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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
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2-14 フリーダム船観測結果

リラ6に接近中のフリーダム船からは船の針路はかなり離れている。

フリーダム船が北、北から南へリラ6に接近するとしたら最初は右下、南東方向へ出発した。

ツキヨミによる加速前に進路を北東へと修正してそこから徐々に北に向ける。

かなり大回りして出来ればフリーダム船の後方に回るらしい。

もし発見されても後方から接近していればリラ星系からの船とは思われない。

その為の航路でこの加速はその距離を稼ぐ為だ。

星系というのは実はかなりの大きさがある。

恒星周辺、惑星がある辺りは星系にもよるが五分の一くらいだろうか。

外側の方が広く今回もリラ星系からは外に出ないが境界近くまでは行く。


その移動中にセリナが用意したのが観測機。

まだ採掘をしていないので空いている大型格納ブロックに10機が並んでいた。

円筒形でミサイルのような形状、2m、3m、5mと大きさが違う。

観測機器と通信機器が搭載され推進力は低いが軌道変更も可能。

簡単な自立稼動は出来るが基本的には遠隔操作。個々にビーコンを搭載すれば回収も出来る。

観測機器、通信機器については調査内容で搭載機器を変更可能。

リラ6の技術でも十分に作れるものだ。


「観測機器なのは判った。観測としては問題ないが観測結果はどうするんだ?

