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無題  作者: みなも
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無題

「それでは、今日はここまでとします」


教壇に立っている老教授が、嗄れた声で講義の終了を知らせた。


即座に席を立つ者、ノートに講義内容を書き込んでいる者、終わった事に気付かないまま死んだように机に突っ伏している者などがいる中で、講義室の一番後ろの席に座っていた正樹は、心ここにあらずというように虚空を眺めていた。その目は死んだ魚を彷彿とさせる。


「正樹、正樹、早く帰ろう」


肩を何度も叩かれ、正樹の目に漸く生気が宿った。声のした方に顔を向けると、手提げ袋を持った友人ーー遠藤達也が、早く家に帰りたさそうに正樹を見ている。ご丁寧に足踏みまでして急かしてきた。


「十秒待て」


正樹は慌てて教科書や碌にとってもいないノートを片付けると、椅子から立ち上がり、リュックを背負った。


「よし、行くか」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


季節は六月。まだ本格的な夏に入っていないとはいえ、気温はそれなりに高い。そこに梅雨由来の高い湿度と太陽が加われば、それはもう真夏と変わらない暑さだ。


そんな中、正樹達は競歩選手もかくやというような速度の早歩きをしていた。


二人の格好は、どちらも無地の白Tシャツに薄い青色のジーンズ。並んで歩いている様は、まるで仲の良い兄弟だ。


大学の講義室から、ずっとこの速さで歩き続けているので、走った時並みに息切れしてしまう。


滝のように流れる汗を手で拭いながら、正樹は並行している達也に尋ねた。


「そんなに、急いで、何するんだ?」


通りにはそれなりに人がいて、それにぶつからないよう、視線を前から逸らさずに達也は答えた。


「無論、『エロしこの夏 〜幼馴染みと一緒の三十一日〜』、の攻略だ」


タイトルだけは一気に言い切った達也に、正樹は信念のようなものを感じた。


すれ違う通行人が二人を見てギョッとする。それは異様な速度で走っていたからか、それとも今の言葉のせいかは分からない。


「・・・そんな、事だろうと、思った」


タイトルから察せられる通り、エロゲである。


この男、遠藤達也は筋金入りのエロゲ好き。特に、幼馴染み属性に目がない。


ここまでなら、まだ許容できる。しかし、真に度し難いのは、この男、リアルに幼馴染みの彼女がいるのだ。しかも、中々の美人。


正樹は以前、「お前、彼女いるんだから、エロゲいらなくね?」と訊いたことがある。それに対する返答は、


「沙百合|(当時の二次嫁)も詩織|(現在まで続く三次嫁)も大切な俺の嫁だ」

だった。


これだけ見ると、何故こんな奴に彼女がいるのかと首を傾げるしかない。彼女がいたとしても、振られるのも時間の問題だと思われた。


しかし、実際のところ、達也の方からマメにデートに誘ったり、手作り料理を作ってもらっているようで、関係は良好のようだ。


達也はもしかしたら、リアルでも幼馴染みを攻略するのが得意なのか、と正樹は戦慄せずにはいられない。


「待ちに待った、『エロしこ』シリーズの、最新作、だからな。この時を、どれだけ、待った事か」


「そういえば、昨日が、発売日だったか」


達也は最近、その話ばかりしていたので、正樹はすぐに思い出した。


何せ、達也は会うたびに、「発売日まであと〜日だな」と挨拶のように言ってくるのだ。正樹まで、一緒にカウントダウンしているような気持ちになり、いつの間にか発売日を心待ちにしている自分に気付いて、サブリミナル効果を実感した気がした。


