不憫な助っ人
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励みになります。
ジャンルがコメディーなのにコメディーじゃないなと自分で思ってきました。
歩とキルルクは、歩の尿によって開けられた穴を通って外へと脱出を図っていた。
キルルクは歩の提案を受け入れた。それはしっかりと打算があったからである。
歩が小便をしたとき驚いて転んだおかげで、歩の独房があった城の地下には上へ向かう大穴が多く開けられている。そのため歩たちの通った穴以外は城の騎士たちの囮として役に立つ。
もしも歩の提案を受け入れずに階段から逃げたとしたら、城の騎士との戦闘は免れない。地下でこの騒ぎを起こしたのだからなおさらだ。
だからキルルクはすぐさま歩の提案を受け入れ、傾斜が一番少なく自分たちがギリギリ通れる穴を選び逃げ出した。
騎士たちは鎧などの装備を付けているため狭い穴は通れないだろう。できるだけ追っ手は少ないほうがいい。
歩を先頭に、できるだけ素早く移動していた。
キルルクは歩の放った攻撃の正体を掴めないでいた。何かのスキルだろうという見当はついている。しかし歩のあの驚きようでは自分でもそのスキルを知らないのだろう。聞いたところで答えが返ってこないことは明白である。それに音を立てて自分たちが通った穴が特定されるのはまずい。情報を得る手段がない以上、注意することは歩のスキルが暴発しないかということだけだ。見た限りでは前方にしか放てない攻撃のようである。それなら後ろで注意していれば突発的な事は起きないだろうと考えた。そのため歩を先頭に置き、自分はそれを追う形で逃げることにしたのだ。
「これって、俺の力……なのか?」
自分で開けた穴である。分かり切っていることだが、それでも自分の体から放たれた訳の分からない超攻撃に気が気でない。聞かずにはいられなかった。
「黙って進むの」
いつ追っ手が来るか分からない状況で、歩たちのいる穴が特定されたら大変である。音を立てずに素早く進む。
キルルクのピリピリした緊張感のある雰囲気を感じ、歩は黙って前進していく。
その後三十分ほど進んだところで――行き止まりに当ってしまった。
「立ち止まるなアルク、早く行くの」
「……行き止まりだ、キルルク」
暗闇でお互いの顔は見えないが、神妙な顔つきで後ろを振り返りキルルクへと告げた。
傾斜が少ない穴を選んだため地上まで出るには距離が必要である。
キルルクも進んだ穴の先が行き止まりだという可能性を考えなかったわけじゃない。しかしだからと言って、傾斜が大きい穴を選んだら滑り落ちてしまう。それに例え通れたとしても、その先は城の中の可能性が高い。それでは意味がない。進むべき穴は限られていた。
「どうする……?」
ここまで来たのならそろそろ地上も近いはず、それにもうこの上は城ではないはずだ。そうキルルクは考えた。
しかし上に行くにしても掘る道具がない。
そうなるともうアレしか……。
「アルク、もう一度アレを使ってほしいの。今度は上に向けて」
「アレって、まさか……小便を? でもそんなすぐに小便なんかしたくなるわけ――ん?」
三十分ほど前にしたばかりである。何も摂取していないのだからそうすぐに出るわけがないと思ったが。
「どうしたの?」
「いや、尿意が……」
最近トイレが近いことに悩んでいた歩も、このときはトイレの近さに感謝した。
「ならグダグダしてないで早く出すの」
そういって歩のケツを足で小突いた。
「分かったから人のケツを蹴らないで少し離れてくれ」
キルルクは素直に歩から距離を取った。
それを確認した歩は、モロ出しの下半身からアレを掴みやや上に向け、両足を肩幅程度に開いて重心を下げ、アレに備えた。小便をするだけなのにバカみたいな恰好である。しかし、そうしなければまた転んでしまうかもしれない。やむを得ない恰好である。
「じゃあ、やるよ?」
「黙って早くやるの」
一応発射前に確認したのに辛辣な返事が返ってきた。
歩はなんだかやるせない気持ちで小便しようとした。
すると前回と同じようにアレの先っぽに青い紋様が現れた。
今回はそれに気づいた歩は驚いて一歩後ろに下がってしまったが、転んでは大変だと思い踏みとどまる。
そして小便がその紋様を通過した瞬間――ただの小便が極太のレーザーへと昇華され、破壊の権化となり、歩の前方斜め上の空間を削り取っていった。
時間にして二、三秒だったが、十分だったようだ。歩の目には出口がはっきりと見えていた。
「外だ!」
歩とキルルクはすぐに出口へと向かい周りを見回した。
そこは城から南にある小さな森だった。城下町がある方向とは違うため、これなら逃げきれるだろう。
「今はとにかくこのまままっすぐ南に逃げるの」
