プロローグ
「俺も宇宙のひとつぶだろうかー」
じいちゃんが良く口ずさんでいた歌を口ずさみながら宇宙服の腕にある操作パネルを見る。
全ての作業機械の状態をチェック、問題は無くそのままテスト稼働を始めた。
コンベアが回り始めてしばらくすると採掘された石ころが流れてくる。
そのまま宇宙船の格納庫に放り込まれるのを目視確認。
宇宙船側、格納庫にも問題が無いのを確認。
「問題なし。」
一人で作業しているから確認も必要はないのだけれど気を緩めない為にも声に出す。
『慣れと油断が致命的な失敗を引き起こす。
何度確認しても問題はないし確認を怠る、不審を放置する、それが失敗に繋がる。』
じいちゃんから言い聞かされた事だ。
今は一人で作業しているからこそ油断なく事故は無いようにしたい。
こんな果ての小惑星帯じゃ何か致命的な事があれば助けは無い。
「何かあったらくたばるだけじゃぞ。」と何度もじいちゃんに言われたな。
じいちゃんが亡くなってから1年半、採掘屋として一人での仕事が始まってからの期間でもある。
じいちゃんの部屋はまだ宇宙船にあるし時々懐かしくなるし寂しくもなる。
10歳になってから船に乗って着いて行くようになってから仕事は手伝ってた。
それは周りも知っていたから船を継ぐのも許して貰えたし仕事も一人で続けている。
星の状況として船と船乗りを減らしたく無い事情もあったしな。
今まではなんとかやって行けてる。このまま続けられるといいけどな。
「さあ、始めよう。」
気分を入れ替える為に言葉にする。
パネルを操作して作業を始めれば後は自動的に機械が採掘して格納庫が一杯になるのを待つだけ。
正直機械の準備、設置をするここまでの方が忙しい。
何かトラブルが起きるかもしれないから気を抜いていい訳じゃないけど落ち着いた時間だ。
目の前のベルトコンベアから宇宙船へと視線を移しそこからさらに上、星空、深淵なる宇宙を眺める。
船の中からじゃなくて小惑星の上からみるこの風景は好きだ。
機械に背を向けてほぼ真上を見れば宇宙の中に立っている感じになるのがいい。
少し落ち着いてどうするかと考える。
作業終了までの時間はあるが何もしない訳じゃない。
次の採掘候補を探すか船内で修理作業か。
来る時に修理作業はしてあるから優先するべきなのは終わらせてある。
採掘候補の方は難航しているからそっちだろうな。
「まあ今回は良い稼ぎになるしな。しばらくは暮らせる。」
正直もっと大きく稼いで余裕が欲しい。
このままじゃ船を飛ばすのでやっと。生活するとしたらぎりぎり過ぎる。
採掘屋は宇宙船を使って小惑星とかから資源を回収、それを売るのが仕事。
近場の小惑星はほとんど掘りつくしているし穴場の情報も少なくなってきている。
買い取り額とか年々締め付けが厳しくなっていて同業者は減る一方。
お互いに情報とかも上手くやり取りしているがそれも惑星からある程度の距離までだ。
融通し合うにしても限界はある。
星からこれだけ離れた場所まで来れるのは今は俺だけ。
だから全部自分で調査して採掘できる小惑星を探さないといけない。
出来るだけ他が掘れないこの辺りで稼ぎたい。
みんな厳しいのは判っているから出来れば他の採掘屋が掘れる距離では仕事をしたくない。
どうしようもなければ融通してくれるだろうけどそうなると他も苦しくなるのが判っている。
幸い今回の小惑星は前から目をつけていたもので実際かなり当たりの方だ。
ただ次の採掘候補が厳しい。正直良いのはまだ見つけていない。
微妙なのはいくつかあるけれど距離に見合う稼ぎになるかは微妙な所だ。
仕方なく残して置きたかったここに来る事になったんだよな。
今回はいいが次からはしばらく稼ぎが少なくなるから生活自体が厳しい。
「この仕事は続けたいよな。」
出来ればこの仕事を続けたい。宇宙を飛べるのはやっぱり楽しい。
欲を言うなら今の船をもっと大きくして色々やりたいし自由に飛びたい。
じいちゃんから継いだ船も売りたくはない。
でも星の状況からしてこのまま採掘屋を続けるのは難しいだろう。
『ピィーーーーー』
けたたましい警告音と同時にベルトコンベアが停止、操作パネルが赤く点滅する。
「何のトラブルだ?」
順調に動いていく機械を見ながら思案していたのを遮る警告音。
機械の緊急停止は操作パネルの表示を見ると故障とかの機械的な問題ではない。
各機械のメンテナンスは自分の食事を削ってでも丁寧にやっている。
設置時に確認した時も問題は無かったからそういうトラブルだとかなり落ち込んだな。
「掘削中止?不確定物体?」
停止した原因として表示されたのはあまり見ないエラーメッセージ。
小惑星中心部に向けて進んでいた掘削機が不確定物体を感知した為に停止中。
採掘中に掘り出すと危険な物質を発見したりとかで停止するのは時々ある。
単純に硬度的な問題だとか衝撃を与えると危ない物質とか氷の層とか未確認のバクテリア系のものとか。
ただそんな状況なら停止はしても警告表示は黄色で表示されるし原因もちゃんと表示される。
長く採掘屋が使っている採掘機だ。その辺りの情報蓄積は多い。
採掘中止は普通だけれどその原因、不確定物体ってなんだ?物質ではなくて?
