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笹百合

 イギリスに戻る日程を響が知らせてきた。

 知らせる、とはつまり最後通牒。本土の長が痺れを切らしたのだ。もう間もなく、花野はこの日本を去ることになるだろう。

 花野は宿泊していたホテルの近くにある小さな神社を訪れた。人の手が余り入っていないであろう神社は境内脇に叢が茂っていた。

 その叢の中、緑に落ちた雪のように咲く花がある。

 笹百合だ。

 花野はその一本を、謝しながら手折る。

 声が聴こえる。苦痛に呻く、声が。癒しを求める、声が。


 バス停のベンチに座る女性は見るからに顔色が悪かった。花野はさりげなくその隣に座る。


「どこかお具合でも?」


 素知らぬ風を装う自分に内心で微苦笑する。


「ああ、胃潰瘍(いかいよう)でね。お薬は飲んでるんだけど。……それ、百合の花?」

「ええ。少しの間、お腹に触らせてください」

「え? 何、貴方」

「お願いします。決して悪いようにはしませんから」


 花野の懇願に女性が折れた。

 花野は目を閉じて、笹百合を女性の腹部に充てる。白と黄色の入り混じったような淡い光が女性の腹部、その中枢まで行き渡る。花野には女性の痛みが我が事のように感じられた。実際に体感しているのだから、その筈である。


 少しの時間が流れ、花野は笹百合を引き、微笑んだ。女性は信じられないという顔をしている。


「あ、貴方、何したの、今」

「花療法です。魔法の一種です」


 容易に信じられないと知るからこその言葉に、実際、女性は破顔した。


「何だかまだ嘘みたいで信じられないけど。ありがとうね。魔法使いさん」


 その感謝の言葉と声、そして明らかに先程より顔色が良くなっている女性を見て、花野は幸福な心地に浸った。



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