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異世界で手に入れた能力が回復系だった場合  作者: 猫丼
第一章 異世界順応編
2/2

02話 転生と共に出会うは人狼

 痛い。頭が割れるように痛い。手も足も胸も首も。全部、ぜんぶ、ゼンブ。

まるで大きく太ったドブネズミが鋭い歯を突き立て、体中に喰いついているかのように。


「~~~~ッあ゛あ゛あ゛あ゛……!!」


 どうしようもない激痛に悶え、悲鳴を上げる。呼吸は荒く、まともに空気を吸えていない。

自分は死んだ。トラックに轢かれ、簡単に命を落とした。グシャリと骨が砕け、肉が裂ける…あの音が今になって耳にこびりつき、離れない。

死の直前は走馬灯が見えると聞いたことがある。これまでの人生の出来事が、一瞬にして脳裏に蘇ることだ。だが、不思議と自分はそれを見なかった。

――記憶が無い? …そんなはずが、ない。何年も生きてきて、今までの記憶がないわけがない。でも、確かに思い出せない。自分は何だ? 何故、何も。


 ……いや、分かっている。本当は気づいていたハズだ。


「(…そうだ、忘れたものは”思い出”じゃない……)」


「(僕が本当に忘れていたのは……っ!)」



………

……



「……ゆ、め?」


 とても嫌な夢を見ていたようだ。

体中にじっとりと汗を掻いた状態で、光も差さない真っ暗な闇の中、自分はポツンと立っていた。

身近なもので例えるなら電気を消した部屋の中にいるような…それでいて、何故か自分の姿だけはハッキリと視認できる。そして、そのせいで分かったことが一つあった。


「あ、服着てない」


 汗を掻いているのにも関わらず、まったく寒くなかったので気づきにくかったが何故か衣服を身に纏っていなかった。下着も何もなく、本当に全裸。…とはいえ、特に人がいる気配もないので隠さないが。ここは暗闇の中だし、着ても着なくても同じだろう。

とりあえず、どこかに移動してみないと何も分からないな。そう思い、歩こうとしたが何故か足が動かなかった。

地面に根が這った大木の様に、ピクリとも。

 一体何が? ――そう思った直後、辺りに不思議な声が響いた。


≪ようこそ、異世界へ。これからあなたの設定をします。≫


 誰の声だろう。男か女か、性別がまったく分からない。機械音のようにも聞こえるが、その割に流暢に話しているし人間の声かどうかも怪しい。いや、それよりも今「設定」と言ってたような…

 ぼんやりとそんなことを考えていると、不思議な声は会話を続けてきた。


≪あなたの名前と性別を教えて頂けますか?≫


 名前と性別…って、いきなり何を聞いてくるんだこの声は。

一応、素直に答えておくけどさ……。


麻木蓮夢アサギレンム、男です。」


≪了解しました。では、あなたの能力の系統タイプは何が良いか、次から選んでください。1,攻撃系 2,守備系 3,支援系 4,回復系≫


「攻撃?守備?…なんか物騒だし、4番の回復で。」


 何となく回復にしてみたけど良いのかなぁ…。

なんか内容がRPG系のゲームの設定みたいになってるんだけど。っていうかほぼそうじゃん!

怪しい疑問を抱いたが、不思議な声はまだ質問を続けた。


≪では希望したい名前を言った後、性別をお選びください。1,男 2,女≫


 ん?希望したい名前?

一体どういうことだ……さっき名乗らせた意味が分からない。ま、回復だから癒しの天使ラファエルの名前と混ぜて適当にラルムにしよう。性別は女でいっか。どうせ夢か何かだろうし、ちょっとふざけてみても問題ないよね、多分。


