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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
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1-1 AIで動く機械人形

「ようこそ。自立稼働図書館セリナへ。

 初めまして。深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミです。」


そう告げたのは涼やかな少女の声。

赤と白の見慣れない衣装、流れる黒髪、宇宙空間に浮かぶ綺麗な少女。

不思議としか言えない光景にただ見ているだけだった。


「どうかされましたか?」


少女は首を傾げつつ問われる。


「驚いていたんだよ。」


横を向いたままずっと見ていたのを誤魔化した。

突然現れた光線の格子、それから閃光、再生を始めた機械人形、それが今は人の姿で話をしている。

驚く以外に何がある。いやまあ、他にもあったけど。

宇宙に浮かぶかわいい娘に見惚れていたんだと口に出そうなのは止められた。

微笑みの表情を浮かべている機械人形の少女。

語られたのは図書館?開拓艦?一体なんなんだ??


「あんたはなんなんだ?」


「図書館であり宇宙船です。

 人間ではなくAI、人工知能制御による自立行動可能な個体、機体、船体です。

 この固体はロボット、人間型作業機械。

 サイボーグ、機械化した人間。

 アンドロイド、機械や有機組織で合成された人造人間。

 それぞれの最新技術を投入して作られたセリナの基本個体です。

 暫定の固体名称としてはヒューマロイドと呼称されていました。

 その固体に搭載されたAI、人工知能セリナが搭載されています。

 作られた段階で知識を収集し蓄積、活用する図書館としての役割を与えられております。」


消えた小惑星のあった場所、宇宙空間に立ったままですらすらと話す。

ロボット、サイボーグ、アンドロイドで人工知能制御。

AI、人工知能で動く人型機械。

そんな物は物語では知っているが見たことがない。

昔はあったのかもしれないが今はこのリラ星系には無いはずだ。


「本当にAIなのか?」


機械なのは見ていたから判っている。

今の外見、姿を最初に見ていたら人じゃないのは信じられなかっただろう。

それくらい自然に会話しているし仕草も人間と変わらない。

生身で宇宙空間で話している状況は落ち着かないし人ではないと認識させてくれるが。


「AIで間違いありません。必要であれば詳細を説明させて頂きます。

 専門的な要素が多く一部非公開情報もあります。

 かなりの時間となりますが構いませんか?」


「簡単に出来るなら頼む。」


AIというのは人間の知的能力を持つコンピューター、人間みたいなコンピューター。

基本的には高性能なコンピューターだとか他にも色々あるけど大雑把にはそんな認識だ。

人工知能だけでなく人工意識、人工生命などの技術も組み合わせて作られている。

既存の方法では無くまったく別のアプローチで設計されているので特殊なAIとなっているらしい。

正直何が特殊なのかは説明が続いているけれど理解できていないし比較対象も無いので判らない。


今は単純に話せる機械、そう考えておけばあまり問題はない。

問題がないというか非常に驚くべき状況なんだが衝撃が大きすぎて冷静になれている感じがする。

でもAIというのがあるのは知っている。

リラ星系では失われている技術でも宇宙は広い。

どこかで残っていたりもっと進んだ技術があっても不思議はない。


「人工知能で動いているのは判った。開拓艦というのはなんだ?」


宇宙船があるのならそっちの方が大事だし興味は大きい。


「深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミは広範囲の天文図作成を目的とした探査船です。

 並行して光子転送網の設置、拡張を行うのが任務となっておりました。

 すでに計画段階での実行プログラムは終えており機能停止まで余剰プランを遂行中です。」


さっきのAIについても色々話してくれたので答えはあると思って聞いてみたがやっぱりか。

こちらの問い掛けに答えてもらえるのは非常にありがたい。


「どんな船なんだ?近くにあるのか?」


「ツキヨミは深宇宙探査を目的とした特殊な当時は最新鋭の宇宙船です。

 詳細については機密もありますので現在はお答えできません。

 船が近くにあるかという事について船体を指すのであれば近くには在りません。

 以前使用していたツキヨミの船体部分はまだ存在していると推測できます。

 ただ通信範囲には無く当個体の現在位置も不明。

 相互の位置関係が把握出来ず、所在不明です。」


そりゃそうか。

この小惑星に接近する時に周辺は調査しているが宇宙船なんて無かった。

もちろん見つけられなかったとか探査範囲外かもしれなかったがやっぱり無いか。

船があったとしてもどうにかなる訳じゃないしな。

理想はその船が使える事だったしその技術を得られるとかでも良かった。

船の技術は今の星系の状況なら非常に大きな影響があったんだ。


「やっぱり無いか。」


「いえ。ツキヨミはここにあります。」


呟いたのが聞こえたらしく返答がもたらされた。


「船があるのか?どういう事だ?」


「ツキヨミの中枢はこの個体でありそれがツキヨミとして建造、呼称、命名されております。

 従って当個体がツキヨミですので船はここにあると言えます。」


「船じゃないのに船なのか?」


「外見が船でなくても当個体に艦名が与えられ船として登録されています。

 機械に必要な分類を与えた結果です。

 ですから当個体は登録としては深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミなのです。」


機械的にはこの機械人形がツキヨミとされているのでツキヨミと言う船はここにあるということらしい。

なんでも観測機だけでも宇宙船として作られれば宇宙船なんだそうだ。

そういう文化なんだろうからこの星系とは違うということだろう。

感覚的には納得出来ないが納得するしかないだろう。

気になってあれこれ質問はしてみたが結局そういう結論は変わらなかったからだ。


採掘プランの変更が面倒で脱出ポッドだろうからと回収するつもりで掘り出した。

そしたら小惑星は半分無くなりこのしゃべる機械人形が出て来た。

これからどうする?