「終わったら、感想、聞かせてくれ」


「おう」


正樹も実は、エロゲを嗜む紳士の一人。有名タイトルに興味を惹かれるのは当然の事と言える。


達也に会ったのも、エロゲがきっかけだ。あれは衝撃的な出会いだった。達也が女だったら、恋に落ちていたかもしれない。


「正樹も、今、読んでる、ラノベの、感想、聞かせてくれ」


正樹はそれに頷くと、急ぐ達也に歩を合わせ、さらに加速した。


「じゃあ、週末辺りに、報告会な」


「承知」


そうして二人は、半ば走るように家を目指して歩いて行った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


築四十年の古びた二階建てアパート。その二階の奥から二番目が正樹の部屋だ。


因みに一番奥は達也の部屋で、お隣さんだったと知った時は奇妙な縁を感じた。運命といってもいいかもしれない。


正樹はリュックから鍵を取り出すと、鍵穴に差し込み、クルリと回す。ガチャと妙に心地いい音を鳴らして鍵が開いた。


扉を開ける前に、正樹はふと、講義中に聞かれた事を思い出して、同じ様に部屋に入ろうとしている達也の方を向く。


「そういえば、達也はなりたいものってあるのか」


「なりたいもの?」


達也が何を言っているのかわからないと言いたげに正樹を見た。


「えっと、就職したい職業とかある?」


「?・・・ああ、その話か」


思い出したのか、達也は納得顏になる。


講義中、暇を持て余したのか、達也は隣に座っていた正樹にいきなり、「俺、今やってるゲームが終わったら、就活始めるんだ」と言ってきたのだ。


その言葉が原因で、正樹は放心して講義の内容を聞き逃し、真っ白いノートを急いで片付ける羽目になったのだ。


「まぁ、あるといえばあるな」


「まじかよ・・・」


正樹は信じられないとばかりに、頭を軽く振った。てっきり、自分と同類の、日々を何となく生きている人種だと思っていたのだが、違ったらしい。


「それで、どんな職業だ?」


達也は直ぐには答えなかった。


正樹が中々答えない達也に訝しむような視線を向け始めた頃、漸く達也は口を開く。


「・・・笑うなよ」


笑ったらどうなるか分かるな?と脅す様に、達也は正樹を睨んだ。


「笑わない、笑わない」


すると、達也は、まるでこれから好きな女子に告白する男子の様に顔を赤くし、俯いて言った。


「・・・・・ゲームクリエイターだ」


恥ずかしがる達也に、正樹は首を傾げた。


ゲームクリエイター。ゲームをクリエイトする。つまり、ゲームを制作する側か。やり甲斐のありそうな良い仕事だと思うが。


「良い夢じゃんか。俺は応援してるぜ」


その言葉に達也は顔を上げる。


「自信持てよ!」


正樹は、『サムズアップとウインク〜歯キラーンを添えて』を達也にプレゼントした。


達也は困惑したような顔をしていたが、もしかしたら、正樹の顔が気持ち悪かったのかもしれない。


自分の想像に自分で傷付きながら、正樹は「じゃあな」と言うと、扉を開けて部屋に入った。





達也は、正樹がいなくなった後も、暫くその場に残っていた。


達也は今まで、何回か自分の夢のことを他人に言った事があるが、誰もが聞いた瞬間に苦笑いし、遠回しにやめた方が良いと言ってきた。


そのせいで、達也は他人に就きたい職業を訊かれた時には、毒にも薬にもならない答えを返すことにしていたのだが、正樹には本当のことを言った。


これまでの付き合いから、正樹は他人の夢を否定することは無いだろうと思って言ったのだが、その予想は当たっていた。


今までと同じ反応が返ってくることも、心のどこかで覚悟していたのだ。これ以上傷つかないように。


夢を否定されるのは悲しいことだ。それを達也はよく知っている。


その反動からか、喜びもひとしおだった。


達也はその場でスキップを始めそうな程上機嫌だったが、ふと、正樹の一瞬見えた表情を思い出した。


まるでヒーローを見る少年のような目だった。正樹とは、お互いに親友と言える付き合いをしてきたが、そんな達也も初めて見るものだった。


見間違いかとも思ったが、妙に気になる。


「達也くん」


左手を顎に当てて考え込んでいた達也に、階段を登ってきた人物が声を掛けた。


達也はその人物を見て目を剥く。


「詩織・・・」