「じゃあ名前はラルムで、性別は2番の女にします。」


≪了解しました。――設定完了。これより、個体『ラルム』を生成します。≫


 生成……って、何をする気だろう。考えたキャラとかを作るのかな? …だとしたら、変な夢だな。

そう思った直後、いきなり目の前が真っ暗になる。そして再び明るくなったかと思うと――。


 気付けば、自分は仰向けに寝ていた。

心地よい風が花の良い香りを乗せて、髪をサラサラと撫でていく感覚がする。

太陽の暖かな光が自分を照らしているのがなんとなく分かった。

ゆっくりと目を開けると、そこは先ほどとは打って変わって生き生きとした場所だった。


「あ…れ? さっきと場所が違う……!?」


 どこまでも青く、雲一つない空が広がる。こんなに綺麗な青空を見たのはいつぶりだろうか。今までまったく上を見上げていなかったことを改めて実感する。

むっくりと起き上がると、辺りにはさらに素晴らしい風景が広がっていることに気付いた。

あるのは草、花、川。言い方はは単純だが、どれも言葉には表せないほど美しい。どれもキラキラと輝き、命が活気づいているようにさえ思えた。


「……凄い」


 口から自然に漏れ出す一言…むしろ、それしか感想を言えなかった。今になって言葉の貧しさに苦難するが、どうしようもない。

 時間が過ぎていくのも忘れ、そのまま景色に見入る。気づけば太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。

――どのくらい経っただろうか。その場に座り込んで眺め続けていると、不意に背後から声を掛けられた。


「オイ、女。テメーそこで何してやがる?」


 思わず後ろを振り返る。そこには人間……と言うには少し違う、身長二メートル程の狼男のような生き物がこちらを見下ろしていた。

狼男の鋭い黄金色の瞳は真っすぐと自分を捉え、動かない。普通に見れば腰を抜かして逃げ出してしまうのかもしれないが、不思議と恐ろしくはなかった。……とはいえ、流石にその外見には驚くが。


「そんなボロ布一枚で…なんか怪しいな」


 今になって気づいたが、いつの間にか自分は申し訳程度の薄汚れた布を身に纏っていたようだ。

さっきの暗い謎の場所では何も着ていなかったのに、何故…?

そんなことを考えている間にも狼男はスンスンと鼻を鳴らし、僕の体の匂いを嗅いでくる。しばらく周りをぐるぐる回りながら何かを確かめているかのような素振りを見せると、一瞬眉をひそめて言った。


