2-8 計画実行準備
操縦席から見えている宇宙を何本も光線が通過していく。
船を下降させながら左へと進路変更させているがまだ動きが変わらない。
前進する為の推進力は大きいが左右や上下への推進力は低いからだ。
後部大型推進器は全開、左小型推進器は停止、右小型推進器も全開で旋回中。
船後部左側と船全部右側の姿勢制御推進を全て使って全力旋回。
同じように前方上部、後方下部の姿勢制御推進で船前方を下に向けて下降軌道へと修正。
進路を確認すれば曲線は描かれているが秒単位の移動状況を確認するとまだまだ時間がかかる。
警告の赤い光が点滅して船体右側で3度の大きな爆発。
船の機動が遅くなり視界は光で埋め尽くされた。
暗転してから船の操縦席視界へと戻り表示を確認すると1:36。
これで8回試してどれも一分半から2分で終了。
目標地点まで船を接近させられない。
今試しているのはセリナが作ったシュミュレーター。
実際に爆発したり光線兵器で撃たれた訳じゃない。
宇宙船のヘルメットに画像を表示させるものでゲームみたいな感じだ。
サトウのじいちゃんから色々貰って来たらしいが今使っているのはゲームを改造したものだ。
俺も前にやった事があるし実際に宇宙船を動かしているから簡単だった。
ゲームだけに色々と簡単にしてあったしな。
ちなみにゲーム、映像関係はサトウのじいちゃんの会社の主要産業のひとつ。
それを寝ずに改造して実際の宇宙船の挙動を再現したものが使われている。
セリナが寝なくても良いのは知っていたし自由時間だから何をしていてもいいけどな。
その改造したシュミレーターでフリーダム船に対する戦闘行動を試している訳だ。
結果は散々。何も出来ずに破壊されているだけ。
フリーダム船の画像については最新の物が使われていた。
昨日出航時に記録したものだ。
ステーションを離れたガーランド23はゆっくりとリラ6を離脱中。
リラ6のほぼ赤道上にあるのがアーコロジー。
そこから伸びている軌道エレベーターは直接は見えない。
軌道エレベーターの終点として静止軌道には大型宇宙ステーション。
出航したばかりだからまだはっきりと見える。
見えているのはそれだけではなくてステーションの奥と手前に大型の船が浮かんでいる。
フリーダムの船、ステーションに影響しないように2隻の船は離れている。
ただ静止軌道より少し上を飛び常にアーコロジーを攻撃できる位置を維持している。
2隻が接近する事はなく大きく移動する事も無い。
それについては10年徹底している。地上からでも見える大型船。
俺が宇宙に出たときからずっと周回している。
全長1800m幅200m程。四角錐形状の船。
船の現在速度がいつもより遅いのは新人乗員の訓練中という事で誤魔化している。
そのセリナは今は船の外。上部に張り付いてフリーダム船を観測中。
速度が遅いのはこの観測時間を出来るだけ稼ぐ為だ。
サトウのじいちゃんからはこれまでに集まったフリーダム船の情報が貰えている。
初期戦闘の映像も存在しているすべてを貰えた。
見たことのない資料もあり一部しか見ていないけれどリラ6の船は本当に何も出来ていなかった。
ミサイルを撃っただけでそれは光線兵器で迎撃。
それから光線兵器、実弾兵器で一瞬で破壊されていた。
それ以降本格的な戦闘は無い。
直接観測で少しでも情報を集めたいとセリナは船外に居る状態だ。
望遠鏡とかで見る分には問題ないが詳細な調査は敵対行動して認識され攻撃される。
セリナも今は見ているだけのはずでそれほど情報が得られるとは思わない。
結局3時間程セリナは船外に居て俺が寝ようかという時間に戻って来ていた。
そのまま起きていて改造作業をしていたという事だ。
朝起きれば今日の船内スケジュールの変更を告げられて操縦席に座らされた。
それから簡単な説明をされてこうして試している訳だ。
まず圧倒的に船の速度が足りない。
