1-8 物質採取/1日の終わり
再び船外に出てセリナは外部パーツを回収に行きこちらは収納ブロックのハッチを開いておく。
ほんの少しだけこのまま居なくなるかもと思ったがセリナは銀色の筒と共に戻って来た。
筒が飛んで移動するのかと思っていたがセリナ押して来ていた。
押しているというよりは横に並んで歩いている状態だ。
多分最初に少し押してその速度にしたんだろう。
無重力だと物を移動させるのは難しくはないが止めるのが難しい。
何か投げたりすればそのままどこまでも飛んでいくからな。
セリナは宇宙船近くまでその状態を維持して筒の前に行き両手で受け止めた。
収納コンテナに入れたらワイヤーで固定した方が良いな。中で跳ね回られるのは困る。
うまく固定出来るスペースはあったかな。コンテナを移動してその隙間に入れるか。
「それでは資源回収を始めます。イストはそのまま船にいてください。
生命体が範囲内にある場合、作業が停止されます。
一度小惑星を分析、効率が悪い場合は作業は中止します。」
「判った。始めてくれ。」
スロープまで移動して筒と小惑星が良く見える場所に行く。
銀色の筒からセリナの前に放たれた緑色の光線が正方形を描き作り出した。
そうだろうなと予想はしていた。
筒が開くとかの変化はなく表面から光線は放たれているようだ。
光がちかちかと幾つも瞬いているから複数照射しているし何ヵ所かで放てるようだ。
小惑星の表面にいくつも緑の正方形の一部が見え始めていた。
気になって宇宙船の下を覗いて見ればそこにも正方形は出来ていた。
スロープとか船体を貫通しているから光線のように見えているけれどそうでもないのか。
おそらく最初の1つは稼働テストか何かだろう、そこを座標基準点にしているかもな。
セリナの顔の向きが少しずつ変わっていて小惑星を見渡しているようだ。
その先では正方形が出来ているのか完成した部分を確認しているか。
先に細かな説明を聞いた方が良かったか、詳しくは話せない事か。
「分析と準備が出来ましたので開始します。」
結構な時間が過ぎてセリナが開始を告げるとすぐに正方形は緑色の光で満たされていく。
小惑星全体が緑色に包まれた感じだ。
閃光のようになるのは判っていたからちゃんと遮光はしてある。
光で満たされてそれが消えるとすでにそこには何も無かった。
小惑星は綺麗に無くなった。
もっと派手かとも思ったが以外と静かな光景だった。
正直すごいな。
どうにかして物質を分解、それを吸収しているんだろう。
物質生成器があるんだから生成の過程を逆にしているのだと思う。
凄いと思ったのはそんな事ではなくて一瞬で消えた小惑星だ。
感心していたらセリナがこちらをじっとを見ているのに気が付いた。
こちらというか視線はちょっと外れて上辺りか。
「イスト、この船を分析しても構いませんか。
資源として採取するのではなく構造などを解析、分析し仮の設計図を保存しておきます。
この作業を行っておけば今後、同様の船を生成することが可能となります。」
見ていたのは船の方か。
仕事モードのしゃべり方だが解説をしている時のセリナだ。
もう判って来た。
新しい知識として船を解析出来るのを期待というか楽しみにしているんだろう。
小惑星が一瞬で消えるという光景に感心していたのにそんな感じのセリナに苦笑する。
セリナはこちらの返事を待って期待を込めてじっと見ている。
判った。好きにすればいい。
「分析は構わないが船は絶対に壊すなよ。
設計図が出来たらこっちでも確認したいから見せてくれるなら許可する。」
「了解です。さっそく始めますね。イストは一度船から離れて頂けますか。」
さっきとは逆か。
生物がいると分析とかが不完全になるからだろう。
スロープから跳ぶと宇宙服で制御し銀の筒の近くに止まる。
しかし資源の回収というか採取だけでなくそんな事も出来るんだな。
物質生成器も進化していると言う事だろう。
分析して設計図が作れるなら別に最初に設計図を用意する必要は無い。
作りたい物がひとつあれば後はそれから生成出来るという事だ。
物質生成器の情報を出さなかったのも判る。
生成しか出来ないというのは黙っておこう。
いやリラ星系のも同じ機能はあるのか?俺が知らないだけか。
本当に設計図が作れるのか確認しておくのは良いだろう。
どれくらい詳細に分析出来るのかも興味はある。
そんな事態は避けたいけれど今後船が壊れたりした時に役立つかもしれない。
銀の筒から今度は青い光線が放たれるのが見えて船の傍に青い正方形が作られた。
非常に小さく5センチくらいの大きさ。
それが消えて今度は大きな正方形が描かれその中を区切るようにして小さな正方形になっていく。
一定区画を区切ってその中をさらに分割していくのか。
収納ブロックの中から始まり船の前後へ青い正方形が作られ続ける。
さっきよりも早い時間で終わったのは範囲の差、大きさの違いだな。