おそらく採掘機のセンサーでは判別出来なかったから未確認判定、それで停止したんだろうな。
ベルトコンベアの横を停止現場へ歩きながら操作パネルで採掘機から詳細な情報を引き出す。
[金属系物質]と[生体反応]があるらしい。
物質ではなくて物体ということはそれなりに大きさがあるということか。
生体反応ってことはやっぱり原始生命体や真正細菌、バクテリア系でも発見されたか。
この小惑星も採掘の前に内部外部をざっと成分分析しただけだ。
たまにそういう事があるとは聞いている。
未発見の微生物系であったりすると危険度が不明ということで採掘は停止するようになっている。
それについてはどんな採掘屋でも細心の注意を払っている。
星に未知の病原体を持ち込んで全滅なんて事態は避けるためだ。
昔パンデミックが起きた事で行政もそこだけは厳格に取り締まっている。
直径900m程の小惑星、そんなに掘れてもいないから急がなくてもすぐに停止現場に辿り着く。
採掘穴の突き当たり、作業を停めている採掘機械を手動操作で少し後退。
「採掘が出来ないのは困るんだよな。何があるんだ?」
宇宙船と連動させたスキャナー、解析機を取り出し最大出力に設定。
こっちの方が採掘機械より高性能で分析も宇宙船を使っているから詳細に解析出来る。
突き当りの採掘穴を上から下、右から左と丁寧に照射、すぐにコンソールに結果が表示された。
[>詳細不明/生体反応あり≫類似:人間]
類似:人間?
その表示の下段に続く成分表示は金属系のもので鉄を中心していて反応としては機械の類だろう。
採掘機械のセンサーやこのスキャナーのテストで宇宙船とかを検査した時と同じ感じの結果だ。
分布を画像で表示させれば円筒形の金属物質が少し先に埋まっている。
そこに重なるように生体反応、それほど大きくなくそれは人の姿には見えない。
手足ははっきりしないし大きさとしても小さい。赤ん坊か?
でもそれならもうちょっとはっきり判るよな。動物の類?分布画像だけだとはっきりしない。
円筒形の物体は脱出ポッドとかだろうか。思いついた物としてはそれくらい。
脱出ポッドは宇宙船に何かあった時に逃げるための物。大きさ的に個人用、一人乗りだろう。
もちろん宇宙に放り出されるから救出される確率は低く実用性という点でこの星系では廃れつつある。
もし脱出ポッドだとしても救助信号は発信されていないしかなり古いものかもしれない。
採掘機械とか砲弾とかか?ただ上下に穴らしいものは無いし穴が埋まった様子もない。
観測器かなにかか?
この小惑星はどうやら二つの小惑星がくっついたものらしい。分析した成分結果も前後に分かれている。
二つの小惑星が衝突したとしたらその時に表面にあって巻き込まれて埋まったのかも。
かなりの偶然だけれど宇宙空間であれば低確率の事も多く起きている。
たまたま漂流している古い宇宙船と遭遇するとか漂っている死体に遭遇するとか。
スキャナーの検査結果を確認したが危険な病原体類というか未知成分は検出されていない。
そういう点では安全だ。埋まっているのがエイリアンの可能性はほぼ無い。
広く宇宙に進出して以来、人類とエイリアン、異星人との遭遇は無いからだ。
万が一そうだとしてもそれはそれでありだろう。危険もあるかもしれないけれど。
「掘り出そう。」
ここを避けて採掘するという選択もあるがそれをするのも手間が掛かる。
どうせこの小惑星は採掘するのだ。掘り出してから実物を見て考えればいい。
埋まっているのが観測器とかただの機械ならそれでいい。
もし予想したように脱出ポッドで死体があったなら回収すればいい。
難しいだろうけど遺族に報告したり届けられるかもしれないしな。
滅多に無い事だが宇宙を彷徨う死体は出来るだけ回収して遺族に引き渡す。
それがこの辺りの宇宙船乗りの流儀だとじいちゃんから教わってもいる。
実際に昔一度だけ宇宙を漂う死体というか宇宙服をじいちゃんが回収していたな。
俺は操縦席からそれを見ていただけでその時に話してくれた流儀だ。
回収したポッドは古い機械かもしれないがそのテクノロジーは重要だ。
上手くやる必要はあるがなんとか星に降ろすことは出来るだろう。
採掘プランを変更するよりはこのまま掘り出した方がいい。
スキャナーのデータを採掘機へ転送、ポッドらしきもの周辺を掘削するように操作。
採掘穴が崩れたり対象が傷ついたりしないように勝手に計算され採掘機が掘り出してくれる。
今回はすべて掘り出す訳ではなく埋まっている物体の周囲を壁のように残している。
中の物体を傷つけたりするのを避けるためだ。
