2-11 破棄施設の改良と試験
翌日セリナの作業が終了したと通信が来たのは予定していた時間ちょうどだった。
最も端にあるリラ6に近い側の区画に行くと様変わりしていた。
半円よりも少し大きく蹄状、円の下三分の一くらいを切り取った感じか。
そんな半円形の通路が外へと伸びていて所々に装置が設置されている。
床からは巨大なレールのようなものが通路へと伸びそれはどこまでも続いていた。
その半円、高さが50mくらいあるので本当に巨大。
後は機能まではなかった壁際に積み上げられている巨大な金属筒。筒というか槍か。
左右に壁際に8本、縦に4本が横に2列並べて置いてある。
セリナの姿が見えずに探してみればレールの上に設置された大型のコンテナの中にいた。
そこで物質生成を続けていてコンテナが次々に作られていた。
「イスト、完成した宇宙用大型電磁投射砲は如何ですか?。」
「輸送用のマスドライバーじゃないのか?」
確か作る時にそんな事を言っていたはず。
ここからリラ6へ向けての輸送用。
「輸送だけでなく攻撃も可能なように作りました。
威力が違うだけで基本構造は同じようなものですから輸送用としても使用できます。
弾丸は単分子構造で作った質量弾とそれを元にして炸薬による爆発を引き起こす物があります。
AIセリナによる軌道計算によって射出しますのでリラ6軌道であれば命中は見込めます。
ただ戦闘中のように激しい移動中はさすがに予測が難しくかなり命中率は下がります。」
壁際のでかい金属筒、槍は弾丸か。
改めて見ればこのレールへと輸送する為の機械も設置してあった。
「戦闘中に当てられないならどう使うんだ?」
「弾速を変更し複数が同時に着弾するように射出行います。
先制攻撃、もしくは直接戦闘が行えない場合の奇襲です。
確実に撃破出来るかは不明ですが最終的な対抗策のひとつとして用意しておきました。
戦闘などが行えない状況が起きた場合の備えです。」
さっそく用意された非常手段という奴だな。
セリナの計画としてはこういうものはいくつか用意しておきたい。
どれでも良いからそれフリーダーム船を撃破や無力化したらそれは俺の功績。
俺が用意しておいた兵器を上手く使ったという事にする。
セリナの作った兵器の説明は難しいしセリナの存在を隠すからそういう状況。
「実際に使用する場合はこのように展開します。」
床下から壁がせりあがって来て天井も下がってくる。
コンテナのある場所から奥の半円状の通路までが完全に覆われ密閉される。
レールも少し上がりこの区画自体が砲身みたいになっているのか。
「今作っている宇宙船兵器用の弾丸については6時間程でリラ6に輸送出来る予定です。」
コンテナから出て来たセリナは周囲の機械を動かしてコンテナに蓋をする。
そしてコンテナの周辺に白い物体を生成していく。
何度か生成されればそれがロケットのようなものだと判明した。
「コンテナだけで射出するのではなく格納して射出を行います。
初期加速を行った後、追加加速と軌道変更により高速輸送が可能です。
こちらの作業はこれで終了しました。イストの作業の進展はどうですか?」
「動力系のメンテナンスは終わらせてある。
稼働させ続けても2年は問題が無いがそれ以降は大掛かりなメンテが必要だろうな。」
機械的な診断でも問題は発生していない。
長期間放置している割に良い状態だが停止していて稼働させていた訳じゃないからな。
全体的に消耗しやすい部分もおそらくここを離脱する前に交換してある。
維持する事を前提に施設そのものを破棄したみたいだ。
メンテナンスしたのはそれでも破損の恐れのある箇所ばかりだ。
「計画的には問題ないでしょう。
時間的には余裕がありますから宇宙船用のレールガンの試射を行いましょう。
目撃や観測される可能性が無いこの場所は試射には最適です。」
そのまま片付けを終わらせてから宇宙へ出る。
試射は実際の環境で行った方が良いというセリナの意見だ。
問題ない距離まで施設から離れてからセリナが物質生成を始める。
ブロック船のブロックを作っていき6個を組み合わせる。
「中身はありませんが重量などは出来るだけ実際の船に近づけたものです。
二種類の砲を用意していますから試射をお願いします。」
送られて来たのが電磁加速砲試射試験用制御システム。
それをセリナの指示に従って操作していく。
まずは1番砲を起動すると6ブロックの上部へとレールガンが出て来た。
照準を左右に動かせばちゃんと左右へと砲身が動く。上下の稼動も同様に確認。
撃つ前にもっと激しい動きも試していく。
指示されたようにシミュレーターのデータと連動させて実際の戦闘での動きも確認。
何パターンかそれを繰り返す。先にシミュレーターをやらせたのはこの為だな。
本当なら船の移動に合わせて砲身が動き続けて照準を固定するようになる。
セリナがサトウのじいちゃんに頼んだ制御システムはそういう所を自動で調整するものだ。
移動しながら撃つなら確かに必要になる。
2番砲は内部設置式のレールガン。
こちらはブロックの外側と天井面が開いて射撃出来るようになる。