長く伸ばした黒髪。白色のワンピースと麦藁帽子を被ったその姿は、まるで、エロゲの世界から飛び出してきた幼馴染みのようだ。


「自分が好きな服着ろって言ったのに」


照れる達也に、詩織は微笑みを浮かべた。


「ええ。だから、私が好きな、あなたが好きな服を着てきました」


もしこの場に正樹がいたら、二人のラブラブオーラに当てられて悶絶したことだろう。ギリギリ回避したあたり、正樹は運が良いようだ。


達也は正樹に告白したときよりも顔を紅潮させ、目の前のある意味恐ろしい幼馴染みと相対する。


「何でこんな時間に?まだ講義残ってるだろ?」


詩織は、達也とは別の大学に通っている。だが、恋人のことは自分が一番把握している自信があった。講義の予定くらい、直ぐに思い出せる。


「ふふ、達也さんの好きなえろげの発売日が昨日だったでしょう?だから、今日は早めに帰ってくるだろうと思って」


手に持った花柄の手提げバックを持ち上げ、悪戯な笑みで達也に言う。


「講義をサボって、お昼を作りに来ちゃいました」


達也はやれやれと首を振る。照れ隠しなのは一目瞭然だが、詩織は何も言わない。


「まあいい。丁度、お前に話があったんだ」


達也は、恋人である詩織には、自分の夢のことをまだ語っていなかった。


エロゲを認めてくれるくらいだ。否定することは無いだろうが、達也は万が一を考えずにはいられなかった。そのせいでずっと隠していたのだが、今日のことで自信が付いた。


詩織なら、もう既に察していそうだが、ちゃんと言葉にすることが重要なのだ。


「ふふ、どんな話でしょう」


楽しそうに笑う詩織。


達也は扉を開けて、詩織に中に入るよう促すと、詩織の後に部屋に入った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


正樹は扉を閉めると、暫くその場に無言で立っていた。そして、再び動き始めると、鍵を掛けてから靴を脱ぎ、卓袱台の上に置いてあるリモコンでクーラーをつける。そして、部屋の隅にリュックを放り投げると、大の字で畳の床に寝そべった。


「ゲームクリエイターかぁ・・・」


自然と口から零れた言葉。そこには憧憬の響きがあった。


達也の就きたい職業を聞いた時、少し驚いたが、不思議と納得出来たのは、日常の所々でその兆候があったからだ。達也と話をするとき、度々専門用語を使っていたが、密かに努力していたことの表れだったのだと今ならわかる。


達也は恥ずかしそうにしていたが、正樹にとってそれは蔑むどころか、寧ろ尊敬に値するものだった。


正樹は今まで、何かの為に努力するという事があまり無かった。


高校三年生のとき、特に行きたい大学もなく、大半の人が通るであろう受験勉強地獄を何となく過ごしていた結果、悪くはないが良くもない平凡な大学に行くことになった。


大学に入れば何か変わるかと期待したが、高校卒業から現在に至るまでで変わったことといえば、住所と人間関係くらいだ。


一流大学と言われる場所に行けば違ったのだろうか。仮定の話をいくらしても仕方が無いことは分かるが、想像せずにはいられない。


正樹は暫く寝転がって、ありえたかもしれない薔薇色のキャンパスライフに思いを馳せていたが、それが終わると、ゆっくり起き上がった。


「はぁ・・・・・ラノベでも読むか」


答えの出ない悩みは、取り敢えず棚上げして趣味に勤しむ。それが正樹の高校生の頃からの、この手の問題の対処法だった。対処というより、ただの逃避だが。


恐らく、達也はこれからも日々を何となく生きていく。


凄く良いとは到底思えなかったが、かといって居心地はそんなに悪くない。


ぬるま湯に浸かっているような生活、大いに結構なことじゃないか。


「次の報告会までに読まなきゃならんものもあるし」


正樹は徐に立ち上がると、伸びをしてーー


「んんっ?」


突然、酷い目眩が襲い、たたらを踏んだ。立ち眩みかと思ったが、どんどん酷くなっていく気持ち悪さに、大学からここに来るまでに水分を摂取していなかった事に気付き、脱水症なのではと焦る。水を飲まなくてはと、数歩歩いたところで、正樹の意識はプツンと途切れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「すいませーん。起きてくださーい。すいませーん」