 それほど大きな出力の電波は飛ばせないだろう?」


「通常の無線交信も可能ですがこれらの機器にはツキヨミとの交信が可能なシステムがあります。

 それは独自の規格で非常に高速な通信が行えます。

 最初のリラ6帰還時に小惑星で生成した通信施設を利用し交信を行います。

 元々ツキヨミの目的のひとつが通信網を広げる事でした。

 特殊なものですから傍受される事はありません。」


そこからそれぞれの機能説明が続いた。

一番大きな2機が望遠鏡を搭載した主力の観測機。

小型6機は航路観測用と中継器。中型も同様に通信の中継と周辺観測用。

最初に小型観測機を飛ばして観測機の進路を確認。

浮遊物とか障害物の情報を観測しその結果からさらに観測機を飛ばす。

途中に中型の観測機を置いて情報を統合、さらに遠方へと観測機を送る。

さすがに今の船の速度から射出すると小さな物体にぶつかっても衝撃で破壊される。

それを避けるために数を射出するそうだ。

ついでにいかに人工衛星を打ち上げる為に機械が小型化されたかも語られた。

時間的に余裕はあるのでそれについても質問しながら聞いていた。


この観測機、他にリラ6対応で3機を小型格納ブロックに収納してある。

ついでに生成したものということで帰路で今後の採掘地点を観測するのに射出予定だ。

一定の周回軌道で観測出来るらしくて広範囲の観測が行える。

情報が届くのが遅いが採掘ほ行うには問題がない。

今後も実用するとすれば壊れるかもしれないという点くらいだ。

リラ6での制作費を考えると安くは無い。


観測機について説明されてからもうひとつ重要な情報が話された。

リラ4で採取した資源は今回の生成でほぼ消費しきったという事だ。


「リラ4地下で採取設備を自動稼動させています。

 金属物資の精製、加工も行っていますから回収に向かいましょう。」


色々作っていればいつか補充は必要だと思っていた。

ただリラ4の地下施設については聞いていない。

当然、報告の必要はないからわざと報告していないのだろう。

どうせならそんな報告もせずに勝手にリラ4に行って回収して欲しかった。

惑星を許可とか得ずに報告もなしに勝手に資源採取をしているのはさすがに問題だ。

発覚しないとは思うがさすがにこれはどこにも言えない事柄だ。


そんな些細な心配事を抱えて船の速度は速くリラ星系の外へ向かう航路といつもとは違う状況。

ただ船内での生活はいつもと変わらない。

宇宙船乗りにとってはいつもの事でいつもの生活を続けた。

リラ6を出発してから13日。

航行計画としては折り返し点を越えているが今日から2日かけて観測機の射出作業だ。

ここから観測機を進路に対して斜め、北西に向けて飛ばす。

それでフリーダム船を後方から観測しようという事だ。

セリナはツキヨミの推進器を片付けて代わりに大型電磁投射砲を生成。

破棄施設に設置したマスドライバー兼用兵器だ。

セリナの国で使用されていたものでその記録などは多くある。

ただセリナ自体は使用した事がなく念の為ここで使用しておくそうだ。

実際に自分で試用した結果を情報として得ておきたいだけだろう。


観測機は電磁投射砲で加速射出後、さらに核パルスロケットで加速。

加速終了後にロケット部分分離して観測機だけになる。

この辺りは人工衛星の打ち上げ技術を応用したもので簡単という事だ。

速度や射出方向を変えつつ射出した観測機の情報を元に後続を射出していく。

観測機から送られてくるデータを分析することで後続の安全を確保。

宇宙の密度からすれば障害物にぶつかる事は稀だが情報を元に出来るだけ安全な航路を確保する。

移動中の物体もあるのでそれも計算に入れ場合によっては観測機側が進路変更で対応。

それを繰り返していくから時間が掛かる。

さらに大型の観測機は小惑星に偽装し一定の周回軌道を取らせる。

今回だけでなく継続して観測を行えるようにするのだ。

船の加速による速度を得るなど手間をかけたのは発見されない為。

フリーダム船が戦闘用の船、戦艦の場合周辺警戒をしているかもしれない。

その場合は電波などの観測範囲も広いと予想される。

観測されそうな距離で光を放ったりするのも発見に繋がる。

それらを避ける為に遠くから射出し途中で減速して速度を調整。

その後は加速などを行わず惰性による推進で接近する非常に細かな計画だ。


送られてくるデータの分析、大型電磁投射砲の準備と操作、ガーランド23の制御。

セリナはそれらを普通に行っている。

興味を持ってコンピューター的な実行情報をモニターに表示して見せて貰ったがとんでもなかった。

処理されていく情報で画面がスクロールし続けている。

複雑な専用言語で処理されていくから内容も判らない。

AIによる情報処理は人間では対応出来ませんと言われたのは本当だった。

気になって観測機から送信された情報解析を船のコンピューターでもやらせてみた。

解析終了までの時間を表示させれば終わるまでの時間が違いすぎる。

そんな事に興味を持ったのはセリナがAIっぽい事を普段はやっていないように見えるからだ。

イストと普通に会話するのもAIとしての機能のひとつですと言われはしたが。

船のコンピューターと比べてみればなるほどAIはすごいと納得する。

ちょっとした興味だ。


出発から15日目。船は帰還航路に向けて出発する予定日。

綿密な計算によって射出、軌道投入されているからおそらくフリーダム船が観測出来る日。

観測結果を確認したら帰還航路へと向かう。

フリーダム船の現在位置の確認をどうしているかと思えば単純に電波を拾っているそうだ。

リラ6に居る船に向けての交信電波を拾い続けて場所を確認している。

午後になってからセリナが受信した画像を表示した。

まだかなりの距離があるので遠くに見えるくらい。

画像を補正、拡大処理してなんとか判別出来るくらい。

望遠鏡で見るだけなので余計だ。

もっと他の観測が出来れば簡単なんだけれどそれは相手に発見されてしまう。

5枚ほど画像を表示させていて角度などがそれぞれ違うらしい。


