01話 食べ物の恨みで無事死亡
人が信じるものとは何か。
漠然とした疑問だが、それでいて考えることのテーマとしては中々良い。
神様、お金、自分自身など、答えは様々だろう。もちろん正解はないと思う。何故なら、信じるものは人によって違うからだ。
だが、そんなことを言ってしまえばなんでも答えにもなりうるだろう。でも僕は、ある程度は絞られるんじゃないかと思った。
「神様」という答えは、ありがちだが合ってはいると考えれる。なぜなら存在しないからだ。存在しないということは、個々の想像によって答えとも間違いともなる。
では「お金」はどうか。お金は、自分の社会的なステータスとも見れるし、価値にもなる。何よりも、今自分が持っている確かなものなのだから信じる要素としては十分だ。しかし、その分失ったときの代償は凄まじい。
――なぜ自分がこんな話をしているのか。それは友人から突然聞かれた疑問が引っかかり、その答えが未だに分からないからだ。
友人に、じゃあ逆にお前はどう考える? と聞いてみると、「俺も分からないけど…多分、”答えは無い”が答えなんじゃないかな?」…なんて笑いながら言われた。共感はできる。でも、他にも何かしら答えがあるんじゃないかと気になってしょうがないのだ。……とはいえ、考えていても仕方ない。一旦、この疑問は保留にしておこう。
きっと、そのうち分かることなのだから。
…………
……
…
ふとテレビを見た。
画面の中では女性アナウンサーが忙く口を動かし、最近起きた事件の話をしている。ニュースの内容は、「借金で生活が苦しくなった無職の男性が廃ビルで飛び降り自殺をした」というものだ。
最近思ったのだが、自殺をする人が増えてきたように感じる。生活が苦しいという理由だけで、そんなに簡単に命を捨てれるものなのか。
いや……きっと、その状況に自分が陥らないと分からないだろう。
興味も薄れたのでテレビの電源を消す。そして、暗くなった画面を見つめながらそのまま目を閉じた。
ただテレビを消しただけなのに、それだけで部屋は静寂に包まれる。ペットか何かいれば、こんなに静かではないと思うが…考えものである。
しばらく目を閉じたままでいると、あくびが出た。思えば、ここ最近眠っていない。いや、本当にまったく寝ていない訳ではないが……色々と理由が重なり、どうしても睡眠時間が削れてしまうのだ。
生活のリズムが悪いせいで体調もすこぶる悪い。なんとかしないとマズいな……。
そんなことを考えていると、小さくお腹が鳴った。
「…お腹すいたなぁ」
置き時計を確認すると、針は昼の2時を指していた。
何か食べ物が無いか、周囲を見回す。あるのは整理整頓された本や雑誌、家具、ぬいぐるみ。これといって何もなかった。
仕方ない…コンビニにでも行って何か買ってこよう。そう思い、財布を掴んで家から出た。
◇◇◇
自宅からすぐ近くにあるコンビニ。ここにはよくお世話になっている。
24時間営業なので、毎日バラバラな時間でここを利用する自分にとって都合が良いのだ。
おかげで、働いている店員さんには顔を覚えられてしまっているが…特に気にしなくてもいいだろう。
店内に入ると、食欲をそそるおでんの美味しそうな香りが漂っていることに気付いた。
「(そっか、もうそんな季節だっけ……)」
大体冬が近づくと決まって、どこのコンビニもおでんを販売するようになる。自分はこれが大好物で、必ずこの季節になると買って帰っている。コンビニのおでんは味が凄く染みているので、特に大根が良いと個人的に思った。
商品棚からツナマヨおにぎりと炭酸水を取り、レジに持っていく。当然、おでんの注文も忘れない。
「すみません、おでんの大根二つ、貰えますか」
「こんにちわ、麻木さん! …お汁は多めでいいですか?」
「お願いします」
「分かりましたっ!」
そうしてレジのお姉さんから渡されたおでんのカップ。温度が直接手に伝わってきて、少し熱かった。
「どーもです」
商品と箸を受け取ると、コンビニを出た。
一瞬、冷たい風が頬を撫ぜる。これからおでんを食べるのが楽しみで仕方ない。
自然と足取りが軽くなってしまった。心をウキウキさせながら、長い道路に出る。
浮かれた気分でしばらく歩いていると、人通りの多い交差点で信号に引っかかってしまった。
「(あーあ。ここ、長いんだよなぁ)」
そう思いながら、待っている間にふとレジ袋を確認する。すると……ない。確かに、ない。
おでんを食べることで頭がいっぱいになり、おにぎりと炭酸水が入った袋のことを忘れてしまっていたのだ。会計には持っていったので、レジに置きっぱなしなのだろう。
「……やらかした」
思わず大きなため息が漏れる。結構歩いてきたので、今から戻るのは少々面倒だ。でももうお金は払ったわけだし仕方ない。急いで戻ろう…そう考え、後ろを振り向いて歩き出したとき……不思議な体験をした。
恐らく、一瞬の出来事なのだろう。気づいたら、自分は宙を舞っていた。大きなブレーキ音と辺りに響き渡るたくさんの悲鳴。
自分以外のすべてがスローモーションで動いているかのように感じた。
しばらくすると、地面に強く叩きつけられる感覚がした。何が起きたのか、まだ理解が追い付かない。
身体は動かないので目だけで辺りを見回すと、巨大なトラックが目の前のレストランに突っ込んでいるのが分かった。
そして、地面には血。赤い斑点は何故か自分の方に続いている。どうにか自分の手の平を見てみると…ベットリと、赤い液体が付いていた。
ここでようやく、自分が事故に巻き込まれてしまったんだと気づく。
「(もしかして……轢かれた? このまま死んじゃうのかな、自分)」
不思議と痛みは感じない。しかし、呼吸がだんだん辛くなってきていることに気付いた。
このまま助からない? そんな不安が脳内に響く。
ふと、誰かに呼ばれている気がした。声が聞こえた方を向く。あれは…さっきのレジのお姉さん?
何かが入った袋を持って、泣きながら走ってきている。残念だけど、もう間に合わない。…視界もぼやけてきた。
身体中の力が抜ける感覚がしたあと、僕は静かに目を閉じた。
初っ端からなんか壮大な話をしています。
書きながら恥ずかしかったのは秘密…
主人公について、一話目だけではまだ名前すらわかりませんが二話から徐々に明らかになっていく予定です。