2-10 リラ4周回
リラ4周回を失敗して離脱軌道を変更、再度軌道周回を行う。
そういう事にしてセリナはリラ4に降下する。
リラ4の裏に回れば今の位置だとリラ6から影になり観測はされない。
裏側の夜の時間帯で降下、回収を行うのだ。
セリナは降下後、物質採取を開始、回収時間まで作業を続ける。
惑星上で採取できるならリラ6への帰還軌道でも出来たんじゃないかと聞いてみた。
やらなかった理由は簡単で当然のものだった。
単純に惑星重力の問題。
リラ4はリラ3よりも小さく全体としても2番目の大きさだ。
リラ10とかの大きな惑星の重力圏から離脱するための推力を指摘された。
巨大惑星の衛星についても同様。
惑星とか衛星の重力から離脱するにはかなりの推進力が必要になる。
宇宙速度というもので衛星軌道に乗せる速度とか重力圏を脱出する速度などだ。
リラ6の宇宙船は惑星には降下しない。
だから宇宙速度はほとんど気にする事はなかった。
セリナも基本的には小惑星から採取を行っていたようで衛星、惑星からは行っていない。
じゃあなぜ今回は今回は行うかといえば採取後、離脱に資源を使っても問題ないからだ。
十分に資源回収は出来るはずと話していた。
すでにセリナはリラ4に降下。
着地はどうするのかと思ったらバルーンという物を用意していた。
風船みたいなもので覆われて着地の衝撃を緩和するのだ。
「では行ってきます。」
そう軽く言って船から飛び出してそのまま惑星へと落ちて行った。
すでに採取を始めたと通信が入ったから降下は上手く行ったのだろう。
報告の声が少し嬉しそうなのが気になる。
恐らく惑星への降下、惑星での採取という新しい体験、経験に喜んでいるんだろう。
操縦席に座ったまま目を閉じる。
一眠りしてから急ぎの作業を終わらせる。
翌日、いつもより睡眠時間が短くて眠い。
破棄施設から船に戻ったせいでスケジュールがずれているからだ。
ただ日課としている運動をすればその眠気も薄れる。
リラ6を出てからは少し運動量を増やしている。
筋肉とかはすぐに着くものでもないし体力強化も同様。
銃を持って走り回る戦闘に向けての準備でセリナからの提案だ。
リラ6に帰還してからは計画に向けた準備が着実に進行されている。
まあ身体を鍛えておくのは無駄にはならない。
力仕事も多いから同年代の中ではそこそこだと思うがもうちょっと伸ばしていてもいいだろう。
いつもの日課と各作業、各シミュレーター、戦術学習。
船に乗っていても出来る事は多い。
今回の航海は採掘作業が無いから余計に時間が余るから丁度良い。
定時連絡として時々入るセリナからの通信では問題は無いようだ。多分。
「新しい体験が出来ています。」「順調です。」「楽しいとはこういうことですね。」
「別の惑星か衛星でも試させてください。」「機械としては性能を最大限発揮出来るのは喜びです。」
そんな感じで楽しんで喜んでいるようでテンションが高い。
楽しそうなのはなによりで未知の情報だけでなく新しい体験もセリナには重要そうだ。
20時間でリラ4を再周回して結局セリナの帰還は時間ギリギリだった。
船には乗らずに移動用の小型艇を生成。
このまま破棄施設へと戻る、移動する。
今回はちゃんと乗り物のようでセリナが小型艇と話していたのに納得する。
全長は10m程、中央は円筒形で操縦席もある。
翼が左右に伸びており下部にはロケット、後部にも噴射穴がある。
「これはなんなんだ?」
今度は先にちゃんと説明を聞く。
理解出来なくてもセリナが作ったものはちゃんと説明を聞いた方が良いのは学習した。
「本来はコロニー間の移動などに使用されていたシャトルです。
航空機を元に作られた宇宙空間の短距離移動用の小型艇になります。
今回は速度が必要ですから下部に初期加速用のロケットを追加しました。
ツキヨミにも搭載されていたものですから移動については問題ありません。」
すでに操縦席にいるがちゃんとした操縦席だ。