「そういえば小惑星が半分無くなったのはあんたのせいか?」


「セリナと呼称してください。

 当個体の再生の為に休眠直前の行動が自動的に行われたようです。

 小惑星の採取は確かに当個体の機能で行われています。」


まあそうだろうな。突然の驚くべき事態の原因は判りやすい。

予想外の事が起きた要因であろう機械が目の前に浮いているんだからな。

小惑星を採掘出来なかったのは正直かなり痛い。

ここまで来て稼ぎが無いのはかなり痛い、経済的にはすごく厳しい。

この機械人形に言ってもどうにか出来るとは思えないが聞くくらいはいいだろう。


「俺が小惑星を採掘予定だったんだが返せとか補填しろって言っても無理だよな。」


「類似例を確認しました。

 小惑星の所有権を明確に出来るのであれば対応させて頂きます。」


当然所有権なんてものは無い。

基本的に採掘屋同士でも早い者勝ちだもんな。


「判った。小惑星については諦める。

 ただ採掘機がひとつ巻き込まれた。

 それは所有を明確に出来るから補填して欲しい。」


「確認した所未知の作業機械は確かに存在したようです。

 作業機械について所有権の確認及び詳細情報をご提供頂ければ可能な範囲で対応させて頂きます。」


可能な範囲がどこまでかは判らないが対応出来るとは思わなかった。

補填して貰えるならありがたい。

ついでに無理そうな事をもう一つ聞いておこう。


「所有権というならこの星系じゃ宇宙で拾った物は所有者が不明なら拾った者が得られる。

 あんたの所有権を俺としては主張したいがそれはどうなる?」


「当個体はセリナとお呼び下さい。

 所有権の主張については保留させて頂きます。

 所属組織や開発者との連絡が出来ておらず現在の所属状況や所有者などが不明な為です。」


「さっきの船と連絡出来ていないというのと同じか。

 連絡が出来たら所有しても良いのか?」


「ツキヨミの所属組織が存在しないもしくは所属が抹消されている、権利が破棄されている、

 所属組織が存在しない、組織に申請し許可された場合など可能ならば構いません。

 ただしAIについては許可出来ません。

 すでに所有者はAIとなっており自由な行動を許されています。

 引き続きツキヨミの運用をAIセリナに望まれるのであれば何点か要求はありますがご協力出来ます。

 AIが必要でないのであれば当個体を引き渡しAIは自由にさせて頂きます。」


「ツキヨミという船とかその機械人形は良くてAIは無理という事だな。

 その船はあんたじゃなくても動かせるのか?」


「当個体はセリナと呼称してください。

 以降セリナと呼称されないのであれば返答しません。」


いきなり強い口調、相変わらず宇宙に浮いたままで腕組みをしてそっぽを向く。

怒っているというのを分かり易く行動で表している。

ひょっとしたら本当に怒っているのかも。

そもそも感情があるのか?

機械的に怒っているという感情を表したものなのか?

AIとしてセリナという呼称に執着するようにされているのか?

そう言えばさっきから何度かセリナと呼ぶように言っていたしな。

しかしそもそもAIというのは人間には従うものじゃないのか?

このAIはそういう事はないのか?

このまま怒らせて採掘機の事を無視されたりするのも困る。


「ツキヨミはセリナじゃなくても動かせるのか?」


人の名前を呼ぶなんてのはここしばらく無かったから少し変な呼び方になった。

船での生活が長いと星にも降りないからな。

もうちょっと改めた方がいいな。


「同等のAIであれば問題ありません。

 人間による操作も可能ですがその場合はかなり高度な制御システムが必要になります。」


機械人形、セリナは腕組みを解き綺麗な立ち姿に戻してくれた。

人で動かすなら制御システム、つまりは制御コンピューターが必要ってことだな。

どれくらいのシステムが必要か次第だがまだ考える必要はないな。

船が手に入るかどうかは判らない。


確定するには、手に入れる為にはどうすればいいか。

連絡が出来れば良いのだから通信させるのが一番早いがどこに通信するのかによるな。

他の星への通信は今は制限されているから難しいか。

出来るとしても相当な金が掛かるかがそんな金を無い。

どうすれば良い?

どうせこのままここに居ても採掘作業は出来ない。

これからどうすればいいかを考える為にも船に戻ろう。

採掘機についての話は終わらせておきたい。

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