拡大画像には赤い円が5つから3つ、それが船らしい。

四角推の特徴的な船体は横からの画像だとなんとか判別出来る。

上下からの画像でも補正処理されているからなんとか判る。


「イスト、分析した結果船は5隻のようです。」


「5隻?増えているのか?」


「おそらく同型の船です。左右からの画像では隊列の関係で3隻のように見えます。

 下から観測した画像では5隻が確認出来ました。

 このまま観測を続ける事で船の速度なども分析が可能です。

 どうしますか?」


このどうしますかは色々などうしますか?だろうな。

イストはどうしますか?と言われているようなものだ。

計画を進めている俺がどうするかと言う事だ。

まずは確実に5隻なのかを確認。

あとはこんな距離で今までフリーダム船を観測した事がない。

本当にこのまま5隻ともリラ6に来るのかを確かめたいが難しいな。

ひょっとしたら途中で2隻は引き返したり待機しているかもしれない。

今までずっとそうしていたとしてもリラ6側は観測していない。

フリーダム船への観測を行ってもリラ6への報復があるので今まで観測した事が無い。

望遠鏡などで見て観察するのがせいぜいだ。

それから5隻になっている理由の推測。

5隻のままリラ6に来るならそれの対応。

いま思いついたのはこんな感じか。

まだ他にもあるかもしれないがそれはこれから話をしてだな。


結果的に帰還時間ぎりぎりまで観測を行って確実に5隻であるのを確認。

5隻である理由については結局は判らない。

当然の事で何の情報も無いからだ。

セリナの意見と蓄積情報からの推測なら2隻は推進剤などの補給船、輸送船であるということ。

これまでもこの辺りまで来ていてリラ6が観測出来ていなかった可能性。

単純に新規に追加された船。

かなり大型の船で建造するのにも時間はかかる。

新しく完成したとか配置変更で増加した、単純に増やす理由があった。

5隻がリラ6に来るのかは今後の観測で確認する。

セリナはしばらく観測機の軌道変更に追われていた。

今飛んでいるフリーダム船が通っている周辺で円軌道の予定だったからかなり大変らしい。

1つの観測機をこのままフリーダム船を追いかける軌道に投入するそうだ。

ただそれはもうしばらく時間が掛かる。


5隻ともリラ6に来る場合は対応が必要だ。

何かフリーダム側に変化があったのかもしれない。

そのまま帰ってくれればいいがリラ6に残る船が増えたら計画を修正しないといけない。

もしくは計画を繰り上げて今の5隻が来る前に計画を実行するか。

さすがにそれは変更が大きすぎる。

だが増えてしまうよりは今実行した方が良い可能性も確か。

リラ6に残る船が増えるほど対応は難しくなる。


どうするのかを判断するのは自分。

計画を変更する場合、セリナは即座にリラ6に連絡を行う手段があると言う。

変更するなら出来るだけ早い方が良い。それほど時間的な余裕はない。

ここから帰還する時間もあるからな。

船の自室のベットに寝転んで天井を見上げながら唸ってみる。

船が帰還するまでにどうするのかを決めるべきと告げられたからだ。

どのみちあと40日程でフリーダム船はリラ6に到着する。

リラ6に居る船が2隻のうちに対応する。

もし来るのが今までと同じ3隻だったら?

準備をこのまま進めてフリーダムの船が来てから対応する?

船の数が増えた場合はそれだけで難しくなる。

少しだけ猶予はある。

多少時間は掛かるが観測機の軌道変更は出来るそうだ。

フリーダム船が5隻のままかどうかは今の速度などを観測していれば確認が出来る。

2隻が途中で止まるなら確実に減速するはずたからだ。

それが観測出来れば計画変更は必要ない。

結局それならリラ6にフリーダム船が5隻である事を報告。

計画の前倒し、その為に準備の修正を指示だな。

それで帰ってから一度キリアトさんたちとも話してから決定する。


「こんな感じだがどうだ?」


「問題はないでしょう。奇抜ではないですし危険でもないですし普通の判断です。

 この場合はベストでしょう。

 色々な兵器を生成し船を改良してこのまま攻撃するという手段もあります。」


「そんな大掛かりなのはいまは資源が足りないだろ。

 俺一人でそうやって行動するのはやらない。

 どう考えてもその方法がベストな時はちゃんとそう言ってくれ。

 それならリラ6の為にそうやって行動する。」


「判りました。サトウ氏とキリアトさんへ連絡をしておきます。

 それぞれの計画変更は旨く調整してくれるでしょう。

 それでは帰還しましょう。船はすでに反転してあり出発の準備は出来ています。」


「判った。連絡は頼む。」


そう言って何時もの様に操縦席に座ったが違うな。


「出発しましょうじゃないのか。俺が操縦する訳じゃないだろう。」


「いえ、今回はイストが操縦してください。セリナは観測と情報収集を行います。」


モニターに表示されているのは光子ロケットの稼動画面だ。


「この地点から予定通りに帰還するには光子ロケットの推進力しかありません。

 減速についても準備していますし補修については確保してある物資を使い生成します。

 さあ、出発しましょう。」


航行予定は24日で残り9日。

セリナは他には用意しておらず来るのに使った推進器は使えるがそれだと帰還は15日後。

帰りについてもセリナが推進器を用意すると思っていた。

行きに使う推進器については説明を聞いたし計画についても聞いた。

帰還時についても似たような方法で用意していますと言っていたか。

それでセリナが生成すると考えてそれでいいと返事したな。

こちらが禁止した事とかはきちんと守る。

逆に指定しなかったらあらゆる手段を使う。

説明を曖昧にしているとか誤解させる言い方をするとかはわざとだろうな。


「判った。ちゃんと減速とかは対応してくれよ。」



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