3-3 宇宙船戦闘の専門家
シュミュレーターはいつも船で使っているものだ。
サトウのじいちゃんが作ったものでリアルな宇宙船シュミレーターというのは説明した。
今回は処理的に大変ということで実は船と繋いでそちらのコンピューターで動かしている。
宇宙船乗りと言っても専門がある船も多い。
基本的には一通りの事は出来ないと操船免許が取れないし一定期間ごとの更新もある。
端末操作で動かす操作は説明してそれぞれ1隻を担当。
操船関係を普段の仕事にしているのは4名だが結果は散々。
3回試して1分が超えられない。
最初の結果としてはこんなものだろう。
俺が出来なかったのは普通だったという事で安心した。
1回目はとりあえず試しでやってみた感じ。
2回目が終わって相談してから3回目を試したが結果は良くない。
難しすぎるとか無理だとかの意見も出ている。
これでもずいぶん簡単になったんだがこのまま成功出来ないのはモチベーションに関わる。
計画に参加する船が減るのも困る。
操船についてはもっと大きく推進力を上げて動かすと説明。
思い切った操船の方が良い。
移動中も直線ではなく蛇行と上下移動を繰り返しそれが一定にならないようにする事。
ガーランド23も登録し次からは俺も参加する。
11隻を4つのグループに分けてここからは実際の戦闘のように行動を行う。
フリーダム船は1隻にして漂流船も追加。
漂流船が爆発し光線防御用のミサイルを散布。
この時にガーランドはすでに加速を終えているが他の船は加速を始めたばかり。
防御用のミサイルで壁を用意しつつ合流を待つ。
それぞれのグループの進路を見てそれから遠くなるコースを取り攻撃の集中を避ける。
生存時間は伸びたけれど今回も接近出来ず。
ただ実際の船の動かし方を見せられたのが大きいはず。
戦闘時間はそれほど長くはならない。
推進剤は使い切るつもりで設定されている最大出力を超えての加速も積極的に使用すること。
さっきのガーランド23の動き方をシュミレーションで再現しながら説明。
同じように常に曲線で早め早めに進路を変える。
出来ればグループの船が直線で繋がらないような進路を心がける。
フリーダムからの光線兵器でまとめて破壊されるのは避けたい。
何度も繰り返して身に着けた戦闘での操船を丁寧に説明していく。
無駄に破壊されるのを繰り返した訳じゃないな。
すでに自分で身に着けているから説明がしやすい。
あと宇宙船乗りたちが全員真剣に聞いていて人によっては記録している。
互いに判らない所を相談したりしているのもありがたい。
次の回はずいぶん進展した。
無事にフリーダム船下部まで移動は出来て攻撃をする所までいけた。
最後は各船の連携が崩れて壊滅。
攻撃するというのが加わって防御が出来なかった船も多い。
それでも結果を出せたのは大きいらしくかなり興奮している人もいた。
こちらとしては指揮というか指示するのが難しい。
船の軌道と同じで指示から実行まで時間が掛かるし実行しても船が動くにはもっと時間が掛かる。
自分でそれぞれの船を操作するよりもっと早く指示しないと駄目だった。
そうやって指示するだけじゃなくてその後にどうするかも考えないと駄目。
他の船への指示、自分の船の操船、戦況判断。
3つを同時にやらないと行けない。ただ指示と操船は同時とも言える。
ただ普段やらないせいで他の船に合わせて動くというのが難しい。
向こうの現在速度、加速力、旋回性とかを考えてこちらも移動しないといけない。
出来るだけ指示して戦闘を行う今回も学ぶ事は多いですよと言われている。
こういう指示、指揮するという部分だろう。
ちょっと真剣に戦闘指揮についての本をセリナから借りよう。
こうやって実際に行ってみれば何も判ってない。
「イストくん、僕達の動きが悪かったら気にせず言って欲しい。」
「そうだ。今回の事ではイストくんが一番だからな。
俺達は全て学ぶつもりだ。年上ばかりだが遠慮せずに言え。」
「リラで宇宙船戦闘の専門家はイストくんだけなんでしょ。
船長からも新しい知識、技術だから真剣に学べって言われたわ。
