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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
20/82

2-5 リラ6での2日目:計画進行の相談

「終了、完成。良い仕事、こちらを内容確認して承諾、報酬の支払い。」


「確認しました、問題ありません。」


突然作業を始めた二人に動きがあったから確認したら10:57。結構早かったな。

部屋が寒いからと毛布にくるまって寝転んでいたソファーから身を起こす。


「サトウのじいちゃん、セリナ、終わったのか。」


「イスト、作業は興味深いものでした。」

「イスト、彼女はなんだ。」


同時に言われた。

左に居るセリナの方を向いて頷いておき右に居るサトウのじいちゃんへと顔を向ける。

サトウのじいちゃんは椅子をクルリと回してこちらへと向いてくれた。


「サトウのじいちゃん、じいちゃんの紹介で新しく船の乗員になったセリナだ。

 コンピューター関係が得意らしくてそれもあって紹介に連れて来た。」


「非常に有能。乗員でなければ雇いたい。間違いなく船のシステムは任せられる。

 イストが乗員として認めたなら問題はない。

 セリナ、可能なら他にも仕事はある。報酬は今回と同じ。」


サトウのじいちゃんは船の経営権を持っている。

船は俺が遺産として受け取ったがだからと言ってそのまま船乗りとして運用出来る訳じゃない。

元々そういう話になっていたようで会社を持っているサトウのじいちゃんが船を運用している形だ。

ほとんど俺に任せているし赤字にならないように俺も頑張っている。

社会的に経済がしっかりしていて何かあったら金の事はなんとかすると言って引き受けてくれたんだ。

キリアトさんやサトウのじいちゃんが頑張ってくれてじいちゃんの根回しがあって俺は仕事が出来ている。

人員の雇用とかも相談をするのが当然なんだけれど雇いたければ雇えば良いと元々言われていた。

正直、人を増やす余裕が無いのが本音だ。


「時間や仕事に余裕があれば引き受けさせて頂きます。」


軽い会釈を返すセリナ。

個人に回した仕事なら個人の収入だがガーランド23に発注したら船の稼ぎ。

それもあってのサトウのじいちゃんの提案なんだろう。

船の航行時間で副業をやっている船は結構多い。

コンテナ船で中に加工場を作っている船もあるくらいだ。


「サトウのじいちゃん、相談したい事があるから聞いて欲しい。」


「聞く。」


何か始めてしまう前にサトウのじいちゃんは止めて置かないと駄目だ。

コンピューター関係だと特に始めてしまうと終わるか倒れるまで作業している。

途中で止めてもそっちに集中しているから気が抜けていて返事も適当だ。

ずっと頭の中でプログラムを作っているかららしい。

セリナと話しだしても勝手に盛り上がって終わらないと思う。


「飲み物を入れるけどコーヒーでいいか。」


「よい。」


出前の食事の空き容器が山積みだったキッチンはすでに片付けてある。

さっき俺が飲むために沸かしたポットにまだお湯はあるから3人分のコーヒーを入れた。

お盆を置くくらいの隙間は作ってあるテーブルに置いてそれぞれにカップを渡す。

カップと言っても処分しやすい紙コップだしコーヒーもインスタントだ。

俺は用意していたデータカードをサトウのじいちゃんに差し出す。


「話しというのはこれの事なんだ。」


渡したのはフリーダムに対抗するための計画だ。

船でリラ6に帰還するまでの間に色々と考えてセリナにも相談したものだ。

正直俺が考えたというより考えはしたがそれに大幅なセリナの修正が入ったものだ。


[宇宙船用の武装調達]

レールガンを中心として製造と配備。キリアトさんにお願いした計画。


[敵宇宙船の戦力分析]

武装や装甲の詳細分析、侵入可能かどうか、通信解析など。今のところ入手先方法無し。


[投入可能な戦力の調整]

宇宙船乗りに声を掛けて協力要請。信頼できる者を集める必要あり。


[敵宇宙船への攻撃手段]

セリナからの情報を使って実行可能な方法を模索、必要なら製造。


[実行作戦A][実行作戦B][実行作戦C]

ざっと考えた実際の作戦。成功率と危険度などで3種類。


実行作戦は最終的な行動の部分だからもっと変更が出るはずだ。

最初の4つをどれだけやれるかで変わってくる。

情報は念の為セリナが船のコンピューターにあったプログラムで暗号化してある。

多分その暗号化プログラムもサトウのじいちゃんが作ったものだと思う。

それが判ったのかちゃんと開いて中の情報に目を通している。


「計画は不完全。ペーパープラン。」


ほとんど具体案が無い計画だから仕方ない。

キリアトさんの仕事関係だとちょっとは判るからそこだけはましな計画になっている。

昨日すでにそれはキリアトさんに渡してある。

計画と言っているけど都合よく計算している部分も多いしな。


「この計画をどうすれば上手くやれるかを聞きたいんだ。教えて欲しい。

 もちろん出来そうな事は手伝う。

 まず協力を頼める人にサトウのじいちゃんから話しをして欲しい。

 俺はじいちゃんみたいにたくさん知り合いは居ないからその辺りは頼みたいんだ。

 他には修正出来る所があれば教えて欲しい。」

 