誰かの間延びした、まだ幼さが少し残っている声が正樹の耳に入る。聞き覚えのない女性の声だ。それに引っ張られるように、正樹の意識がゆっくり覚醒していく。


「んー。あともうちょっと」


正樹はそれだけ言うと、覚醒途上の意識を再び沈めにかかった。


体が異様に怠い。心は目覚めても体は眠りを欲しているという事だ。「起きたいんだけどね。仕方ないね」と誰かに向けた言い訳を最後に、正樹は再び眠りにーー


「起きてくださーい。怖そうなおねーさんがこっちをにらんでますからー」


誰かが体を揺らし始めるが、それでも正樹が起きる気配はない。起きようとする気がそもそも無い。


「代わって下さい。私が起こします」


薄れゆく意識の中、正樹は別の女性の声を聞いた気がした。こちらは恐らく成人女性。芯の通った良い声だなと、正樹が夢見心地で思っていると、右手に誰かの手が触れてーー


「ぬほぉぁああああああ!」


激痛と電流が体中を駆け巡り、正樹は海老のように跳び上がった。


「起きましたね」


正樹が涙目で声のした方を見るとそこにはビジネススーツを着た女性がいた。服装がドレスだったら、モデルに見えるであろう美貌だ。その肩まで掛かっている自然な金髪から、十中八九外国の人であると思われる。


正樹は涙目になって、周りを見渡した。すると、金髪美女の他にも人がいることに気付く。


最初に正樹を起こそうとした少女。その見た目から日本人だと正樹は直感する。ショートにした黒髪と痩せ型の体は、スポーツ大好きだと主張しているように感じた。制服を着ているので、高校生だと思われる。


その隣にいるのは半袖短パンの少年。背は百五十センチくらいだが、大人びた雰囲気で、そのギャップが印象深かった。その金の髪色から先程の金髪美女と同じく、外国人だと思われる。


あとは、柱に寄りかかった褐色肌の男。GパンにTシャツというラフな格好は不思議と男に似合っていた。黒髪だが、雰囲気が日本人っぽくないので、多分外国人。男もこちらを見ており、自然と目があった。すると、褐色男は笑って正樹に小さく手を振ってきた。正樹もそれにつられる様に小さく手を振り返した。


正樹は褐色男から視線を外すと、誰もいないところへ顔を向けた。すると、おかしなことに気付き、改めて辺りを見渡す。


今、正樹がいる場所は、四方は黒色で、空か天井があるであろう上も同様だ。壁を黒く塗っているのかと思ったが、直ぐにそれは違うと直感した。そこに壁はなく、果てしない黒い空間が広がっているのだ。


足場は白く発光する大理石のような床で、かなり広い。しかし無限に広がっているわけではなく、端がある。


正樹が立っているのはその中心に近い場所で、付近には規則正しくギリシャに有りそうな柱が立ち並んでいる。


その柱が作る道の奥に玉座というべき椅子があった。遠目にも、豪華な装飾がしてあることが分かる。


そこに一人の男が座っており、正樹のいる方を見ていた。その男は椅子から立ち上がると、突然その姿が掻き消えた。


「「「!」」」


そして、正樹から少し離れたところにこれまた突然出現した。まるで転移したかの様に。


正樹と女子高生、金髪少年が驚きを顔に浮かべる。金髪美女と褐色男は動じた様子は無く、現れた男に視線を固定していた。


現れた男は、人間ではなく人形の様だった。整った容姿、仮面を被っているのかと思う程の鉄面皮、人間離れした雰囲気。何より、服を着ていない。下には何も付いてない。正樹は本能的に、これは人間ではないと理解した。


