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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
27/82

2-12 リラ6の計画 [前編]

文章量が増えていたので分割

ずいぶんと遅い時間ながら小さな居酒屋、アカチョウチンは暖簾が外してあるのに中は賑やかだ。

引き戸についた鈴を鳴らしながらキリアトはがらがらと扉を開いた。


「遅いぞ、キリアト。」

「もう始め取るぞ。」


見知った顔ばかりで今日はここは貸切。

宴会は始まっているがまだ誰もちゃんと話が出来る状態だ。

カウンターやテーブル席に目的の人物たちは居ない。

ここに居るのは各部門の要職者で協力してくれている者たち。

信頼出来る者たちだ。


「キリアト、奥座敷に集まっているよ。ビールか?酒か?」


「座敷のメニューはなんだ?」


「魚の鍋。」


「なら冷酒じゃな。」


店の主人は元職人でキリアトの同僚。引退後にここを始めてその伝で通っている。

カウンターから出てお盆に乗せた3本の徳利と杯を渡される。


「キリアトが最後だ。始めてもらって構わない。」


「騒がしくしてすまんな。」


「御代はちゃんともらっている。気にするな。」


店としては12人ほど、座敷を入れても18人ほどしか入らない。

小さな居酒屋だが信用が置けるということでリア6関連の会議に使わせてもらっている。

もちろん危険があるのも判った上でそれでも提供してくれる。

ありがたい事じゃ。


ふすまで閉じられている奥座敷は静か。

いつもならもう少し騒がしいが珍しいの。

ふすまを開けて驚くし視線がこちらに集まるがまずは中に入り後ろ手にふすまを閉じた。

テーブルではすでに土鍋が2つほど火にかけられそろそろ仕上がりそう。


中央は最近直接あってはいないが良く知っておる人物、サトウタクヤ。

コンピューター関連開発会社社長、親父の大親友、悪友でイストの後見人。

計画の発起人でいつも連絡はしておる。

普段から出歩く事はなく会社から動かない。ここに来るとは思っていなかった。

服装は相変わらずローブに白衣という変わった格好。


奥の右端はギードリア、元行政府開発長官。今は相談役。

きっちりしたスーツ姿でゆったりとグラスから飲んでおるのはヤクザ者と言った方が良い。

サトウさんと同年代ながらいまも鬼教師として新人教育を担当している人物。

その手腕は確実で開発部の成長に長く関わっており部下や新人たちにも慕われておる方じゃ。

協力者のひとりじゃが行政府関係者がこの場に直接来るなんて危険すぎる。

手元に表示があるから何かを確認しているか連絡しているかじゃな。


左端は民間経済組合の副代表、ドールカー・マジュナンド。

この席の中ではおそらく一番若く42歳くらい。

祖父がサトウさんや親父キケラクトと一緒に四長老と呼ばれた悪友グループの一人。

その活躍に憧れて破天荒な事も多くやっておる人物。


手前の端には産業管理部のイイダヒロコ。

50代のはずじゃがいまだに綺麗と呼ばれる美貌、すらった体系。

ただミスには厳しく苛烈な性格で仕事に関しては周囲から嫌われる事も多い。

自分にも厳しい人物じゃから仕方あるまい。


手前中央はカタオカゴロウ、輸送制御関係者。

腰の低いサラリーマンじゃが以外に交渉上手。

目立たぬものの要職者としては十分すぎる能力を持っておる。

荒っぽい宇宙船乗りも怒らせない人物じゃな。


わしとドールカー、イイダ、カタオカはここで何度も密談をしとる。

他の協力者も多くおるから面子はいつも違うが欲集まる面子じゃな。

イストの計画も含めて今後の調整の為に召集したんじゃが今回の予想外の人物には驚く。

サトウさんとギードリアさんはここで会うのは始めてじゃ。

慌てふためく程ではなく空いている端の席へと腰を下ろす。

酒を杯に注ぎながらざっと様子見。