「俺様がまだ嗅いだことのない匂い…これは……」


 何かに気付いたのか、狼男は腕を組み、考え始める。鋭い眼差しはまだ自分に向けられたままだ。

しかし、とりあえずまだ聞いていないことがあるので声をかけてみる。


「あのさ…君、誰?」

「あ? なんだ、俺様のこと知らねーのか。…それより人に名前を聞くなら、まず自分から名乗るべきだろ?」


 当然だろ、とでも言いたそうな顔で狼男はフンと鼻を鳴らす。確かにそれもそうだ。

…そういえば、名前ってどっちを言ったら良いんだろうか。念のため、ラルムの方を言っておこう。


「僕は…ラルム」

「ラルム、ねぇ。…つーか、俺様のこと本当に知らねーの?」

「うん。」

「この世界じゃだいぶ有名なんだが…まー良い、教えてやろう! 俺様は――」


 狼男は大きくポーズを取り、自信満々に叫ぼうとする。…が、タイミング悪く突然近くの川で爆発が起きた。

轟音と水飛沫が辺りに飛び散り、何も聞こえない。そのせいで狼男の言ったことは途中で遮られてしまった。


「爆発?」

「おいおいなんだ今のは? 邪魔しやがって…ったく」


 突如爆発した川。その方向を見ると体の表面は鱗で覆われ、手足には足鰭ひれや水かきが備わっている半魚人マーマンのような生き物が数匹立っていた。

伝説上の生き物がこうホイホイと現れるものなのかは謎だが、恐らくそこに触れてはいけないだろう。


「俺たちのナワバリで何をしているのだ、貴様ら…!」

「ハッ、何かと思えば雑魚じゃねぇか。ラルム、お前戦えるな?」

「え?」

「……まさかお前、戦えないとか言うんじゃねーだろうな。」


 図星だ。いやむしろ、それが普通だろう。

いつから自分の知っている世界はそんな物騒になったのか…いや、戦争をしている時点で平和とは言い切れないのだが。とにかく自分は何もできない。

黙っていると狼男が仕方なさそうに舌打ちをし、走り出す。


「はァ…しょーがねえな、ちょっと待ってろ!」


 そう叫ぶと狼男は両手を横に出す。

と、同時に爪先から火花が散ったかと思うと、凄まじい熱風と共に狼男を中心とした爆炎の渦が広がる。

炎は周りの酸素を吸い込んで激しく燃え盛り、半径20メートル以内の草花を一瞬にして炭のように黒焦げにしてしまった。

炎は徐々に弱まり、消える。草花があった場所は燃えカスとなり、黒い円を描いていた。


「ほら、お前ら火は苦手だろ。帰った方が身のためだぜ?」

「はん、お前が我ら半魚人マーマンに勝てると思っているのか? 所詮そんなもの、子供の火遊びと変わらぬよ!」


 半魚人マーマンは陸地に上がり、槍のようなものを構える。先端は鋭く尖っており、あんなもので突き刺されたらひとたまりもないだろう。

だが、それを見ても狼男は表情をまったく変えなかった。


「なるほど、丸焼きになりてぇんだな? さっさとかかってきな魚モドキ。」

「さっ…魚モドキだと? 我らを犬ごときがバカにしおって…殺す、殺してやるぞオォッ!!」


 軽い挑発。しかし、それだけで半魚人たちを怒らせるのには十分だった。

 青筋を浮かべながら、それぞれ猛烈な勢いで駆け出す。

陸地であるのにも関わらず、半魚人マーマンたちは目にもとまらぬ速度で加速すると太く長い槍を狼男に思いっきり突き刺した。ガキンッという音が辺りに数回響く。

狼男が倒されてしまった…嫌な光景がラルムの脳内に浮かぶ。

 ――しかし予想に反し、それは狼男の強靭な漆黒の毛皮に阻まれて半魚人マーマンの持つ槍が折れて砕けてしまった音だった。


「なっ…なんだと? 槍が通らない!?」

「お? 今なんかしたか?」


 ニヤニヤと意地悪く笑う狼男。恐らくこのことを分かっていてその場から全く動かなかったのだろう。

今度は狼男の方がゆっくりと構える。両爪からは炎がメラメラと勢いよく漏れていた。


「次は俺の番だな。」

「ひ、ひいいいいぃぃっ!!」

「行くぜ、ジッとしてな!」


 炎が一段と強く燃える。

刹那、狼男が動く。炎を纏い素早く駆ける様は圧巻だった。電光石火の早さとはまさにこのことを表すのだろう。

鋭い爪跡をその身体に残しながら一匹、また一匹と確実に半魚人マーマンたちに襲い掛かる。

30秒ほど経つと、すべての半魚人マーマンを倒し切っていた。


「”炎狼の爪レッドクロウ”…どーだ、効いただろ。」

「…わ、もうみんな倒したんだ?」


 ふふんと鼻を鳴らす狼男。気分が良くなったらしく、いかにも嬉しそうな顔をしていた。

その時、ハッと何かを思い出したかのような顔をするとラルムの方を向いた。


「そうだった、忘れるとこだった。まだ俺様の名前を言ってなかったな?」

「そういえばまだだったっけ。なんて名前なの?」

「俺様の名はガフラ。”人狼のガフラ”だ!…覚えたか? ラルム。」

「覚えたけど…ガフラってやっぱり聞いたことないなぁ」

「いや、もうそれは良い!」


 自分を知らないということを若干気にしているのか、ガフラはやや息を荒げて言う。

一瞬深呼吸をして落ち着くと、改めてラルムを見た。


「まぁ、なんだ。この世界のことを何も知らなさそうだし俺が助けてやるよ。……よろしくな」

「ん。これからよろしく――ガフラ!」


 ”人狼のガフラ”と名乗る狼男は手を差しだした。ガフラの手は巨大で、自分の手のひらよりもずっと大きい。

僕も手を出すと、しっかりと握手を交わした。



非常に遅れて申し訳ない!大体更新は1~2週間ペースになるかと思います。

おかしなところが見つかった場合はぜひ教えて頂けたら嬉しいです。

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