ほぼ真上に対しても普通に射撃が可能だ。
こちらも試験項目は同じで稼動を確認していく。
その作業を任されてテスト項目を埋めている間にセリナは宇宙を飛んで的を用意して来た。
的だけでなく観測機器も設置したらしい。
この試射で実際の破壊力も計測しておく。
撃つのは各2発。弾丸が回収できないからもっと撃ちたいがいまは節約らしい。
この試射で何か問題があれば改良するそうだ。
今試験しておけばリラ6で製造される前に修正が出来るのが大きい。
試験するのも当然リラ6に提供した設計図を元に作った兵器だ。
「それでは始めましょう。1番砲でターゲットAに試射をお願いします。」
通信で聞こえて来たセリナの声に作業を始める。
こちらは試験用に作られたブロック船もどきの中にいる。
操縦席っぽいものが作られていて席も用意されていた。
反動とか衝撃の具合を確認するのと体験しておくためだ。
あくまでも座席だけなので実際の操作は宇宙服の端末で。
さっきは外からだから砲身が動くのが見えていたが今は照準を合わせても表示でしか確認出来ない。
こういう違いもあるな。
この船もどきも的も動かないからちゃんと撃てれば当たるはずだ。
照準についてはセリナが計算し制御しているそうだ。
的に向けて狙いが定まる。
「射撃軌道、問題なし。試射1回目、開始します。カウントダウン、5、4、3、2、1、射撃。」
セリナの通信に合わせて発射を指示。それは端末の発射ボタンを押すだけ。
それほどの衝撃も反動も音もなくヘルメットに別表示させていた画像で的が壊れるのを見た。
光線兵器じゃないから閃光とかもないしロケットの噴射などもないから弾が見えない。
撃ったら壊れた。派手さはまったくない。
「続けて試射2回目、ターゲットCへ照準。」
何か言った方が良いのかもしれないがそのまま指示に従って照準を変更。
「試射2回目、カウントダウン、5、4、3、2、1、射撃。」
連続した射撃についての試験も兼ねているからすぐに2回目を行うのだ。
稼動して色々な方向に打てる1番砲は大きく照準を変更しての連射。
固定式の2番はほぼ照準を変更せずに即座に撃つ連射。
それぞれ違いのある試験項目だ。2番砲の試験も順調に終了。
実際に狙ったりする訳ではなく船に指示するだけで攻撃している。
こんなに簡単なのか、実際だと攻撃もされるし船も見えているからもっと違うのか。
船員が多かったりしたらもっと色々指示があったりするか。
なんとなく宇宙戦争物のドラマとかのイメージだけどな。
ただ判ったのはレールガンによる攻撃は距離によっては怖いということだ。
光として見える訳じゃないから撃たれても判らない。
距離があれば光速ではないからまだなんとかなるかもしれない。
移動し続ける事で避けられるとは思うが大きな船なら避けるのは難しそうだ。
「試射試験は終了です。
続けて戦闘用ガーランドの試験も行います。
少し待機してください。」
「その戦闘用ガーランドの試験というのは何だ?」
聞いていない事が突然出て来た。
「テストが設計した船が面白そうでしたので実機で試してみます。
二十分の一サイズのブロック船を生成しますので実際に動かしてください。
機動性などのデータを集めておき今後に生かします。
イストが実際に動かしてみた方がよく判るでしょう。
ヘルメットに画像などは補正して表示しますので実際の船に乗っているのと変わりません。
こちらを起動してください。」
このブロック船もどきも外は見えるようになっている。
外でセリナが手を振りそこで物質生成をすれば船が出来た。
20分の1ということは1ブロック1m、全長で5m程か。
「うわっ!」
送られて来たシステムを起動するといきなりセリナがこちらを覗き込んでいた。
ヘルメットからの視界すべてがセリナの顔なのはびっくりする。
こんな近い距離をいきなりはやめて欲しい。
一度システムを切って視界を元に戻す。
外を見ればミニチュア宇宙船の操縦席を覗き込んでいるセリナが居た。
「システムを切らないでください。
リアルタイムで補正するのは少しだけ面倒なのです。
そのまま操縦すればイストの操作もすべて縮小サイズに合わせたものになります。
通常の船だと思って戦闘時の軌道を試してください。」
「判ったから一度離れてくれ。いきなりセリナの顔を見せられると驚くだろ。」
「もう見慣れているのではないですか。
イストは遭遇初期の頃と比べると普通に接しています。」
最初は確かに照れる部分も多かった。
女性と船で二人なんて全然慣れてないし機械と判っていても人間と変わらないからな。
そんな事も判っていたのはわざわざ言わないで欲しい。
多少慣れたと言ってもいきなり側に顔がある状況なんて慣れていない。
セリナが離れたのを見てからシステムを再起動。
腕の制御パネルはその視界でも普通に見える。
「本来の操縦と違うのは上手く対応してください。」
真面目に船を操縦するならペダルや操縦桿、操縦席の各スイッチ、レバーも使う。
それぞれに割り当ててある操作法とコンピューターによる制御の組み合わせだ。
戦闘だとその方が早く操作できるのと細かく操作出来たからそうした。