いつもならイイダあたりが話を始めるのじゃがなるほどサトウさんやギードリアさんに遠慮しとる。

目上の人だし初対面かもしれん。

親父の繋がりで見知った方が多いわしとは勝手が違うか。


「集まったな。まずは私とサトウの突然の参加を謝罪する。

 公式な場では無く適当に飲み食いしながら会議は進めると聞いている。

 進行はキリアトに任せたい。それで構わないか。」


ギードリアさんが視線を参加者へと順に向ける。

頷く者、返答する者いろいろじゃが問題は無い。


「それではすまないが進行はキリアトに任せる。

 この中では全員を知っているから適任であろう。遠慮なしに進めてくれ。」


ドールカー、イイダ、カタオカの視線が向けられる。

お前らも目上の者だかと言ってそんなに気にする奴らじゃなかろうに。


「では始める。今回は急ですまぬ。急ぎ調整する案件があったからな。

 サトウさんもそれは知っておるしそれでギードリアさんも来たんじゃと思う。」


そんな前置きを話しながらわしはまず鍋の蓋を開ける。

せっかくの料理、旨いうちに食べるに限る。


「まずは定例の報告じゃな。遅れている事がある者はいるか?」


カタオカからの報告が一件、輸送用の車の調達に調整が必要。

遅くなるがその分数が揃えられる。それまでに使用する分は減るが調達は出来る。

移動用の車が遅れるだけで資材運搬用は優先してすでに調達済み。

イイダもそれであれば調整出来るので計画に問題は無いと告げた。


そんな報告の間にギードリアさんも鍋を開けて自分で取り分けている。

遠慮されると思ったか周辺の席の者へも取り分けていた。

恐縮しながら受け取るしか無いわな。

わしもサトウさんから連絡が来て魚と野菜中心によそって渡す。

元々この集まりは立場や上下の関係なく意見を言う場。

まして堅苦しい訳ではなく無礼講が基本。

他に急ぎの報告は無くある程度の状況確認。

全体的に問題はなく進行状況も順調。

最初は珍しく堅い空気もあったがいつもの報告がありつつ飲み食いすれば落ち着いた。


元々この計画は親父とサトウさんが始めた事。

珍しく今回は声を掛けられわしも加わった。

まあ親父の無茶は今に始まった事ではないくむしろわしが仕事を始めてからの方がひどい。

家に文句を言いに来た重鎮方も多いしな。

おかげで語られる四長老の話はほとんど知っとる。

今の計画も5年程前から動いておるもので親父が亡くなってからも継続しておる。

上におるものが一人欠けたくらいで頓挫するような計画にはしておらん。


その計画というのはリラ6避難計画。

アーコロジーを移民船として惑星から逃げ出すというのはわざと流した噂じゃ。

本来の計画は地下居住区への住民避難。

全員では無く7割から8割を避難させアーコロジーを破壊。

住民の全滅を偽装して地下に潜みフリーダムたちが去るのを待つという計画。

地下避難所については融合病復興時に計画があったもの。

計画だけで復興が順調に進んだために進むこともなく放っておかれた。

それをサトウさんが記録しておったからそれを元に計画は進められておる。

本来であれば行政府の仕事じゃがフリーダム側に知られるわけにはいかん。

それで引退組が中心で動いてはおるが行政府のトップも承認しておる。

むしろこちらの計画が動いておるから今は二重政府のようになっておる。

本来あってはならん事だが状況としてそうも言ってはおれんからな。

試算としてはリラ6が持つのは後2年から3年。

このまま搾取され続ければその辺りで生活が成り立たなくなる。

採取資源や農作物の蓄え、生産量などからの計算じゃ。

もちろんフリーダムに物資を渡さなければもっと持つ。

提供物資が不足した分は人を奴隷化して補うという事になっておる。

そうならないように行政府が努力して生活を維持させている。

じゃが武力支配されておる現状を変えない限り物資の不足、奴隷化の加速が始まる。

それが判っておるから行政府の連中も対応しようとはしておるがなかなか難しい。

