間ばかりでそんな事をしなくて良いという結論。

まして普通に行政府に入れば良い。

計画草案を個人記録から引き出す。

あの頃とリラの状況は余り変わりは無い。

サティッシュたちがどんな計画を立てるのか参考に出来る。

面倒じゃからサティッシュたちに何か名称を付けるのも連絡。

先に組織全体、計画の一端でも掴めれば対応は容易い。

連絡を追加。ガーランド23へ私信、セリナ宛。

サティッシュ関連の情報を求める。

謎の人物、信頼するのも問題。

ただし能力は確か、有能。

イストの話、真実とすれば他の星の住人、知識的に研究者、もしくは学者。

イストと何度も会話。

使える物は使うという心意気は良し。

ならばフリーダムという異星に対してセリナという異星を使うのは正解。

それに頼り切るのは間違い。


仕事の続きを各所に依頼連絡。

残り3割程度、他でも問題無し。

連絡箇所を追加、資源や資金の動きも調査。

リラ6全体の状況分析、サティッシュ関係の動きが拾えれば良し。

拾えずとも分析し計画進行を加速。

1人で行っては下が育たたず。技術以降無し。

分析についても連絡。正直無数の連絡が面倒。

こちらの動く時間は余裕、その手間も計画作業の一端。

四長老などと言われるが結局は努力の積み重ね。

時間の限り計画について手を入れる。

全力でフリーダム、サティッシュ対策を開始。

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