もっとうまく出来る方法があるならそれも教えて。」
「学んだ事はそれぞれの船に持ち帰って全員に教える。
ここで学ばなければそれぞれの船は動けないからな。
時間もあまりない。もっとスパルタでもいいぞ。」
やめてよと軽口も出る。
宇宙船戦闘の専門家で長距離航海のエキスパート。
俺達より若いのにすごいよな。さすがキケラクトさんの弟子。
俺達ももっと頑張らないとななんて話も聞こえた。
黙っていたのは自分がどうすれば良いか考え込んでしまっただけなんだ。
宇宙船戦闘の専門家っていつの間にそんな話になっていたんだ。
聞いた事ないぞ。
サトウのじいちゃんとか船長、宇宙船運行管理官のカタオカさんたちからの話か。
勝手に広めずに先に話して欲しい。
このまま文句を考えていても話は進まない。
「それぞれの船の連携はうまく取れますか?」
「どっちが先か決まっていれば問題ない。」
確かにと同意の意見も多い。
「どっちが先と言うのは?」
「港とかだと先に入っている船が指示をするんだ。
輸送船同士だと狭い場所ですれ違ったり方向を変える事も多いからな。
特に決まっている訳じゃないんだがずっとそうやっている。」
なるほど。輸送船同士での事なんだろう。
「ではそれぞれのグループで指示する船を決めてください。
移動はグループごとに伝えます。
すみませんが俺のグループは指示させてもらいます。
船の連携に慣れていないので合わせてもらえると助かります。」
「俺が組む。大型だが推進方向が多くて合わせやすい。」
僧衣を着ている男性だ。会釈すると手を合わせてお辞儀された。
グループが組みなおされて中心となる船も決まった。
「フリーダム船の下までは素早く移動する事。
移動してからはそれぞれの面から出ないようにお願いします。
移動を指示する船は防御についても指示をお願いします。
進行方向に散布をする、散布の指示を行ってください。
指示されない船は積極的な攻撃を行いましょう。
自分の船だけでなく周囲の船の攻撃も考えられると良いです。
質量兵器の発射口は全員で。攻撃兵器は出来るだけ重複せずに狙ってみてください。
ただし攻撃よりは防御、回避を優先してください。
ではそういう点に注意してもう一度やってみて休憩にしましょう。」
「待ってくれ。グループを組み替えて気になったんだ。
船の最初の配置を変えたい。
加速の早い船は後方に、遅い船は前方にした方がいいだろう。」
正面モニターに何本もラインが引かれて各船の速度など詳細が書き込まれた。
細かく計算されているし判りやすい。
そこに赤いラインが引かれてそれはフリーダム船までの3分の1辺り。
「逆だ。ガーランド23はもっと前から加速を始めていた。
加速の遅い船はもっと前から加速しこの辺りで最高速に到達。
他の船はそれに合わせる。」
「最高速を維持すると狙われやすく攻撃が当たりやすくなります。
速度が一定だと攻撃は当てやすくなります。
それぞれの船は加速は簡単ですが減速は難しい。
80%ほどの速度から加減速を行ってください。」
「速度を上げて一気に接近するのは駄目なの?」
「待て待て。それは狙いやすい。
ただ走っているだけならちゃんと狙えば攻撃は当てられる。」
「さすがスナイパー。言う事が違うね。」
「分かり易く実演してやる。」
スナイパーと言われたのは戦争系のゲームが得意で好きでかなりの腕前らしい。
そのまま移動目標への攻撃を何人かで表現する。
理解しておく事は大事なので任せて終わるまで待つ。
5歩をまっすぐに歩く人がいて攻撃する人は横からその人に向かって歩く。
2歩目で攻撃されたら通り過ぎて当たらない。
今度は2歩目の時に4歩目の所を狙って攻撃すると命中。
それが基本で一定の速度だと攻撃は当てやすい。
5歩歩く人が今度は動きを変える。止まったり歩いたりを繰り返す。
そうすると4歩目を狙っても当たったり当たらなかったりの結果になる。
他にも移動している船から船に移動する場合の事とかを例に出す。
女性陣にも理解出来ただけでなく他の参加者も理解出来たようだ。
次の挑戦だが厄介な事にフリーダム船の対応、行動は毎回違っていて気が抜けない。
