クレマの町
色々と説明すると言ったな。あれは嘘だ!
書こうと思ったのですが書くタイミングがないんです。
クレマの町はアーガストの王都から馬で二日かかる距離にある。クレマは農業が盛んで、王都の市場にも多く出回っている。
そんなクレマに歩たちはいた。
王城から逃げ出して半日、強行軍による移動であった。
歩は馬に一人で乗れなかったためキルルクの後ろに乗ることになったが、移動し始めてすぐにケツの痛みに音を上げた。馬に乗り慣れていないためである。決してケツに何かされたわけではない。あまりにも駄々をこねるので一旦馬を止め、キルルクは歩のあそこを容赦なく蹴り上げて気絶させた。
そしてアルクが起きたのはクレマに着いたそのときだった。
「ここはどこだ?」
「ここはクレマなの」
そう答えたのはキルルクだった。
「クレマ?」
「ア―ガストから南にある町なの。何も知らないの?」
クレマは魔物に襲われることのなかった町。しかしいつ魔物に襲われるかわからない。魔物は森からやってくる。森が近いこの町は危険だ。
しかしクレマとアーガストの間にある森は、騎士たちの定期的な巡回があるため基本的に魔物は根絶やしになっている。
歩たちが森で魔物に出会わなかったのもそのためだ。
「まだアーガストは近いのか?」
「それなりに離れたからすぐには追いつけないの」
「それならよかった」
歩は安堵した。
アーガストの騎士に捕まったらどうなるか分からない。キルルクの言葉を信じるなら死んでもおかしくない。それを考えるとアーガストから離れれば離れるほど安心できる。
「実際わからないけどな。ここはアーガストの騎士たちがよく通る」
ピットが、だからまだ安心するには早いと注意した。
「うるさいの!」
それをキルルクが一蹴する。身もふたもない
ピットは親切心から言ったことなのにまさかキルルクに一蹴されるとは思わなく落ち込んでしまった。
「さすがにロリコンでショタコンだからってそんな対応はひどいんじゃないか?」
「そんなの関係ないの」
ピットの擁護にまわった歩だが、キルルクには意味がなかった。すでにキルルクの中では歩の地位は最底辺である。
優先順位は決まっている。キルルク>歩>ピットだ。まぁ人それぞれではあるが、ピットと歩が入れ替わるくらいだろう。
「とりあえず宿をとるの」
逃げてから半日とはいえ、強行軍である。すでに疲労はピークだ。一刻も早く休みたい。
「ピット行くの」
まだアーガストの領内である、獣人の差別が強い領内で獣人が宿をとったら騒ぎになる。人間の奴隷ならまだしも……。
「はいはい」
そういってピットは宿に入って宿の主人に部屋の空きを確認した。
「獣人を連れているみたいだが、あまり騒ぎを起こさないでくれよ?」
クレマに入ってから宿に入るまで、キルルクは獣人とバレないようにフード付きのローブを着ている。しかし宿の主人にはバレているようだ。
仕方なく二人分(奴隷分の宿を取ったら問題になるため)の部屋をとった。
ピットの部屋が二○一で、歩の部屋が二○二である。
キルルクは二○一を過ぎて二○二で止まった。
「おい、キルルクは俺の部屋だろ」
確かに昔からの仲間であるピットのほうが何かと安心であるが、キルルクはピットの傍にいたくなかった。
「私はアルクの部屋にいるの」
歩はその言葉に動揺した。昔からの仲間より自分をとることに、まさかあの脱出劇でキルルクは俺に惚れたのではと。口は悪いけど、こんなちっちゃくて可愛らしい猫耳の女の子に惚れられてしまうなんて、なんて罪作りな男なのだろうか俺は。そんな勘違いをしていた。キルルクにとってはピットより歩のほうがまだマシと思った消去法である。
「おい、そんな得体のしれないやつより、俺のほうがいいだろ!?」
「ピットよりはキモくても得体のしれない相手のほうがまだ安心できるの」
ピットの好感度は最底辺だった。ある意味敵より悪い。その言葉にピットも歩も撃沈した。
「いつまでいじけてるの」
歩は部屋に入ってからもベッドに潜っていじけていた。まさか俺の気持ちが弄ばれるなんて。勝手な被害妄想である。
「俺なんてキモくて得体のしれない変態ですよ」
「そんなことわかってるの」
それを聞いて歩はさらに落ち込んだ。自爆にも等しい。
「そんなことはいいから今後のことで言っておかないといけないことがあるの」
歩の落ち込みなどキルルクにとってはその程度。歩の変態性はどうでもよかった。……ただちょっとキモイなと思う程度。
「ほらさっさと起きるの」
キルルクは布団から歩を持ち上げビンタを食らわせた。
「ぐはっ!」
スパンと軽快な音のなる手首のスナップが効いたいいビンタだ。食らった歩は涙目である。
「いいの。これからピットが酒場で国の動向を探るの。まだ情報が出るかは分からないけど、私たちが盛大に暴れたから騎士たちが動いて噂になっているかもしれないの」
歩はそれを聞いて涙を拭ってすっくと立ち上がった。動作だけを見ると何かを吹っ切ったカッコよさがある。
「酒場ということは酒が飲めるんだな!?」
ただ歩は酒が飲みたかっただけだった。ここまで意味の分からないことの連続で、酒を飲まなければやっていけない状態なのだから仕方ない。とにかく酒だ!
「飲めるけど、それよりも今後私たちが――」
歩はキルルクの話を最後まで聞かずに部屋を出てしまった。さっきまでのいじけようからの変わり様について行けず、キルルクは取り残されてしまった。歩のあとを追うにも一人で外を出歩いたら何があるか分からない。下手には動けないでいた。
お読みいただきありがとうございます。
よろしくければこれとは別に書いているサイコロの方もお願いいたします。