男は一度、一人一人に目を向けてから口を開いた。


「それでは、説明を始める」


傲慢な態度だ。しかし、それが妙に似合っているように感じる。


「その前に質問があります。ここはーー」


金髪美女が男に問うが、男は無視して、話を続けた。


「お前達をこれから異世界に送る。そこで魔王を倒せ。倒したのなら、一人につき一つ、私が叶えられる範囲で願いを叶えよう」


事務的な口調で話す男。その言葉は正樹達をからかっている様には聞こえず、男の放つ雰囲気と相まって、これが現実であると否応なく認識させる力があった。


しかし、あまりに荒唐無稽な話。これを疑問なく許容できる者などいない。


「貴方は誰ですか?」


問いを発したのは、先程と同じく、金髪美女。この様な状況でも、狼狽えた様子は無く、冷静に男の言ったことを分析しているように、正樹には見えた。


「神だ」


一瞬、しらっとした空気が辺りに漂った気がした。


ふざけているようには見えない。その超然的な雰囲気と、正樹達をいつの間にか、こんな不思議空間につれてくる手段を持っていることが何よりの証明だった。


金髪美女やその他の人もそう思ったのか、誰も何も言わない。


「・・・拒否することはできますか」


「できない」


「異世界とは何ですか?」


「お前達のいた世界とは別の世界」


「私達のいた世界との相違点は?」


「創った者が違う。お前達の行く世界について、詳しくは知らない。そういうことは自分で確かめろ」


にべもない返答が続く。それでもめげずに、金髪美女は問い続けた。


「魔王とやらを倒すまで、私達は元の世界には帰れないのですか?」


「そうだ」


「では、異世界で時間が経過ーー例えば、一年かけて魔王を倒し、元の世界へ帰ったら、私達は自分が一年間いなかった世界で生きなければならないのですか?」


この問いに女子高生が反応した。これは困ったと眉を八の字にしている。この年齢の子にとって、時間の重要度は高い。一年も経てば、身の回りの環境は生きづらいものになってしまう事は、容易く想像できる。


「いや、お前達が帰るのは、お前達がここに来る直前の時間の世界だ」


この言葉を聞くと、女子高生はほっと胸を撫で下ろした。


「何故私達がここへ?他の人でも良かったのでは?」


「適性があったからだ」


「適性?」


「お前達には魔王を倒して貰う。それはただの人間には無理だ。故にお前達には、これから私が与える装備を使って貰う。それは誰でも使える物ではない。適性が必要だ」


問いと、それに対する返答が繰り返される中、正樹は今の状況を整理していた。


|(ラノベみたいな展開だな。まあ、詰まるところ、異世界行って、魔王を倒せばクリアっていうことか)


言葉にすると正気をを疑われそうな状況だが、そういう系のラノベやネット小説を読んできた正樹には、そんな世界に行った自分を想像するという経験を経て、そういうことに対する耐性があった。


それが無かったら、「こんなところにいられるか!俺は家に帰るぞ!」と言いだしていただろうことは、想像に難くない。


正樹は自らの知識から、今、一番必要な情報を得るための問いを思いつく。


「すいません」


正樹の声が、神と金髪美女の間に割り込んだ。


二人は正樹に顔を向ける。他の三人の視線も正樹に集中した。


「俺も質問いいですか?」


「早く言え」


無愛想に答える神。


では、遠慮なくと、正樹は真に重要なことを聞こうと口を開いた。


理想的な異世界生活を送るために必要なもの。これさえあれば他には何もいらない、裸で異世界に送られたって良いと思える程のもの。それはーー


「チートは、ありますか?」


正樹の放った言葉に、金髪美女と金髪少年は疑問符を頭に浮かべ、女子高生は「チート・・・どっかで聞いた事があるような気がする」と呟き、褐色男は柱に寄りかかったまま、相変わらずの笑みを浮かべて正樹を見ていた。


そして、神は先程までと同様に、淡々と答える。


「これから私が与える装備がチートに値するだろう」


それを聞いた瞬間、正樹は約束された勝利が待っている事を確信し、無意識に拳を握りしめた。


「チートとは一体ーー」


「質問はここまでだ。残りの疑問は自ら解決せよ」


金髪美女の言葉を遮り、神が傲然と言い放った。


同時に、ここに来る際に体験した目眩が正樹を襲う。霞む視界の中、金髪美女と女子高生と少年が、自分と同じ様にふらついているのを正樹は見た。褐色男だけは相変わらず柱に寄りかかって瞑目していたが。


そして、正樹の意識は再び途切れた。

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