方向転換をするとか上下の移動とか。
それに合わせてグループの移動とかを指示が必要でこの指示の為に行動が違うのだろうな。
グループの指示は場所と到達して欲しい時間で指示。
他のグループが通過する場所も表示させてそれと重ならないようにしてもらう。
指示する時にまとめて狙われないようにこちが注意して指示を出せば良い。
同時に距離が近くなるグループがあればそれぞれで守り合う。
攻撃によってフリーダム船の兵器も破壊出来て4分近く戦えた。
後方からのミサイルの防御が出来ずに2グループに被害が出てそこから立て直せずに終了。
シュミュレーションだからこその厳しさだが実際の戦闘の時はもっと何があるか判らない。
常に警戒する事が重要。
正直ひたすら破壊されて失敗して少しでも練習して本番でちょっとでも対応出来れば良い。
次の回はフリーダム側が一隻を集中して狙うという攻撃があり早くから破壊される船が出た。
狙われた船に対して近くの船で守るように指示するがフェイントがありうまく行かず。
その次は後方からのミサイルもあったがうまく対応。
ただ機雷に慌ててグループ同士が接触して壊滅、残った2グループは消耗し破壊された。
予定としては今日はこのままひたすらシュミュレーション。
一度休憩を挟んで次の段階へと進む。
次の段階は役割分担。
操船、攻撃、防御で分かれてもらい3人で1隻の船を担当。
それぞれ専門があるというのもあるし船に戻って他の乗員に教える必要もあるからだ。
参加者10名なので一人は見学。
船を動かさずに戦況を見るのも参考になる場合がある。
ここまでの各船の記録はあるのでそれを元に使わない船は自動操作。
苦手な役割はあるものの全員が一通りの役割を担当するまで休憩を挟みつつ繰り返す。
分担した為にそれぞれに余裕が出来ていた。
普段の船での担当部分はやはり動きが良い。
フリーダム船を観測する余裕もあったようで見つけた兵器の発射口の情報共有も出来た。
休憩の度に自動操作の船は結果を元にバージョンアップしたので結果は良くなっていく。
ついでにこちらからの指示も船を動かさなくて良いからスムーズになった。
船を動かしながら指示するというのはやっぱり大変だ。
計画実行時にガーランド23を出さない訳には行かないし慣れるしかないか。
夕食前まで繰り返し最大戦闘時間は12分23秒。平均は9分22秒。
目標は平均10分だったが少し届かず。
この10分というのは実際に予想されている戦闘時間だ。
後半になると疲れもあり集中力が落ちて動きも悪くなっていた。
自分も言われた事だが戦闘になったら完全に終わるまで気は抜けない。
疲れたと言って集中を切らせばそれがミスに繋がり府が破壊され死亡に繋がる。
厳しいがそれを伝え最後は休憩なしで続けさせてもらった。
2時間続けてやらされるよりはましだと思って欲しい。
まあこうやって教える立場だとセリナの指示は的確だったと納得するばかり。
今なら30分くらいなら集中を切らさずに宇宙船戦闘は行える。
実際にガーランド23の操縦席を使った操作でそれは練習済みだ。
かなり疲れる半日はこれで終了。
親睦会なので宿泊施設と料理、宴会が手配されている。
宿泊については予め予定されていたが宴会についてはこちらから始めて伝える事。
手配してくれたのはサトウのじいちゃんだ。
高級料理のラインナップをいきなり聞かされれば盛り上がるしかない。
ただ同時に明日午前はフリーダム船を2隻にして練習すると厳しい事も伝える。
宴会、宿泊ということで夜更かしやらバカ騒ぎ。
翌日はもっと厳しい訓練を経て親睦会は終了した。
それぞれ船に戻ってからは乗員に今回の事を伝え同じように練習してもらう。
今回の事は全体的に見れば成功だし親睦会としても成功と言える。
他の船の事とかを色々聞けたのは新鮮だった。
でも正直準備としては足りない。
この訓練は2ヵ月近く続ける予定だったから厳しい状況なのは間違いない。
迎えに行くセリナと話して多少無茶な事をしてもせめて計画は実行させよう。
出来れば被害は少なくしたい。