加速を続けて最大速度になるには時間が掛かる。
旋回などについても同様。
出来るだけ早くに進路変更を行う必要があるのと時間が掛かる軌道は取らない。
右から左への急な進路変更などは駄目だ。
右方向への慣性があるのにそれを打ち消す推進力が必要になると動きが遅くなる。
セリナのメモに書かれているように出来るだけ船の正面を向けて置くのも必要だ。
船としては正面が一番表面積が少ない。それは攻撃が当たりにくいという事だ。
ただ立体であるのをちゃんと考えて攻撃を避けるようにしないと駄目。
それでも結局光線兵器を避けるのは無理に近い。
正面を向けたまま進路を変えるのが無理な構造なのだ。
輸送船だけに基本的にまっすぐ飛ぶ事が優先されている。
進路を変えるなら大きな曲線を描いて変更するのだ。
短時間でジクザグに動くような軌道は出来ない。
フリーダム船の下か上に回り込もうとしたがそうなると船の上面、下面に攻撃される。
最初から横方向への推進力を最大にした状態で前進。
斜めへと進む事でちょっと進めたが動きが止められず単純な軌道になって撃破された。
何度も進路変更をしてみれば動きが遅くなった所で攻撃された。
直進しながら左右への移動だけで対応するか。
左右への移動も出来るだけ細かくそれぞれの推力も変更する。
こちらの移動方向を予測して攻撃はされるはず。
攻撃された瞬間にすでに別の軌道を取っていれば攻撃が外れる可能性が高い。
移動している物体に対する攻撃だから当然だけれどだからと言って避けられるかは別だ。
1時間色々試して最大生存時間は3:12。
目標地点まで接近出来る事は無かった。
宇宙船で戦闘をするつもりならもっと大型の船にするか機動力を上げないと無理だ。
船が大きいのは弱点だが推進力などは大きく出来る。
それに大きいというのはそれだけ頑丈に出来るという事だ。
速い小型船というなら正直戦闘機で良い。
圧倒的な速度と機動力で接近できる。ただ攻撃力は限定されるか。
宇宙用の戦闘機なんて作れるのか、ましてそれを使えるかは別問題。
「セリナ、1時間は色々試したがやっぱり無理だぞ。」
1時間は試して欲しいと言われたからひたすら試していた訳だ。
正直、最初から無理なのは判っていた。
ガーランド23の性能なんて把握している。
「判りました。結果は分析してみます。
イストの意見としてもしガーランド23を戦闘用にするならどうしますか?」
戦闘用の船にするならか。
「まずもっと機動力がいる。上下左右への推進力はもっと必要だな。
あとは可能なら防御力。重量が増加すると機動力は遅くなるからその辺りは調整か。
大型化しないなら少しの防御力じゃ意味がない。
それでも一撃でも耐えられるならもうちょっと結果は違った。
今回試して判ったのは機動力が不足しているという事だ。」
「良い分析です。もし船を改造出来るなら参考にします。
今後の計画でもこのような直接戦闘は避ける方向で考えましょう。」
「元々無理なのは判っていたよな。」
「最悪の状態で戦闘を行おうとしない為、無理な結果を知っておくのは大事です。
計画が失敗した場合は即座の逃走をお勧めします。
それも難しいですが無駄に戦闘を行うより生存確率はあります。」
失敗した時の為か。
確かにその時になんとか出来るかもと戦う可能性はあるのかもしれない。
それが無理というのは実際に理解出来たからこれに意味はあったという事だ。
実際にそうなったとしたこの結果が判っているからどんな行動をすればいいのか。
それを考えたり想定するのも準備という事か。
「具体的な計画はフリーダム船の性能予測で変更されます。
基本的には最小限の戦闘、出来れば最初の奇襲での撃破が望ましいです。」
考えた攻撃計画の一つだな。
集めた宇宙船は基本的にアーコロジーへの攻撃阻止に使う。
別の攻撃手段でフリーダム船へ攻撃、撃破を狙う。