コンピューターに指示するには限りがある。
モニターでの入力、口頭指示とかしていたが結局自分で操作するのが簡単だった。
今回はそうではなくてシミュレーターの操作が表示されている。
まず少し前進、そこから旋回、下降、上昇。
操作は出来ているが対象物が無いから変化は判らない。
「そのまま反転してください。試射実験に使用した模造品を目標にします。」
その模造品というのは今乗っているこれじゃないか。
言われた通りに反転すれば確かにセリナとこれが見えて来た。
5mに対して60mだからかなり大きく表示されている。
なるほど、こうやって補正されているということか。
「こちらでレールガンを操作して攻撃も行います。
実際に撃つ訳ではなく画像表示だけですから驚かないでください。」
「そこまでする必要があるのか。」
「実際の戦いでは何かあれば撃墜、死亡するだけです。
今から体験しておきましょう。」
計画を実行してからのセリナの俺に対する学習は容赦がなくなった。
リラ6に戻るまでは色々聞いて質問して理解するという事ばかり。
単に計画に向けた準備が本格化したという事だろうか。
最初から戦闘をしろとは言われずにまずは操作に慣れるために試験飛行。
ぐるっとブロツク船もどきの周りを周回。
それからもう少し速度を上げて船の感触を掴む。
ヘルメットの画像があってもなくてもほとんど意味はない。
実際に船を動かしていても位置情報をモニターで確認するのがほとんど。
ステーションとかの物体を見ながら動かす事の方が少ない。
何もない宇宙で進路を変えて星図などで位置情報を確認して変更されたのを確認するのがほとんどだ。
街を走るとかとはまったく違う。
目印にする星とかは当然あるんだけどな。
シミュレーターで動かした時もそこそこ動きやすいというのはあった。
実際に動かしてみると前後左右だけでなく旋回なども速い。
細かな調整が出来るというのもありがたい。
実際に戦闘を行ってもそれは顕著。
一定の方向に飛び続けないのが当たらない為の方法のひとつ。
パターンにならないように上下左右、うまく考えて軌道を変えていく。
一方向へ移動し続ける場合でも速度を変える。
加減速を混ぜることで射撃させにくくするのと撃たれても当たらないようにする。
移動物体を狙って撃つなら移動先を狙う。
撃った時に狙っていた場所に行かなければ攻撃は当たらない。
この回避もそのうちコンピューターが補助するらしいけど今はまだ手動。
ひたすら動き続けて対応する。
シミュレーターよりも長時間の生存が出来ていた。
結果は3度撃墜。
ただこちらからの攻撃も出来ていたし2度は目的距離まで接近出来ていた。
「イスト、少し待ってください。
改良してみますからそれも試しましょう。
中央部分の推進機を小型2基に変更し偏向ノズルにしてみます。
これで機動力はさらに上昇する計算です。
また今回はセリナが航法をサポートします。では始めましょう。」
話しながら物質生成をしているのは見えていたがいきなりか。
中央に設置した進路変更目的の推進機を小型2つにすると旋回などは調整がしやすい。
2つを同方向に推進させても良いし前後逆に推進して旋回補助でも良い。
各方向8基の推進機を組み合わせれば上下左右への調整が容易い。
偏向ノズルというのは戦闘用航空機で使用されていた推進方向を変更しやすい推進機というか方法。
セリナの制御もあって細かい調整が出来るのも大きい。
20分程試してから次に作られたのは推進機の位置を非対称にしたタイプ。
左右の推進機は右側は前部、左側は後部、上下も位置を前後でずらしてある。
この配置にすると船の先端に推進機があるから旋回が早い。
ただ全体としてみればアンバランスで操作が難しい。
おそらく船の前後に4方向の推進機をつけておかないと効果的じゃない。
それは10分程で終わりさらにもう一隻、後部に推進機を集中したタイプ。
後部推進機の出力で高い加速力、中央の推進機で上下左右への進路変更とシンプル。
加速力はあるものの前進特化になっている点だけが問題。
前進し続けながら進路変更でそこは対応する。全体的には予想通りの性能。
小型の船とは言ってもやっぱり実際に動いているのを見られたのは大きい。
特に小型だから実際の船と違ってどんな軌道で移動しているか把握しやすいのがいい。
あれこれ調整した船をそれからも何隻か試し結局3時間程続けた。
途中でブロック船もどきも作り直し実際の操縦席での操作に切り替えた。
本格的な戦闘訓練を兼ねて船の試験を続けた訳だ。
俺に取っては訓練が出来て丁度良くセリナとしては色々な新しい船を試せて丁度良い。
後半に作られた船についてはそれは無いだろうという物も多かったけどな。
セリナの知識的欲求という奴だ。
船への合流時間となって試験は終了。
すでに撤収準備は出来ているからセリナが移動用の船を作りそれで移動開始。
今度の船は来るのに使ったよりは小型で黒く光や電波を吸収するそうだ。
船に合流するので少しでも観測される可能性を下げたもの。
速度はそれほどでは無く移動時間は船の試験についてが話題だった。