そんな状況が判って計画を進めたから行政府もこちらの計画に協力的じゃ。

ましてどれだけ住民に不満を言われ文句を言われようと耐え抜いておる。

その覚悟があるのは立派じゃが出来れば生き残らせたい。

先に逝くのはわしら年上の者よ。


他にもいくつか修正点やら報告が行われその間にある程度鍋はさばけて程よい状況。

届いたメールをみればサトウさんからで新しい計画についての説明を始めるか。


「それじゃあ新しい計画についての話を始めさせてもらおうかの。」


そう言うとサトウさんが用意していた紙を綴った物を取り出し全員へと配った。


「この場で回収。」


しわがれた声でぽつりとしゃべるのはいつもの事じゃな。

渡されたのは計画についての詳細資料じゃ。

確かにこれは残しては置けん。


「わしが話そうとしたのはこれについてじゃ。

 少し時間を取るからその資料を確認してくれ。

 終わったら資料は回収して処分するぞ。」


資料は修正された計画の詳細と投入可能な資源などリソースの再配分。

細かな数値もすでに出ており全体的なスケジュールも修正されておる。

イストの計画実行と同時に避難計画も実行。

アーコロジーの中央輸送路を兵器に改造することで軌道上への攻撃も行う。

リラ6全体の反抗とみせかけて適当な所でアーコロジーを崩壊。

その後はフリーダムが居なくなるまで地下生活へと移る。

こちらの計画はイストには話しておらん。

イストの計画を隠れ蓑にしつつこちらの計画を確実に実行する。

これは大人の汚さじゃな。

こちらの計画があるから宇宙船用兵器の生産についても簡単に協力を約束出来た。

すでに色々計画が動いておるからな。イストの計画の方が便乗しておる訳じゃ。

宇宙船乗りたちに犠牲が出るのは心苦しいがの。

問題点としてはかなりスケジュールが前倒しされるという事じゃな。


「イイダよ。資源関係はどうじゃ。」


細かく書いてある数値をちゃんと計算すればわしにも判るがさすがにすぐには計算出来ん。

得意な奴に任せるのが正解というものじゃ。


「現実的な数値です。さすが資材管理の悪戯小僧。

 リラ6全体で修正すればもう3%程投入可能ですし最終段階であれば5%は上乗せします。

 スケジュールとしても許容範囲内です。」


「宇宙輸送は輸送量が増やせませんから何か新規の計画が必要ですね。

 地上に関しては中央輸送路が完成しましたから対応できます。」


「ステーション施設から撤退したい業者が多いのでそれを認めて行政側で改築案を出しては?

 無理を言いますが私が協同で行えば引き受けてくれる所はあります。

 採算という点では厳しいかもしれませんがなんとかしましょう。」


「ステーションの縮小計画に組み込むのはどうだ?

 施設面積が減るが資源の移動はしやすくなる。」


修正された計画について実行するにはどうすれば良いかをそれぞれが考える。

自分の担当分野については意見を出しそれぞれの調整を行っていく。

大雑把じゃが細かな調整は後日にちゃんと行う。

さきほどの定例報告も同じようなやり方をしておる。

それが判ってギードリアさんからも意見が出る。


「そんな計画が出ているのですか?」


「提案があっただけで試算すれば現状維持が良いとなる。

 長い目で見れば縮小はメリットがあるから無理をして計画は通せる。

 宇宙施設の縮小ならフリーダムも文句は言わないだろう。

 予定は下2層を3割削るといった感じの計画だ。

 大掛かりな事業になるから長期で契約するなら施設内のレイアウトなどは融通出来る。」


「今の区画割を変更出来るということですか。

 それであれば参加する業者もあるでしょう。」


「全体的なスケジュールとしてはかなり急ぎになる。7日はかからんぞ。」


「このドルーカー、3日あれば十分です。」



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