森の中で
ホント久々の更新ですね。
今回あまり酔っていないです。
ほろ酔い程度でしょうか。
ですので私の出番が少ないですが楽しんでいってください。
歩たちは森の中にいた。
つい先日まで森を通っていたがその森ではない。この森はある意味獣人の領域だ。ある意味というのはここまで獣人が来るわけではないからだ。
森を境界にして人族がそのように定めたのだ。だからここからは人族に会うことはそうない。零ではないのは確かだが、そこまで警戒しなくて済むのは確かだ。
まぁ深くは私も知らない。
この世界について私が知っていることなんてほんの一部にしか過ぎないのだ。
しかしキルルクはこの森について知っている。どの方向に進めばよいか獣人のみに伝わる道標が木に記されているのだ。
「キルルク、今どのへんだ?」
「今は森の中腹なの。あと少しで私たちの領域なの」
キルルクは木に付けられた印を見ながら言う。
ピットの疑問に答えるキルルクが言う私たちとは獣人のことである。その獣人の領域に入るということは人族ではなく、獣人が定めた境界にあたる。そこまで行ければ獣人の仲間に保護してもらえる可能性はある。
漸く落ち着いて休むことができるのだ。だが、歩は未だ気絶したままだ。なぜか。それは前回キルルクに股間を蹴り上げられたからだ。股間を蹴り上げられて特大レーザーを発射したが、その後痛みはなかったはずが股間を蹴り上げられたという感覚による幻覚の痛みよって白目を向いて気絶した。
本作の主人公はよく気絶する。主人公がいないところで事が進んで、もう主人公がいなくても物語が進むんでしまうのではないだろうか。
だが、諸君、落ち着いてもらおう。おいしいところは主人公の歩に持って行ってもらう予定だ!
本当か嘘か私にもわからないことだが、歩がいなくならないことだけは確かだ。(よかった)
まぁいい、この作品の主人公について語るにはまだ早すぎる。とにかく物語だ。この物語について語らなければ終わりなど来ないのだ。
とにかく、歩たちは獣人の領域に入る寸前にいるということが大切なのだ。つまり、これはフラグだ。
わかるだろうか。あからさまにこのように安全地帯が目の前にある状態というのは、一番危ない状態なのだ。
そう、今歩たちのすぐ後ろをアーガスト王国の追っ手が迫っているのだ。
「このまま真っ直ぐだ。馬の蹄跡を見る限り急いでいるようだな」
そう言ったのは歩が召喚されて真っ先に抜剣した近衛騎士団長、ヴァンクラッド・オーストンだ。
城から出発した追っ手としては一番初めに歩たちに追いついた騎士である。
重厚な鎧に身を包み、馬を走らせている。その馬からして尋常ではない。体色はどす黒く、若干赤身がかっている。大きさなど周りの馬の二倍はあるのではないだろうか。
馬だけではない。ヴァンクラッド自身も大きいのだ。三メートル近い身長を鎧に包み、そのプレッシャーはドラゴンに匹敵する。
同行する騎士たちはヴァンクラッドが味方にいるというだけで士気が上がる。それだけ信頼性とカリスマ性があるのだ。
だが、なぜ王を守るはずの近衛騎士団長自らが歩を追っているのか。そこが歩の危険性を物語っている。
これは宰相を通じ、王から直接命令されたことだ。だからこそ近衛騎士団が動いている。今だからこそ、まだ歩が能力を開花し、成熟していないからこそ精鋭でもって必ず叩く。それが先を見越した宰相の答えだ。
先に続く歩たちまでの道へ、ヴァンクラッドたちは馬を走らせる。
そして見えた。
歩たちを乗せた馬だ。……馬だけだ。キルルクもピットも歩もそこにはいない。乗り捨てられた馬のみがそこにいた。
「バレていたか」
「隊長、どうします?」
ヴァンクラッドに聞いたのは近衛騎士のアーミア・ミルスロットだ。近衛騎士の紅一点。騎士になる女性が少ない中、近衛騎士にまでなったただ一人の女性。
近衛騎士はそれぞれ何かしらのスキルを持つ。近衛騎士で歩を追うことになったのはヴァンクラッドとアーミアの二人だけだが、ヴァンクラッドは戦闘スキルを、アーミアは探知スキルを持っている。
「アーミア、使え」
「了解」
簡潔なやりとりですぐさまアーミアはスキルを使う。歩たちの位置を知らせるスキルの名は<白黒音叉>。蝙蝠のように音波のような波を発し、生き物を探知する。そしてこの波は物体を透過する。物陰に隠れようとも逃すことがなく、さらには半径五キロの超広範囲に及ぶ。
ここまで追いついてしまえばアーミアが歩たちを逃す道理はない。
アーミアはゆっくりと、だが着実に自分たちから離れる生き物を捉えた。
「あちらです」
ヴァンクラッドたちはアーミアが指差す方へ馬を走らせた。
「気づかれたの」
耳のいいキルルクは追手がこちらに一直線に向かってきていることをすぐさま感知した。だが、今から全力で駆けても追いつかれる。
「おいおい、じゃあどうするんだ?」
歩を背負っているピットがキルルクに聞く。
答えはわかりきっている。キルルクたちは馬を捨てることで追っ手を振り払おうとした賭けに出たがそれに負けたのだ。こうなってしまったら戦うほかない。
今戦えるのはピットのみ。キルルクは戦闘向きではなく歩は気絶している。この状況で戦えば負けるのは目に見えている。
キルルクにもそれはわかっていた。そう、キルルクは追っ手の中に一際大きい馬の駆ける足音――ヴァンクラッドの乗る馬の足音が聞こえていたのだ。
ヴァンクラッドがいる以上、ピットが一人で抑えられる訳がない。
ならばもう歩を無理やりにでも起こして謎のスキルに賭けるしかない。キルルクはピットの背負っている歩に強烈なビンタを食らわした。
だがキルルクの手に返ってきた反動は鋼鉄の壁を叩いたような力だった。
「うぐっ」
痛みに思わず呻く
「キルルク、大丈夫か?」
「大丈夫、なの。私のことより、アルクを起こさなきゃ逃げられないの。でも……」
歩には反応がない。歩が起きなければ賭けることもできない。
絶望に次ぐ絶望。もうすぐだというのにキルルクは逃げることが叶わないと知った。
しかし、そんな状況の中、ピットはニヤリと笑った。
「こいつは起こさなくても有効に使う手段はあるぜ」
ピットはスキル<一騎当千>を使用し、筋肉を脹れあがらせた。そして歩をぶん投げた、ヴァンクラッドたちがいる方向へ。
すでにピットでも馬の駆ける音が聴こえるほど追っ手は近くに来ていた。そこへ向けて歩という球を剛速球でぶん投げたのだ。
歩という鋼鉄の塊が木々をなぎ倒してヴァンクラッドたちのいる方向へと飛んでいった。
鬱蒼とする森の中、訓練された馬は木々をすり抜けるように進んでいた。飛び道具や魔法ならば木が防いでくれる。ヴァンクラッドたちもそう思っていたからこそ全力で駆けていた。
まさか木々をなぎ倒して向かってくる飛び道具があるだなんて想像すらしていなかった。
歩という球がヴァンクラッドを先頭にした集団をボーリングのピンに見立てたかのように弾き飛ばしていった。
ストライク!