出来るだけ確実な攻撃手段を確保するのが成功させるには重要。
「武器の確保が必要か。
キリアトさんに任せているだけじゃ駄目そうか?」
「別の方法も考えましょう。
リラ7やリラ8で生産できるようにする方が安全かもしれません。」
「それも調整と計画が必要か。出来るだけ早い方が良いよな。
こうやって調整を続ければ確かに時間が足りないな。」
「先にどれだけの計画を実行するのかを確実にしましょう。
実現可能なものに絞って実行しなければ無駄に終わります。
まずは実行計画を確定しましょう。」
「それはまだ難しいぞ。投入可能な戦力が確定していない。」
「イストの予想で構いません。
最低数で考えて計画は予定しましょう。戦力が増えて修正するのは容易です。
不足したのを修正するのは困難となります。」
「多分10隻はくらいだ。
俺の知っている船長たちを考えるとそれくらいだな。」
「10隻ですか。ではそれで対応しましょう。
次はこちらです。艦対戦を行いましょう。
簡単な戦術については確認できるようになっています。
実際に船に指示をして勝利条件を満たしてください。」
モニターに表示されたのは[宇宙攻防史3 リラ6艦隊戦]
去年くらいに発売された宇宙船を作って戦うシュミレーションゲームだ。
対人戦も出来るがほとんど売れていないタイトルのはずだ。
サトウのじいちゃんが趣味で作ったものだから売れんよと言っていた。
個人的に対戦をしたいから作ったはずで俺も対戦して勝率はかなり悪かった。
「これも宇宙船の挙動は現実的な物になっています。
自軍の船はリラ6の平均的なブロック船で構成されますが毎回変化します。
仮情報として武装は使用予定のレールガンのみです。」
これはモニター表示だけで良いようだ。
モニターに触れて始めてみれば艦隊構成が表示された。
大小のブロック船とガーランド23の計11隻。
リラ6軌道上の施設やフリーダム船はすでに配置済み。
こちらの船をどこに配置するかから決めるようだ。
ステーションから5隻、外から6隻としてそれぞれフリーダム船に向かうようにする。
まとめて命令できるようで攻撃命令を出して始める。
最初に攻撃して反撃で2隻が残ってすぐに全滅。
固まって戦っても当然こうなるよな。
20隻とかもっと数があれば火力を集中出来るから固まる意味はある。
前方に配置した船を壁と考えて多少の被害は無視して攻撃し続ける方法もある。
一隻に集中させてみるか。
フリーダム船を囲むように船を配置、3隻ほどは距離を取って攻撃するようにした。
戦闘を始めてみたら被害は減ったけれど敗北。
もう一隻のフリーダム船からアーコロジーを攻撃されて敗北。
実際の戦いでは当然予想出来る結末だがもうちょっと手加減した作りにしろよ。
「ここまでリアルな必要があるのか?」
「その結末を避けるためにも勧誘は頑張ってください。
宇宙船同士の戦いは記録がいくつかあるのでそれも参考にしてください。
実際に行動する、行動させるのはイストですからその知識は重要です。
自在に戦えるようになるまで訓練が必要です。」
真面目にもっと船の数が欲しい。数があれば出来る事は増える。
もし10隻でこのまま計画実行となれば相当厳しい。
最低数で10隻と言ったのは俺だしその時に勝てる方法を考えておこう。
それ試せるのがこれなら練習の意味はある。
リラ6に帰還するまでの一週間、俺は戦術訓練と戦闘訓練はひたすら続けた。
戦闘訓練で行った船の軌道などは戦術の方にも反映される。
良い動きが出来れば戦いやすくなる。
そんな細かな仕様にしてあるから繰り返せばちょっとはましになる訳だ。
実際にこのデータを元に戦闘用のシステムを作るらしい。
船を実際に動かす方が良いらしいがさすがにこの辺りで戦闘訓練は出来ない。
消費推進剤もすごい量になるしな。
船の動かし方も戦術もセリナの知識を教えてもらいつつ続けた。