円筒の最前部で前部に2つ、後部に2つのシートがある。
セリナに言われて操縦席らしき前部のシートに座っている。
いくつもの表示パネル、操縦桿、ペダル。
表示パネルは速度計や高度計のようだ。
船、ガーランド23ならモニターに纏めて表示しているものが個別にあるようだ。
コンピューターが作動しない非常時ならそういう表示を見ながら操縦する。
「シャトルは生成しましたが飛行についてはAIセリナが行います。
システムまでは再現していませんから残念ながら操縦は出来ません。」
興味深そうにあれこれ確認していたからか横から言われた。
「操縦するとしたら難しいのか。」
「難しくはありませんがかなり古いので練習は必要でしょう。
リラ6では自動化されている事を手動で行う必要があります。
世代としてはかなり古いものです。
こういう船から発展して今の宇宙船となったのです。」
どれくらい前の宇宙船になるんだろうな。
リラ6じゃこういう古い情報も無くなっているんだな。
今度宇宙船の歴史を聞いてみよう。
船で過ごす時に話す事はいくらあっても問題ない。
シャトルは急な加速ではなくて継続加速で速度を増していく。
シートもちゃんと加速Gに対応したもので今回は問題はなかった。
移動中にはリラ4での採掘について聞いたが後悔した。
ほぼ無制限に採取するというのは初めての事だったらしい。
確かに小惑星は大きいといっても限界はある。
大型の小惑星の採取も実際は小さな一定範囲の採取を繰り返す作業だったらしい。
最初はそれを行っていたそうだが地層分析を行い効率的に広範囲採取が出来たそうだ。
採取に使用するエネルギーを考えると広範囲だと無駄が多い。
単純に採取する資源に見合わないらしいが今回は無駄遣いしても問題がなかった。
100を使って20しか得られなくても場所によっては20が80になる。
そんな訳で効率的な採取方法を実践したそうだ。
専門的な用語が無数に出てきて説明がひたすら続いたので後悔した。
20分程しゃべり続けたのは驚きで機械だけに呼吸で途切れる事もなかった。
予想外な状態でセリナへの注意点だな。
要点としては資源採取は順調でかなり余裕が出来たようだ。
セリナとしてはこういう無差別な採取は基本的に行わない。
普通は鉱石を採掘、精製する機械類を作って加工、それを物質生成器で採取するようだ。
実際にツキヨミ船内に溶鉱炉まで用意してあったそうだ。
不純物が多いまま取り込むより欲しい成分だけを得た方が効率良いのは当然だな。
かなり無駄が多かったのは残念がっている。
「そんな状態でこんな船を作って良かったのか?」
「イスト、当個体AIセリナはツキヨミであり宇宙船です。
本来はこのように必要な移動手段や装備を生成し運用するものです。
AIセリナとしての活動が中心となっていますが宇宙船である事は忘れないでください。
採取した資源的にはおそらくガーランド23であれば物質生成可能です。」
宇宙船か。ちらりと横のセリナを見る。
今のセリナが宇宙船と言われてもやっぱり実感は無いな。
船という説明は聞いているが宇宙で拾った女性型機械人形だからな。
生身で宇宙に出たり物質生成をしたりとんでもないのは間違いない。
こういう機会が増えるならちょっとは認識も変わるかもな。
セリナの作ったシャトルで破棄施設へ到着してからはセリナは忙しくしている。
リラ6に近い側から施設の改造、物質生成を繰り返しているからだ。
大きな物質生成は消耗が大きいので効率と作業時間、うまく調整しての作業らしい。
最初は見ていたが1時間程で任せる事にした。
作業自体が地味だった。
大きな機械がいきなり作られるのかと期待したがそうじゃなかった。
機械の一部を作るのを繰り返し、その間を埋めるように物質生成を再度行う。
それを繰り返して徐々に大きくしていくからだ。
2m程だったり5m程だったり作られるサイズはバラバラ。
それを結合していくのだ。
