2-13 リラ星系外縁を越えて
リラ6への帰還は予定より1日遅れ。
リラ4周回で連絡をしているから特に問題はない。
破棄施設から船に戻ってから特に問題はないがやるべき事は多かった。
まず帰還後に計画参加を頼む船乗りのチェック。
これはサトウのじいちゃんから言われた事で計画に誘う宇宙船乗りの選別。
じいちゃんみたいに付き合いが多い訳じゃない。
俺では候補の人たちがどんな人なのかは浅い付き合いの中でしか判らないからだ。
サトウのじいちゃんを含めて何人かで見極めると言われた。
今回はリラ6に3日は滞在するからその間に出来るだけ多くの宇宙船乗りに合う。
その人の船まで行ったり出来るだけ個別で会い話があまり他に広がらないようにする。
個別に話すことで俺が少しずつ学習出来るというのもある。
そんな宇宙船乗りの勧誘をしながら次の採掘地への航海計画の立案。
計画があるからあまり長期間の航海をしない方が良いが稼がないと船の維持は出来ない。
ついでに長距離専門なので近場で掘る訳にも行かない。
候補地はセリナに分析してもらいまず往復20日、休暇込み滞在4日。次が往復24日。
二つ目はセリナの言い出した事で接近中のフリーダム船を観測に行く計画だ。
フリーダム船3隻からはすでに連絡もあり観測もされている。
そろそろ到着の時期なのは判っていたから大きな混乱は無い。
一度リラ6で5隻が合流して今滞在中の2隻と他1隻が帰っていく。
セリナはリラ6へと接近中のフリーダム船を観測に行くつもりだ。
まだかなり距離はあるんだがそれはどうにかするらしい。
相変わらずとんでもない事なんだがすでに何度か体験しているから少し楽しみにしている。
サトウのじいちゃんとキリアトさんに計画についての状況報告。
なんとかうまくやれたり失敗したりする宇宙船乗りの勧誘。
これが一番の難関だった。
会話内容はこっそりと記録しそれをセリナに聞いてもらい分析、修正される。
AIとして人間の感情分析は必要らしく色々な会話パターンが出てくる。
当然それを完全に真似出来るはずもなく全体的に経験不足。
立ち会ってくれたサティッシュさんが上手く纏めてくれる事も多かった。
時にはじいちゃん、BN-キケラクトの名前も出していた。
じいちゃんに世話になっただろう?その船を継いだイストの頼みを断るのか?
そんな風に言われて引き受けてくれた人も居た。
もちろん危険なのは説明しているがそれでも引き受けてくれた。
11人に会って7人が承諾。
そのうち4人くらいは俺じゃなくてじいちゃんとの付き合いがあっての事だ。
俺の事も頼まれていた人が多くて改めてじいちゃんの凄さを知れた。
そうやってリラ6に居る間は忙しく採掘に出た時はいつもの船旅。
ただ今までは自由時間はだらだらしていた事が多かった。
船内作業が終わってしまえば船旅としては本当にする事が無かったからだ。
もちろん勉強はしていた。成人するまでに習得する技術としては宇宙船操縦で問題ない。
30歳までにもう一つ技術習得が必要でそれについての勉強。
それも宇宙船に直結するような事で俺は作業機械関係を選ぶつもりだった。
だから発電施設のような大型機械についても知識がある。
採掘機の修理とかをするからその延長線上。
そっちかサトウのじいちゃんに教えてもらってコンピューター関係かなとは思っている。
その勉強と言っても好きな時に好きなようにやっていた。
今は違っていて船にいる間も忙しいというか充実している。
暇だなと思う事は少ない。
計画関連で必要な知識の習得がある。
人との会話についてもセリナを開いてに練習中。
戦闘用の船の操作関連、戦術関連、リラ6の船を使ったシミュレーション。
どれだけやっていても勉強しても問題ない事ばかりだ。
船員としてセリナが居るのも大きい。
常に一人で船の管理をしなくても良くなっていて時間に余裕がある。
計画が動いているというのにほとんど実際の動きはない。
秘密にしている計画だから余計に動きは見えない。
準備段階はそういうものと言われて実際に準備は進めているから焦っても仕方がない。
一度目の採掘から帰って来た時にはキリアトさんから兵器製造がなんとかなりそうと報告もあった。
サトウのじいちゃんもセリナと必要なシステムとやらを作っていて形になりつつある。
ちょっとずつは計画の進行は感じられる。
最初に予定していた採掘は順調に終わり。
セリナの分析から少量だが金属の含まれる小惑星を複数採掘した事で問題ない稼ぎになった。
金属成分の多い箇所だけ掘るという細かな仕事を複数行うというのは新しい採掘法だ。
ただ実際に行うには詳細な分析が出来るだけの器材が必要だ。
そこをセリナがやっているからこの船だけでは出来ないのが残念。
分析方法とか必要な機材については聞いてあるからリラ6の器材でもやれそうだ。
ただし初期投資としては高額になる。
またひとつの小惑星を採掘するだけでは終わらないのでやはりコスト的には高い。
ただ方法として判っていれば俺じゃなく他の人もやれるかも知れないから良いだろう。
必要な時があれば情報提供すれば良い。
採掘航海から帰還し勧誘やら報告をして再び出航して2日が過ぎた。
「イスト、それではフリーダム船観測に向かいましょう。
まずは推進力80%での加速をお願いします。
出来るだけリラ6から速く遠くへと移動したいのです。」
「80%とかどれだけ飛ばすつもりだ。
それだと目的地まで行けても帰還用の推進剤が無くなるぞ。」
航海予定は頭に入っているから計算しなくてもそれくらいは判る。
本来はそこまで行くのに小さな推進力で加速し続ける事で速度を上げて飛行する。
固形ロケットのように一気に大きな推進力で加速する船じゃない。
100のエネルギーで100の速度にするんじゃない。
5のエネルギーで6の速度を積み重ねて120の加速を得る感じだ。
「今回の航海では問題ありません。
深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミを使用します。
正確にはツキヨミで使用していた推進機などを使用します。
リラ星系外縁部からツキヨミを使用しフリーダム船の観測に向かいます。」
ツキヨミの推進機、深宇宙探索用の船の推進機か。
確かにそれならこのガーランド23を加速させるのには問題ない。
「それはどんな推進機なんだ?