「他の人、紹介は出来る。キケのようにしたいなら連絡をするから会いに行く。」


「別にじいちゃんのようになりたい訳じゃない。

 計画を進めるのが先だからサトウのじいちゃんから頼めるなら任せたい。

 危険もあるはずだから無理なら紹介だけして欲しい。」


宇宙船乗りとしての仕事の範囲ならそれなりに見知った人は多い。

それ以外の所になるととたんに知り合いはいなくなる。

じいちゃんは人付き合いはすごく広くていろいろな職種の人が知り合いだった。

どうやって知り合ったか聞いたら単に若い頃からの付き合いと言われて俺には無理だった。

融合病の第二世代、人はまだまだ少なくて若くから仕事をしていた世代。

お互いに協力していかないとまだまだ無理な状況だったからその付き合いが続いていたそうだ。

今よりももっと人は少なかったから余計にお互いの仕事も協力していたって話は聞いた。

今も生き残っている方たちはそれぞれ下の世代に仕事を教えて来た世代。

五世代目と呼ばれる俺達世代とはさすがに付き合いは薄い。

三世代は直接の部下、四世代も役職の頃の新人とかで付き合いがあったそうだ。

人口が減った状態でなんとか暮らしていけるようにした融合病世代。

それから復興、発展させてきた第二世代の繋がりは大きかったそうだ。

もうずいぶんと減っている世代でサトウのじいちゃんも年齢的には上から数えた方が早い。

じいちゃんは宇宙船乗りになったのは仕事を引退してからと凄く遅い。

それまでは色々な仕事をしていたから余計に知り合いが多かったんだ。


「キケの息子として紹介するから顔を広げるチャンス。

 必要なら生きている間に連絡。

 計画を進めるのには協力。どうせ先は短い。そんな連中、声掛ける。」

 

「無理はしないで欲しいし長生きはして欲しいぞ。」


「キケと同じ。十分に生きた。

 計画の修正点、フリーダム船の解析情報がある。参考資料渡す。

 あと融合病以前の宇宙施設、記録上は破棄されているがまだ残っている所がある。

 それの状況を調査、利用出来る可能性あり。」


「そんなのあったか?リラ6周辺じゃ見たことないと思うけど。

 情報は送ってくれたら確認してくる。」


宇宙にある施設は宇宙船の航行にとっては障害物。

当然周辺の情報は細かく更新されている。

残っている施設だと当然情報にはあるはずだ。


「建設中の施設や仮の停泊施設は残されている。

 宇宙船側には通常のデブリとして登録。

 リラ6周辺の航路は決められているから普段は通らない場所。」


リラ8からリラ6までの宇宙船航路は決められている。

事故を防ぐためという目的もあるしトラブルがあった船を救出しやすくする為だ。

それぞれが好きな航路を使っていると船が故障したりした時に困るからだ。

宇宙開拓初期の頃に決められた事で今は故障する船なんてほとんど無い。

その航路以外の場所となれば確かに俺は基本的には通った事のない場所もあるな。


「サトウのじいちゃん、計画を進める方向なのは嬉しいけど実行可能だと思うか?」


「イストの認識不足。

 キケラクトは宇宙関連、私はコンピューター関連、キリアトは建築関連。

 それぞれで人材、資源の投入は可能。計画は検討、協力可能。

 計画実行には投入可能な実働戦力確定が必要。」


「実働戦力、動ける戦力を確保しろって事だな。

 それは難しいけど頑張ってみる。

 派手にやると噂になったり目をつけられるだろうから時間は掛かる。

 信頼出来る者じゃないと駄目だしな。

 誰か心当たりが居るなら紹介して欲しい。それは俺が話をしに行くよ。

 お願いしてばっかりで悪いけど俺じゃ色々と出来ない事も多いんだ。」


「まだ仕事初めて2年、経験不足は当然。

 経験者に頼りその仕事を学ぶのが大事。任せるだけはマイナス。

 イストにも出来るだけ仕事を回す。」


「サトウのじいちゃん、上手く行くかな。」


「成功させる事が重要。成功を目指す姿勢も大事。

 指導者、責任者が失敗前提で行動すべきではない。

 無駄に自信をもって行動するのが成功の秘訣。

 失敗した場合の対策、トラブルに対する対策は必要。」


「最悪の失敗に対して対策が難しいのがな。

 他の部分は考えて行く。それはまた聞きに来るから相談させて欲しい。」


「そこは経験が大事。良い学習機会。

 少し早いがキケからの頼み、実行する。

 リスト送信。キケがイストの事を頼んだ人物リスト。

 18になるか私の死亡時に連絡予定。

 イストの他の仕事の可能性、考えてみるべきとキケが用意したもの。

 そのリストから私が信頼出来る人物のみ抽出。

 時間がある時に出来るだけ会って話をする。

 仕事関連の話をしてイスト自身が判断して計画について相談。

 そこには私、連絡しない。」


「判った。すぐは無理だけど会うようにする。

 次に帰って来た時は1週間くらい居るつもりだからその時にするよ。」


「新人乗員、無理はしないのがベスト。」


「判ってる。乗員を育てるのは俺自身が教えてもらった経験があるから上手くやるよ。」


セリナは確かに新人の乗員なんだけどすでに船には乗っている。

教員する側の経験としては残念ながら特殊すぎて生かせないんだよな。


「他は何かある?