そんな機械の組み立てを見続けていても俺には出来る事がない。
早々にセリナに任せておく。
計画についてはセリナに頼る事が多くて俺の出来る事はやっぱり少ない。
頼っているのはキリアトさんとかもだしな。
自分が出来る事は全力で。
制御室での俺の役割はこの施設の状況確認。
すでに動力を再起動、電力や生活インフラについては確認が終わった。
無事に稼働中だが何ヵ所か問題があるからそれをリスト化。
機械の故障や劣化などで対応出来そうな箇所についてはそこに行って修理。
少し古いパーツが多かったりするが船の修理と同じだ。
それもそれほど多い訳じゃないし大型の機械が必要な修理などもない。
施設全体としても大きな損傷はなく無事に稼働している。
外部に何ヵ所か衝突があったようなのでその部分は補修が必要だろう。
元々ぶつかるのを前提にしてある作りだから内部まで被害はない。
そういう点では幸運だろうな。
気になったから周辺の小惑星やデブリの最新軌道を重ねてみたが今後も大きな被害は出ないようだ。
ただ宇宙の浮遊物体の軌道は何時変わるか判らないから確実じゃない。
でも有人施設ではないからそこは諦めておくしかない。
セリナは船への帰還時間まで作業を続ける。
それまでに俺が頼まれたのは船の再設計。
ブロック船としてガーランド23を戦闘用にする場合の構築。
持ち込んでいるデータディスクからブロック船の構築シミュレーターを読み込む。
そこにセリナの用意した武装ブロックなど戦闘用ブロックのデータを追加。
これで仮設計が出来て推力や航続距離などが調べられる。
ブロック船の変更時や建造時に使用するものだ。
セリナの改造によって戦闘での数値も調べられる。
セリナが再設計したレールガンはブロック船に搭載できるように作っている。
ブロック内から撃てるようにしたものとブロックの外に出して撃つもの。
内部から撃つのは射角、撃てる方向が限られるが壊されにくい。
外に出すものはかなり自由に撃てるが当然、攻撃されやすく壊されやすい。
どちらにせよ配置は重要だ。
すでに戦闘シミュレーターで試しているからいくつか用意はしてある。
必要なブロックを選んで組み合わせて数値の確認を何度も繰り返していく。
色々試してみて納得出来たのは2つ。
ひとつは今のの構成を変えたもの。
船の中央部分を上下左右への推進機へと変更。
後部推進機の構成は変えずに船前部にも同様の構成。
これで長さ5ブロックの奇数部分が埋まる。
偶数部分の一か所は操縦ブロックでもう一か所が燃料庫。
上下に外に出すタイプのレールガンを配置する。
もしくは推進剤格納庫を削って上下左右にレールガン。
ただ上下左右に武装があっても前か後ろにしか攻撃は集中出来ない。
横に撃つ場合は船体自体が壁となってしまうからそれならやっぱり2つくらいで十分だろう。
形自体を変えたものをひとつ。
後部は小型推進機4つ、次に上下左右への推進機。
それから武装4ブロックで先頭に操縦ブロック。
2×2を3つ繋げて操縦ブロックを先頭に繋ぐ小型版。
短時間の戦闘で良いから小型化して機動力を上げた船だ。
後部の推進機が4つなのはそれぞれの推力調整で旋回しやすくする為だ。
左側だけ切れば左へ曲がるし左下だけ切れば左に曲がりつつ下降する。
それに中央の推進機を組み合わせて機動力を高めている。
ただこの船での戦闘はその機動力を生かさないと駄目でかなり難しい。
攻撃についても出来るだけ船の前面を敵に向ける必要がある。
もっと大型にすれば色々な船が作れる。
ただ大きすぎると動きが遅くなって攻撃が当たりやすくなる。
当たっても耐えられるなら選択するが試した結果としてはいまいち。
戦闘用としてちゃんと設計した宇宙船なら違うんだろうか。
大型なのは多少の被害、破損でも戦闘能力が継続されるからか?
装甲的なもので頑丈になるのか?
武装については多く載せられる。
本格的な戦闘用の宇宙船というものについてもセリナに聞くか。