待て、先に修正計画を出してくれ。船の進路変更や加速を行う。」
時間はあるから説明を聞いてからでも問題はない。
ただあれこれこちらから質問していれば長話になるのがこれまでのパターンだ。
1時間や2時間変わった所で誤差かもしれないが推進機を使うなら実際に見れるんだ。
大型船の推進機は興味がある。
「イスト、こちらになります。」
送られて来た航海計画を見ただけで期待が出来る。
セリナを拾った場所よりもさらに遠く倍以上を移動する。
きっとリラ6に来た移民船以来の最高到達地点だ。
航海記録として残せないのが残念。
じいちゃんが乗っていた時からリラから最も離れた船はこのガーランド23だ。
これからもその記録は作り続けたい。
ちゃんと計算して慎重にやれば片道3ヵ月は行けるはずなんだ。
一気にそれは無理でも40日の計画はすでに立てている。
目的地、行く場所となる小惑星とかを探さないと駄目なんだけどな。
速度にもよるが今回の移動で観測くらいは出来るだろうか。
出来るならそれを元に目的地を決められる。
それなら航海記録としては残せなくても十分に次の航海に活かせる。
今回はいつもより高い加速度でリラ6を離れていたのはこの加速を早く行う為だろう。
滅多に行わない大出力での加速でリラ星系外縁部の到着は5日後。
かなり早いペースでここまで来たことになる。
それでもセリナを回収した所までは今の速度でもここからあと3日程かかる。
セリナが朝から準備しており今日、ツキヨミの推進機を生成しさらに加速を行う。
先に計画を出して貰って確認している。
ガーランド23の上下左右に1基ずつ大型の推進機を設置する。
大型というか150mもありガーランド23よりも少し長い。
速度を優先するということで加速力に優れた核分裂断片ロケット。
核分裂生成物を直接推進力として利用するロケットエンジンということだ。
船の核融合ロケットと比べて4倍ほどの推力が出せる。
推進機の設置と同時にその周辺に覆いが取り付けられる。
覆い自体は物体の衝突対策でもある。
速度を上げるので小さな物体でも相対速度的に危険度が増す。
大型の障害物は回避などの手段があるが小さいと発見も難しいし対応も難しい。
今のガーランド23の速度くらいなら制御コンピューターでなんとか対応出来ている。
今後はツキヨミ側、セリナがその辺りも観測、制御、対応する。
大型機械を一気に生成するのはやはりエネルギーの消費が激しく効率が悪い。
セリナの準備というのは細かく生成している段階だ。
操縦席から見られる範囲でも着実に推進機が組みあがりつつある。
12:00くらいには完成し各部の点検、稼働試験などが続けられ13:00に加速開始。
核分裂断片ロケットは核分裂生成物を直接推進力にする。
推進剤が別に必要ではないが核反応炉の小型化や安全化が必要ということだ。
色々と改良されているらしく短時間で大きな推力が得られるということだ。
船の動力炉でやれるか聞いたが無理だそうだ。
完全に専用の反応炉らしく兼用には出来ないらしい。
ツキヨミもこの核分裂断片ロケットは初期加速時にデモンストレーションを兼ねて行っただけ。
本来は大型のイオン推進や別の推進機を使用していたそうだ。
この小型核分裂断片ロケット20基と3倍近い大型10基による加速は圧巻だったろう。
500m近い推進機10基ということは船体としてもかなり大型だろう。
1000m位かなと予想はしているがもっと大きいかもしれない。
初期の船はかなり大型にしていたらしく将来的な資源確保も兼ねての事と話してくれた。
船体を大きくすることで質量を増しセリナが物質生成器で取り込む事で資源化したそうだ。
完成した外観はセリナが一度外から全体像を映してくれている。
それは銀色で滑らかな流線形、全体的にロケットのようになっていた。
加速のカウントダウンが始まりそれぞれの推進機が稼働、噴射。
稼働の様子は設置されたカメラで表示された。
「おおっ。」
操縦席に座っていても感じられる加速力。
船の中に居て加速を体感する事はほとんど無い。
緊急時に最大加速をする時くらいか。そういうのは訓練で体験している。
船の大きさに対してそれだけ大きな推進力が発生しているという状況だ。
表示としても速度の上昇が凄まじい。船の推進機の4倍が4つだから当然だ。
単純に16倍の推進力は発生していないが相当に速い。
このまま1日近く加速を続けて光速0.8%程まで加速予定だ。
さすがに星系間航行を行う船の加速。
なにより一気にここまで加速するのは始めてだ。
しばらくは推進器の状況や加速数値を観測、記録を続けた。
セリナから聞いた理論についても記録はした。
ただ1時間程すれば興奮していた状況も落ち着く。
問題無く稼動しているから変化はないからな。
ここから先、船の制御はセリナが担当する。このまま操縦席に居続けるそうだ。
これだけの速度での操船は経験は無い。
俺も自分の作業をしながらセリナが何をしているのか注意点はどこかなどを学習する。
まあ宇宙船のコンピューターが記録しているのでそれを見ながらだけどな。