青い正方形は同時に同じ速度で同じ場所から同じようにその空間が青い光で塗られていく。
閃光というほど強烈でもなく眩しくは感じない。
正方形が完全に塗りつぶされ船全体が青い光に包まれて消えた。
船はまだそこに残っている。
「分析は終了しました。解析設計図としての構築も完了しています。」
「終わったのならそれを収納ブロックに入れてくれ。
ワイヤーで固定するが問題はないか?」
「特に問題はありません。無重力化であれば必要な措置です。
専用の格納場所はありませんから固定しておいた方が良いでしょう。」
「じゃあ収納して出発だ。」
「了解しました。」
船に向かって飛ぶとセリナも返答して続いた。
収納ブロックでの片付けが終わったら案内を兼ねて船内を通って操縦ブロックに向かう。
この船だと船体中央に大型フレームが通っていてそこが通路になっている。
各ブロックからそこを通って移動するのが早い。
別にそれぞれのブロックを移動してもそれほど移動時間は変わらない。
ブロック船の構成は説明はしてあったから歩きながら各ブロックを説明しつつ戻る。
操縦ブロックに空気を入れているとこういう時はエアロックを通るから不便だ。
出入りが多い時は居住区だけであとは空気を抜いていたりするんだけどな。
操縦ブロックに戻ったら操縦席に着く。
船を発進させるが手動での操縦も出来るけれどほとんどやらない。
基本的にはコンピューター任せだ。
航路計算は終わっているからそれに従っての航行を指示、実行する。
安定するまで何か問題があった時の為にしばらくは操縦席から離れない。
小惑星などからの移動は最初にゆっくり加速か減速を行って離脱。
安全な距離を取ってから本格的に加速を始める。
今は船の速度が遅いから左右の進路を加速と共に調整。
これは左右の小型推進機で調整する。左を強くすれば右に曲がり右を強くすれば左に曲がる。
行きたい方向になるように推進力を調整して進む訳だ。
上下については移動距離が長いから航行中に時間を掛けて行う。
これは船体各部にある軌道調整用の小型推進機を使う。
進路が上下角1度違うと距離に応じて到達距離が変わるからだ。
10度の坂を下りるのと45度の坂を下りるのでは同じ距離移動しても到達場所が違う。
まあこの辺りの操船は船によって違って来る。
直線の移動を基本にして上下も左右も船の進行方向を変える事で行う航路もある。
縦軸なり横軸なりを目的地に合わせて直角などに曲がりそちらに向かう方法もあるという事。
直線中心の航行だとひたすらまっすぐ飛ぶだけで良いから楽なんだけどな。
それだとひとりでの航行では何もする事が無くて気が抜けやすい。
適度に進路調整する方が気分的には楽で俺はそうしている。
「自動航行モードを確認、目的地20時間前まで維持確認。」
モニターで指示した内容が問題ないのを確認。
操縦席に戻って10分もすれば操縦に関してはもう何もしないで良い。
後は何か問題が起きたり異常が起きれば警告、報告はあるし自動航行も終了する。
時間を確認すると13:32、日課はやるとして後は特に予定が無い。
採掘作業の終了は17:00か18:00予定だったから時間が空いた。
船内作業のスケジュールを繰り上げてもいいが予定としては前倒し気味。
これから先の事も考えれば色々と疑問を解消した方がいいだろう。
さっきから少し後ろでこちらの行動、おそらく操縦を見ていたセリナの方を向く。
「どうかされましたか?」
「こっちに来てくれ。今後の事とかを話したい。ついでに聞きたい事を色々と質問させてくれ。」
操縦席と副操縦席で横並びというのもなんだし後部端末に座る事にする。
居住区のリビングとかで話せばいいんだがさすがにそっちに通す気にはまだならない。
「構いません。こちらからもイストにお尋ねしたい事は多くあります。」
そのままこの日はお互いに話して終わった。
セリナからはリラ6での生活の事、食事、文化、農業、アーコロジーの様子そんな事が多く尋ねられた。
こちらからはAIセリナの事、ツキヨミ関連の事。
まだ話せる事は少ないだろうから今まで聞けた事と疑問点。
あとはしばらく船内で活動するからそれについても。
セリナには仕事として小惑星の観測と過去のデータも含めての分析をしてもらう事になった。
その観測結果を元に船体コンピューターへの反映、学習も行うらしい。
上手くいけばセリナがいなくても分析が少しは詳細に出来るそうだ。
途中で俺は夕食を取ったし気になってセリナに聞いたが今は食事は特に必要ないと言われた。
結局その後も俺が操縦席で寝るまで時々セリナからの質問は続いた。
モニターで情報を見つつ気になった事を聞かれた感じだ。
機械人形、AIセリナ、自立稼働トショカン、深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミ。
そうやって出会った一日目が終わった。