 ちょっとずつだけど急いで進めるからあれば聞く。

 計画自体はこれからも修正し続けるけど。」


「現状は検討必要。

 協力は確約、計画準備は進める。」


「計画についての修正点とかは細かく連絡して欲しい。

 他にも計画の事でサトウのじいちゃんに頼みたい事があるんだ。

 悪いけど仕事なんだけど報酬とかは出せないから無理を言うけど引き受けて欲しい。」


「協力確約済み。何が必要か?」


「作って欲しいシステムがあるんだ。

 詳しい事はセリナが説明するから聞いて欲しい。

 セリナ、独特な話し方だから難しかったらモニターで文章を使うといいぞ。」


「イストとの会話から十分に意思疎通が可能です。不明な点は質問します。

 セトウさん、宇宙船の制御プログラムを構築して欲しいのです。

 必要なのは戦闘用に2種類、攻撃に対する回避軌道制御と火器管制システムです。

 火器管制システムには予測射撃による照準補正、回避軌道予測による修正も含まれます。」


「システムは構築可能。船への搭載不可能。」


「システムが構築出来れば各船への搭載は簡単です。

 リラ6で使用されているコンピューターシステムは単一です。

 船のコンピューターも同じですから構築出来れば搭載は可能でしょう。」


サトウのじいちゃんの方がキーボードをカタカタと鳴らしてモニターに文章を打ち込んだ。


「船の制御コンピューターは8割以上のリソースを航法システムで使用する。

 搭載しても同時に戦闘用のプログラムを実行出来ない。

 船が同型艦ではなくリラ6の船はすべてブロック船。

 それぞれの船の出力、機動力、重量配分など全て違っている。

 それらを制御するシステムは複雑化、専用として個々で製作は不可能。」


セリナはモニターを見ながら首を傾げている。


「ガーランド23のシステムはかなり余裕があります。

 他の船はそうではないのですか?」


「ガーランド23が特殊。あれは元々研究用の船。

 分析など必要でコンピューター関係はかなり強化してある。

 むしろそれを搭載するための船。

 その部分だけはイストやキケは気にしていないが実は優秀な船。

 普通の船であればあれの4割程度。

 代案、火器管制は兵器に直接搭載、それで運用可能なシステムがベスト。

 船に搭載せず兵器単体での使用が可能。

 計画実行を実現するならばコスト増などの問題は無視がベスト。」


「船の制御コンピューターは本当に船の航行を制御するだけのシステムなのですね。

 兵器に制御システムを搭載するのは可能でしょう。

 ただその場合論区されて解析されやすいという欠点があります。」


「ブロック船は輸送船、戦闘用の船はリラ6に現存せず。

 建造は資源的に実行されず。優先度、必要性もなく見送られた。

 現在必要、建造は情報不足で不可能。

 火器管制システムの実装は最終段階、稼働直前に実行。

 システムについての情報をメールで送信、もしくは直接送信。」


「それでは複雑なシステムは構築出来ません。」


「基本制御、照準補正、予測射撃、それぞれ独立構築。

 必要スペックを計算、必要なシステムを兵器側に組み込む。

 それぞれのシステムに最適な設計でコンピューター側も設計。

 未製造ゆえに可能な手段。」


「それが可能な生産力があるのかが不明です。

 複雑化すれば生産性は低下します。」


「可能。私個人が利用可能な人材、組織なども投入。

 システムの内容詳細、連絡。専門的な内容、確認。」


セリナは自分の端末、元船の備品を見て送られて来た情報を確認している。

そのまま二人はしばらく端末でやり取りをしていた。

複雑な話も多いようで時々難しそうな顔をしてサトウのじいちゃんのキーボードの音が続く事も多い。

そのまま会話も挟まるようになってコンピューター関係の詳しい話へと以降。

コンピューター関係が好きだったり得意という点では二人は似ていると思っていた。

予想はしていたけれどやっぱり話は合うようだ。


サトウのじいちゃんの所に来たらすぐに終わるか時間が掛かるか二択。

判っていたから俺は自分の仕事を用意はしている。

二人が話し込みだした時点で俺は次の航海についての手配を始める事にした。

色々と予定があるから2ヵ月分計画しておかないと駄目だ。

ちゃんと稼ぐ必要もあるからそこが難しい。


結局そのまま予定時間の16:00になるまで俺は仕事。

二人は専門的だか趣味だかで話が盛り上がって有意義だったようだ。

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