キルルクは南を指さしそう言った。
太陽が傾きかけている。さらに森の中である。キルルクの指した方向を見るが、歩には先が見えない。そして穴の中では無理をしていたが、やはり裸足で森の中を抜けるのは大変である。それらが歩を躊躇させた。
「早く逃げないと捕まるの!」
キルルクの言葉を聞いて一度覚悟を決めたのに何を戸惑っているんだと、歩は自分を奮い立たせた。
歩はおもむろに来ていたシャツを脱ぎ、引き裂いて二つにし、足に巻いた。とうとう全裸になってしまった。完全変態である。気温が高くて助かった。
「よし、行こう」
歩はまっすぐ前を見据え、キルルクが指さす南に進んだ。
歩は気づいていなかった、キルルクの汚物を見るような目に。
歩たちが外に出て十分経ったあたりだろうか、キルルクは焦っていた。そろそろ森を抜けられるところまで来たというのにキルルクの耳には周りの足音や枝を折る音が聞こえていた。数は五。
相手はすでにこちらを捕捉しているようで音はどんどん近づいている。
出口を作るために歩が放ったあの一撃が原因であろう。城の地下の穴も全て方向は同じだ。方角に見当をつけて捜索し、詳細な場所をあの一撃で特定したのだろう。このままでは戦闘になる。武器を所持していないキルルクと全裸の歩では勝ち目はない。いや例えキルルクが武器を持っていたとしても、歩が全裸じゃなかったとしても勝ち目はないだろう。頼れるのは歩のスキルだけだろうが、それも小便が出ないと意味がなさそうである。
絶体絶命と思われた時、歩たちに急速に近づくもう一つの音があった。
「キルルク! 大丈夫か!」
「うげっ、ピットなの」
キルルクは心底いやそうな顔を作り、大声で叫んだ男――ピットをその目に捉えた。
「仲間か?」
「一応そうなの」
歩の問いにキルルクは不服そうに答える
近づいていた騎士たちは、ピットの声を聴いて大きく行動に出た。
騎士たちには脱獄者を始末するように宰相から命令が出されている。宰相は歩が逃げ出したと聞いて何かしらのスキルを授かったのだろうと思い至った。そして実際に地下の惨状を見て、このまま逃しては国に仇なすやもしれぬと、騎士たちに命令をした。
ピットがキルルクたちのいるところまでたどり着いたとき、騎士たちもそこへたどり着き、剣を抜いた。
「ここは俺に任せろ! この先に小屋がある。キルルクはそこの荷物をまとめて馬の準備をしておいてくれ」
ピットは自分の背丈を優に超える槍を振り回し、騎士たちをこれ以上進ませまいとけん制した。
「お前に指図されたくないの。早く倒すの」
キルルクは自分たちを助けてくれているはずのピットに容赦なく言い放った。
「お前はなんでそう俺にツンケンするんだよ」
「そうだよ、仲間なんだろ」
仲間だろうと容赦しないキルルクに対して歩もピットの加勢をする。
「おう、もっと言って――なんで全裸の変態がいるんだ!?」
ようやく歩の存在に気づいたピットは、歩の全裸姿に驚愕した。そして何を思ったのか哀れむような目を向けた
「ケツを、捧げちまったのか……」
「変な勘違いすんな!」
歩のケツは無事である。しかし、歩はちょっぴり興味がある。
「ふざけてんじゃねえ!」
歩たちのやり取りに激怒し、騎士の一人がピットへ襲い掛かった。その大声にキルルクはビクッと身を竦ませる。
ピットは騎士の攻撃に合わせて槍を振り回し、剣の刃をへし折った。その勢いのまま槍を地面へ刺して軸とし、跳び蹴りを食らわせた。
「おいおい、キルルクを怖がらせてんじゃねーよ」
ピットはキルルクへとウインクする。
「おぉ、つえぇ」
歩はピットの強さを目の当たりにして思わずつぶやいた。
「……キモイの」
キルルクはピットのウインクに反吐が出る気持ちでいた。
「せっかく助けてくれているのにひどいこと言うなよ」
「ロリコンでショタコンには慈悲はないの」
「何!?」
それを聞いた歩は変態を見るような目でピットを見た。全裸の変態が変態を見ている。
「ちげーよ! ただ小さいものが好きなだけだ!」
そんなくだらないやりとりをしている間に騎士たちがピットを中心に広がり、一斉に襲い掛かった。このまま避けたりしたら突破されてしまう。
「クソ、さすがに四人いっぺんは素ではきついな」
そう言うや否や全身の筋肉が膨れ上がり、目にも留まらぬスピードで騎士たち四人を槍の一薙ぎで沈めた。
「さぁ行くぞ」
そこにはすでに筋肉が戻ったピットがいた。
「……キモイの」
お読みいただきありがとうございます。
まだキャラの見た目に関して記述していませんので、次の話あたりで書こうと思います。今までは地下とか穴の中とか日の傾いた森の中とか暗い場所だったので書くタイミングがなかったのです。
次は歩とピットのスキルの説明やらいろいろ説明あります。
10話以内に終わらないかも……。