残した壁には何本もワイヤー付きの杭が打ちこまれていて採掘機がワイヤーを巻き取り手前に倒される。
巻き起こる塵は採掘機が吸引。引き倒され壊れた壁も回収してベルトコンベアに乗せられていく。
計算された作業工程でスムーズに採掘された。塵が吸い込まれ薄れていくのを待つ。
岩に埋まったままの金属物体。
それの中央より少し上、金属にめり込むようにある人間の上半身のような物。
下半身は千切れてなくなっているようだ。
その千切れた部分からは金属製の骨格や機械部品のような物が見える。
左腕は肘から先が無くそこからも同じように金属部分や内部の機械が見えていた。
右肩も抉れておりそこも金属質であり機械が見えている。
人間ではなく機械だろうか。
塵に汚れてはいるがどの部分も表面は皮膚のような色合い、質感が見えている。
ボロボロの上半身だけであちこち破れている銀色に赤と白で彩られた衣装。
なんとなく宇宙港の制服のように思えて旅客船の船員服なのかもしれない。
灰色の塵にまみれている黒い長い髪、目は閉じられている。
女性で綺麗という感じではなく少女ではあるが幼くは見えない。
かなり整った顔立ちなのだが目立つほどでもなく普通だけど綺麗。
まあ女性の顔なんてそんなには見慣れてもいないから美人と言える分類なのかもしれない。
酒場の色っぽいお姉さんというよりは屋台のかわいいと評判の看板娘に近いか。
他に荒っぽい船乗りとか修理工場の双子姉とか思い浮かんだ女性よりかわいいと思うし好みだ。
「こいつは当たりだ・・・。」
もちろん外見でという事じゃない。
分析結果の[類似:人間]という不確定な反応、そしてこの外見。
おそらくこれは昔に作られたアンドロイドか義肢装着者なんだろう。
ただ機械部分が多いから人間とは思えない。
どちらもこのリラ星系では見られなくなったものでデータでそんなものがあったと知っているだけだ。
つまりこれはテクノロジーの塊、とんだ拾い物だ。
見た目からは特に武器の類は見えない。
それでも機械腕などの技術を解析、再現出来ればかなり役立つ。
ひとまず深呼吸。
「慌てるな。まだ先は長いぞ。」
まずは運び出して調査、出所や所有者を確認しよう。
問題がなさそうなら星に持ち込む手段を考える。
これは慎重にやらないといけないし一人では難しいからあちこち連絡もしないとな。
最悪の事を考えて複数ルートの方がいい。
星に降ろしさえすれば後はなんとかなる。
どんな物か次第だけど大きな希望になるかもしれない。
でも技術的に古くて役に立たない可能性もあるな。
解析出来るまでは様子見だな。
「まずは船に持ち込もう。簡単な調査は出来るだろう。」
まずは回収して確認、ただのガラクタの可能性だって残っている。
先の事を考えるのは確実になってからでいい。
「なんだ?」
回収作業を始めようとしたら採掘穴に緑のレーザー光があった。
それは腰の辺りの高さで立方体になりそこから横に上に次の立方体を作っていく。
採掘機に向いていて見えていなかったようだ。
左方向、金属筒の方に向けば採掘穴はすでに積みあがった立方体に覆われていた。
「おいおい、なんだよ。」
なんだよと言いつつ可能性の最大値は金属筒、脱出ポッドかそこにある金属人間だとは思う。
念のため触れないように離れつつ宇宙服のセンサーで確認するが攻撃的な光線では無い。
宇宙船の誘導用のレーザー光や港で使われる停止位置表示のレーザーみたいだ。
つまりは何かの誘導用か?
次々と描かれていく立方体を避けて後退していくが気が付けば採掘機の場所にも描かれていく。
「待て待て待て。」
怪しげな状況で近寄る訳には行かない。
採掘機を後退させようと操作パネルに手を伸ばした瞬間、広がった緑の閃光。
目に映ったのは一瞬、強烈な光を感知した宇宙服が自動で遮光していた。
閃光は一瞬だったようですぐにヘルメットは透過モードに戻る。
そこには宇宙が見えた。
右手側は採掘穴だが左手側は真っすぐに切り取られおりそちら側の小惑星は無くなっている。
そこを境目として宇宙が見えていた。
「何が起きた?」
左に向きそちらへと視線を向けた先。
その宇宙空間に浮かんでいるのはさきほど掘り出した金属筒、ポッドとその前に浮かぶ人。
ふわりと揺れる黒髪。銀をベースとして赤と白で彩られた衣装。
宇宙に浮かんだままの少女、機械人形、その瞼が開かれた。
紫の美しい瞳がその視線をこちらへと向ける。
視線が合いこちらを認識したその少女は微笑みを浮かべお腹の当たりで両手を組み一礼。
「ようこそ。自立稼働図書館セリナへ。
初めまして。深宇宙探索光子転送網開拓艦ツキヨミです。」




